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7.帰着へ



「うれしい誤算だ。ここまでとはな」


 そこへ大気を斬り裂く音を轟かせながら、黒い物体が飛来した。

 

「確かに、おれは十七年前現世に蘇った。おれを目覚めさせたのは錆の魔王と、コイツだ」

「大丈夫か、いじめられたのか?」


 黒い物体は翼を広げジュールを包み込んでパタリと閉じた。

 

「バカな、ここまで飛んできたのか?」


 驚愕のロイド。

 ドルズゥール島は共和国とパラノーツの中間に位置する。

 この距離をロイドは海路で三か月かけて進んだ。


「また奇天烈な……」

「でっけぇ!!! わぁーお、今日は宴の日だったかな?」


(ノワールさん、高速飛行能力か。どうやってここが? ジュールとは何かでつながっていたか。いや、それより信頼関係など無いと思っていたが……)


 もみくちゃにされながらジュールは翼の中から這い出てきた。


「ハァハァ……まだ舌戦の途中だ! 口を塞ぐな」

「お前の数多くあるダメなところの一つ、負けを認めないところ」


 ジュールの時が止まった。


「はん! まだ負けてない。ロイドはおれが魔王だと知っただけだ。おれが十七年間で何をしてきたか、これから何をするかはわからない。だからここに連れてきて優位性を演出したに過ぎない。つまり、主導権はまだおれの手の中にある」


 ロイドは図星だった。

 結局、なぜ魔王が国政に関わろうとしてくるのか、謎が増えただけ。政策を考察しても王国にとって都合が良過ぎる結果が怪しく見えるというだけで、実際に不正の証拠は何一つ無かった。


「もう試す必要はない。意地張るなヨ」

「……おれが国策に介入しなかった場合、反乱が起きていた」


 ジュールの言葉にあきれるノワール。

 だが、これまでになく真剣な顔をしている。


「その反乱は国内だけではなく、海を挟んだ隣の帝国にも影響していただろう」


―――大戦から十七年、帝国が得た新たな領地は暗黒大陸のわずかな湿地のみ。戦費を賄うことは出来ず、戦後は莫大な借金が残った。元々自治を約束されていた植民都市や各公国に税を負担させ、帝国の体裁を保つことしかできず、政治も経済も治安も不安定だ。


 市民の不満は爆発寸前。


「そこに付け込むある勢力が現れた。奴らは教会を自称し、平等と正義の名の下に現体制に対抗している。しかしそれは奴の隠れ蓑に過ぎない」


「奴?」


「ロイドの言った通り、魔王と言う超常の存在、神に列することも輪廻に乗せることも難しい存在を封印するため、神々は迷宮という装置を造ってきた」

「ということは平安京も迷宮にあたるのかのう?」

「この島の海流がおかしくなったのはそういうことか~」

「私が眠っていた場所は視界ゼロの雪山だったぞ」

「「へぇ~」」


 話の腰を折られて、ジュールが三人を睨んだ。

 ノワールは慌てて葛葉とパルクゥーンに静かにするよう促した。



「だがどうだ? 錆の魔王のものと思しき迷宮がどこかにできたか?」


「……封印されていない? 逃げたのか?」


「元から錆の魔王などいなかったのだ」


「なに!? どういう意味だ?」


 ロイドの驚きようにジュールは再びにやりと笑った。


「錆の魔王と呼ばれた者はただの操り人形に過ぎない。十七年前潰えたと思われていた戦火は燻り続け、現代、反乱として再燃し日増しにその延焼規模を拡大している」


「帝国内の反乱……神殿を打ち壊しているっていう、教会か!」


 全てがつながった。


 ジュールがパラノーツ王国を救ったのは、教会を打倒するため。

 教会を危険視するのは、それが錆の魔王を操った、より巨大な悪の次なる操り人形だからだ。


「教会の教祖は指輪の男。現在帝国東部で戦力を集めている」

「指輪の男……」

「中には帝国軍の配下もいるらしい。それに、なぞの能力もある――」

「ちょっと、待て。どうしてそこまで知っている? なんでお前はそこまで詳しいんだ?」

「察しが悪いな。おれはかつて金と情報で世界を統治した」

「金と情報?」


 金と情報。


 現代、それによって世界を支配している企業がある。


「まさか……」


「いつもご利用ありがとうございます。魅力的な先行投資にご興味はおありかな?」




2020/5/22 一話分割 加筆修正

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