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5.交渉へ


 陽気な天気とは関係なく、そこは冷たく暗い部屋。

 使用人用の最低限の広さの地下室。



「激しくやり合ったと聞いたが、大したことが無さそうで安心した」


 謝罪の体で尋ねてきたジュールに、リースとマドルは最大限の警戒をした。


「ノワール殿にはかすり傷も負わせられなかった。それが最大の傷です」


 ジュールからは一切の武の匂いがしない。リースはもっと特殊な力を感じた。

 

「お二人に聞いて欲しいことがあります」


 そう切り出したのはセイランだった。


「ロイドさんのことで、問題が」


 そう言われ、二人は素直に話を聞くことにした。主が不在の時を見計らって尋ねてきた怪しい男は、傍らにノワールではなくセイランを連れていたことで警戒を解くことに成功した。


 部屋の中央に唯一あるテーブルを囲み、四人が座った。


「このままではロイドはあの二人と結婚できない」


「「!!」」


 想定外。

 

「それは、主の婚儀をさせないと宣言されておられるのですか、ジュール候」

「違う」

「ではなぜ旦那様が結婚できないんですか? あのパレードは大成功でしたし、反対する人がいるとでも?」

「反対がないとは言わないが、微々たるものだろう。生まれの差はその偉業で、メイドとの結婚は器の大きさで、金の問題や市民感情はどうとでもなる」


 リースはじっとジュールを見据えた。

 マドルは様子を見ていた。

 

「きっかけは帝国の崩壊だ」


 ジュールは未来の話をし始めた。


「帝国政府が沈静化を図る市民の反乱は抑えられず、各地で内乱が起こる。不満を抱える者たちはそれぞれが異なる思想と目的を掲げながら帝国の打倒で一致する。その中には神殿を打倒する者も紛れ込む。大多数は神殿破壊を望まないが、神殿を護ることができるのは帝国政府だ。彼らは自分たちが必要とするものまで危険に晒し、止めることはできない。破壊は同調意識を生む。それまで神殿には何の不満も無かった者たちが、己の不満のはけ口として世の中に肯定的に受け入れられてきた大きなもの、神殿と神々への信仰を攻撃する。その同調意識は国の垣根を越える。帝国の崩壊によって生まれた大きく暗い渦に巻き込まれるように周辺各国で次々と争いが起こり、それまでの秩序が否定される」


 帝国の統治機構が破綻した場合、信仰でつながった世界は一斉にバランスを失う。


「反乱と神殿破壊はすでに起きている。最近世界は変化の憂き目に晒され、安定感を逸している。これをただの妄想と切り捨てるか否かは各々の受け取り方しだいだ」

「我々にどうしろと?」

「お前たちはバルトからこちらまで約九か月、様々なものを見てきた。ロイドの報告は聞いているが、他の者たちの手前省いた内容があるだろう。それを聞きたい」

「そんなもの……」


 マドルは否定しようとしてセイランはすでに話したのだと気が付いた。

 ロイドが省いた部分。それはすなわち暗黒大陸での出来事。

 

(あそこであったことは話さない。旦那様との約束。教えない)


「何をお尋ねかわかりかねますが、旦那様に直接お尋ねになれば良いのでは?」

「噂になっているぞ。黒獅子のドン・リースや不死王ナルダレート・ハメスが新たな王の元に就いたと」


 二人はジュールが何を言いたいのかすぐに理解した。


(主殿が我らの王であることは帝国を大きく刺激する。新たな火種になる)


 リースはパレードの時見逃したカルタゴルトの二人を思い出し、後悔した。


「言っておくが、これは帝国の工作員が得た情報だ。他は関係ない。だが……おれに情報を寄越せば、約束しよう。その噂をおれがどうにかしてやる」


 マドルは身を乗り出した。


「どうにか? どうやって? それにあなたに何のメリットが?」


「情報を扱うのは得意だ。それにこれは単純な取引だ。情報と情報をやり取りする至ってシンプルな契約だ。情報を使って何をするかと聞くなら……そうだな、世界平和のために使う、とだけ言っておこう」


 セイランは横で目を見開いた。

 その発言に嘘が無かったからだ。


「旦那様になぜ直接取り次がないの?」

「これは奴へのテストだ。奴には期待しているが信用したわけではない。今頃あいつはおれのことをアレコレ探っているだろう。その上でこのおれの臣下たり得るか見極める必要がある」


 ジュールの話はスケールが大きいが単純な内容だった。


 ロイドの結婚に協力する代わり下に就け、と言うことだ。


 この取引で損する者はいない。

 ロイドは結婚し、帝国がリースたちを利用に戦争を仕掛けることもない。ジュールは情報を手に入れ、ロイドの力で帝国の崩壊を阻止。


(主殿を臣下とは……だが、あの黒鉄の乙女を従えるものの言う事、侮れん)


 ジュールの発言には何の証拠も無かったが、セイランがいることで偽証がないことは証明されていた。

 ただ、帝国を救うことをロイドの望みとつなげ、リースたちが主の幸せを取るか、帝国の崩壊を望むかを試しているように感じた。


(旦那様のことを試すと言いながら、今、私たちを試している? この男は一体……?)


 リースは腕組を解いた。


「フフ、例え知ったところで我らが主殿の真価は分からぬだろうが……いいだろう。あのお方は我々が認めた新たな王である。つまり、魔王だ」


 ジュールは説明を促した。

 リースはバルトの政変と裏で糸を引いていたカルト集団の実態、そこに現れたロイドの武勇を語った。




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