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2.報告へ(改稿版)


 

 ロイドは自分を捜索しに迷宮へ潜ったマイヤ、リトナリア、マスを転移でベルグリッドへ連れて行き、自分たちも含めて療養を取ることにした。

 


 それから、二日後。

 システィーナ、ヴィオラと穏やかな時間を過ごし、四年のズレを少しずつ埋め始めた。


 だがやるべきことは多い。


「ロイド侯、召還の通達だ。さっさと国王の元に行くぞ」


「ジュール候……」


 自分がいない間に権力を有した謎の男。

 父、ヒースクリフの代わりにベルグリッドの経営権を握った帝国人。


「準備がまだなら、おれが代理で伝えに行ってもいいぞ。原稿にまとめろ、提出してやる」

「いえ、行きます」

「何を報告するかちゃんとわかっているのか? まず迷宮内で何が起きたのか。それから……」

「報告の内容は、わかっています」


 

 王都議会場に転移したロイドたちを国王と諸侯が迎えた。




 報告会――迷宮で何があったのかの確認。失踪していた二か月間の動向。

 

 王の顧問団で組織された枢密院――各分野のエキスパート、その中にはジュールもいて、進行役を務めた。


「まずここにいる男が本当にロイド・バリリス・クローブ・ギブソニアンなのか、その証明をしてもらおうか」


 証明の方法はいくつか考えられる。筆跡鑑定、ギルドカード、内々の会話の再現、合言葉――それより確実で、ハッキリした証明の仕方がロイドにのみ許されていた。


「『聖域』」


 神気による神聖術の発動。神殿の神気を用いず、自身の中に神気を有し、使えるのはロイドだけ。


「……うん、わかりやすい。手間が省けて助かる」


 聖域はジュールを囲んで発動したが、けろりとしていた。


(極悪人ではないようだな)


 ロイドは自身の証明と同時に公然とジュールの善悪を確かめた。


 ロイドの説明は大幅に簡略化されていた。

 平安京の話や魔族との話はほとんど割愛し、主に共和国からここまで航海について端的に話すに留まった。


「なるほど、バルトで政変に巻き込まれ、魔族と戦い、そこで同行者を得た。共和国神殿の審議官の招きで共和国へ赴き、船を調達して大陸と緑竜列島の間にある南海を西へ進み、戻ったと……。では詳細を確認するため質疑応答としよう」


 まず質問したのはロイド暗殺事件の調査官。軍務事務局の局長だった。


「迷宮には食料も無く、刺されて射られて焼かれて突き落とされたのでしょう。どうやって99階層を生き延びたのですか?」

「がんばりました。死ぬ気で」


 ジュールがそれを聞いて割って入る。


「その調子ではぐらかすなら事情を知っていそうな者を召喚するぞ。お前の仲間、嫁、あのメイドがいいな。きっと全て聞いただろうが、隠しておけるかな?」

「貴様……」


 自身の身に起きたこと。それを赤の他人に話すことは、それが軽々しくなってしまう気がした。


「ロイド侯、事実を話すのだ」

「……はい」


 王の命令で仕方なくロイドは獲得した魔法について明かすことになった。


「――矢を受け、身を焼かれ、剣で刺され、99階層に落下した私は、まず雷魔法を奇跡的に習得しました」


 一同は息を飲み、静かに聞いた。


「人体を駆け巡る電気信号を雷魔法で制御し、『思考強化』を獲得。その力で、私は魔力による人体への干渉を制御することで『自己再生』を修得しました」

「ば、ばかな!」


 ガタリ、と宮廷魔導士長が立ち上がった。


「「「――?」」」


 魔法の専門家である彼だからこそ、ロイドのやってのけたことの意味を理解した。


(人が――否! 人類が到達する遥か先を行っている!)


 ロイドの短い説明は、魔法の可能性を何倍にも膨れ上がらせた。

 雷魔法の修得だけで後世に語られる偉業。


 だがロイドはそのさらに先へと到達していた。


「――し、失礼した。続けて下され」

「はい。肉体の損傷を回復させた後、私を待っていたのは迷宮魔獣でした。半死半生で何とか倒しましたが、迷宮からの脱出は叶いませんでした」

「な、なぜだ?」


 迷宮は侵入者を逃がす構造をしていない。

 出口がない。


「ならどうやって脱出をした?」


 ロイドはそのため、その場で習得した『転移』を使い平安京へたどり着いたが、それは割愛した。


「『転移』を修得しました」

「その場で? どのようにして?」


 宮廷魔導士長の質問が終わりそうにない。


 国王とジュールが制した。


「控えよ、魔導士長。ロイド侯の会得した秘儀は、ロイド侯のものであるぞ」

「迷宮の最下層で何が起こるのか、我々が簡単に聞いてよいものではあるまい」

「も、申し訳ございません。しかし、あまりにも……あまりにも、素晴らしい」

「は、はぁ、どうも」


 その後も質問は尽きなかったが、進行役のジュールが次々と先に進め、その日のうちに、質疑はローア大陸上陸前まで達していた。


「帝国の情勢についてはどこまで知っている?」


 珍しく進行役のジュールが質問した。


「私は帝国とは関わらないようにしていたので何も……」


「そうか。わかった。ロイド侯はバルト六邦、エルフの大森林、共和国と友好を結び、南海の犯罪者を摘発してここまでたどり着いたわけだ」

「そうなります」

「敵対した国や権力者はいないわけだな」

「……そのはずです」


 報告会は終了した。


 書記は四人交代し、記録した書類は分厚い束になった。


「わかっていると思うが、この報告会の内容は部外秘だ」

「しかし、いずれわかることでしょう」

「情報の解禁のタイミング次第で、価値が変わる。脅威を与えるか、利益を得るか、その両方が望ましい。一部は次の議会で、大臣たちと諸侯に明かそう。それでロイドの帰還パレードの承認を得る」


 全く聞き慣れない言葉にロイドは戸惑った。

 

「待ってください。私の……何です?」

「お前の復帰を大々的にアピールする催しだ。安心しろ、もう段取りはできている。議会の承認がまだなだけで」


(この時期に、そんな浪費を?)


「市民の漠然とした不安を払しょくし、同時にお前の存在を内外に知らしめるためだ」

「そんなことに資金を割けば、反発も出るでしょう?」


 王族の反乱や魔獣の大量発生で信頼は揺らいでいる。そんな中、国庫の運用を誤れば反乱が起きかねない。


「今後催しをしないわけにはいかない。不満を持つ者もいるかもしれないが、その線引きはあいまいだ。実際、このパレードには税収を使われない。税率も上げてはいないからな」

「では、どうやって? お金を掛けずにやるのですか?」

「むしろ掛ける。公募金を集め、臨時予算を作ってある」


 ロイドにふと疑問が生まれた。

 ある、と言うことはすでに自分が戻る前に資金を募ったということ。戻る確証も無いのにどうやって貴族たちを説得し金を出させたのか。

 

 質問をしたかったが、ロイドにはその時間は与えられていなかった。その場にいる全員にも無かった。いつの間にか夜も更け、辺りは寝静まっていた。興奮で気が付かなかったエリート官僚たちは疲労感に襲われた。


「今日は、ここまでとしよう」



2020/5/22 時系列整理のため入れ替え 文字数を削減

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