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1.救出へ(改稿版)


 ロイドがシスティーナ、ヴィオアと再会を果たした翌日。


 ピアシッド迷宮都市のギルドに郵便が届いた。


「特急黒猫便ですニャン」

「緊急か?」

「黒猫便はいつも緊急ですニャン。サインをお願いしますニャン」


 黒い二足歩行の猫が封筒を寄越した。

 宛名はカルタゴルト職員になっていたため、その職員はすぐに封筒を開封した。


「なんだこれ? 指示書――『魔法陣を迷宮の入り口に設置後、光灯台の管理者に指示書を直ちに送り届けよ』……?」

「チップの代わりにお肉をごちそうして欲しいニャ」


 職員は書かれた通りにした。

 光灯台の管理者は慌てて灯台に光を灯した。


「すごい急いできて疲れてるニャン。ローア牛が食べたいニャン」


 ズボンのすそを引っ張る猫の手を煩わしそうに払いのけながら、職員は慎重に事態を見守った。



 ピアシッド迷宮43階層。


 マイヤは音を立てないように鎧を脱ぎ、暗闇の中岩陰に身を寄せていた。

 同じくリトナリアとマスも、岩陰に隠れている。


 洞窟内の広い空間に佇む一匹の迷宮魔獣がその進路を遮っており、三人はその一匹を囲むように距離を詰めていた。

 

 三人は気配を頼りに、にじり寄っていく。


「あ」


 ころりと、マスの足元で岩場の石が転がった。


「ばか!」


 気が付いた迷宮魔獣はにょろりと蛇のような胴体をくねらせ一気にマスに接近した。胴体ほどもある発達した両腕。その爪の一本が鋭利な刃になっており、岩をスパスパと斬り裂いた。


 マスはその刃を回避しながら矢を射った。

 だが矢は触れた瞬間に風化し塵に変わった。


「ッ! やっぱダメー!!」


「全く、あの子は……!」


 リトナリアが飛び出し、『風切り』を放った。迷宮魔獣は反応し、にょろりとその身をひるがえした。


「ふぅー、死ぬか思った!」

「仕方ありません、出直しましょう」


 この迷宮魔獣は危険を察知すると体中から強力な酸を噴出する。接近戦を得意とするマイヤとリトナリアは相性が悪く、マスの矢も気づかれると無力化される。


「しかし、あれに進行を阻まれてもう二日だ。あの酸のブレスは私が抑えるから一斉に――」


 疲労が蓄積し、焦りも募った三人。しかし階層を進むごとに現れるのは地上では出くわすことのない新種の魔獣。


 ルートを開拓し、新種の魔獣の討伐方法を模索しながら進んできた。だがそれも限界に達していた。

 

「いや逃げようッ! マジで無理だってこれ! おれもう矢がないし!!」


「くっ、補給地点まで引くぞ!」


 しかし迷宮魔獣が目の前の獲物を逃がすわけも無い。

 二本の鎌は障害物をものともせず、三人を徐々に追い詰めていく。


「奴の方が早い!」

「追いつかれるぅ〜!!!」

「仕方ありません!!」


 マイヤは大剣を投げつけ、マスを担いで全力で『風圧』を発動した。

 迷宮魔獣は剣を弾いたものの、反動で動きが止まった。


「振りきったよ!」


 細い道の影に一旦身を寄せた三人。


「はぁはぁ、すまない、剣を」

「いえ、命には代えられない」

「ねぇ、二人とも……ここ、なんか――ごっ」

「マス、あなたもキチンとお礼を――」

「……ッ!」


 マイヤとリトナリアがマスの方に振り返ると、その首から細い管が突き出ていた。 

 引き抜かれると同時に大量の出血。


 敵の姿は見えない。


「うっ……」

 

 次はマイヤの腕をその管が貫いた。

 その管が伸びてきた先は壁。


「はッ!!!」


 リトナリアが壁に向かって『風切り』を放った。一瞬、そこに魔獣の姿が見えたが、攻撃は弾かれ、すぐにその姿は消えた。


「あっ……ぐぅ!!」


 今度は背後からリトナリアの肩が貫かれた。


(囲まれている!!)


 リトナリアはマスの状態を確認した。


(失血がひどい)

 

 マイヤも先ほどの後退で魔力を使い切り、剣も無く、成す術は残されていなかった。


 リトナリアは『閃光』を発動させた。すると、細い洞窟の壁にびっしりとカメレオン型の魔獣がひしめいていた。

 マスはその何匹かに囲まれ、丸のみにされかかっている。

 

 冒険者として選択の時。最良の判断はここまでの情報を持ちかえることを優先し、二人を置いて逃げる。


(だが、私はもう十分生きた)


 また育てた若者を見殺しにして、その墓参りをすると思うと、リトナリアには逃げる選択肢は無かった。


 その意思を悟ったマイヤは止めようと考え、やめた。自分もまた騎士として最後まで戦おうと決めた。 


「付き合いますよ」

「マイヤ、すまない」


 リトナリアは『風の刃』を指先一本に集中し、風を読んで見えない敵を斬り続けた。

 マイヤは周囲にあった岩を使ってとにかく勘で殴りつけた。


「らぁ!!!……」

「はぁッ!!!」


 どれだけ高みに近づいても、戦いの本質は変わらない。

 

 体力、精神力、魔力が底を尽きかけ、なりふり構わず目の前の敵を殺していく。

殺される前に殺すことを追求していった結果、戦い方はむしろ原始的になっていった。


「ゼェ……ゼェ……」


 しばらくして、周囲に敵の姿がないことに気が付いたリトナリアは『発光』で辺りを見渡した。


 カメレオン型魔獣の残りは逃げたようだった。

 立っていたのは自分だけだった。


「ハァ……ハァ……マス……マイヤ」


 結局残ったのは一人。


 今自分が感じている絶望、喪失感、無力感をロイドも感じたのだろうか。


 絶望が頭を過った時、リトナリアはこちらに迫る者の存在に気が付いた。


「ここだ! こ、こ、だぁぁぁ!!!! はぁ、はぁ……ここに、いる――」


 とっさに叫び『発光』の光を点滅させた。


 すると、へたり込んだ彼女の前に男が現れた。


「『霊薬』」


 マスとマイヤ、そしてリトナリアに直接霊薬がかけられた。


「「冷たっ」」


 マスとマイヤが反応した。

 リトナリアは『発光』の光を男の顔の方へ向けた。そして安ど感に覆われた。


「バカ、どこにいたんだ……」

「すいません、リトナリアさん……おれはここです」


 ロイドは力なく倒れ込んだ身体を受け止めた。


「やぁ、ロイド君……役得って奴だね」

「私たちより元気そうですね、ロイド卿」

「ただいま、マイヤ隊長」




「……え? 無視はやめて? ねぇ、おれもがんばったんだぜ?」


 ロイドは途中発見した補給部隊を含め、自身の捜索に参加した者全員を連れて転移した。





 一方そのころ、

 ギルドの食堂で、カルタゴルト職員が黒猫にローア牛をおごらされていた。


「そういや黒猫さん、特急便って料金プランにないんだけど、どうやって依頼されるの?」


 特急黒猫便は荷受けの手引きはあるが、客の料金プランにない。なら誰が使っているというのか。


「わからニャい。ボスが運んで来いって言ったら、言われたとーりにするニャン」

「ボス?」


 職員は興味をそそられた。

 基本的な情勢、公人の情報を無料で知ることができるため、この商会の会員になる者はこの十年で300倍に膨れ上がり、今最も顧客が多いとも言われている。


 そんな商会を誰が牛耳っているのか……



 トップにいる者のことを誰も知らない。



「ボスって言ったか?」

「もぐもぐ……はっ!! い、言ってニャいよ!!」

「いや言ったよ!! さっきのあの円盤……あれの持ち主って」

「お兄さん、規則規則」


 この商会に就職するにあたり、守らねばならない最大の規則。

 すなわち『顧客の個人情報保護は絶対』。

 

「特急便でお金払った人はお客様ニャン。お客様のことは詮索しちゃダメダメよ」

「でも、こうもある。『買える情報には飛びつけ、売り逃すな』ってな」


 黒猫は食べる手を止めて、真剣なまなざしを職員に向ける。


「ニャー……お兄さん、お肉をごちそうしてくれたから教えとくニャン。前に同じことした人いたニャン。為替窓口の統括事務長、おエライさまニャン。今、南の方で道路作ってるニャン」

「マジか」

「マジマジ」

 

 自分など、ただの事務をする平の職員だ。

 全貌を把握できないほどの巨大な組織の末端であることを思い出し、恐ろしくなったその職員は封筒を燃やした。



2020/5/22 時系列整理のため入れ替え、文字を削りました。

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