4.数字が裏切らせる
括弧などちょっと修正2019/10/01
【20524】
これが示すのはどうやらおれの能力値らしい。
「ギルドではこの能力値適正ランクに基づいたランク昇格を行います。算出方法はお教えできませんが信頼できる数値です」
完全な秘匿技術でギルドの内々で管理されているということか。
「そんな制度があったとは」
「はい。通常この資料を冒険者ご本人に見せることはまずありません。運用されるのは昇格の判断が難しくなる金級以上が主です。そうしないと駆け出し冒険者に毎日数値の変動を問い合わせられて業務に差支えが出ますので」
その数値が出された。おれの場合、極銀級冒険者の本人照会の為にだったが、しばらく冒険者ギルドに顔を出していない間にその数値に変動があったそうだ。
セーイチ――ロイド・ギブソニアン(16)
■魔法
・魔力量【750/1000】
・発動速度【850/1000】
・練度【900/1000】
・修得率【980/1000】
・[???【600/???】]
・[固有魔法【2000/???】]
・[魔力視【1000/1000】]
■身体
・体力【450/1000】
・技能【700/1000】
・パワー【300(510)/1000】
・スピード【320(544)/1000】
■知力
・知識【700(1120)/3000】
・思考速度【600(960)/1000】
・直感【400(640)/1000】
・発想【700(1120)/2000】
・[完全記憶【500(800)/1000】]
・[固有知識【500(800)/???】]
・[並列思考【1000/2000】]
■装備
・適正【700/1000】
・性能【800/1000】
・整備【500/500】
・練度【700/1000】
■精神
・道徳【300/1000】
・気力【700/1000】
・度胸【200/1000】
・意志【200/1000】
・[カリスマ【700/1000】]
おれのこの数値を見た冒険者たちは騒ぐのをやめて、皆おれに片膝をついた。それは異様な光景だった。一人の冒険者が数値の記載された木札を返してくれた。それでようやくおれは自分の能力値を初めて見た。初めて見たのだから、これがどのぐらいおかしいかわかるはずも無い。ちょっと「?」が多いし、カリスマってなんだ? とか思ったが極銀級として妥当な数値がこれなんだろうなぁぐらいに思った。
「やはり主殿にはほとんど敵いませんなぁ」
「お、リースとマドルも出してもらったのか、どれ?」
リース・ジョルティアヴァレリス(42)
■魔法
・魔力量【350/1000】
・発動速度【0/1000】
・練度【0/1000】
・修得率【0/1000】
・[獣化【1000/1000】]
■身体
・体力【720(1296)/1000(1500)】
・技能【890/1000】
・パワー【800(1440)/1000(1500)】
・スピード【560(1008)/1000(1500)】
■知力
・知識【750/3000】
・思考速度【600/1000】
・直感【900/1000】
・発想【200/2000】
■装備
・適正【0/1000】
・性能【0/1000】
・整備【0/500】
・練度【0/1000】
■精神
・道徳【100/1000】
・気力【700/1000】
・度胸【850/1000】
・意志【800/1000】
・[カリスマ【550/1000】]
総合数値は【11424】
リースさんアンタなんて潔いんだ! ゼロが多い!! 魔法量、おれの半分て結構あるだろ! なのに魔法使う気ゼロ。カッコエェなぁ!
装備無しってわかりやす過ぎるよ。ド突き合いがしたいんだね。
パワーが最大1440!? おれの約三倍の数値だ。たぶん力が単純に三倍というわけではないから実際どれぐらいの差か分からないけど、リースがパンチで断崖を崩落させたところを見たことがある。つまり、生身の人がリースのパンチを受ける場合、相当量のダイナマイトを食らうのと同じということだ。
普通に、死 に ま す。
あと、本名初めて知ったよ。仲間にドンリースって呼ばれていたからおれもそうしていたけど
「主殿に首領と呼ばせることはなりません。どうぞ、リースと呼び捨てにしてください」
と言われた。だからただのリースと思っていた。
それはさておき、リースと比較すると何となくわかる。[獣化 1000/1000]とあるように、基本の項目にないものも表示される。つまり基本は二十項目で、固有能力や珍しい特異な力も追加項目になりこの能力値に含まれるというわけだ。これは職員が調査して数値化なんて絶対不可能だし、やはり神の力だろう。
でもあくまで参考値っては納得だな。魔法と身体や装備の数値を足し算しても実際の戦闘能力とはやはり違うはずだ。
それに、おれの[固有知識 500(800)/???]とかギルドの人からすれば意味不明だろう。これはたぶん前世の知識ことかな。(800)となっているのは思考強化時のことだろう。
さて、マドルが照れながら見て欲しそうに待っている。どれどれ良〜く見せてごらん……イヤ、セクハラとかじゃねーし!
おっとセルフボケ&ツッコミにマドルさんキョトン顔だ。はい、拝見します。
ストヴァレシトルマーゼ・ワーシュムスレイアルドール(26)
■魔法
・魔力量【850/1000】
・発動速度【600/1000】
・練度【500/1000】
・修得率【300/1000】
■身体
・体力【500/1000】
・技能【800/1000】
・パワー【280(392)/1000】
・スピード【600(840)/1000】
■知力
・知識【450/3000】
・思考速度【300/1000】
・直感【900/1000】
・発想【250/2000】
■装備
・適正【750/1000】
・性能【1000/1000】
・整備【250/500】
・練度【450/1000】
■精神
・道徳【300/1000】
・気力【50/1000】
・度胸【800/1000】
・意志【800/1000】
総合値は【10782】か。
まずツッコミたいところはあるが、それは置いといて注目すべきは装備の性能カンスト。これはヤバイだろ。先祖代々受け継いできたらしい「五式剣」。これは使用者の魔力に応じて五段階変形するという奇天烈な剣だ。今の所、剣、槍、鞭に変化するところを見たがどういう仕組みかは分からない。あと二つ変形を残しているという男心をくすぐる仕様になっている。その剣を活かすスピード600(840)、これは鬼門/気門法による上昇だろう。そして生き残るために必要な才能、直感 900がすごい。リースもそうだが、二人の危機察知能力はほとんど予知に近い。
さて、本題はこっからだ。
「お前名前ちげーじゃん!!」
「はっ!! あ、い、いえ!! ち、違くないですよぉ…‥い、いつもは略称なんです!」
「ロイド侯、魔人族は大体こうですよ。発音できないんで略称を使う人が多いんです。共和国の神殿にいる魔人族もそうでしたし」
ああ、確かに、タイタンも確かそんな感じでおれが勝手に愛称を付けたんだった。いや、それにしても何の呪文だよ。
「バルトからここまで出会ってから相当経つのに、いまさら本名知るとかショックだぞ」
「「す、すいません」」
「まぁまぁ、ロイド侯」
「セイランも何か隠していないだろうな?」
セイランは心当たりがありそうに、髪をくるくるさせながら勿体づけて告白した。
「……実は、私、成人してます」
信じなかった。
おれたちはセイランをスル―してギルド長に招かれるまま奥の客間に入った。
「本当ですよ!! この間十五歳になりましたよ!! もしもーし!!」
ギルド長がこちらを伺っている。いいですよ、話を始めて下さい。彼女は背伸びをしたいお年頃なだけですから。
「お忙しいところ申し訳ございません。お話というは能力値適正ランクについてです。先ほどの数値をご覧いただき、ロイド侯のお力がすでに極銀級から遥かに上にあるとはご理解いただいていると思いますが―――」
「そうですか?」
「え? ああ、そうですよね。数値ごとの適正ランクについて冒険者の方はご存知ではないですよね。すいません、改めてご説明させていただきます。まず、こちらをご覧ください」
ギルドマスターが出したのは羊皮紙に書かれた表だ。
銅級―――【1000〜2000】
鉄級―――【2001〜3000】
銀級―――【3001〜5000】
金級―――【5001〜10000】
極銀級――【10001〜16000】
聖銅級――【16001〜20000】
神鉄級――【20001〜】
なるほど、これを目安にするとおれは神鉄級なわけか。
「すでにこのことは広まっていることでしょう。冒険者が木札を奪ってしまったことで、こちらとしてもロイド侯をこのまま極銀級に留めておくわけには参りません。いえ極銀級も常軌を逸した超越者であることには変わりませんが、ローア大陸に神鉄級が現れるのは数年前の謎の冒険者システィナ・ゴルトシュミット以来です。彼女は本当の剣神システィナ様だったのではないかと言われるほどでした。神鉄級は神話クラスの冒険者なのです」
それって本人だな。迷宮の試験で帰りに護衛の依頼を受けていた。
「なるほど、事の重大性、そちらがどれだけこれを重要視されているかはわかりました。しかし今の私は王都に急ぐ身です。詳しい手続きでしたら王都で行います」
すでに予定はだいぶオーバーしている。少し早めに昼飯にする予定があの蜘蛛モドキのせいで遅めの昼飯になりそうだ。
「そ、そうですか、それでは私の方から王都のギルドマスターに書状を送ります」
やれやれ、神鉄級? いや、王都に着いたら冒険者辞めますけども。
だって、王都に着いたらおれの仕事は二人の女性を護ることだけで手一杯になるだろう。冒険者なんてしている暇はないよね。それに平和なパラノーツ王国で神鉄級なんていらないだろうしねっ!
「ロイド侯は嘘を付いています」
「え?」
まさか、裏切るのかセイラン、貴様!!
「ふふ、セイランちゃん、子ども扱いしたの怒っているんだね? 悪かったよ。十五歳の誕生日だったんだろ? おめでとう。ではギルドマスター、我々はこれで―――」
「ロイド侯は恐らく、神鉄級の昇格手続きの前に冒険者を辞めるつもりです」
「なんと!?」
ちぃ、小賢しいマネを!
「私は審議官です。ロイド侯の目的は王都への帰還。その為の身分証明のために冒険者になったにすぎません。王都に着いたら、結婚してのんびり安全にぬくぬくしようと考えています」
「いや! 結婚からはお前の想像だろ!」
だが怖いことに正解です!!
「ギルドマスター、ここで神鉄級の昇格を承認しなければあなたの責任になってしまいます」
クッ、ちびっ子めぇ……だがそう簡単にはいかんぞ。神鉄級になったら絶対やめさせてもらえない。特に陛下とか絶対やれって言うだろうし。おれはここから出る。止められる者など―――
「平和にぬくぬくというのは感心しませんなぁ。力を持つ者は持たざる者の為、闘争に身を置かねば」
なにぃ!! ここに来て、絶対の忠誠を持っていたリースが裏切るだとぉ!! グッ、肩を押さえつけられて立ち上がれないよ。力では勝てない!! いやアンタはただ戦いたいだけだろ!
マドル!! 助けてくれ、マドル!!
「フフ、結婚……汚れた私には、もう訪れない幸福、ネタマシイ……!!」
だめだ、おかしなスイッチが入っているぅ!!
しばらく、おれは戦った。しかし、信頼していた仲間の裏切りにより、おれは神鉄級の昇格手続きをさせられることとなった。ギルドカードは神鉄に極銀と聖銅で装飾するという特殊なもので、製造に時間が掛かるため、おれは登録だけされた。全ての手続きが終わると夕方になっていた。今から街を出ることは出来ない。仕方ないので一泊することにした。ただ、居心地が悪い。すごい見られる。すでに街中におれが神鉄級であることが伝わっているようで行き交う人がおれを見てくる。ちなみにおれがロイドであることを知っても生きていたことに驚かれないことから、まだ死亡認定はされていないようだ。
普通に宿を取ろうとしたら、街長があいさつに来た。領主であるリヴァンプール伯にも紹介したいと街長の屋敷に招かれ、歓待を受けた。たまたま屋敷に来ていたアプロ伯爵は、死人を見たという顔をしていた。彼女とは王都で何度か会ったことがある。そして彼女はおれが知りたかったベルグリッド伯領の話をしてくれた。
「父上が、ベルグリッド伯を解任……?」
その日、おれは申し訳なさで寝付けなかった。帰るのが少し億劫になった。
そして、父からベルグリッド伯の任を奪った男、ジュール。
「何者なんだ?」
おれの記憶の神殿にも名前の無い男。
不安がおれを再び焦らせる。
能力値でだいぶ文量をくってしまい、街から出られませんでした。ヴィオラ、システィーナとの再会までもう少しかかりそうです。