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3.大捕り物(修正版)

三点、括弧などちょっと修正2019/10/01



 それは屋根を伝い、おれたちの前に降ってきた。


「きゃああ!! 気持ち悪い!!」


 その瞬間、マドルの蹴りが炸裂。その物体は路地の突き当りの店まで吹き飛んだ。


「主殿、今のマドルの蹴りは良かったですね!!」

「言ってる場合か! 良く見えなかったが、あれはちょっとヤバそうだぞ!」


 店の壁にめり込んだそれは脚を使ってノソノソと起き上がり、何事も無かったかのようにこちらへ突進してきた。


 例えるなら、蜘蛛。

 しかし、蜘蛛のように八本の多脚というだけで、パーツ自体は蜘蛛のものでは無かった。胴体は人だがそこから魔獣の毛深い腕が生えており、甲冑のようなもので覆われている。人の部分である頭も異様で、青白く、血走った獣の眼をしていた。


「計画変更だ。敵の力が未知数な以上、全力で排除する。再生能力、身体強化、他にもあるかもしれない。様子見する前に首を斬り落とすんだ。ところでマドルの蹴りは良かったな。行くぞ!」

「「「はい!」」」

 

 おれたちはこれまでやってきたお馴染みの陣形を取った。リースが前衛、おれとマドルが中衛、セイランは後衛で背後の警戒。


 突進してきた蜘蛛モドキは小刻みに左右へ気持ち悪く動いて翻弄し、壁を蹴って突っこんで来た。


[ゴァァァンッ!!]


 衝撃の激しさを物語る激突音が鳴り響いた。

 蜘蛛モドキの甲冑とリースの手が合った音だ。瞬間、蜘蛛モドキからバキバキ、ゴキゴキという音がした。ただの張り手のように突き出した掌底は甲冑内部に衝撃を与える技術、『鎧通し』。そして再生するかしないか確認する前にマドルが脳天を剣で突き刺した。


「どうだ?」

「そうですな。突進力はスピアライノスやトライホーンボアなど重量級と同じぐらいです。機敏さはスパイダーブルやツインテールフォックス以下といった所でしょうか」

「よし、なら問題ないな。これで行くぞ」

「「「はい!」」」


 見た目はグロテスクで不気味だが、要するに大した脅威ではない。おっと、こういう油断した指揮官がB級映画で真っ先に死ぬんだよな。


「魔法、その他能力は未知数だ。油断せず確実にやろう。もしかしたら個体差が大きいかもしれない」

「そうですね。これって明らかに自然に生まれた魔物ではありませんしね」

「どういうことだ?」

「見てください。甲冑の中身を」


 セイランが甲冑を剥いでここだ、と指をさす。


 やめなさい、セイランちゃん!! 変な伝染病があったらどうするの?

 ん、よく見ると腕がつながっているところに手術のような縫合の跡があるな。え? これ、え? まさか……え?


「おぞましいことを。人と魔獣を無理やりつなげたようですな」

「うぅ、すいません、私こういうの無理です」


 うん、おれも無理。

 帝国じゃこんなことしているのか?


「以前、こういった怪しげな実験生物兵器で戦力を確保するという計画を帝国内で進めていると聞いたことがあります。人工的に魔物を造るとか、魔獣同士を合成するとか、拷問で人を魔物へと堕とすとか……」


 うわぁ、帝国えんがちょ!


「早く済まそう」


 おれたちは港に出た。人気が無く波の音だけが聞こえる。だが、隠れている蜘蛛モドキは瞬時にわかった。おれではなくリースがだが。


「全部で八匹、すでに何人か食われていますな。こちらを警戒して隠れています」

「目的は捕食か」

「む、誰か来ます」


 そこへ遅れてやって来たのはリヴァンプール駐屯騎士団。


「おい、君たち! ここは危険だ。立ち去りなさい!!」


―――油断している指揮官が真っ先に狙われる―――という直感でおれは指揮官と騎士団の周囲に魔法を放った。


[ボゴゴ!!ドガッ!!]

 

「ギィゴ!!」

「うわ、なんだ!!」


 おれの放った『連弩砲』――石畳を地面から発射する市街戦用魔法が空中で飛び掛かっていた蜘蛛モドキに当たった。態勢を崩して落下した先は『岩槌』を発動準備し、地面から伸ばした巨大な無数の突起で串刺しにした。


 それを見て騎士団は唖然として固まっている。おそらく魔獣討伐の経験が浅い。装備が軽装で、沿岸警備を想定した革鎧だ。あれでは心許ないな。


「バタつくな!! 密集円形隊形!! 対重量級魔獣戦闘用意!!」

「「「「「「ハッ!!!」」」」」」


 思わず指示をしてしまったが、騎士たちは返事をした後おれを「誰だ?」 という顔で見ながらも隊形を取った。


「敵残存戦力七匹、能力は未知数、個体差を警戒しろ!!」


 おれの今の魔法を見て警戒する学習能力があるなら、逃亡か集団で襲うかのどちらかだ。通常の魔獣ならばだ。こいつらは魔獣なのか魔物なのかもわからない。人の部分が残っていて知性があるならバラバラに逃げたりするかも。それが一番手間だな。仕方ない。


「リース、敵の居場所を正確に教えてくれ。しばらく離れる」

「わかりました。まず―――」


 リースから聞いた場所に行くと、いるいる、やはり個体差があるようで脚のパーツが違う。最初のはスパルタンベア、串刺しにした奴はスパイダーブル、こいつはアイアンフロッグだ。とりあえず、おれはそいつの首を撥ねて、次の奴の所に向かう。様子見をしているものもいれば食事中の奴もいた。おれが四匹を片付けたところで、残りの三匹はリースたちによって討伐が済んでいた。


「そちらに居られましたか! さすが我が主」

「すごい『潜伏』ですね! 後ろにいたのに気づけませんでした!」


 魔力を絶ち、自然物に紛れる『潜伏』

 これは魔の森で多数の魔物がやっていて盗んだ技術だ。これでサッと近づき太刀で首を撥ねる。ハイドアンドキル戦法だ。まぁ要するに単なる不意打ちだが。


「無事か?」

「こちらは無傷です。あちらは、一匹から攻撃を受けて、何人か軽いけが人が出たようです。要訓練ですな」


 見ると、何人か呻いている。軽いけがというか骨折してるじゃないかリースくん。やれやれ。


「リース。あなたからしたら弱いかもしれないが彼らも貴重な王国の人材だ。彼らがいないとそのしわ寄せがどこかに行く。今後は極力全体の守護を考えてくれ」

「わかりました」 


 おれは指揮官らしき男に声を掛けた。


「勝手に指揮を奪ってすまない。あの何だかわからない蜘蛛モドキは九匹全部討伐した。後の処理は任せる。」


「ちょっと待ってください。あなたは一体何者なんですか?」

「あんた、あの魔獣を一人で殺ったのか? 一体どうやって!?」

「あの長身の男と黒髪の女性もただものではない。もしや高名な冒険者様でしょうか?」


 誰だと聞かれて隠す必要はもうない。よし、聞きたいのなら教えてあげようではないか!


「おれは王宮騎士団 第一王女近衛部隊 紅燈隊 第三席、ロイド・バリリス・グローブ・ギブソニアンだ」


 騎士たちは驚きを隠せないと言った顔で互いに見合わせている。そうだろう。突然行方不明の有名人が目の前に現れたらこうなるのは必然だ。


「……あなたは命の恩人です」

「気にしないでください。責務を全うしただけです」

「なので、できる限りの弁護はします。すいません!」

「は?」


[ガチャリ]


 拘束用の鎖がおれの手に巻かれていた。何かのジョークかと思って指揮官の顔を伺うと、どうやらマジらしい。なんで?


「ロイド侯は今十三歳。私は王都で魔物が討伐された後の褒賞式典でロイド侯を見ました。あなたとは背格好も容姿も違います。貴族に成り済ますのはこの国では重罪です。申し訳ないが神殿の法院で裁かれることになります」


 あ、そうだった。この見た目じゃ、ロイドだって信じてもらえないじゃないか!! あれ? ひょっとしてこれはかなりマズい?


「きぃさぁまぁぁ!!!! 我が主に歯向かうとは……ッ!!!」

「よせ、リース。この人の言い分は真っ当だ」

「しかし……」

「ロイド侯……」

「旦那様……」


 そうだ、ギルドカードも名義はセーイチだし、セイランが証言してもおれの四年分の成長変化を法院が納得するとは思えない。神の証言なんてありえないし、どうすれば。


「何か、身分を証明するものは持っていますか?」

「毛皮の内ポケットにギルドカードが」

「拝見します……え?」


 おれのカードを見て指揮官が驚いた。まさか極銀級冒険者がなりすましをするとは思わなかったんだろう。実際やってないんだが。


「セーイチ――ロイド・ギブソニアン……まさか、しかし……」

「え? ちょっと待て、あれ?」


 おれのカードにロイド・ギブソニアンと刻まれている。いつの間に?


「ギルドで身元を照会していただく。すいません。手枷ははずしますが、不用意な行動はせず同行していただけますか?」


 指揮官はもしかして本物? といった感じで汗をかいている。おれも不思議だ。これはもしかして―――


―――ギルドの受付でカードを見せると驚いた受付嬢がギルドマスターを連れてきた。そして何かの魔道具にカードを掛けると木札に情報が印字された。


 すごいな。あんなのあったんだ! 初めて見た! いや、世界中の冒険者の情報をギルド間でどうやって共有していたのは気にはなっていたが、魔導具とギルドカードでやっていたのか。


「こ、これは!!!! こちらの方は間違いなくセーイチ――ロイド・ギブソニアン様です!!!!! 出身はベルグリッド領 カサド、年齢十六歳、職業王宮騎士 王女護衛[紅燈隊所属] 騎士爵!!!!! クラスは魔導士・剣士・拳闘士・神官!!!! 能力値適正ランクは……な、なんと!! 魔力量―――」

「ちょっと待ってぇ! そこまで言う必要があるかい!?」


 ええ! ギルドの能力判定ってそこまでわかるのか? いや、おれが拳闘士や神官ぽいことをしたことをギルド職員は見ていないはずだし、おれも自称したことはない。だが、身体能力強化で殴ったり、『治癒』や『霊薬』を使うことはあった。それを知っていて、おれがセーイチと名乗っているロイドと知っている者、カードをいじれるほどの者―――



―――『私は特別扱いせんぞ』―――



 めっちゃしてくれてるじゃないですかぁー!


 なんですかアリア様、やっぱりツンデレだったんですか? こんな細かい気遣いまでしてくれるなんて過剰サービスの日本でもないよ?


「し、失礼いたしました!!!」

「あ、いや、この姿では仕方ない。おれもあなたに言われるまでおかしいことに気が付かなかった。ちょっと、迷宮で失敗して何年か次元の狭間に居たんだ」

「……??? それは、ああ、そうでしたか! 大変でしたね!」


 うん何言ってるか、分からないよな。

 にしてもやはり、ギルドも神の力の影響下なのか。神殿と並ぶ治外法権、独立機構。その運営の基盤がどこにあるのか。その答えは直接干渉ができない神たち自身の力というわけだ。思えば魔の森の捜索でアリア様がおれを見つけたのも冒険者を介してだった。自分で依頼をしておれだと確認させたとも言っていたしな。


「まさか、本当に生きていたのか?」

「あれがロイド侯? 『陰謀潰し』の?」

「あの魔法なら確かに本物だろう!」

「すごい、でもどうしてこんなところに?」


 ギルド内でおれがロイドだと知れ渡りざわめき出した。騒ぎになる前に出発したい。


「ふむ、能力を割り出せるのなら私もお願いしたい。主との差がどれほどか見ておきたいものだ」

「ロイド侯の実力? おい、俺にも見せてくれ!」

「おれにも見せろ」

「おれにも!!」


 おい、リース、この戦闘卿(狂)が! 確かに能力を採点されているなら確認したいが、誰彼構わず見せるわけには……ああもういいや。おれの木札は群衆の中に消えている。個人情報とは? プライバシーとは? 本人がまだ見てないんですけどぉ?


 なんだか疲れた。そうだ。食事を採っていないじゃないか。それに船旅の後に休まず旅支度して戦闘してこれだ。はぁ……


 結局、ギルドで足止めされてしまい、その日は街を出られなかった。


 おれの冒険者ランクが極銀級から神鉄(アダマンタイト)級になったからだ。

 



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