7.それぞれの帰還
ロイドたちが乗って来た船に、男たちが乗り込んだ。
「クソ、大したもんはねぇな」
「探せ、この船に何か手掛かりがあるはずだ!」
ならず者たちを手懐ける首魁の奴隷商は、焦り始めた。
五つの南海貿易同盟はそれぞれ子飼いにしている海賊たちがいる。それらが縄張りを侵して略奪を始めたのかもしれない。
だからこちらも海に出て略奪をしようと思っていた矢先ロイドたちの船がやって来た。
(証拠もなく攻めれば、全部おれのせいにされ同盟に消されちまう。なんでもいい、情報に繋がるものを見つけねぇと)
未来の無い男にならず者たちは付いて行かない。
略奪で金が手に入らないとなれば誰も動かない。
その時、男は思わぬ情報を手に入れた。
「まさか……だが、これで逆転できる」
奴隷商は海には出ず、ならず者たちを集めた。
◇
奴隷商はロイドたちを引き渡すように傭兵隊に直談判した。
「そいつらがおれたちの荷を盗んだ」
「証拠があるのか?」
「船内に獣人の毛が残っていた。匂いで調べさせたが、あの船に複数の獣人が乗っていたのは間違いない。悪いことは言わない、奴らを渡せ」
人数で分が悪い傭兵隊。
だがロイドたちを引き渡せば契約違反になる。
「もちろんタダとは言わない。お前たちにも分け前をやろう」
「そんな金がどこにある?」
「お前が匿っている奴らはあのドルズゥール島へのカギだ。青の魔王が遺したこの世のありとあらゆる財宝が眠る島。そこへ導かせる」
伝説の宝島をエサに傭兵隊を惑わせる。
奴隷商は同じ要領で島中のならず者たちを再び一つにまとめ上げていた。
「その島へ行ける保証は? なんで奴らがカギなんだ?」
「見ろ!」
男が取り出したのは金でできた杯。
「鑑定させたから間違いない。これは失われたエルドラドの財宝。この杯を使ったものは死から解放されるという伝説のお宝。青の魔王が略奪したとされるものだ。これが奴らの船にあったのさ!!」
それを見て傭兵隊長は納得した。
南海を渡り切った奇妙なローア人、共和国人、獣魔族、魔人族。四人にはどこかただ者ではない雰囲気があった。
「魔の海域から生還したってわけか」
「断っても無理やり連れて行くことになる。おとなしく退いた方がお互い無駄なことをしないで済む」
「確かに、傭兵の世界は金次第だ」
「わかり合えてうれしいよ」
「だが、おれたちのボスは州政庁だ」
「なに?」
「おれたちを金で買いたいなら直接交渉してくるんだな」
にわかに場が殺気だった。
しかし、その空気をさらに覆うように、息苦しさが全員を襲った。
「金で騒ぎが治まるならおれが払うよ」
現れたのは、ロイド。
金貨の入った袋を、ならず者たちの方へバラまいた。
「金だ!!」
「おい、寄越せ!!」
「ハハ、おれのもんだ!!」
傭兵隊へ詰め寄っていたならず者たちは金であっさり統制を失い、殺し合いを始めた。
「お、おい何をしている!!」
「これが、醜い戦争をしてきた者の末路か」
だが、金で動かない者もいた。
奴隷商が使っている獣人の戦士たち。
「しまっ――」
騒ぎに乗じて不意をついた。
彼らにとって、囚われている家族を養うことが全て。
戦闘で結果を出せば、食事。失敗すればバラバラに売り飛ばされる。
「よせ、お前らはあと少しで自由なんだ!」
「人族ナンテ信用デキナイ」
訓練された集団戦法で、傭兵たちは獣人たちをはねのける。
『帰れ、お前たちの故郷へ』
「……っ!?」
「!?」
それは紛れもなく、彼らの言葉だった。
全身を包む金色の光が景色をかき消し、別の色彩が現れた。鼻をつく悪臭ではなく、故郷の大地のにおい。そして、彼らの同胞たちが迎えた。
「これは一体……?」
「あの方に会ったのね」
「あの方? あの人族の青年か?」
草原の上に置かれた魔法陣からは次々と他の獣人たちが転移してきた。
その中には彼らの拘束されていた家族たちも含まれていた。首輪や手枷はすでに外れていた。
「もう、戦う必要はないのか。我々は自由なのか?」
「そうだ。我々が次に戦うとすれば、あの方の恩義に報いるためだ」
◇
生き永らえ、金を手に入れた者も、奴隷商も気が付くとドルズゥール島へ転移させられた。
「何だここは?」
まさに地獄絵図。
数多の無法者たちが島の至る所で殺し合っている。
「お望み通り、連れてきてやった」
「じゃあ、まさかここが!?」
ロイドを見つけると無法者たちは一斉に向かってきた。
「あのガキを殺せ!!」
「よくもおれたちをこんな何もない島に閉じ込めてくれたな!!」
奴隷商は見覚えのある商売敵たちが軒並み揃っていることに気が付いた。
「まさか……奴が言っていた通り、全員あのガキが?」
「誰が言っていたって?」
一瞬で無法者たちを倒し、背後に現れたロイドに、奴隷商は恐怖で固まった。
「あの金の杯、船から盗っていったと言ったがおかしいな。おれの船にあんなものは無かった」
「骸骨が……しゃべったんだ!! あ、ああんたがおれの商売を邪魔してるって! 金を持ってるから捕まえれば全部上手くいくからと……」
ロイドの前にその骸骨が召喚された。
「ひぃい!!」
「あちゃー失敗したようだね」
「お前が仕組んだのか?」
「そうだよ。でもこうなるってわかっていただろう。君はおれが誰か、ここがどこか気づいていておれを使った」
「な、何の話だ?」
「お前の言っていた死から解放する金の杯は誰の持ち物だったって? お前は誰からそれをもらった?」
「……ま、まさか、そんな」
奴隷商は立ち上がり、必死に逃げた。
「船長、あれじゃ誤解されちゃうよ。おれは別に彼らに恨みはないし何もしないのに」
「知っているか? お前はうそをつくとき、首を逸らす」
「知ってる。船長は知ってる? あの島からローア北部に行くには素人じゃ無理だぜ? 正しい航路と海図があれば別だけど」
ロイドは去り際に酒と杯を置いて行った。
「これが仕事の報酬か。しばらくは退屈せずに済むねぇ〜」
骸骨はそれを手に取り、醜い争いを続ける無法者たちを眺めた。
ロイドたちは船を出した。海図に書き記された航路をなぞり北へ。
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