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6.犯罪島



 中央大陸と緑竜列島の間にある南海。その西の出口にはとある島が存在する。


 ここはローア大陸南部からも近く、その所有権はあいまい。


 あらゆる人種が住み、島民のほとんどが海賊、ならず者、奴隷商人。それに傭兵たち。


 普段から殺伐としたこの島は、大きな二つの勢力の対立によりさらなる緊張状態に突入していた。


「出稼ぎに出た奴らが戻らねぇ。てめぇらの仕業だろ!!」


 この島にも一応統治者がいる。


 帝国の自治都市5つを統べる【南海貿易同盟】へ勝手に島を献上し、その見返りとして領有権を保証された奴隷商。このただの犯罪者が軍という名の私兵を使い、島で発生する利益を独占してきた。


 しかし、数年前からその独裁に待ったが掛かっている。


「知らんねぇ。おれたちは海には出ない。あんたらの商売にも興味はない」


 ローア南部のメイリスカーム州政庁から派遣された傭兵隊。

 彼らは【南海貿易同盟】が島の所有権を有することへ異議を唱え、独自の裁量で山を占拠している。そのバックには巨大な資本家が付いており、同盟へのけん制とみられている。


 奴隷商は私兵である海賊たちが戻らず、船も商品も失い危機に立たされた。

 このままでは無法者たちは従わなくなり、金を払えなければ同盟にも見放される。


 略奪しようにも、傭兵隊の見張りでそれも強行できない。


 奴隷商の生き残る術は一つ。傭兵隊を一掃する。もしくは買収。

 

 奴隷商は同盟に宛てて傭兵隊の買収を頼んだが、音沙汰がない。


 いずれにせよ、この二つの勢力がぶつかるのは時間の問題だった。


 そんな時、港に久しぶりに船が現れた。


「おれの船か? 何ぃ、違うのか……? まぁいい、引っ張って来い。海で何があったか知っいるかもしれん」


 


 立ち塞がった男は、口上を述べる前に顔面を殴られた。


「や、やりやがったな!!」


 ならず者集団に囲まれたロイドたちに慌てた様子は無かった。


「道を塞ぐからだ」

「バカなガキだ。状況わかってねぇのか? おい、ガキと男は殺せ! そっちの女二人はボスに届けるぞ」

「待て」


 そこに割って入って来たのは傭兵隊だった。


「今、殺せって言ったか? お前らもおれたちが何を命じられてここにいるのか知っているだろう」

「邪魔すんじゃねぇ。関係ねぇだろ!!」


 ロイドたちは状況が分からずしばらく静観していた。


 にらみ合いは続いたが、ならず者たちには傭兵隊を前に手出しできず、退散した。

 傭兵隊長はロイドに掴みかかった。


「バカやろうがっ! 金持ちの道楽か? ここがどこだか知らねぇのか? そんな女連れて、豪華な身なりで来ればどうなるか想像できねぇのか?」


 背後のリースは静観していたが、マドルはブチ切れる寸前。

 セイランがそれを察して話しかけた。


「……心配させてしまい、ごめんなさい。不用意でした」


 傭兵隊長はロイドの胸倉を離した。


「今回は同じローア人のよしみで助けたが、この島にいる限り安心して寝られると思うなよ。船に留まれ」

「あなたは親切な方だ。そうしよう」


 素直に引き返したロイドたちを見て、ふと気になった傭兵隊長はその後を追った。

 船の中に入り、愕然とした。


 伽藍洞、何もない船室。ただ激しい航海の傷跡だけが船体に残され、白骨化した死体が横たわっていた。


「お前ら、よくここまで持ったな……悪かった。付いて来てくれ。飯と寝床を用意する」

「は、はい。ありがとうございます」


 ロイドたちは断れなかった。


 船を停泊させておけば、自分たちは転移で好きな場所に行ける。

 わざわざ狭い船室にいる必要も、危ない島に滞在する必要もない。


 しかし、親切心を無下には出来ない。


 ロイドたちは傭兵隊長に連れられて島の中央、山に向かった。

 その間、にらみつける島民の視線を感じたが襲われることは無かった。


 周囲を固める屈強な傭兵たちは、島の不穏な雰囲気の中でも異彩を放っていた。明らかに統制されたプロの集団。


「おれたちはメイリスカーム出身だ。お前らは、どこから来た?」

「共和国です」

「南海を渡り切ったのか!? よくここまでたどり着いたな」


 傭兵たちも感嘆の声を挙げ、その勇気を称えた。


「まさか東からローア人が来るとは予想していなかった。お前たち、ここに来るまでに何かなかったか?」

「いえ、特には」

「そうか」


 それ以降質問はなく、無言で山の中腹までたどり着いた。

 岩場に天幕が連なり、荒々しい島民とは明らかに毛色の違う人々が働いていた。道具屋、鍛冶屋、飯炊き屋、酒屋、娼婦、賭け屋――さながら一つの町と化していた。


 ロイドたちは食事をごちそうになりながら島のことを聞いた。


「元いた島民がみんなこっちに来ちまった。海は奴らに奪われたからな」

「あなた方はなぜここへ?」

「奴らを使って金儲けしている連中が気に喰わない奴に雇われたんだろう」

「だろう?」

「おれたちは州政庁から派兵されただけだ。奴らの略奪を止めるためにな」


 彼らが知るのはどこで誰といつまで戦い、いくらもらえるかだけだ。


「傭兵にもいろいろあるんですね」

「まぁな。おれは隊長だが、家はただの農夫だ。こいつらも同じ地元の奴らでずっと一緒だ。だが奴らは違う。ただのならず者の集まりだ。支払われるかわからない金目当てに何でもする。そういう奴らを使い大規模な略奪行為で稼ぐのが奴らのやり方だ。その略奪行為を海を挟んだ関係ない都市同盟が認めているから質が悪い」


 南海都市同盟からすれば、略奪により緑竜列島や他国の商船から貴重な物資や獣人を仕入れてくれる、安上がりな仕入れ業者だ。彼らは汚い仕事や危ない架け橋を渡らずに、高需要高単価で安定した売り買いができる。時にはそのならず者たちそのものを買い取り、厄介ごとを解決させることもある。


「最近は特に獣人の市場価値が上がっているからな。帝国の内陸で内乱もあるようだし、戦争起業家の鑑だよ、やつらは」


 傭兵隊長の言い方には怒りがこもっていた。

 ローア南部もまた、戦争と講和条約締結、その破棄を繰り返してきた。

 戦争が続き過ぎて敵か味方かの基準もあいまいで、傭兵が同郷の者のみならず親兄弟と戦場で敵として鉢合わせすることもあった。誰も彼もが金次第で誰かを裏切り、その長引く戦争でさらなる利益を得ようとする者が群がる。


「まぁ、おれもその戦争に加担して生きる奴の一人だがな」

「あなたのその迷いと罪への自覚が、善行へ導いているのです」

「あん?」

「彼女、審議官です」

「あ、おおこれは……」


 傭兵たちが席を立ち、恐縮した。


「こうして見ず知らずの私たちの身を案じ、親切に食事を施して下さいました。神々が皆さんを祝福下さいますよう祈りましょう」


 セイランが祈ると、傭兵たちはその場に跪いた。

 

 神殿の無い島で、彼らは信仰の寄る辺を求めていた。

 その日、セイランの元へ懺悔する者が列を成した。


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