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5.温泉回



 


「温泉があるみたいですね」



 

 そうつぶやいたのはセイランだった。

 

 島に温泉がある。

 それを聞いたロイドは旅の疲れを癒そうと気の向くままに温泉へ出向く。


 そして、見知らぬ土地で温泉に入るには結構勇気が要る。特に女子は!!


 だから、彼女たちが恐る恐るロイドに付いて行くことは自然!!!

 ごく自然なのである!!!!


 そうこれは唐突に始まる温泉回!!


 殺伐とした状況に一矢報いる起死回生の一手なのである!!


「おんせん が ある みたい ですね」

「なんで丁寧に言い直したの?」


 彼女はその発言の先を完璧に読み切っていた。

 無警戒なロイドは誘導されているとも知らずに、セイランたちと同じ湯に入ることだろう。


 なぜ彼女がそんなことをしなければならないのか?


 もちろん、彼女に悪意はない。

 むしろ、彼女は何も悪くないのだ。


 

 それまで神殿の厳しい修行生活に身を置き、異性と親密になる機会など無かった十四歳の少女。

 それが、同年代の男子といれば興味が湧いて当然。

 しかも、常人ではマネのできない活躍を目の前で見せられ続ければ意識しない方が難しい。

 だがロイドは彼女を女としてこれっぽっちも意識していない。


 全く、これっぽっちもである!!


 だから、平気で彼女の隣で寝るし、目の前で着替えだす。


 全身にビシィと入った傷と鍛え抜かれ、贅肉の無い身体は無垢な少女の脳に幾度も刷り込まれていった。


 湧き立つ感情に突き動かされ彼女は欲する。

 

(あの筋肉と傷のコントラストを鑑賞したい!!)


 実はリースでもいいのである!!


 でも、彼女からすればリースは歳が離れていて気後れする相手。


 だから手近なロイドの身体を鑑賞し、好奇心を満たそうというわけだ。


「おれはいいから、マドルと二人で入って来なよ」

「ええっ!!?」

「逆に、ええっ?」


 セイランの読みは盛大に外れた。ロイドは腐っても常識人。何とも思っていない相手でも、向こうは気にするかもしれないと思い気を使ったのだ。

 それにロイドにとって二人と一緒にお風呂に入るのは、年頃の妹と入るぐらいに気まずい行為。


 厳格な聖者の彼女が「一緒に入りましょう」とは言えるはずがない。さぁ、こまった。


「女二人では不安です……旦那様ぁ」


 一人で敵わないのなら二人!!

 

 セイランの意図を察したマドルが絶妙なアシストを決めた。

 彼女もまたロイドに構って欲しい、困ったさんである。


「そうか……わかったよ。見張っててやるから」

「旦那様にそのようなことはさせられません」

「どういうことだ? おれにどうして欲しいの?」


 この時、ロイドは分かっていた。


 マドルの顔はわかりやすい。

 これまでに、何度も同じ顔をした女たちに弄ばれてきた。


 しかし、上手くかわされたマドルは最終手段に出た。


「だって、旦那様にお仕えしてるんですよ!? 私にお世話させて下さいよぉ!!」

「ひどいわ、ロイド侯!! どうしてこんなひどい仕打ちを!?」

「ひどい!」

「ひどい!!」


 もはや戦術など無い。

 ゴリ押し、数の暴力に訴えかける二人。


「……そういうものかな?」

「そうですよ」

「当たり前じゃないですか」


 理不尽な言い分に混乱しかけが、ロイドは寸前で我に返った。



「わかった。おれが先に入って安全を確認する。その後に二人で入れ。お仕えしたいなら後で肩でももんで」


 一部の隙も無い模範解答。

 マドルはそれでもいいので素直に引き下がろうとした。


 しかしっ!!

 セイランはお仕えしたいのではない!!

 裸が見たいのである!!!!


 あいまいな返事でロイドを見送った二人ではあるがセイランはあきらめていなかった。


「でも、セイランちゃん、裸を見られるのはいいの?」

「何言ってるんですか。良くないです」

「はぇ? じゃあどっちにしろ一緒に入れないじゃない」

「ロイド侯が私の裸をじっくり見るはずないです。でも私はずっと見られます」


 マドルはセイランを止めようか少し考えたが、異性に興味津々の少女がかわいくてやめた。


「じゃあ、行っちゃう?」


 セイランが眼を輝かせた。

 二人はこっそり温泉へ向かった。


 

 源泉かけ流し、天然温泉。

 土魔法を駆使して景色のいいところに風呂場を造り――以下略。

 なんやかんや露天風呂が完成した。

 

「疲れが抜けていく」

「気持ちいいです」

「はふ〜」


 ロイド、マドル、セイランは並んで湯船につかる。


(え? なんでいるの?)


 セイランはじっとロイドの方を見る。


(すごい見てる。すっごい見てくるよ……!?)


 

 スタイルお化けのマドルが接近。

 だが恥ずかしそうに俯いている。


(自分から近づいてきておいて何がしたいんだお前は!)


「どうですかロイド侯、美女を侍らして浸かる温泉は気持ちいいですか?」

「人聞きが悪い。あと居心地が悪い。気まずい」

「ギルティー!!――じゃない!?? なんでですか?」

「なんというか、お前らを女として意識したくない」

「それって……」


 セイランは少し恥ずかしくなった。

 だが、ちょっと引っ掛かった。


「それはつまり私たちを女として見てないってことですか?」


 ちょこんとロイドの隣に座るセイラン。

 ロイドはセイランを見るが取り乱すこともない。


「ぎゃーそんなに見ないで下さい!」

「お前も見てたじゃん、舐めまわすように」

「キャー、変態が居ます!!」

「なら隠せよ! そっちこそ全然視線逸らさないじゃん!!」


 とっさにロイドは手で身体を覆った。

 だがその手を掴むセイラン。


「これは巫女としての義務です! あなたの身体にどこか悪いところがないかチェックしてるのです。やましい気持ちはありません。ただの医療行為だから、医療行為だから!」

「あらかじめ考えて来たような説明!! いや、鼻息荒いけど」

「手を除けなさい、観察しづらいでしょ」

「キャー、おまわりさーん、痴女がいます!!」


 バシャバシャと二人が湯船で格闘を始めた。

 腕を剥がそうとするセイラン。抵抗するロイド。

 

 ほほえましくその様子を見ていたマドルだが、段々全身が赤くなっていった。


「セイランちゃん、私も何だか具合が……悪いところがないか診てもらえますか?」

「ごめんなさい。女性は専門外なのでロイド侯診て下さい」

「君は自由だよね」

「旦那様、はぁ、はぁ、息が……胸が苦しいです」

「わざとやってないか?」


 一先ず湯から上がらせて、横にする。


「うわ〜ガン見ですね」

「うぅ、あんまり見ないで下さい」

「ただの医療行為だから。ただのぼせてるだけだ。水飲んで休んでなさい」

「はぁい」

「大きい妹みたいですね」

「はは」


(マドルは君を妹みたいに思っているだろうけど)


 二人は湯から上がって背中を流し合った。



「なんだかこうして二人きりだと、さすがにドキドキしませんか?」

「それは無い」

「むぅー! 私だって女子なのに! やっぱり胸ですか?」

「妹みたいは君も同じだから」


 セイランは首を傾げた。

 

「……胸が大きい女性と小さい女性だったらどっち選びます?」

「神眼で遊ぶなよ」


 しばらく他愛のない話をしていると回復したマドルが挽回しようと焦り始めた。



「私が居ない間何話してたんですか? まさか、私の悪口……!?」


 何も奉仕できなかったことでマドルのトラウマスイッチが入り、ロイドに迫った。


「せめて何かご奉仕を……身体を洗います! あれ……洗っていただく方がいいんでしたっけ? ああっ、旦那様の身体で私が身体を洗いますぅ!!」

「何言ってんだお前!」

「受け止めてあげてよぉ」

「他人事っ!!?」

 

 煽るセイラン。

 抵抗するロイド。

 拒絶されたマドルは逆に暴走。


「そんなぁ、私が穢れてるからですか〜!!!」

「あわわわっ……」


 テンパったマドルはリースが止めに来るまで暴走し続けた。

 後に言う、ロイド温泉事案である。

 


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