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幕間 父親


◆ベルグリッド領 領主 宮廷魔導士 ヒースクリフ・ドラコ・ギブソニアン伯爵


 ロイドが我が屋敷に来て半年。

 毎日、馬術や剣術の稽古をして、同時に歴史や家紋と力関係を学び、その間も魔法の訓練も怠らない。

 

 常時〈基礎級魔法〉を発動させる訓練は他の魔導士に教わったようだ。

 どんな者だったが訊ねるとロイドは彼女を絵に描いた。


 白髪に深緑の瞳。非常に整った顔立ちの若い女だ。


 まず驚いたのはその美しさだ。

 絵が美しかった。


 新しい息子は実に多才だ。


 彼女は魔力で惨事が起こると言って魔力を吸い取ったらしい。それが本当だとしたらロイドは〈魔物堕ち〉しかけてその女性に救われたことになる。


〈魔物堕ち〉は体内の魔力が集中して蓄積することで不安定な魔石ができて、それに合わせて肉体が魔物に変わる現象だ。対応策が魔力を吸い取ることなのかは知らないが、防いでくれたというなら彼女に感謝せねばなるまい。

 

 ロイドは彼女について私に心当たりを訊ねたが、おそらくこの国の者ではあるまい。

〈魔物堕ち〉を防ぐほどの知識と技術を持つものは私が知る限りこの国にはいない。おそらく帝国の筆頭魔導士か中央大陸の東南の共和国の魔導士だろう。どちらもこの国より魔導について先に進んでいる。

 それを伝えると、稽古の合間に中央大陸の言語まで学び始めた。末恐ろしくも頼もしい限りだ。

 

 私との魔法の訓練は週に一度のみ。

 お役目上、王都へ出向くことが多く、その時魔力が無ければ仕事にならない。宮廷魔導士として王都近郊の森で魔獣を狩ることもあるし、騎士団との連携のため演習に参加し、対魔導戦法のため騎士たちの相手役を務める。だからロイドには悪いが全力ではできない。

 しかし、その一度が来るたびに、彼は変わり、新たな戦法と魔法の応用を試してくる。今はまだ私の経験と術の練度が優っているが、無詠唱ですでに私と同等の魔力量、おまけに六歳とは思えない判断力と気転だ。

魔導学院を卒業するころには抜かれているかもしれない。

 そんなロイドの弱点は戦法が防御に偏っているところだ。こちらの攻撃に対し防御に魔力を使いすぎる。そして攻撃は少ない魔力で済まそうとする。こちらが翻弄すると魔力を消費して攻めに転じることができなくなる。これは魔法というより度胸の問題かもしれない。今度、冒険者をしている他の魔導士の訓練を見学させるか。ロイドは魔導士の実物を知らなすぎる。

 

 とはいえ、その成長ぶりは期待以上だ。決して良いとは言えない屋敷の精神衛生状況でも、出会ったころより笑顔が増え、話も流暢になった。稽古で他の者に接しているのも良いのかもしれない。

 馬術のローレルと剣術のスパロウの二人には、ブランドンとフューレの稽古の時申し訳ないことをしてしまった。二人とも当時より出世して部隊長となったのに無理を言ってお願いした。二人にとってもロイドとの稽古は収穫があるだろうからとお願いしたのだが、どうやら本当に得るものがあったらしい。


 世話係になったメイドのヴィオラも明るくなった気がする。他の者たちも、屋敷にいるものたちの雰囲気が変わった。ロイドの急激な成長と貴族に相応しい立ち振る舞いはベスやブランドン、フューレを刺激したが、実力が違いすぎた。


 ロイドはフューレを魔法で、ブランドンを剣で負かし、ベスを言い負かすほどの弁を具えていたのだ。恐ろしいことに「力」によって三人を黙らせた。ロイドがいるおかげで屋敷に無用な緊張が生まれなくなった。ありがたいことだ。


 エルゴン殿はそんなロイドの後ろ盾になると申し出てくれた。

 彼もロイドの成長とその先にこの領地にもたらすものを望んでいるという事だろう。

 

 正直なところ私も、妻とその実家の動きには警戒が必要だと考えている。

 

 ボスコーン家。南部の国境沿いにある名家で、家名を護るためなら何でもする利己的で横暴なベスの実家だ。今でこそ下級貴族に落ちているが、伝統を重んじるこの国では未だ発言力のある古い家柄で、私の婚儀も半ばボスコーン家維持のため国から強制されたものだった。それを今更恨みはしていないが、私の我慢にも限界がある。 

 ロイドを家に迎え育てることで私はボスコーン家に与しないとはっきり示した。そのようなことをすれば奴らはコネのある貴族に私の不評を広め地位を貶めると予想していた。だが、狙いは恐らく反れる。 

 息子は優秀すぎる。魔導士としての才覚がありそれに溺れることなく全てに全力だ。いずれロイド・ギブソニアンの名は王国中に知れ渡るだろう。ボスコーン家はそれを早急に防ごうとロイドを標的にするはず。ボスコーン家の血が入っていないロイドが後継ぎになるのを奴らは容認しない。

 

 しかし、地位にしがみ付く古い力より、強く健全にはぐくまれる力に伴う地位の方が価値がある。それを賢明な王ならばご理解くださるはずだ。いずれ引き合わせなければならんな。




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