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第十二話 その者、謎を纏う異人―――客人〈新規〉

完結後の改稿によって生じた新規書き下ろしです。2019/06/03


 街の中心的人物、ロン・リベルを救ったことで、ロイドは特別な賓客として厚くもてなされた。

 食事に酒、街から綺麗所が集められリベル家の屋敷で歓待された。だが、食事以外には興味が無い様子で、なかなか部屋から出てこなかった。


 気を許しているファオの計らいで、二か月間の森での生活で傷んだ着物や羽織の修繕、大太刀と聖銅の剣(オリハルコン)のメンテナンスに出された。


 恩人に恩を返そうと街から選りすぐられた職人が作業に当たった。




「こんな上質な反物は見たことが無いわ、ファオちゃん」


 着物のほつれを直しながら、反物屋の店主はその肌触りや縫製の技術が如何に優れているかをファオに語った。


「貴人が着ているものより、ずっと上等なものね。帝国の流れものでもないし、不思議だわ」


「不思議とは?」


「だって、これって森に住んでた彼の着物でしょう? どこで手に入れたっていうの?」


「確かに……」




 続いて刀剣を扱う砥ぎ師のところを訪れた。


「オヤジさん、終わりましたか?」


「ファオ、ちょっと待ってろ」


 砥ぎ師の老人はいくつもの砥石を並べ、大太刀を前に腕組みしていた。その様子を弟子たちが黙って見護っている。ファオもそれに倣って黙って見護ることにした。


 数時間後。


 張り詰めた緊張感が解けた。


「できましたか」


 大太刀を砥ぎ、鞘に仕舞ったところでファオは声を掛けた。

 砥ぎ師の老人は汗だくになりながら、大太刀をファオに預けた。


「この刀、持ち主は若坊主とかわらん歳と聞いたが」


「はい」


「騙されるな。こいつを背負う者は怪物じゃ」


「ええ? 若様と大老をお救い下さった方ですよ」


「なら、神か聖人か。いずれにしても、人じゃない」


 砥ぎ師のところを出て、ファオは謎多き救世主について考えた。



 不安気に振舞うセーイチの顔が浮かび可笑しくなった。


(あー重いなぁ)


 二本の剣を抱えてファオは屋敷に戻った。


「ただいまー」


 一方そのころ、ロン大老とレンは傘下の諸家と今後について話し合っていた。

 

 屋敷の長机には屈強な男たちが席を並べ、その奥にはレンが座っていた。


「そう怖い顔をするな。わしはまだ病み上がり。それにすでに当主はレンだ」


 諸家の不満を察し、大老が和やかな口調で説明した。

 武門で形成された力関係において、レンは正当なリベル家の後継者ではあっても、彼らの主とはまだ言えない。

 レン本人もそれは自覚していた。十五歳まで幾度も戦い方を習ったが、結局身に付いたのは心構えだけ。実戦では役に立たないことは先の襲撃でハッキリした。


「おれの代わりにこの席に座りたい者はいるか?」


「「「「「「……」」」」」」



 陰謀が明らかになった今、その責任は重い。

 誰も功名心で名乗り出ることは無かった。


「若様は魔の森から戻られた。それも守護者の裏切りがあったにも関わらず、あの少年を連れて……その強運は、天命をお持ち故かもしれん」


「なるほど」


「うん、確かに」


 次第に反感も薄まっていった。それを確認し、レンは会議を始めた。


「薬師を追求すれば、どこの手の者かはっきりする。その内容を首長に報告し、その後会議で沙汰が来まるだろう。これが他家の企てだったらな」


「若君は違うと?」


「あの薬師、持っていた道具も、呪いという手段も特殊だ。特に呪いなんて知ってたか? この地方では馴染みのない暗殺方法だ」


「確かに、魔術師のばぁやに聞いたが、存在すら知らなかった。神殿の神官様も魔族にそういうことができる種族がいることしか知らないらしい」


 群雄割拠のバルトの歴史で、侵略行為は数多くあれど、呪いという手段を取ったという記録は無い。


「それに、裏切った守護者たちだ。五人同時に裏切ったのはあの薬師に計画を聞いたからだと思われる。もし、これがサンガ家の企てだったら、そう簡単に謀反を起こしただろうか、いやありえない」


「うむ、首長と議会を裏切る行為だからな。我々をロタから追い出したところで、サンガ家に未来は無い……ということは……」



「残念ながら、このロタの街だけでなく、ナブロという邦を狙う大きな権力が在る。そう考えた方が自然だ」



 六つある邦が領土を奪い合う。

 それは乱世の時代への逆戻りを意味する。


「まさか、停戦協定をどこかの邦が無視するとは……他の邦に潰されかねないでしょう」


「だからこのナブロなんだ。一番東にあり、戦争になっても帝国からの介入がない」


 会議はどんよりとした空気に包まれた。



「だが不幸中の幸いだった。どこが裏切ったにせよ、ロタの街は健在。企ては失敗した」

「彼のおかげだな。セーイチと言ったか」

「今どうしている?」

 

 会議参加者たちはセーイチの話題に移った。


「たまに庭に出る以外は部屋にいるらしいぜ。せっかく集めた娘たちにも興味無さそうだし、酒も飲まぬとな」

「本当にあの魔の森で暮らしていたのか? あそこは人が住める場所ではないだろう」

「それに、あんな魔術見たことあるか? 呪文も無い、儀式もない、印も記さずどうやってやっていたんだ」

「大老の病もたちどころに治した。いや、呪いを解いたというが、彼はその知識をどこで得た?」


 恩人ではあるが未だにセーイチという少年について、彼らはあまりにも情報に飢えていた。


「……ファオ、ファオはいるか!」


「はい、居ります。ただいま戻りました」


「セーイチをこの会議に呼べないか?」


「……若様、しかしセーイチ様は……」


「わかっている。だが、彼を部屋に引き籠らせても、彼の望みも何もわからない」


「はい、直ちに、お伝えします」


 ファオは重そうな剣を抱えて、セーイチの部屋へ向かった。



 誰か来る。


「セーイチ様、刀剣と御召し物をお持ちしました」


「はい、どうぞ」


 ファオが部屋にきた。


「セーイチ様どうぞ」


 剣を受け取った。だがファオはまだ何か用事があるらしい。耳がハタハタと動いている。


「実は、若様がセーイチ様に話を聞きたいと」


(やはりそうなるか)


 いつかはお呼びがかかると思っていた。

 知識を貸すぐらい、衣食住全て世話になっているのだからお安い御用だ。


「行きます」


「はい、ありがとうございます」


 おれの返答が意外だったのかファオの耳がピンと立った。おれは一端剣を置いて、部屋を出た。


 屋敷の使用人たちももう顔を覚えた。初日と異なりおれへの態度は気さくでもう追い回されることもない。だがそれは大老をおれが救ったからだ。このローア人顔は彼らにとっては帝国人と同じに見え、他の土地に行けばすぐに敵と間違われ追われるだろう。


(ここで勝ち得た信用は他の土地に行ったら無くなる。それをどうにかできないか頼むしかない)


 どれだけ早く帰れるかはこれからの話し合いに掛かっている。おれは意気込んで会議の席に着いた。


「セーイチ、すまないがこのままではこのバルトが戦争になる」


 一大事だった。


「それは困る」


「今、まだ薬師の口は割らせていない。だからロタを狙うものがどこかは判明してない。貴殿は何か心当たりはないか?」


「いや、おれは、ずっと森にいたから」


「ウソをつくな。呪いを見極め、祓える力、森の誰に教わったというのだ!!」


(ええ、怒られた!! なんで?)


「おい、語気が強いぞ。無礼にも詮索しているのはこちらだぞ」


「セーイチ殿、答えられることだけでよいのだ。我らには情報が少なく、その不安から恩人への感謝を忘れるものまで出て居る」


「う!……面目ない。失礼した」


 右目は泉の女神にいただいたものだ。呪いのレジストは誰に教わったわけでもない。おれが勝手に盗んだ。

 悪王の使いから。


 こちら側の魔の森にも悪王の使いはいた。あちらですぐ遭遇したように、こっちに戻ってすぐあいつがおれの前に現れた。


 三年前は魔力操作のゴリ押しで無理やり魔法を発動させたが、結局どうやっておれの魔法をことごとくレジストしていたのかは分からなかった。


 三年前と違い、今のおれには魔力視がある。

 それで悪王の使いのレジストの謎はあっけなく判明した。


 背中にある器官から魔力で構成した手が何本も伸びていた。これが魔力に反応し、触れた魔力を魔素に変換していた。

 この力を『魔の手』と名付けた。


 あらゆる魔法はこの『魔の手』の前に無力化される。


 呪いもこの力で無力化した。


 今のおれは、魔力視+記憶の神殿+魔力操作であらゆる魔法を再現可能だ。

 それが例え魔獣の使う魔法でもだ。


 当然、魔の森で習得した魔法は悪王の使いのものだけではない。


「おれは、魔獣の魔術が使える」


「はは、まさか、魔獣から教わったというのか?」


「いや、見て、覚えた」


 おれのバルト語がもう少し流暢なら説明できたのだろうが、おれにはそれが限界だった。

 強面のおっさんたちがおれの言葉の真意を測りかねてうんうんと唸っている。

 ホントだよ?



「ならもっと簡単な質問をしよう。セーイチはこれからどうしたい?」

 

 そう、それ!

 待っていた。

 おれはとにかく西に、なるべく早く行きたいと伝えた。

 このナブロならいざ知らず、西の邦へ入るとなるとやはり面倒が多いらしい。


「我らは首長会議を行い西へ向かう。それに同行してはどうか?」


「首長会議?」


(首長ってなんだっけ、議長みたいな人だっけ? ああ、あの薬師の件を名家が集まって話し合うわけだな)


「ここから西の都市ノルノバをナブロの首長が治めている。その後は……」

 

 その後は一人で行けということだろう。

 望むのは通行手形のようなものだが、そんな都合のいいものはないようだ。


「それならば、手っ取り早い方法がありますぞ。冒険者、それも極銀(ミスリル)級以上の冒険者であれば他国のクエストでも依頼を受けることを拒まれることは無い。信用という意味でも高位冒険者になるが良策と言えるかと思います。セーイチ殿、どうか?」


(そうか、冒険者か)


 盲点だった。冒険者に国籍はない。


(確かに冒険者なら依頼さえ受ければ……でも、そういう依頼って、新人が受けられるのか? それに自国以外にも依頼するような案件は面倒なものが多そうだし、逆に時間が掛かる可能性も……)


極銀(ミスリル)級冒険者には、すぐ、なれるか?」


「推薦をするからな。セーイチの魔術の腕があればイケるさ!!」


 冒険者。


 今はあまり関わり合いたくないタイプだが、仕方ない。


 まずは身分を得る。そこからだな。



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