表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天橋家の居候共  作者: 丁嵐 拓巳
3/4

第二話 ピザの匂いに包まれて食うカップ麺は美味いか?

「はい?今なんと仰いました?」

「うむ、聞こえなかったというよりかは信じられないものを聞いた、という顔だな。ならばもう一度言ってやろう、我ら6人をここに居候させて欲しい」


いや、うち狭いし、ここから6人も養うほどお金無いし、そもそもこの6人の美少女を居候させるとか月夜が許すはずが……


「まぁ……私は構わないですけど、出雲の家の方がいいかと……この家は狭いですし、6人もとなると難しいかと……あとお父さんが許してくれるかどうかも分からないですけど、まあそちらはあまり帰ってこないので大丈夫でしょう」


そんな事を考えてると、俺の右下からそんなセリフが聞こえた。

しかも月夜の声で。


「はい?今構わないと仰いました?月夜さん」

「むぅ……どうしました、お兄様?もしかして耳の調子が悪いのですか……?」

「いや、だってお前がそんな事を言うとは……」

「この人達が帰れるまで過ごす場所が無いのは心配ですし、恩人みたいなものですからね」


月夜が比較的常識的な事を言ってる…だと?

いや、それほどまでに向こうの世界で関係を築いていたという事なんだろうな。

それこそ忘れられないような、忘れてはいけないような。


「うん、まあ俺も出来る事なら協力したい、居候は構わない。とりあえず、俺は外の空気を吸ってくるから、月夜にあとは任せる」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


頭の中を整理するために1人家を出た俺は、近くの公園の砂場にしゃがみ、物思いに耽っていた。

はぁ……この外の空気も俺の体からしたら1ヶ月ぶりなのかな。

1ヶ月……そっか、1ヶ月か。

1ヶ月で人ってあそこまで変われるものなのか。

俺が記憶を失ってしまったのは事故のようなものらしいが、それでもやっぱり妹の変化を見られないっていうのは悔しいな。

とか考えながら、ぼーっとしていると背筋がゾッとするような感覚を覚えた。

俺は咄嗟に立ち上がり、右腕を棒を持って後ろに振るような感覚で振り向きながら、


「アシュティル!」


と、今さっき聞いただけのはずの名前を叫んでいた。


次の瞬間、キィン!と金属がぶつかる甲高い音が響いた。

俺の右手にはいつのまにか剣が握られていた。

そして、目の前には俺の握っている剣と鍔迫り合いをしている、大鎌を持ったメイベルがいた。


「おおっとぉ、いきなり呼ばれたと思ったら死ぬ一歩手前じゃないか、主様。いやいや、パスがボロボロでもこのぐらいはできるままで良かったねぇ、あははははは」


っと、そんな事を話してる間に次が来るよ?と笑いながらアシュティルという少女の声は言う。


「ーーーッ!?」


甲高い音が響く度、腕に伝わる衝撃と痛みに耐えながら彼女の振るう鎌を剣で受ける。

自分でもなぜ反応できているのか分からないままに。

自分の知らない自分がいる、それが実感として伝わってくる。


「いきなりなんですか、メイベルさん!」

「……………」


彼女は何も答えない。

黙ったまま鎌を振るい続ける。

このままならおそらく、俺の体力が無くなり、剣を落として殺されるだろう。

そんな事を考えている時だった。


「うーん…あ、できた!」


いきなりそんな事をアシュティルが呟いたかと思うと、俺の右手が握られるような感覚があり引っ張られた。

そしてそのまま加速した剣は、メイベルの鎌をその手から弾き飛ばす。


「はぁはぁ……」

「いやー、ギリギリ実体化できて良かったよ、命拾いしたね、主様」


俺はあまりの緊張と疲労に耐えきれず、その場に座り込む。

そんな俺をメイベルはずっと見続けるままだった。


「なぁ……なんでこんな事をしたんだ、メイベルさん」

「こうしたら思い出すかと思って」

「記憶を無くす前の俺が、あなたに何かをしてその事で恨まれてそれが殺されるほどの事なら仕方ないと思う、だが俺はそれを覚えてないからなんでもするから許して欲し…うん?」

「……?」


いや、あなた首を傾げていますけど、首を傾げたいのは俺なんですけど?


「えーと……思い出すかもってどういう意味です?」

「剣を交えれば感覚を思い出して、そこから記憶に繋がると思って。現にアシュティルを呼んでいたし、私のアプローチは正解だと思います」

「いや、だからって殺そうとしないでくださいよ……」

「うん?主様は何を言ってるんだい、彼女から殺気は感じられなかっだろう?」

「え、でもお前、死んでたかもしれないって……」

「あー、あれね、雰囲気出すために適当言ってみただけ。ごめーんね?」


いつのまにか幽霊のような状態になっているアシュティルが隣で浮いてそんな事を言った。

いや、てへっ☆て感じの顔して言われても、それ俺が早々に降参しておけばここまで疲れませんでしたよね?


いや、それにしてもさっきの自分の動きはおかしかった。

自分の体が自分の物じゃないみたいに動いた。

最後のはおそらく、アシュティルが動かしたものだろうが、それ以外の動きは俺自身が反射に近い動きで振り続けていた。

1ヶ月で習得したとは思えないほどに。


「あー、そういえば言い忘れていたけど、キミがボク達のいた世界で過ごしたのは1ヶ月じゃなくて3ヶ月くらいだよ?」


と、そんな俺の思考を読んだかのようにアシュティルは言った。


「へ?じゃあなんでこっちでは1ヶ月しか経っていないんだ?」

「うーん……どう説明したらいいかな?」

「自分達のいる世界線を一本の糸のように思い浮かべてください。他にも糸、つまり世界線は何本もあり、ピンと張った状態ではなく歪んだり、ほつれたりしながら存在しています。そして歪みの大きさもそれぞれによって違い、その大きさのせいで時間の流れも変わるのです。しかし、世界線の移動は真横にしか移動できない。以上の理由により世界線を移動した時に時間のズレが起こるのです」

「お、おう?」

「まあほら、なんかよくわからないけど3倍の時間を過ごしちゃったー、って感じでいいんじゃないかな?」

「アシュティルのせいで一気に雑になったな!?」


メイベルさんが割と丁寧に説明してくれていたのに……。

いや、まあ全く理解はできなかったんですけど。


「まあ、そこら辺は魔王様に聞いた方が分かりやすいかと思います。あの人は色々な事を知っているので」

「そうか、じゃあまあ一旦帰るしかないか」

「落ち着きましたか?」

「おかげさまでな」


そんな感じで一悶着あって3ヶ月ぶりらしい空気を堪能する時間は終わった。


(ねぇ、メイベル。割と本気で殺すつもりだったでしょ?)

(ええ、まあ、強くなければ姫様……ロウェル様と共にいる資格は無いので)

(はぁ……本気で殺すつもりだったのがバレて居候させるのは却下!とか言い始めるかもしれないだろ。ちなみに、本当に殺しちゃった時はどうするつもりだったのさ?)

(まあ、その時はその時でした。本当に良かったです)


「おーい、アシュティル。お前これ自分で歩けないのか?ヘトヘトで持ってるの辛いんだがー!」

「おいおい、そこは男を見せるところだろ主様。ほら、頑張れ頑張れ」

「へいへい……あれ?これ見つかったら銃刀法違反じゃね?」

「ああ、ここは武器を持ってると捕まっちゃうんだっけ。じゃあ見つかる前に急いで帰ろう!」

「いや、せめて見えなくなるとかできないの!?ちょ、待って、走るのマジで辛いんだって!メイベルさんはなんでちょっとニコニコしてるの!?」

「いえ、別に。さあ、早く帰りましょう。多分そろそろ話し合いが終わってるころだと思いますよ」

「待って、先行かないで、せめてこれ持ってくださいお願いしますぅぅぅ!」


メイベルに置いていかれた俺は、歩いて10分の道をたっぷり20分かけて帰るのだった。

途中、近所の人とすれ違ったが、幸いな事におもちゃだと思われて通報される事は無かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「もう疲れた……やだ……」

「おう、お帰り。ってかなんでお前そんな疲れてんの?」

「いや、思わぬ襲撃にあった」


ちなみにその襲撃者は、リビングでまったりお茶を啜っていた。


「で、話し合いの方はどうなった?」

「はい!私がお兄様の部屋で、お兄様が私の部屋で、リール、カノン、魔王、アシュティル、メイベル、ロウ、出雲はリビングで寝る事になりました!」


そう嬉々として報告した。

そして俺は確信した。

あ、こいつの重度のブラコン治ってないわ。


「よし、とりあえず冷静に考えろ。おかしくない?」

「ふむ、確かに私とお兄様が違う部屋割りなのはおかしいですね。もう一度考え直しましょう」

「違う、そこじゃない」

「何を言う親友、どこもおかしいところなど無いじゃないか」

「おかしいところしかないわ、まずなぜお前が面子に入っているんだ、帰りやがれ」

「お泊まり会みたいな感じで楽しそうじゃんか、仲間に入れろー!」

「うちは狭いんだよ、帰りやがれ!てかお前は美少女に囲まれたかったから月夜に乗せられただけだろ……」

「なぜ分かった、貴様まさかエスパーか?」


こいつはほんとに……。


「うん、まあここ確かに狭いもんね。出雲の家は広いのよね?」

「おう、そこそこ広いぞ」

「じゃあ、私とリールは出雲のところに泊まるわ。出雲もそれで満足でしょ?」

「ま、まあそれなら……」

「私も問題ないですよ〜」


よし、よくやったカノン。

これで残りの配置をどうするかだが……。


「とりあえず俺はリビング、ロウェルさんとメイベルさんは月夜の部屋、月夜と魔王様は俺の部屋、アシュティルもリビングでどうだろう、月夜以外の異論は認める」

「はい!異議あり!」

「お前は認めんと言っただろうが!」


無視して月夜が続ける。


「なぜアシュティルとお兄様がリビングなのですか!せめてお兄様と私を一緒にしましょう!」

「なお悪いわ、俺の部屋に配置してやったんだから我慢しろ」

「ぐぬぬ……」

「他の4人は特に無いかな?」

「私はどこでも大丈夫です、というか月夜様の部屋を使ってしまって大丈夫ですか?」

「お姫様を床で寝かせるわけにはいかないし、俺の部屋を使わせるとなると月夜が許さないだろうからな。多分これが最適解だ」

「すみません、ありがとうございます」

「……私は姫様と同じならどこでも」

「我は睡眠なぞ必要ないのでな、気にするな」

「ボクはまあ主様の護衛役でそこなんでしょ、違う?」


よく分かったな……。

今家には危険人物が1人……いや、今日1人増えたかもしれない。

というわけで、アシュティルには俺のそばにいてもらいたいのだ。

自分がなぜこんなにアシュティルを信用しているかはわからない。

でもこいつだけは確信を持って信用出来るのだ。


「まあとりあえず大体決まったし、飯でも食うか」

「おう、そのことなんだが、日向」

「ご飯ならもう食べちゃいました〜」

「デリバリーピザってのを頼んでね、結構美味しかったわ」


ああ、机の横のゴミ袋はそれの残骸か。

まあ確かに、ほんのりとトマトケチャップやチーズの匂いがする。


「で、俺の分は?」

「……量産品の割には美味しかったです、魔王様も高評価でした」

「感想は聞いとらんわ!無いんだな?……まあお金は出雲が払ってくれたんだろ?」

「おう、払っといたぜ。出雲様の懐は大きいからな!」


まあ払っておいてくれたのならば文句は言うまい。

あと懐が大きいの使い方が少し違う。

ピザの匂いに包まれながら俺はスーパーカップを食べるとしよう。


「じゃあ、俺たちは帰るぞ、また明日なー」

「おう、またな」

「明日もよろしくです〜」

「また明日ね」


玄関から出雲達3人を見送ってリビングに戻る。


「私達はお風呂に入ってきてもよろしいでしょうか?」

「もう沸いてるのか?」

「はい、イズモ様が沸かしてくれました」

「なら先に入ってきて大丈夫だぞ、俺は飯食うからさ」

「はい、ありがとうございます。行きましょう、メイベル」

「……それでは失礼します」

「わ、私はお兄様のベッドを堪能…じゃなくて調整をしてきますわ!」

「勝手にしなさい……」


3人がリビングからいなくなったところで俺も湯沸かしポットを使いお湯を沸かし始める。


「スーパーカップは確かここにー……ん?」


スーパーカップがあったはずのところには紙が一枚代わりに置かれていた。

その紙にはこう書いてあった。


『ここに置いてあったスーパーカップは全て私が貰っていった byクラウド

P.S.次からはちゃんとアイスの方もストックしておけ馬鹿野郎』


「あいつ……」


てかなんだクラウドって、他に何か思いつかなかったのかよ。

幸い被害はスーパーカップのみに留まっている、他にストックしておいたパヤングの方を食べる事としよう。


「ふむ、なんだ?その白くて四角い物は」


そんな事をしていると魔王とアシュティルが気になったのかこちらに寄ってきた。


「へぇ〜、乾燥した麺と野菜が入ってるんだね、その他の袋は何かな?」

「まあ厳密には乾燥させてるわけじゃないんだけどな。ここに熱湯を注いで3分待った後にお湯を捨ててこの袋の中身を入れるんだ」


〜3分後〜


「お湯を捨てて袋のソースを絡めて最後にマヨネーズをかける……これで完成だ」

「ふむ、戦場に持っていくような保存食の味を追及し、商品化して一般に普及させたわけか。長期的に平和が続いた国ならではの工夫だな」

「それより早く食べておくれよ、みんなが目の前で美味しそうにピザを食べるから口が寂しいのさ……」

「お前はピザを食べてないのか?」

「ボクは食べれないんだよ。ほら、こういう体だしね?でも主様と五感は共有してるからさ、主様の味覚はこっちに伝わってくるんだよ」


幽霊に取り憑かれたみたいだな……。


「あはは、まああながち間違いではないけどね」

「我にも一口……いや、もう一つ無いか?少し気になった」

「そこの戸棚に入ってる。俺が作ろうか?」

「いや、作り方の方は見てたから大丈夫だ。自分で作ろう」


そう言って魔王は戸棚から別のカップやきそばを取り出す。

蓋を開けて袋を全て取り出すと、その隙間に手を近づけた。

その手より少し離れた辺りから熱湯が出始めて容器の中に注がれていく。


「あれが魔法か?」

「そうだね、驚いたかい?」

「いや、こうもうちょっと派手なのを想像してたからさ」

「ふん、日常生活を楽にするものもあるに決まっているだろう。普通の物と変わらんよ」


3分経つと、魔王はお湯を捨ててこちらに戻ってくる。


「どうした、食べんのか?」

「ああ、いただきます」


食べたカップやきそばの味はとても懐かしい感じがした。

モチベが出なくて全然更新できませんね…

まあ…読んでる人ほぼいないだろうしセーフ?(ダメです)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ