行くんですか? 王妃様
「行くんですか? 王妃様。
ついて参りましょうか?」
と言いながら、まったく旅支度もしていないエリザベートがユーリアの部屋にやってきた。
ユーリアは使用人たちに運ばせる山のような荷物の確認をしながら、
「いいわ。
アドルフたちが帰ってきたから、世話をしてやって」
と言う。
王妃たるもの、どんな場所でも恥ずかしくないよう、身支度を整えていなければならないし。
どんな場所でも、不自由はしたくない。
他の使用人たちとともに、荷物の点検をしてくれるエリザベートに、
「ああ、それと、あの荒くれ者連中もそれなりにしてやって。
あれでもアドルフの旅の仲間なのでしょうから」
いや、旅って、昨夜出かけて、今帰ってきただけなんだが……と思いながらもそう言うと、エリザベートは何故か笑い、
「はい、王妃様」
とさも忠実な部下であるかのように畏まったお辞儀をしてみせた。
「ああそれから、あのリコという青年にはご無礼のないように」
ユーリアは選び直した宝石類を信頼できる人間に渡しながら、エリザベートにそう命じる。
「ああ、あのメンバーの中で、唯一のすっきりとしたいい男ですね」
と彼らの居る場所を振り返るように入り口の扉を見ながらエリザベートは言ってくる。
「何者なのですか?」
と問うエリザベートに、答えかけてやめ、
「さあ?」
と笑ってみせた。
エリザベートにはいつもしてやられているので、ちょっとした意地悪のつもりだった。
エリザベートは、もう~、相変わらずですね~という顔をしたあとで、
「では、あの者たちの身なりを整えて参ります。
あのまま城をウロウロされては迷惑なので」
失礼致します、と言って、あっさり出て行ってしまった。
見送らないのか。
どんな使用人だ、と思いながら、ユーリアは閉まった扉を振り返り見た。
アドルフたちへの挨拶もそこそこに馬車で出かける。
少し走らせたところで、あの森の上から悪魔の塔が見えた。
今は住人の居ないはずのその塔の中に、昼間だというのに、明かりが揺らめいたように見えたが、それも一瞬のことだった。




