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ハニードリンク“YUZU”


〇side:レティシア




 ……いやだわ……幻聴かしら……

 思わず動きを止めてしまった私の前で、ユニ様や盛り上がっていたシュエット様達も動きを止めてしまっています。


「なにこれぇ~。もう、いつ来ても列ばっかりじゃない~。行列の出来るラーメン店かっての」


 ……い、嫌な予感いたしますわね……

 意味不明な単語も混じってましたけど、この声はどう聞いても……


「……あの方、淑女として恥ずかしくないのかしら……」

「学園の中ならばまだしも、都市内とはいえ、外でもあのような言動なのです……?」

「う……ううわぁ……」


 シュエット様、ユニ様の目が怖いことになっている中で、アリス様が微妙に居心地悪そうに頭を抱えていらっしゃるのが印象的ですわね。


「やだなぁ……端から見たらすっごい恥ずかしいんだ……いや、ニホンジンが全員ああってわけじゃないけど……!」

「?」


 店内もざわざわしていますが、アリス様のお心もザワザワしていらっしゃるようですわね?


「アリス様、どうかなさったの?」

「えっ、う、ううん! 何でもない……です! それよりレティシア様、そろそろお暇したほうがよくありませんか!? その……とても混んでいますし……」


 アリス様の目がチラチラと外の方を伺います。

 ええ、よく分かりましてよ。

 お店にとっても災難なお客様がおいでになっているようですし、あの方の性格からいって、ここで教室のような大騒ぎする可能性もありますものね。私たちがいることで爺やに迷惑がかかっては事ですわ。


「そうですわね。他の方々にお席を譲り……」

「その必要はございませんよ」


 爺やの新作に心惹かれつつ、腰を上げかけたところでタイミングを計ったかのように爺やが現れました。

 ……相変わらず、本当にタイミングがいいですわね。計ってたりしますの?


「いらしておいでのお客様に楽しんでいただくのが、当店のモットーでございます。そも、お嬢様の為に開いたお店ですのに、お嬢様がご自身の意志以外でお席を立たれるなど、あってはならないことでございます」

「あっすみません! 私が余計なことを……」

「いえいえ、アリス様。アリス様は店とお嬢様のことを考えてご提案くださっておいででした。そのお心に感謝するばかりでございます」

「ひぇえええ!?」


 ええ、爺や。

 だいたい爺やの話には頷けるところですけれど……アリス様の両手をしっかり握られるところについては、私、とてもとても思うことがありましてよ?


「おや、お嬢様。眉間にお皺が……」

「皺など出来ておりません。……あら、ユニ様、シュエット様、どうかなさいましたの?」


 爺やの声にキュキュッと眉間を指で押さえていると、何故か頬を染めて嬉しそうな顔をしたお二人の眼差しとあいました。

 なにかお二人が楽しまれるような場面があったかしら……?


「やっぱり…… ……ですか!?」

「ふふふ。秘密でございますぞ」

「きゃー!」


 ?

 ユニ様? 爺や?

 二人で何を話していますの?

 あら、シュエット様も?

 待って? 私だけ置いてきぼり?

 あ、アリス様お仲間ですわね。

 アリス様、私達、仲良くいたしましょうね?


「と、ところで、この新作のジュース、美味しそうですね! 柑橘系かな……!?」


 私と視線をあわせてコクコク頷いていたアリス様が、三人で内緒話をしている爺や達を気にしつつ声をあげられました。

 あら。そういえば新しい飲み物が。

 ……珍しいわね。爺やがコレを言わずに別の話にいくだなんて。

 !


「美味しいわ! 爺や、これ、とても人気が出ますわよ!?」

「まぁ! 何時の間にか美味しそうな飲み物が……! !! 甘いのにくどくなくて、すっきりしてるのに口の中に香りがふんわり広がるみたいな……果物は、オレンジでもないし、レモンでもないし……なにかしら? それに、甘みも蜂蜜と少し違いますわね……?」


 さ、さすがはユニ様ですわね……即座にこの反応……

 爺やの嬉しそうな顔ったらありませんわね。


「ふふふ。珍しい品なのでございますよ。果物は輸入品ですが、蜜は妖蜂光蟲(アピス・レムレース)の集めた蜜になります」


 ……しれっと魔物(モンスター)食材を入れてくるの、どうにかならないかしら……


「まぁあ! 素晴らしいですわ。とても貴重な品ですのね!」

「へー……! 初めて聞きます。うちでも取り扱えれないかな……」


 ……アリス様、そのまま知らないほうがいいですわよ……

 私はこのジュースに関して心に蓋をすることにいたしました。ええ、もう何も尋ねませんとも。

 そういえば、あの鳥肉、鳥の肉とは言われましたが何の鳥なのか言われませんでしたわね。ま、まさか……いえ、尋ねませんとも。私はなにも気付きませんでしたわ。


「って、これ、柚子茶!?」


 あら? アリス様、原材料、おわかりに?

 なんだか慌てておいでですけれど……


「あのぅ……爺やさん、コレって、薄く切った皮を蜂蜜に漬けたもの、です?」

「ええ。シンプルですが美味しくて美容にも良いので、提供してみようかと。普通の蜂蜜でも出来ますしな」

「アリス様。よくおわかりになりましたわねぇ」

「流石、おいしさで評判のパン屋さんのご令嬢ですわ。日々研究を欠かせないのですね!」

「えぇと……あのその、先達の方々の智恵の賜と言いますか……」


 ユニ様が感銘を受けて目をキラキラさせていらっしゃいますが、アリス様は逆に狼狽えておいでですわ。

 なるほど、先達の智恵……自分が考えたわけではないから、手柄を横取りにするように誇るのは好まないということですね。好感がもてますわ!

 アリス様の可愛らしさと美味しいジュースに意識をもっていかれた時、また外から声が響きました。


「もー! 全然進まないじゃない! あと何分待たせるとか、表示も無いの!?」


 ……。


「ところで爺やさん……店の前に……」

「ええ、賑やかな方がおいでになっているようですな」


 ……爺や。

 笑顔が怖いわよ。


「学園の制服を着ておいででしたが、一部以外はもう少し色々とお育ちになったほうがよろしいかと思われるお方のようで」


 爺やにしては珍しく辛辣ですわね。

 ……いえ、よく思い返してみたら、爺やはどんな方でも歯に衣着せぬ評価でしたわね。

 ところで爺や。その一部は胸ですか。あなた、ちょっと後でお話がありましてよ?


「大丈夫ですぞ、お嬢様。そこ以外は、全て、勝っておられますとも!」


 爺や、本当に後でお話がありましてよ!?


「爺やさん、あの方は、この店にもよくおいでに?」

「店前までは時々おいでになっていたようでございます。ただ、私の店はいつもこの状態ですので、中に入らずにそのままお帰りになっておいででしたな」


 眦をつり上げた私をにこにこ見つめていた爺やに、ユニ様が気になっていたらしいことをお尋ねになりました。

 どうやらマリア様、爺やのお店に前から興味がおありだったようですわね。


「そういえば、爺やさんのお店って、この春に突然出来たんですよね」

 

 ふと思い出したようにアリス様がおっしゃいます。

 その手が取り出されたのは……学園が発行しているパンフレット、ですわね。

 入学初日に配られるものです。学生生活で使う品の購入先や、長期休暇で出来るアルバイト先など、周辺の施設紹介なども兼ねている優れ物ですわ。


「だからパンフレットにも載ってないんですよね。……あったらゲーム時にも攻略してるはずだし……やっぱりリアルは違うんだなぁ……」


 ?


「そういえば、パンフレットにはアリス様のご実家も載ってましたわよね。学園都市の有名パン屋さんとして。『フルール』、学園都市と同じ名前なんて、すごいですわ」


 ユニ様の言葉に、私も「あ!」と手を打ちました。


「そうですわ。ここと同じ商業エリアにあるのですよね! 学園都市有数の、老舗パン屋さんだと書かれていましたわ」

「あ、あはは……えぇと、そ、そうですね。ストーリー上載ってないといけなかったというか、イベント用というか……」


 ??


「あれだけ美味しいのですもの、紹介されていて当然だと思いますわ」

「! レティシア様、ありがとうございます! えへへへ……帰ったら皆に伝えておきますね!」

「え、ええ……」


 やだ。こんなに嬉しそうにされたら、な、なにかしら。私も嬉しいような恥ずかしいような気分になりますわね!


「お嬢様。良いお友達が出来ましたな」

「! ええ、お三方とも、私の自慢のお友達ですわ」


 びっくりするぐらい嬉しそうな爺やの声に、私も大きく頷いて笑顔を返しましたとも。

 ユニ様とシュエット様には初めてお会いした時から親切にしていただいてますし、アリス様もそうです。時々不思議なことを仰ってますけれど、アリス様は可愛らしくて、とてもいい方ですわ。

 是非、私の知らない沢山のことを教えていただかなくては。勿論、私の知っていることは全部お教えいたしましてよ!


「そういえば、アリス様のお店のパンですが、一度食べに行かせていただいても構いませんでしょうかな? お嬢様の絶賛するパンともなれば、私もうかうかしていられません」

「え! も、もももも勿論かまいませんですよ!?」


 何故かものすごく動揺しながらアリス様がぶんぶん首を振られました。

 私をものすごーく気にしておいでですけれど、それよりも、そのお口から漏れている「こんなルートあったっけ?」というのが気になりますわね。


「あのぅ、レティシア様。よかったらレティシア様もいらしてくださいませんか? お料理のお礼に! 是非!」

「え、ええ。勿論、喜んで行かせていただきますわ」

「私達もよろしくて?」

「はい! 是非!! ユニ様とシュエット様にも食べていただきたいです!」


 パァッと顔を輝かせたアリス様に、私達は思わずほっこりしてしまいました。

 アリス様、可愛らしいですわ!!



 その後、爺やに見送られて和気藹々と私達は店を後にしました。

 爺や特製、隠し扉から。

 店前の賑やかな方と鉢合わせないように、という配慮なのでしょうけれど……爺や、学園内部のこと、もしかして色々把握してるのかしら?

 まぁ、面倒事は嫌ですから、有り難かったですけれど。

 ちなみに、後日聞いたところ、マリア様は結局、待たされすぎてお食事されずに怒りながら帰られたとか。

 食事は余裕をもって優雅にとるべきなのですけれど……授業が迫っている時間でもありませんでしたのに、何故あんなにお急ぎだったのでしょうか?

 何か知っていらっしゃるらしいアリス様は顔を覆われていたけれど、よく分かりませんわね……





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