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特別棟の探索4 ―日中―

ただいまですー(。ÒㅅÓ)ノ





〇side:ユニ




 ど、どういうことでしょう……?

 偉大なる方々のお名前を刻んだ慰霊碑――その一番最初に、そのお名前はありました。


『レティシア・セレーネー・アリストス・ミラ・アストル』


 私達の大好きなレティシア様のフルネームです。

 全員の視線が慰霊碑とレティシア様とを行き来しました。あっ、レティシア様! お口が開いたままになってますわ!?

 そっと手を伸ばして顎を上に押し上げます。――よし、閉まりました。


「……先祖の名前をそのまま受け継いだ、のか?」


 疑問でいっぱいなお顔のまま、殿下が推測を述べられました。

 ええ……それしか考えられませんものね。何故かアリス様とマリア様がものすごい真剣な顔でぴったりくっつかれましたけど。


「……どう思う?」

「慰霊碑の一番上、画面上じゃ表示されなかったから、初見だけど……」

「うん……」

「ブラックボックスに関係するんじゃない? これ」

「だよねぇ……」


 黒い箱がどうかなさったのかしら?

 ――そして殿下、アリス様に嫉妬の眼差しを向けるの、おやめくださいまし。


「レティシア、確か名付け親は先代公爵だったな?」

「えぇ……はい……お爺様ですわ」


 殿下の問いに答えつつ、レティシア様は呆然としたお顔で慰霊碑を見上げられています。ご自分と同じ名前が書かれているのですから、驚きもするでしょう。

 ――ということは、爺やさん、この慰霊碑のお話、レティシア様になさらなかったのですね?

 ご存じでいらして、あえてお話されなかったのか、それとも、爺やさんご自身もこのことをご存じなかったのか……どちらでしょう?


「ですが、我がアストル家は『大魔導士アストル』の名を家名として受け継いだ家系です。だから、先祖は一番最初の名前に『アストル』が入っていると思うのですけれど……」

「そうか……。……うん? いや、待て。確かにそちらの家名は『大魔導士アストル』の名を継いでいるとされているが、その『名前』が、人名の最初にくるものなのか、あるいは最後にくるものなのか、明記した書物も無いんじゃないか? 少なくとも、俺は聞いたことがないし、記された書物を見た記憶も無い」


 途中でひっかかりを覚えた殿下のお言葉に、レティシア様もいっそう考える顔になりました。


「そういえば……私も聞いたことがありませんわね。書物も存じあげません。爺やからも、最初と最後のどちらの名前だったかなんて、教わりませんでしたし……」

「なら、ここに記されている名前が、『大魔導士アストル』のフルネームの可能性はあるな」


 レティシア様と同名のお方ですね。


「女性だったのですね……私、実は今までずっと『大魔導士アストル』は男性だと思っていました。性別を記載してる文献が無かったからですけど……」

「まぁ、普通に考えれば、アストル、は男性名だものな……」


 殿下とレティシア様が、深く考え込みながら情報の擦り合わせをしておられます。

 レティシア様に流れる血がとても高貴なのは前から存じておりましたけど、『アストル公爵家』の名前(アストル)部分が、元は個人のお名前だったのか、あるいは最初から家名だったのか、なんて、私達が知るはずもありません。ご当人でいらっしゃるレティシア様さえご存じでないのですから、知っていそうな方に尋ねるしか知る術は無いでしょう。

 ……爺やさんに相談、かしら?


「……お父様に手紙を書きますわ」


 あら!? レティシア様、そこは爺やさんでなく公爵様なのですか!?


「慰霊碑の最初に私と同じ名前があるだなんて……この慰霊碑はお父様も学生時代に見ているはずですのに、どうしてお爺様が名付けた時に物申されなかったのかしら……?」

「それは確かに疑問だな……私も父上に手紙を書いておこう」

「まぁ! 陛下はお忙しくていらっしゃるのではありませんか?」


 殿下の声にレティシア様が慌てられます。


「東の国が不安定なのでしょう?」

「俺も同じことを懸念しているんだが――その父から、強化合宿中に気になることが出来たなら、遠慮せずに連絡してこい、と……そう、言われているからな」

「あらー……」

「……父には、何か『予想できる未来』があるのだろう。ご自分の体験談とかで」

「なるほどー……」

「アストル家の現公爵の話には無かったか? というか、公爵こそ色々知ってそうな気がするんだが」


 殿下に言われて、レティシア様はどこか遠くを見ながら一生懸命思い出す顔になりました。まぁ! そのお顔、可愛いですわ!


「それが……お父様からは昔話を聞かされることってあまりありませんでしたの。そういうのを語ってくれるのは、いつだって爺やでしたから」

「……慰霊碑の名前のことが話題にはならなかったのは、公爵があえて黙っていたのか、爺やさんとやらが把握していなかったのか……」


 あら。殿下が考え込まれています。

 確かに爺やさんには謎が多いですから、色々と疑問に思うこともあるでしょう。分かりますとも! でもどんなに不思議なお方であっても、つきつめると最終的に『レティシア様の爺やさん』に落ち着く方ですから、私は全幅の信頼をおいております。ええ、一ミリも疑いませんとも!

 爺やさん! レティシア様のことはお願いしますわね!!


「お父様が黙っていたとしても、爺やは嗅ぎつけて掘り起こしてしまうと思うのですが……」

「そうなのか? ……前から思っていたが、お前の家はどういうことになってるんだ? お前の爺やが強すぎないか?」

「もちろんですわ。私の爺やは先代であるお爺様の朋友で、当代であるお父様の育ての親ですもの」

「ぁぁうん、それは最強だな……理解した……」


 あらら。殿下が遠い眼差しになりましたわ。

 爺やさんは、通称『アストルの悪夢』だそうですし、きっと世界最強ですわね!


「じゃあ、偶然お前の爺やさんとやらが把握出来なかった部分なんだろう。合宿があるこの辺り一帯は、一般人立ち入り禁止区域だからな。高位貴族や王族であっても、無断で立ち入ることは許されていないエリアだ」


 殿下は『納得した』というお顔になりましたが、レティシア様は逆に訝しむ顔になってます。


「でもうちの爺や、お父様の合宿時代のヤンチャを存じてましたのよ? 現地で見ていたようにとても詳しかったですわ。たぶん、この慰霊碑のことも知っていそうなのですけれど……」

「……部外者立ち入り禁止なんだがな? この特別棟付近は特に……」

「いやですわ、殿下。ここに忍びこむことぐらい、私の爺やにとっては造作もないことですわよ?」

「……俺はその台詞が事実であったとして、そのことのほうが嫌だが?」

「あらー」


 困りましたわー、というお顔のレティシア様ですが、大好きな爺やさんのお話だからか目元がとってもにこにこされています。

 ああー……やっぱりレティシア様は、爺やさんのことを話されている時が一番可愛いですわね!


「アストル家の家名の話はともかくとして、この慰霊碑、ちょっと意味深だよね?」

「……そうだな。あからさまに意味深だな?」


 見上げたままのクルト様の呟きに、同じようにして見上げているエリク様が頷かれます。

 どういうことでしょうか?

 解説してくださっても、よろしくてよ?


「一番最初、ってことは、筆頭、ってことだよねぇ……?」

「そうなるな……。それなのに、王家の名前では無い、と……」


 男性お二人が、少しばかり殿下を慮る感じのお声をボソリ。

 ああ! 確かに!

 言われてみれば、王族のお名前は二番手でした!

 普通は王族のお名前を先に刻むのではないかしら? これ、不敬罪に値しませんの?


「お二人以降の名前は、爵位順っぽいんだけどねー……?」

「途中で入れ違ってる感じの名前もあるが……これは、歴史の途中で爵位が上がったり下がったりしたということだろうか?」

「そうかも?」


 そう頻繁に起こることではありませんが、家門の爵位は時代によって浮き沈みがあります。なかには没落する貴族家もありますからね!


「ザッと流し見ましたが、主だった貴族家のお名前も多いですが、家名のない方の名前も多く記されてますね」

「家名がないのは一般のお方でしょうか? それとも、精霊のお方の名前でしょうか?」

「そういえば、精霊の方々も礎になられたという話でしたよね……」

「お待ちください。お名前の記載、途中から家名なしの方ばかりになってますから、精霊はこちらではないかしら?」


 慰霊碑の下段を見ていらしたシュエット様の言葉に、殿下のパーティーメンバーが一斉に下の名前に注目されました。


「あ、本当ですわね。……ソル、アリュマージュ、フィルママン……このあたりは全部精霊のお名前ですわ」

「大地に火に天空……そのあとに続くのも、全て世界の構成に必要不可欠な精霊のお名前ばかりですね」

「じゃあ、上の方の家名なしは、貴族以外の方ということでしょうか」


 様々なことを推測しながら慰霊碑を眺めます。

 ところで、この慰霊碑、何の石で出来ているのでしょう? すごく立派なのですけれど、既知の石材とは何かが違う気がいたします。


「ところで、ここの怪談である『幽霊』は、日中は現れないのだろうか?」

「ひ!?」


 慰霊碑を眺めながらのエリク様のお声に、レティシア様がビクッとなられました。

 ……エリク様……


「に、睨まないでくれるか、ユニ殿。本来の目的は、慰霊碑に書かれた名前ではなく、ソレだっただろう?」


 べ、別に睨んでおりませんわよ!? し、失礼ですわ!

 ねぇ、シュエット様……あら、シュエット様、どちらをご覧に? あ、あら? アリス様とマリア様? なんで真剣な顔でジャンケンしてますの?


「勝った!」

「じゃあ、アリスね」

「えっ!?」

「勝ったんだから、アリスがやるべきでしょ?」


 ガッツポーズだったアリス様が愕然としたお顔になりました。お二人は何をなさっているのでしょうか?


「ほら、アリス、GO!」

「えぇ~……まぁ、いいけどねー」


 マリア様が慰霊碑を指さされ、アリス様が渋々向かわれます。なんとなく見守る私達の前で、アリス様は膝を折って祈りを捧げるお姿になりました。


「………」


 何も起きません。


「……アリス……」

「わかってるよー……まず最初に祈らないと」

「それは分かるけどさー……」

「???」


 お二人が不思議な会話をされています。

 首を傾げる私達の前で、アリス様は立ち上がられ、覚悟を決めた顔で手を伸ばしました。

 え!? 慰霊碑に触れられますの?

 確かに『触れてはいけない』とは誰も言ってませんでしたが……なかなかの度胸ですわね!

 私達が見守る中、アリス様の手が慰霊碑に触れられました。

 その瞬間、慰霊碑からスーッと半透明の男性が。

 え。

 え!?

 幽霊!?


 ――あ。


「きゃああああああああああッ!!」


 ……嗚呼……レティシア様……






 その『男性』は、ボロボロになった革鎧を着こんだお方でした。お年はおそらく三十後半でしょうか? ひどく疲れた表情をしておられますが、全体的にどこかで見たお顔立ちです。

 これは……もしかしなくても、殿下に似ていらっしゃる……?

 ちなみに完全に意識の無くなったレティシア様は、素早く抱き留めたマリア様にお姫様抱っこされています。

 ……マリア様、だんだん手馴れてきましたね……?


『この地を訪れた同胞へ、ここに我々の罪を記し、祈りを託す』


 不思議な『声』が聞こえてきました。

 おそらく、この『幽霊』さんのお声なのでしょう。気絶しているレティシア様以外の全員の目が殿下と『幽霊』さんを行ったり来たりします。ええ、似てますものね。殿下の目はまん丸になってますが。


「まさか……初代様、か?」


 そのお口から呻くようなお声が。初代様ということは……初代国王陛下!?


『我々は王の重荷になってしまった。我々さえいなければ、あの方はもっと自由に戦えただろう。先に亡くなった将軍達や、妃殿下も。……無力な我々が足枷となって、あの方達の死を招いてしまったのだ』


 『幽霊』さんは悔恨の表情でそう述べられました。声に混じっているのは苦渋というより憎しみにも似た何かです。そしてその憎しみは、ご自身に向いていらっしゃるようにお見受けしました。


『あの時、王が我々を逃がす為、転移魔法を使われたのは明白だった。そして我々はこの世界に落ちた。異界であるのはすぐに分かった。世界の全てに敵意を向けられた我々が生き残るには、異なる世界に行かねばならなかったことも』

「!」


 私達は一斉に顔を見合わせました。

 反応が違うのはお二人だけ。マリア様とアリス様は、険しいお顔で『幽霊』さんを見上げておいでです。


「全部、聞き逃さないでください」

「一言も逃しちゃ駄目よ」


 ひどく強張ったお声です。私達は静かに頷きました。


『我々は、無力であった我々の罪をここに記す。身体能力が劣り、魔力も少ない我々「下級」の者の存在が、我々の王を死地に赴かせたという罪を』


 ヒュッと喉が鳴るのを自覚しました。

 下級、と殿下に似た『幽霊』さんは仰いました。

 王家の始祖と思しき方が、自らを「下級」と仰る……? 私達は、下級と呼ばれる人々の末裔なの……?


『王は我々に一族の未来を託された。だが、この地にいる我々ではここから他の世界に転移することも、この世界に留まり続けることで生じる変異を防ぐことも出来ない。我々はこの世界に留まるしかなかった。だが、この世界に長くいては、我々は肉の殻を失うことになるだろう。それは、王が託した「我々」ではなくなることを意味する。故に、我々は精霊と取引し、ここに揺り籠を作ることにした。物質界を再現し、我々が半精霊にならないための世界を』


 え? え?


『それにより、現代の我々は多くの力を失うだろう。だが、いずれは我々の中に流れる血が、一族の力を取り戻すだろう。我々は――の血を継ぐ者。王の願いを、その祈りを受け継ぐ者なのだから』


 あら? 何か言葉が一部聞き取れなかったような……?


『故に、この世界を「祈り(プリエール)」とする。……同胞よ、血の末裔よ、我々の悲願を成し遂げる者よ――どうか精霊王と契約し、この地を王の眠る世界へと導いてほしい。我々が本来在るべき世界へと』


 初代王と思われる人物の瞳から涙が零れました。胸が痛いです。何故か『幽霊』さんの気持ちが分かる気がしました。王への思慕、悲願、憧憬、敬愛。必死の思いが伝わってきて、喉の奥に何かが詰まったような奇妙な感覚がいたします。これは、いったい、何かしら……?


『たとえそこに王はいなくとも、我々は王の民なのだから』


 涙と共に思いを零して、『幽霊』さんは霞むようにして姿を消されました。

 シン、という音すら聞こえそうなほどの静寂が訪れます。

 私達はただお互いの顔を見返しました。誰かが声を出そうと口を開き、何も言えずに閉ざします。私も同じです。何をどう言っていいのか分かりません。

 思わず助けを求める視線を殿下に向けてしまいます。殿下のほうも呆然としていらっしゃいますが。


「ぅ……ん」


 あ! レティシア様!!


「レティシア様、大丈夫?」

「あ、あら? マリア様……? えぇと、この状況は?」


 マリア様の声にレティシア様が目を擦りながら戸惑った声をあげられました。それで静寂が消えて、皆がほっとした顔になりました。


「あー……レティシア様、慰霊碑から幽霊出て来たの、覚えてます?」

「ゆうれいっ!? そ、そういえば、み、見た覚えが、あるような、ないような……?」

「ちょ、ま、バイブレーションやめて!? ほんとにホラー駄目なのね!?」

「ごめんなさい無理です駄目です半透明な男の人なんて見ておりません!」

「……ちゃんと覚えてるわね……」


 遠い目になったマリア様の腕の中で、お姫様抱っこのレティシア様が涙目でふるふる首を横に振られます。


「んー……レティシア様だけ聞けなかったけど、大丈夫かなこれ……」

「うぅぅん……」


 マリア様の声にアリス様が困り顔で唸られました。慰霊碑から離していた手をもう一度ペタリと触れられます。


「…………」

「…………」

「…………何も起きませんわね?」

「ぅううぅぅん」


 あ。頭を抱えてしまわれました。


「というか、何故マリア達は『触れたらいい』のだと分かったんだ?」

「ふぇ!?」

「きゃあ!」


 アリス様とマリア様がビクリと飛び上がり、マリア様の腕の中にいたレティシア様が悲鳴をあげられました。というか、レティシア様を抱っこしたまま飛び上がりましたわね、マリア様……


「い、いやその、祈りを捧げても駄目だったから、触ったらいいのかなー? って思いまして!」

「その前に、二人でジャンケンしてただろう?」

「あ! あー! あれは、その……」


 アリス様がしどろもどろになってマリア様に視線を向けます。マリア様がレティシア様を抱きかかえたままアリス様の前にお体をズイッと差し込みました。殿下の視線からアリス様を庇っておいでなのかしら……?


「ほ、ほら、レティシア様は怖がっておいでですし! ここは私達が率先して動いたほうがいいかなー、と思ったんです! ね! アリス!」

「うんうん! そうだよね! マリーちゃん!」


 ……あゃしぃ……


「お前達……」

「というか、マリア様はレティシア様を降ろそう……?」

「あ! 忘れてた!」

「……私、それなりに重いと思いますけれど……」


 クルト様の声にマリア様が今気づいた的なお顔に。レティシア様は困り顔でもお美しくていらっしゃいますわね……

 レティシア様を丁寧に降ろしたマリア様は、レティシア様がふらふらしないのを確認してから殿下の傍に向かわれました。意外と面倒見がいいのですよね、マリア様……


「レティシア様なんて軽いものよ? これでも鍛えてるからね!」

「私達を二人を纏めて抱え上げられますものね、マリア様」


 殿下パーティーの女性二人が真顔で仰いました。

 ……マリア様って……


「そうだよね。ゴリラルートならエリク様とクルト様もまとめて抱えれるもんね」

「言い方ァ!!」

「待て。抱えられたことは一度も無いぞ!?」


 アリス様のお声にマリア様とエリク様が焦った声をあげられます。クルト様に視線を向けると、大慌てで首を横に振られました。ふぅううん?


「いや、抱えられたことは無いよ!? 本当だよ!?」

「予測です! 予測!」


 クルト様とアリス様が焦ったお顔に。

 いえ、別になんとも思ってませんでしてよ? どうせ私にはクルト様を抱え上げる腕力もありませんし? 現状、男性陣に何かあってもどうにかできる女性はマリア様しかいらっしゃいませんし?

 …………そう考えると、マリア様の万能さが際立ちますね。精霊術も高い実力をお見せになっていましたし、腕力も相当ですし……

 ……私も腕力を鍛えるべきかしら……?


「……そういえば、薪拾いに入った森で、丸太を放り投げてたな……」

「……マリーちゃん、何やってんの……」


 どこか遠い目で思い出していらっしゃる殿下のお声に、アリス様が呆れた眼差しをマリア様に向けられました。


「いやほら、邪魔になりそうなものは最初に撤去しておかないと駄目じゃない!?」

「ねぇ、ここ、そういう世界なんだからさ、せめて乙女らしい動作しよう……?」

「というか、そういう話でなくて! さっきのお話をしましょう! さっきのお話を!」


 呆れ顔のアリス様に、マリア様が慌てて話題を変えられます。

 ご自身の乙女らしくない動作は御自覚なさっておいでなのね……?


「……そうだな。色々と衝撃的な話だったな」

「? 何かありましたの?」


 殿下のお言葉に、お一人だけ聞き逃していたレティシア様が首を傾げられました。

 思わずその他全員で顔を見合わせてしまいます。

 『幽霊』さんのお話……うぅん、あのお話を語るのは、少々勇気がいりますわね。私達の先祖が「下級」とか、異なる世界がどうとか、半精霊とか……


「そういえば、先のお方はアリス嬢が触れて出ておいでだったが、他の者が触れても同じだろうか?」


 エリク様がふと気づいた顔で仰いました。視線で譲り合い、意を決した殿下が代表して慰霊碑前に立ちます。


「レティシア様、とりあえず、反対側向いていましょうか」

「あ、はい」


 シュエット様がレティシア様のお体をくるっと半回転させました。

 また『幽霊』さんが出て来たら、レティシア様気絶してしまいますものね……

 そして殿下の手が慰霊碑にペタリと。


「…………」

「…………」

「…………」


 あ、あら? 何も起きませんわ?


「……出てこないな」


 殿下も難しいお顔で慰霊碑を見上げておいでです。


「一度触れたら、同じ場所にいる者はもう駄目なのか?」

「条件があるのかもしれませんね。その場にいる最初の一人が触れたら出てくる、とか」

「まぁ、何度も出てきて語るような内容では無かったものな……」


 マリア様のお声に殿下が納得しかねる顔で慰霊碑から離れました。

 何故かマリア様とアリス様が困り顔で目で会話なさってます。


「二人は何か気になることでもあるのか?」

「えっ!? あー、いや、レティシア様だけ内容知らないままだから、その……」

「一人だけ知らない、ってことが、後にどう影響するか分からなくて……」

「衝撃的な内容だったもんねー。説明するの難しいし……」


 視線を彷徨わせるマリア様とアリス様に、クルト様も困り顔になりました。

 誰があの内容をレティシア様に説明するのでしょう……やっぱりここは、代表して殿下かしら……?


「レティシアだけ知らないのだから、レティシアが触れてみたらどうだ?」

「へ?」

「同じ場所にいても、内容を知らない者なら反応があるかもしれないだろう?」

「なるほど。一理ありますわね」


 殿下の声にシュエット様が頷かれ、アリス様とマリア様が顔を見合わせられました。


「ど、どうなのかな……?」

「わ、わかんない……」


 お二人が戸惑っている間に、シュエット様がレティシア様の後ろに回られました。


「さ、さ、レティシア様、ずいっと」

「ま、待って!? 何か出てくるかもしれないんですの!?」

「大丈夫です。怖くありません。過去の記録みたいなものです」

「別に見たいとは思いませんわ!?」

「アリス様も仰ってましたけど、レティシア様だけ知らないということが、後々にどう影響を及ぼすか分かりませんもの。ここは心を鬼にして押させていただきます!」

「待って待って待って無理無理むりぃいいいッ……」


 ああ、意を決したシュエット様に押されてレティシア様が慰霊碑に……

 頑張って足を踏ん張ろうとしておいでのようですけど、腰が引けていらっしゃるからどんどん慰霊碑側に押されておいでです。確かに、レティシア様だけ除け者状態ですから、知って欲しい気持ちは分かりますとも。

 ……ここは私も手を貸すべきでしょうか……?


「レティシア様、怖いのは一瞬だけです!」

「ただの過去の残滓だから!」

「過去からのメッセージだと思えばいい」

「先祖の伝言ですよ、伝言!」

「大事な話だから聞いてこい」

「皆様で一致団結なさらないで!?」


 応援にまわった私達にレティシア様が涙目を吊り上げていらっしゃいます。

 あ。突っ張ろうと伸ばしたお手が。


「……え」

「はぁ!?」

「ちょ、ま!?」


 慰霊碑にお手が触れた途端、慰霊碑全体が淡く光りました。

 そして出てくる人物が―――


「れ、レティシア様ッ!?」


 なんでレティシア様そっくりなんですの――ッ!?





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― 新着の感想 ―
この遠征で色々と世界の謎が判明しそうですねー…。 マリアさん達の世界であったという出来事と繋がるかもですし… 元々気になる内容の作品でしたけど益々目が話せなくなりましたな…(遠い目)
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