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強化合宿13



〇side:レティシア




 精霊が手伝ってくれると料理が飛躍的に美味しくなる――!

 その事実は私にとってかなりの朗報でした。私達の所にいる精霊は光と風の精霊で、火を調節するのに風の精霊が手伝い、光の精霊が食材に祝福を与えている状態だったのですが、素材も調味料も変わっていないのに全くの別物といって良いほど味が変わりました。えぐみも生臭さも全部消えたのです!

 ……流石に爺やの料理程の美味しさではありませんでしたが、それは仕方がありません。大丈夫です。もうすでに恋しくなっておりますが我慢です。


「水は最初から精霊にお願いして出してもらっていたのに、味が変わるということはありませんでしたわよね……」

「昔聞いたことがありますけど、精霊術で出した水を使うと食べ物の毒素が緩和されるそうですわ。食べ物の味については……あまり聞いたことがありませんが」


 ユニ様とシュエット様が昼食を思い出すようなお顔で仰っています。

 ……昼食のスープは、その……確かに肉の獣肉臭さが残っていましたね……


「……そう言えば、炙り肉ってたいてい炎の精霊にお願いして焼いてもらっていたわね」


 そう仰るのは隣のベースにいるマリア様です。私達のベースでふわふわ浮いている精霊達を見て、ご自身の竃の火を炎の精霊にお願いしたようですね。ちなみに首無し兎は殿下が解体していました。騎士との合同練習や遠征で経験があるそうです。


「うぅむ……初日からコレが出来る班がでてくるとは。美味い。実に美味い」

「酒が欲しくなりますなぁ。いや、合宿中は飲めないのですが」


 先生方にも好評のようです。というか、既知のご様子ですね。

 ご存じでいらっしゃったなら、何故、授業でお教えにならないのでしょうか? そうすれば最初からもっと美味しいものをご用意できたはずですのに。


「五年前は生徒が気づくまで時間がかかって酷い有様だったよなぁ……」

「最後には誰がいつ気づくか賭けまで発生してたものな……まぁ、基本が出来てる奴がほとんどだったから、全体的には今年ほど酷い出来じゃなかったんだが」

「生徒が気づくまで手出し出来ない辛さが半端なかったなぁ……」


 なにやら先生方の背中が煤けておられます。どうやら精霊術の応用として、生徒が自分で発見しないといけなかったようです。……先生方も大変そうですわね。

 ですが、先生。チラチラ視線を向けられても余分は差し上げません。私もお腹が空いているのです。先生、そんな目をされても追加はありませんわよ!


「レティシア様、意外と健啖家だったのね」

「昼食の時と随分な違いだな」


 ちまちまながらそれなりの量を食べている私に、マリア様と殿下が意外そうな声をあげられます。……昼食の様子、殿下達にもしっかり観察されていたのですか。というか、お隣さん、何をやっているのですか。私の観察会はおやめください!


「あ、忘れるところだった。レティシア様、コレ、マリア様から」

「まぁ、ベリー! ありがとうございます、マリア様!」

「ふぁあ今そこで渡す!? ど、どういたしまして!?」

「マリーちゃん相変わらずツンデレだねぇ……」


 クルト様から小袋一杯のベリーを受け取りました。大ぶりのツヤツヤしたベリーです。味がすごく深いですわね。どうやってこんなに美味しいベリーを見つけたのでしょう?

 ちなみに無言のエリク様は先程からものすごい勢いで串を食べています。私も人の事は言えませんが、エリク様もお腹が空いていたのですね。


「うーむ。もう一本……もう一本くれたなら、さらに加点も考えていいんだがどうだ!?」

「無理ですよー。生徒が食べる分を除いて、来られた先生方の人数で数を決めていますので。まさか生徒の分を寄越せとは言いませんよね先生ー?」

「うぅうううむ……」

「諦めろ。お前が一本貰ったら他の先生達も同じように要望を出すだろ? そうしたらこの子たちの食べる分が一気に減るぞ。合宿中の生徒の食事を横取りしたと知れたら職員会議ものだぞ」

「だがなぁスコット。ここと隣以外の班、軒並み酷い出来なんだぞ……」

「今年は酷く偏ってるよなぁ……」


 クルト様に断られた先生がしょんぼりされています。

 どうやら今年の一年生はお料理があまり得意では無いようです。

 ――けれど、もう改善策は見えているのではないでしょうか? 精霊に手伝ってもらうことで飛躍的に美味しくなった、という実例も出たことですし。


「流石に二日目になれば改善するんじゃないですかねー?」

「うちと隣の班の真似をする所も出て来るでしょうし」

「あのな……クルトとエリクよ。素材をそのまま串刺しにした、火が通らないデカさの肉串を見たことあるか?」

「食材がそのまま丸ごと鍋に投入された自称『スープ』を見たことあるか?」

「……え……えぇえ……」

「……お前さんの所に食べに来れるよう頑張るよ……」


 さすがに精霊の助力をもってしても改善しそうにない『料理』というのもあるようです。……爺やが目にしたらあまりのことに眩暈をおぼえるのではないかしら……

 そんな中、こっそりシュエット様がご自分の分をエリク様に差し上げていました。あらぁ。うふふ。もちろん見て見ぬふりですとも。ええ、あの二人の邪魔は誰にもさせませんとも。

 ところでユニ様はどちらでしょう? クルト様のお近くにおられると思っていたのですが、姿がありません。――あ、あんな所にいらっしゃいました。何故か殿下達のベース地の端です。


「――ということで、出来ればあの先生からもらわなくてはならない課題があるのでしたら、他の先生方にお願いしたいのです」


 どうやらそこにいらっしゃったヒュー先生に何かをご相談されていたようです。ヒュー先生は「ふぅむ」と難しそうなお顔です。


「学生を導くはずの教師が学生に不審を抱かれるような言動をするとは……嘆かわしい限りだな。これが悪夢にバレればどんな恐ろしい報復があることやら……」


 ……悪夢とは何でしょう?


「ヒュー先生。彼女が受け持っているのは魔法科だから、他の魔法科の教師で課題を受け持つことは可能です。私の不手際が原因ですので、私が受け持たせていただきたい」

「レイナード先生。森内部の調査もある。君にはそちらに同行してもらいたいのだが」


 ヒュー先生とレイナード先生のお話に、私達はそっと視線を交わし合います。

 私達と殿下達のベース地には、昼の時よりも多くの先生方が集まりました。昼も一緒だったレイナード先生とスコット先生が今回もいらっしゃるのは、おそらく私の変な噂を払拭するためなのでしょう。他の先生達は何故かジャンケンで勝負をしておられました。


「レイナード、お前はただでさえ順番待ちが出るんだ。余分の課題を受け持っても対応しきれないだろ」

「スコット。それは私の腕では生徒を捌ききれないと言うことか」

「現実は直視しろ。ただでさえ今回の件で俺もお前も生徒達の課題を見る時間が少なくなってしまったんだ。その分を取り返すことが先決だろう。他の先生にお願いできる部分はお願いするべきだ。……森の件もあるんだからな」


 魔法科でも腕が良いことで知られるレイナード先生は、女生徒に人気なこともあって課題の順番待ちがすごいことになっているそうです。最初にあった精霊術の課題の時にも長蛇の列が出来ていましたものね。

 ――そして、森の件、というのは、おそらくレイナード先生達が負傷したことと関係あるのでしょう。

 そのことについての詳しい説明はありませんでした。私達がお聞きしたのは、生徒達皆に聞こえるよう拡声の魔法を使って告げられた『森で異変が発生しているので、明日以降何人かの先生で調査を開始する。場合によっては明後日からの課題を変更することになる』というお話のみです。ちなみにこの時、レイナード先生とスコット先生が不在だったのも森の異変に関係することとされ、私の噂を払拭してくださいました。……まぁ、どこまでも疑う人は疑うので、ごくごく一部の方達のことは知りませんが。


「明日にはセサル殿もおいでくださるはずだ。レイナード先生とスコット先生は、明日の森の探索に同行してもらうから、今日は寝るまでの間にしっかりと遅れを取り戻しなさい。他の先生方はもちろん、生徒達にも多大な迷惑をかけたのです。反省しなさい」

「……はい」

「……申し訳ありません」


 お二人がシュンとして頭を下げられます。

 スコット先生はレイナード先生を連れ戻すために向かったせいで遭難(?)したのですから、主な原因であるレイナード先生の落ち込みようは見ていて可哀想なほどでした。とはいえ、私達の周りにいる沢山の精霊を見た時にまた持病が発生しそうな勢いでしたから、これぐらい反省していただかないと困るのかもしれません。……先生、魔法の研究が好きすぎではありませんか?


「そういえば、君達は薬草学に関してあと一つの課題で終わるのだったな。急ぐのであれば今日でも受け持つが、どうするかね?」


 ヒュー先生のお言葉に、私達は顔を見合わせてから首を横に振りました。


「先生も森のことでお忙しいでしょうから、私達の課題は後日にお願いいたします」

「そうかね? すまないね。もし明日中に作ってくれたのなら、帰った時にチェックしよう。今日は初日だ。慣れないことで疲れも出ただろう。温泉はいつでも入れるように手筈を整えているから、好きな時に入りなさい。ああ、男女別だよ。この中に不心得者はいなさそうだが、くれぐれも変な真似はしないようにね」

「先生。特別棟の図書室等はまだ利用可能ですか?」

「ふむ? 初日はあまり無理をしないほうが良いが……君達は余力がありそうだな。消灯までは好きにしてかまんよ。ただし、消灯後はきちんと寝ること。夜更かしや夜の冒険を楽しむのもこういった催し時の楽しみだろうが、我々教師に見つかれば叱られるものと覚えておきなさい。気持ちは分かるが、我々も仕事でね」


 ちょっと茶目っ気のある笑みをみせるヒュー先生に、私達は思わずクスクス笑ってしまいました。大丈夫ですわ、先生。私は即座に眠りますとも。夜の探検なんていたしませんとも。怪談なんて存じませんとも。絶対ですとも。


「……そう言えば、ヒュー先生、特別棟の怪談というのはいつ頃からあるものなのですか?」


 ああっ! マリア様! 何故それを今お聞きになりますの!?


「ああ、あの怪談かね……。ふむ……? ふふ、まぁ、特別棟にいる職員に話を聞くと色々と面白いことが分かるだろうね。そして、怪談がいつ頃から……か、正しい時期としては定かでは無いが……あの建物が出来た時からずっとある、と言う他ないね」

「先生方も子供の頃にチャレンジしたことがありますか?」

「ふふふ。あるとも。マリア君も挑戦するのかね?」

「ええ。必ず解き明かしてみせますわよっ」

「それは楽しみだ。頑張りたまえ」


 ニコニコと応援するヒュー先生に、マリア様達の班も「頑張ろう!」と気炎をあげています。

 ……チラ、と横目で見れば、同じく気炎をあげているユニ様のお姿が。……ヒィッ……


「レティシア様、ほら、怪談って種明かしするとそんなに怖くないものもあったりするから」

「大丈夫だ。ゴーストが出ても魔力で殴れば倒せる」


 クルト様とエリク様が慰めようとしてくださっていますが、そもそもそういう話題に近づかなければ良いと思いません? ねぇ、思いません?


「大丈夫ですよレティシア様。そんなに怖くありませんから」


 ああっアリス様その発言は探索することを前提にしていますわよね!? 何故皆様そんなに真っ向から怪談に臨もうとされますの!? 何が出てくるかわかりませんのよ!? もし暗闇を歩いていて足に何かが触れたら反射的に光魔法を大乱舞させてしまうかもしれません! どうしたらいいのでしょう!?


「……ちょっと。レティシア様本気で嫌がってない?」

「うーん……爺やさんの所で話した時からうすうす感じてたけど、苦手みたいだねぇ」

「大丈夫なの? ルート的にもレティシア様は確定メンバーに含めなくてもいいだろうし、無理やり連れまわすのはやめてあげたら? ――あと、『爺やさん』って誰よ?」


 なんと! マリア様がアリス様に私の戦力外通知を示唆してくださっています!


「本当ですかマリア様!? 私、お留守番でも大丈夫ですの?」

「うぇ聞こえてた!? てゆかなんで私に聞くの!? い、いや、まぁ、無理やり連れまわす必要無いと思うわよ!? ……ただ、一人きりで真っ暗な部屋にお留守番になると思うけど」


 無理!!


「ぁあああ……あぁぁああ……」

「……こ、こんな弱点があるなんて知らなかった……」


 思わず崩れ落ちる私をしっかりと抱き留めて、マリア様が呆然としたお声をあげつつ私の背を撫でてくださいました。……ああ……顔が埋まるお胸の感触がもっちもち。素敵。


「大丈夫ですよレティシア様。ほら、皆で手を繋いで行きましょう?」

「そうですわよ、レティシア様。いざとなったら浄化魔法をぶちかませばいいんです」

「……後ろから誰かの手がぬぅっときたりしません?」

「……レティシア様。なんでそういう怖い方向に想像力を膨らませるのかなー? じゃあ、後ろに僕とエリクがいるから。ね? 大丈夫ですよ?」

「その場合、前方はどうする?」

「私が先導しましょう! 任せてください!」


 アリス様がキリッとしたお顔で仰います。なんて頼もしい……!

 そしてマリア様のお胸はなんて柔らかくて温かい……ああ……眠気が……


「なんだったら私達のパーティーも前か後ろについててあげるわよ。そこを通り抜けてレティシア様に特攻するゴーストとかいないでしょ。いいですよね? 殿下」

「……別にかまわないが……」


 どこか呆れたような微妙そうな殿下の声が聞こえます。


「……マリア、お前……実はレティシアのこと好きなんじゃないか?」

「ななななななにをいってりゅんです!? そんにゃことありませんけどっ!? わたしがすきなのはでんかですけど!?」

「そうか。それは嬉しいが……噛んでるぞ」


 もちぃっとした胸にしっかりと頭を抱えこまれているのでお顔は見えませんが、マリア様はブンブン首を横に振っているご様子です。反動で顔の周りがいっそうもっちもちします。暖かくて柔らかくて眠気がどんどん増してくるような……私、もう明日の朝までこのまま眠ってしまってはいけないかしら……あ……意識が……


「……どうでもいいが、レティシアはちょっとマリアの胸に顔を埋めすぎじゃないか?」

「……ものすっごく幸せそうに寝てるというか……目の毒というか……」

「ゴホンッ」


 何故か男性陣の困ったような声が聞こえた気がしましたがきっと夢でしょう。

 ああ温かくて柔らかくて最高に素敵……天国かしら……

 ――と思っていたら体がガクンッと揺れました。あら?


「レティシア様、言っときますけど、私は抱き枕じゃありませんからねっ!?」

「……まりぁさま?」

「ちょ!? 本気で寝落ちしかけてたの!? しっかりして!?」

「お引き取りいたしますわ。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。……さぁ、レティシア様、ご飯に戻りましょうね~?」


 ぼんやりする視界を瞬きで追い払っているうちに、ユニ様に連れられて元いた場所に設置されました。顔にあったもちもちしたものが消えてちょっと寂しいです。爺やに背負われた時の万能感とはまた違った幸福感があったのですが、残念ながらあれは私に備わっていない特殊装備です……魔法で何か代用できないでしょうか……スライム……鳥胸肉……トマト煮……甘辛照り焼き……

 視界の端ではアリス様が戦慄の視線をマリア様に送っていました。


「チャームとスリープを兼ね備えるとは……マリーちゃんの胸袋……恐るべし……!」

「変な視線向けるのやめてくれないっ!?」

「実はその特殊装甲、魔法で増量してたりしない?」

「人聞きの悪いこと言わないでくれる!? 普通に生よ!」

「全部生肉かー……」

「食べ物みたいな言い方ァ!」


 アリス様とマリア様の会話に、男性陣は居心地悪そうにされていますが女性陣はクスクス笑っています。ユニ様とシュエット様もだいぶ険が無くなっているご様子です。


「ところで、この後のことなのですが、食事が終わったら図書室――でよろしいのですか? 怪談探検もあるようですし、お風呂の時間とかはどうします?」


 殿下パーティーの一人からそう声をかけられて、アリス様は私を、マリア様は殿下を見つめました。


「図書室にも怪談があったから、その一環で回ってもいいんじゃないか? すこし早いが、先に風呂に入ってからのほうがいいだろう。――途中で気絶されてもそのままベッドに放り込めるだろうしな」


 そう言って殿下が見る先は私です。ユニ様とシュエット様の目が吊り上がった気がいたしますが、私は大真面目に頷きました。


「その場合、できましたら担いで行っていただけるとありがたいです。なんでしたら運びやすいように縄と布袋を用意しておきますわ」

「……流石にそれは……」


 何故か殿下が引き気味になりました。……何故?


「あのねぇ、レティシア様。いくらなんでもレディを布袋なんかに入れられるわけないじゃない。殿下の名前に傷がつくでしょ? あ、言っておくけど殿下に抱えさせたりしないから!」

「それはもちろん」

「私が抱えるから文句は言わないでよね!?」

「「「「え!?」」」」


 聞こえていた全員が揃って声をあげました。注目されたマリア様がギョッとしています。


「な、なに? 何かおかしなこと言った!?」

「おかしくないと……思っているのか? マリア?」


 殿下が困惑したように尋ねておいでですが、マリア様は何がおかしいのか分からないというお顔です。


「あの……マリア様、よろしいの?」


 私は恐る恐る尋ねました。残念ながら夜になって以降の私の精神力に対し私は全く信頼を置けません。いつフッと途切れてしまっても仕方がないとすら思っています。なにしろ実家でさんざん失神しておりましたから……

 そして私はマリア様より背が高いです。その分、体重も私の方が勝ると思うのですが……


「よろしいもなにも、気を失った女性を軽々しく男性に預けるなんてできないでしょ!? そちらのお二人も強そうだけど、人間一人抱えたまま大立ち回り出来るほどじゃないでしょうし、杖なしで魔法使うのに慣れているようにも見えないし」 

「か、抱えることぐらいできますわよ!?」

「ユニ様、階段の上り下りとかあるじゃない。慣れてないと危ないわよ?」

「マリア様は慣れていらっしゃると仰いますの!?」

「慣れているわよ? じゃなきゃ言い出したりしないわよ。この中で私が一番抱えて問題なく動ける人間だと思ったからこその立候補よ。他にいい人がいたら最初から何も言いはしないわ」

「そ……そうなの……。では、よろしくお願いいたしますわ」


 自信満々なマリア様のお姿に何かを感じ取ったらしく、ユニ様が頭を下げて私をお願いしていました。あら? 私、本当にお荷物なのでは……


「あ、あの、やっぱりついていかないほうが私、お邪魔じゃないかしら……」

「……いや、残るのはやめたほうがいい」

「うん。やめたほうがいいよ。絶対」

「ああ。絶対やめたほうがいい」


 な、何故男性陣が揃って反対を!?


「……レティシア様。レティシア様の言動で弱点がめっちゃバレちゃってます……」


 アリス様がこそこそっと私に耳打ちされました。反対側からはユニ様が。


「うっかりしてました。すみません。そんなわけで独り残られるのは危険ですわ」

「変な悪戯をしかけられる可能性もありますわ。誰とは言いませんけど……とあるご令嬢とか」


 シュエット様まで無念そうなお顔です。

 いえ、元はと言えばこんな人目に触れる場所で苦手なものを晒してしまった私の我慢の無さのせいなのですから気にしないで……!


「心配しなくても、こっちが見てる時になんかしてきたら吹っ飛ばしてやるわ。私より先にレティシア様に勝負挑もうなんて百年早いのよ」

「……いや、多分、そういう連中は勝負挑もうとしてるわけじゃないと思うが……」

「まずはこの私を倒してから挑むべきだわ!」

「……そ、そうか……」


 マリア様の好戦的な発言に殿下が何かを諦めたような遠い遠い眼差しになりました。

 小さく「……おかしいな……嫌がらせされり服を汚されたりした黒幕はレティシアに違いないとか言ってた気がするんだがな……」というぼやき声が聞こえてきましたが、私は全く関わったことの無いお話なのでスルーすることにいたしました。


「あの……では、マリア様、何かあればよろしくお願いいたします」

「ええ。何かあれば抱えて行ってあげるわ。我慢せずにいつでも倒れなさい」


 自信満々に言うマリア様は、びっくりするほど頼もしさに溢れていました。


「うわ。マリーちゃんオットコマエ」

「本当はあんたが真っ先に言うべきじゃないのっ!?」

「ごめん。フィジカル方面後回しにしてたからちょっと腕力が……」

「鍛えなさいよ! 魔物討伐で誰かピヨッたら引っ掴んで隊列入れ替えないといけないんだから!」

「魔法極ぶりしちゃったからごめん……そっちは任せる」

「パーティー違うでしょ!?」

「アライアンスがあるさ!」

「イイ笑顔してんなぁ!? だったら魔法は任せてもいいんでしょうね!?」

「任せな! 三時間ぐらい連続でぶっぱ出来るよ!」

「極ぶりェ……!!」


 あ、あの、お二人とも、お言葉が……乱れてまして、よ?


「……前々から思ってたんだが……二人とも、随分と仲がいいんだな?」


 食事を平らげたエリク様がお二人を見ながら仰います。思わず頷きながら注目した私達の前で、お二人はハタと顔を見合わせてから――何故かマリア様が挙動不審になられました。……何故?


「べ、別に仲良くなんかないし!?」

「ダンスパーティーの後でいろいろ話して、意外と気が合ったんだよねぇ」

「アリス!?」

「否定する意味無いと思うんだけどなー?」

「い、いやだって、ほら、ほら、ほら、その……」


 マリア様はチラチラ私を見ながらご自身の服を伸ばしたり叩いたりしています。


「ちなみにマリーちゃんが階段で突き落とされかけたり頭から水ぶっかけられたりした時の犯人はまだ確定してないけど、ここのメンバーじゃないってもう分かってるでしょ?」

「え!? あれはただの言いがかりではありませんでしたの!?」

「……ユニ。流石にそれは無いよ。僕らもびしょびしょになったマリア様の姿を見たことあるし、服を汚されたりしてた姿も見てるから」

「実行犯そのものの姿は見てないが、被害を受けた後の姿は見ていたからな」


 クルト様の言葉に頷いて、渋い表情の殿下がため息をつかれました。

 どうやら以前マリア様が私に因縁をつけてきた『原因』はしっかり存在したようです。――私と全く関係なかったわけですけれど。


「ご……ごめんなさい。何故かレティシア様に言いがかりをつけていらっしゃったから、最初から嘘だと思い込んでいました……失礼しました……」

「い、いや、レティシア様だと勝手に思い込んだこっちも悪かったから、その……遅くなったけど、ごめんなさい……」

「私もずっと嘘つき呼ばわりしていました……申し訳ありません……」


 ユニ様とマリア様とシュエット様がお互いに頭を下げ合っておいでです。どうやらお互いに誤解があったようです。


「……いや、ほっこり見てるレティシア様が一番被害あったと思うよー?」


 あら?


「そうでしょうか? 私は別に被害と言えるようなものはあまりありませんでしたが……」


 クルト様のお声に首を傾げると、周りの全員から呆気にとられた顔をされました。……あらら?


「いや……色々あった、よね?」

「そうですね……殿下の関連で、行事とか色々な場面で面倒だなと思ったぐらいでしょうか……?」

「う……」


 殿下が声を詰まらせておいでです。

 そしてマリア様は顔を覆って蹲っておいでです。


「それ以外は特に問題はありませんわね……」

「そ、そうなんだー」


 そうなのです。

 何故かクルト様達は視線を遠くに向けられておいでですが。


「まぁ、入学したての頃は色々あろうて。多少の衝突や誤解も、解れれば良い思い出になるだろう」

「ぁぅぅー」


 ヒュー先生達がなんとも言えない温かい眼差しを向けてくださる先で、マリア様はずっと顔を覆って呻いていらっしゃいました。








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