強化合宿11
〇side:クルト
森でしばらく薪になる枯れ枝を集めていると、目の前を物凄い勢いで小さな影が走って行った。
あ、兎――
ドスッ!!
「……うん?」
こげ茶色に近い野兎の体が、目に見えない何かに射抜かれて大きく地面にバウンドした。その余波で土と枯れ葉を被った僕は、突然目の前で起きた謎の出来事に硬直してしまう。
……え。何が起きたの?
僕とエリクがいる特別棟の東の森は、学園に入って僅かしか経っていない新入生が出入りできる程度には安全な場所だ。特に初日に出入り可能な地域は、先生方が先に精査を済ませて安全を確保している。獲物となる小動物は放置されているはずだから、兎が走り去るぐらいなら驚きはしないんだけど、その兎が突然跳ねて死ぬというのはちょっと驚いた。今日はまだ狩りをしないといけない日じゃないはずなんだけど――
「よしっ! 獲物ゲット!!」
「マリア! 今日は狩りをしなくても食材があるはずだぞ!?」
――どうやら、初日なのに早くも狩りに精を出した生徒がいたみたいだ。
というか、目の前の兎が突然絶命したの、マリア様のせいなの!?
「あ、あれ? クルト、様?」
硬直した僕の横手、茂みの中から飛び出して来たのは、先程の声の主であるマリア様だった。続いて殿下もやって来る。
僕が無言で兎とマリア様を交互に指さすと、殿下が額に手を当てて頷かれた。
「……狩猟本能が刺激されたらしい」
……貴族令嬢の狩猟本能って何だろう……
マリア様ってあんなに嬉々として狩りをしそうな令嬢だったっけ……? いや、確かに殿下に対しては肉食系な気がそこはかとなくしてたけど。おかしいな。僕が知っているマリア様は、もうちょっとこう、守ってあげたくなるような感じの雰囲気があった気がするんだけど。あっれ……
思わず倒れ伏している兎に目を固定する。よく見ると兎の胴体に小ぶりのナイフが根元まで埋まっていた。マリア様、精霊術ではなくまさかの物理だった。
「……学園が提供する食糧では、足りなかった、とか……?」
「ちっ違うわよ!? これは、そう! 明後日の予行練習だから!」
今、考えたっぽい言い訳が。
「あー……お二人とも、薪拾いに?」
「ああ。昼と逆の分担にしよう、ということでな。……まぁ、マリアはレティシアに言いたいことがあったようだが」
「……マリア様?」
「ベ、別に変なことは言ってないからね!?」
「エディリアに負けるな、的なことを言い捨てて森に逃げたんだ」
「殿下っ!?」
向けた視線の先で、マリア様が真っ赤になってる。わー……僕、こんなに恥じらってるマリア様、初めて見たかも。
……殿下といるより恥じらってないかな……? これ。
――あ。殿下が不機嫌になってる。え。もしかしてレティシア様に嫉妬なの? このパターンは想定してなかったよ僕……
そしてマリア様はその場の雰囲気を誤魔化すように仕留めた兎の近くに蹲り、サクッと首を刎ねて血抜きをしはじめた。
……意外とワイルドなんだね、マリア様……
僕、君は「えっ……兎さんを殺すなんて……そんな、私、出来ない……ッ」て感じの令嬢かなって思ってたよ。いや、逞しくていいと思うけど。
「俺達のことはいい。そちらは昼と同じ組で薪拾いのようだな」
「今のレティシア様を森に行かせるのは危険だと判断しましたので」
兎が飛び出してきて以降、護身用の短剣片手に身構えていたエリクが構えを解いて答える。しばらく周囲を探っていたのは、他の気配への警戒からだろう。
「ああ……確かに、今は危ういな」
「レティシア様、行動力ありますからね。先生が念押ししても、なんだかんだで森の奥に探しに行きそうだわ」
足を持って首無し兎を逆さ吊りにしたマリア様の声に、僕らは顔を見合わせる。確かにその危険性もあるんだけれど、マリア様はもう一つの危険性についてはピンときてないみたいだ。
「エディリア達が質の悪い噂を広げていただろう? あれを真に受けた馬鹿がおかしなことをしないとも限らない。あの教師は、一部の生徒に特に慕われていただろう?」
「え? あー! そっち!? いや、まぁ……だいたいの予想はつきますけど……」
「ベース地であれば他の教員の目もある。流石に馬鹿な真似はしないだろう。だが、森の中では分からんからな。問い詰めるなり、罵倒するなり、実力行使にうつるなりするかもしれん。エリク達が薪拾いを買って出たのも、それらを危惧してだろう」
殿下の指摘に、マリア様は嫌そうな顔でため息をついた。
「レイナード先生の人気がこんなところで仇になるなんて……」
それ以上に人気な殿下を巡って、昔はレティシア様とバチバチ火花散らしてたよね、マリア様。―― 一方的に、だけど。
けど、まぁ、そんなマリア様だから、今のレティシア様の状況はよく分かっているみたいだ。
「けど、流石に無理がありません? レイナード先生の行方不明と、レティシア様って」
「……以前から、レティシアは色々と悪いうわさがあったからな」
「っ!!」
殿下の言葉に、マリア様が胸を押さえられる。うわ、むにゃっって形変わった。いや、見てないよ、ユニ。僕はマリア様の胸なんて見て無いからねっ。
「マリアも、そのあたりのことには詳しいだろう?」
「えっ、そっ、そーですねー! 身に覚えがありますねっ」
その噂を自分でも口にしたことのあるマリア様が、視線を逸らしながら頷いた。心なしか顔が青い。
「悪い噂で、疑われる土壌があったうえでの、この騒動だからな。勘繰る者は勘繰るだろう」
「ふぉぉ……ッ!!」
「!?」
何故かマリア様が顔を覆って蹲った。
「どうしたマリア!?」
「なんでもないですッ! ふぁぁ……!!」
どう見ても何かある感じなんだけど、何があったんだろうか。
殿下はマリア様の突然の奇行におろおろしてるし、エリクに視線で問いかけてみるけど、エリクもわけがわからないって顔してるし。
片手に首無し兎を持ったままだから、微妙にホラーだ。
「……このうえは、せめて……を探して……を……!」
?
何か言ってるけど、声が小さくて聞き取れなかった。
それよりも、僕らが気にしないといけないのは『周り』だ。
「ところで、『お二人』は『二人きり』ですか?」
「ああ。私とマリアだけだ。それ以外は知らんな」
……ああ。殿下も気づいてたんだね。
「マリアも気づいてただろう?」
「……あー、うー……潜んでる人達ですかぁ?」
マリア様がどこか幽鬼みたいな動きと据わった目で言う。
……ちょっと怖い。
「……学園の先生が一人と、あとは生徒ですよ。先生は護衛と監視でしょう。生徒の方は私も知りません」
「……マリア。索敵の魔法を使っていたのか?」
「はい。一応、何かあるといけませんからね」
よく見ればマリア様の肩あたりに淡い光が灯っている。精霊だ。
……精霊を呼び出していたのに、ナイフで兎を――いや、考えまい。
「いくらレイナード先生が自分の思考に没頭してしまうタイプとはいえ、時間の経った今でも行方不明っていうのが気になりますから。何か異変があると考えて用心しておかないと危険かと思って」
「……それをさっき言わなかったのは、何故だ?」
「確証が無いからです。ただ、何があったか分からない以上、森に入るのに用心しないというのは危機管理能力の欠如を疑われかねないですから、こうして精霊に協力をお願いしています」
僕達は思わず顔を見合わせてしまった。
……僕もエリクも、周囲への用心はしていたけど、精霊を呼び出してまでの用心はしてなかった。殿下も同じくだ。
今からでも呼び出しておこう。うん。
「……あ、いや、私が武術的な用心に乏しいから精霊を呼び出してるだけであって、三人みたいに武術の才があればそこまでしなくても!?」
……野兎をナイフで仕留められる人は武術の才あると思うなー?
「いや、用心に用心を重ねるぐらいで丁度いいだろう。先生方より未熟な俺達が、先生が今も行方が分からなくなっている森に入るんだから」
「何があるか分からないですしねー」
「……それに、呼び出した精霊がこうもピリピリしているのだから、やはり何か異変があるのだろう」
殿下や僕達の言葉に、マリア様は顔を引き締めて頷く。
召喚で呼び出した精霊と召喚主の間には魔術的なパスが通る。それを通して、僕らは精霊達が感じ取っているものを朧気ながら把握出来た。僕らが呼び出しているのはいずれも小精霊だけど、その感覚は僕らの何十倍も鋭い。
「……昼間は生徒のざわめきが大きくて気にならなかったけど、この森、随分と『静か』だよねー……」
「ああ……鳥の声が一つもしない」
エリクも周囲を見渡しながら静けさの原因を口にする。
普通、これぐらい大きな森だったら、小動物だけでなく野鳥の類も多く生息するはずだ。それなのに、考えてみたら僕らは特別棟に来てから一度も鳥の鳴き声を聞いたことが無い。
「小動物はいたから、彼等を捕食しきるような魔物が大発生した――という訳でもないのだろう」
「地を行く獣より空を行く鳥を捕食するほうが難しいと思うんだけど」
「だが、空を飛ぶ鳥の方が素早く遠くへ逃げられる。小動物がまだ残っているのは、単に移動手段と速度の違いでは?」
「単に気づいていないだけかもしれませんよ? 魔物が徘徊するような森にだって、小動物は普通に暮らしていますし」
僕らはそれぞれ護身の剣に手をかけながら口にする。
視線で互いに死角を確認し、僕はややあってから周囲に声を放った。
「――ところで、周りに寄ってきている生徒達。何の用かな?」
僕の声に、少し離れたそこここで狼狽える気配がした。さっきからじわじわと近づいてきていた気配だ。最初は僕らと同じように森に薪拾いに来ただけかと思ったんだけど、それなら自分達の仕事に精を出すはずだし、変に隠れながら近寄ろうとするはずがない。
「気づかれてることにぐらい、気づいたよね? 薪を拾ってるだけにしてはおかしな動きをしているけど、隠れながら追いかけっこしたいのかい? 僕らも暇じゃないんだ。用があるならきちんと出て来て言ってくれないかな? ――さもないと、精霊に暴いてもらうことになるよ?」
「ま、待って!?」
呼び出したばかりの精霊にお願いするより早く、茂みから女生徒が出て来た。三人組だ。他にも視線を向けると、そそくさと離れた一部の人以外は警戒しながら出て来る。男女四人組と、男のみの二人組だ。
「――で? 何か用?」
「――レイナード先生と! スコット先生がいない件でッ!!」
女生徒三人組の一人が、思いつめた顔で叫ぶ。
あー……本当にいたよ。噂に惑わされた人……
やっぱりレティシア様をベース地に残しておいて正解だったね。
「レティシア様が関わってるって、本当ですか!?」
「そんなわけないでしょ? レイナード先生がレティシア様と合宿中に話したの、課題の最中だったんだよ? それに、話してる姿は沢山の人が見てる。おかしな言動なんて無いのは、見てた人達がよく知っているはずだよ」
「でも! レティシア様と話してる最中に、先生がおかしくなったって……!」
「おかしくなったわけではない。俺はその様子を見ていたが、あれは単に先生が自分の中の知識と、レティシア様とアリス嬢から教えてもらった知識の違いに衝撃を受けて、自分の考えに没頭してしまっただけだ。それをレティシア様の咎だと言うのはおかしいだろう」
「でも……!」
「誰かが何かあった時、近くにいた人や最後に会った人が疑われるのはよくあることだけどさ、確証も無いのに疑うのっておかしいよね? そもそも、どうやってレティシア様が先生を動かすの? 僕らには想像もつかないんだけど?」
「ですが! レティシア様は、人の心を操っておしまいになる、って! そう、噂で……」
「は?」
「はぁッ!?」
ポカンとした僕らの声を吹き飛ばす勢いで、マリア様が素っ頓狂な声をあげた。
「レティシア様にそんな特殊能力あるわけないじゃない!」
「な……何故、貴女がそんなことを知っていらっしゃると言うの!?」
「普通に考えてありえないでしょ!? そっちこそ、なんでそんなありえない嘘信じたのよ!?」
「そ、それは……」
女生徒はチラッと殿下を見た後、僕とエリクを交互に見つめた。……え? 僕ら?
「お、お二人は、一時マリア様とご一緒だったはずですわ! それなのに、いつの間にかレティシア様のお味方になっていらっしゃるではありませんか! あんなに離れていたのに! だから何か魔法を使われたに違いないと、噂で聞きましてよ!」
「え」
えええ~? 僕らのせいなの!?
誓ってレティシア様は何もしてないっていうのに、僕らのせいでレティシア様が誤解されちゃったの!?
――あ、エリクがあまりのショックに硬直しちゃってる。
そしてマリア様がまた顔を覆って蹲っちゃった。
「……クルト。エリク」
ちょっと殿下!? なにその困ったような疑いの目! レティシア様は何もしてないよ!?
一瞬詰め寄ろうかと思ったけど、殿下より問題な相手がいると踏みとどまる。殿下! 変な勘繰りはやめてよ!?
そして疑惑いっぱいの令嬢の方に視線を向けた。
「そんな与太話を信じないでくれないかな!? あと、僕がレティシア様の近くにいるのはユニが近くにいるからであって、別にレティシア様が目当てってわけじゃないから!」
「なに? ――つまり、クルトは、モティフ伯爵令嬢と……?」
あ。しまった。
――いや、いいか。うん。レティシア様が変に誤解されたままよりはいいよね!
そして反応をしたのは殿下の方で、令嬢はポカンとした顔になっている。
「え?……え?」
僕が一緒にいる相手がレティシア様でなくユニなのが意外なのだろうか? おかしいな、僕、ダンスパーティーでユニとペアだったはずなんだけどな。まさか、僕もユニもレティシア様の配下みたいな感じで、だから一緒にいたって思われてるんだろうか? レティシア様、どんだけ裏ボス扱いなの?
「あー……それに加えて、俺もレティシア様と一緒にいるというよりは、その、シュエット殿と一緒にいるのだが」
「お前、いつの間にフォンテーヌ侯爵令嬢と……」
「殿下がマリア様と懇意になられた後です」
「あ、ああ……」
エリクのジト目をくらって、殿下がちょっと目を泳がせた。うん。今だから言えるけど、僕達、初恋はマリア様だからね。そもそも、出会って数ヵ月でラブラブになってる殿下に、僕らの恋愛事情をどうこう言う権利は無いからね。
「えーと、つまり、本当にレティシア様は何も関係ない、ということでいいか?」
今まで黙っていた男性二人組の一人が声をあげた。エリクほどではないけど、体格がいい。
「全く関係無いな。彼女をよく知っている我々からすれば、そんな疑いをもたれることすら腹立たしい」
「そうか……すまなかった」
エリクの断言に、二人組はそう言って僕達に頭を下げて去っていった。たぶん、彼等はスコット先生を慕ってる人達だろう。スコット先生は面倒見のいい騎士科の先生だから、彼のような騎士を目指す生徒は多いと聞くし。
「――で、君達は納得してくれたの? それとも、納得してくれないの?」
「あー……すまん。俺は、まぁ、納得した」
「…………」
男女四人組の方は、男子生徒は納得したみたいだけど、女生徒は微妙に納得してない顔だね。……なんかもう、面倒だなぁ。これだから恋愛が絡む問題は嫌なんだよ。道理が通らないから!
「あのさ、君達が勝手に想像して、勝手に決めつけて、何の確証も無いのにレティシア様を悪く言うの、君達は自分の自由だと思ってるかもしれないけど、違うからね。君達の言動には君達の実家も関わってくるから。そのつもりで頭を冷やして自分の言動を考えてみるといいよ」
「え……何、を?」
「君は、何もしてない公爵令嬢を、自分の勝手な想像で糾弾するのかい? 何の証拠もなく? それがどういうことなのか、まさか理解してないわけじゃないよね?」
「え……」
「レティシア様自身は身分をさして気にしないおおらかな人だけどね、だからといって無実の罪を着せられて、家族やその周りの人が黙っているなんて、そんなことありえないよね? 君に家族がいるように、レティシア様にも家族がいるし、彼女を慕う家人も多くいるんだ。学園にいると忘れがちになる人が多いけどね、自分の言動には自身の立場に応じた重い責任が伴うんだよ。君の発言は、君の家の発言だ。君が考えなしに行動をすれば、その咎は君だけじゃなく君の家にまで及ぶんだよ。分かる?」
僕の指摘に、女生徒は顔を青ざめさせて震え出した。少し薬が効きすぎたかな……?
「分かったなら、これからは確証のない噂なんかに振り回されず、自分の課題に取り組むのを優先して。僕らからレティシア様にいちいち報告したりしないから、君達からもレティシア様に変な絡み方しないで。僕らは真面目に課題に取り組んでいるんだ。いちいち噂をたてられり、噂に踊らされた人を相手にしないといけなくなったりするのは迷惑だよ」
「あの、それは……レティシア様に関わらなければ良いのでは……」
「あのさ、なんで君達に友達付き合いをとやかく言われないといけないの? 友達が勝手な憶測と自分勝手な嫉妬で悪い噂をたてられるのは、友達本人のせいじゃないでしょ。僕は僕の友人がどんな人なのか知ってる。君達が何を信じようが、僕は僕の知っている友人を信じるよ。これ以上、僕の友人のことを悪く言うつもりなら、僕は君達を許さないよ」
ここで杖や剣に手をかけることはしない。それをすれば、武力による脅しだ。彼女達がまだレティシア様に疑いをもっているなら、またレティシア様が悪く思われてしまうかもしれない。
……それにしても、なんでレティシア様が人の心を操れるだなんて噂が出て来るのかなぁ……?
そもそも、そんな魔法が実際に実行されたなら、学園の方が反応するだろうに。
それに、レティシア様だってそんな魔法が使えるなら、他の誰よりも早く爺やさんに……いや……爺やさんなら……効かないかな……?
「分かったなら、散って。僕はもう、君達の顔なんて見たくもない」
軽蔑の視線を隠さずに向けると、女生徒達が弾かれたように走り去った。同じパーティーなのだろう男子生徒もそれに続く。
残るは最初に声をぶつけてきた三人の女生徒だけど、三人とも固まって震えていた。レティシア様の誤解が解けたかどうかは分からないけど、少なくともこれ以上僕らに疑問をぶつけても意味がないと分かって――くれるといいなぁ……
「エリク、行こう。薪もそこそこ集まったし。ユニ達が待ってる」
「ああ……そうだな」
僕らは抱えていた枯れ枝を持ち直すと、殿下達に視線を向けた。
殿下はちょっと驚いた顔をしていたけど、マリア様は何故か親指をたてて素敵な笑顔をされていた。マリア様……
「あっ、そうだ。レティシア様にこれ」
何を思い出したのか、マリア様が肩掛けカバンから小さな袋を取り出す。けっこう中身が詰まっているらしく、ゴツゴツと膨らんでいた。
「ベリー見つけたから。あと、兎、いる?」
ああ、そう言えばレティシア様がご飯に苦戦しているの、マリア様は見てたんだっけ。
「ベリーは有り難く頂戴するね。ありがとう。……兎は、マリア様達で食べて」
「そう? じゃあ、こっち捌いて串にするから、必要なら言ってちょうだい」
……捌くのもマリア様がやるのかなー?
「じゃあ、私達も枯れ枝集め終わってるし、帰りましょうか、殿下」
「あ、ああ」
帰る場所がほぼ一緒なので、僕達は纏まって帰路につく。マリア様が手に持っていた首無し兎は殿下が持つことになった。……あ、臓物取り出すの? そうだね、ベース地でやるより森の中でやって穴の中に埋めたほうがいいよね。
手早く精霊術で穴掘りして兎の臓物を撤去している殿下の手並みを拝見していたら、マリア様が物凄い勢いでベース地の方を振り返った。
「精霊!」
「え?」
驚いて同じ方向を見たとたん、森の向こう側が一瞬で光に包まれた。