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強化合宿5


〇side:クルト





 薪を集めて帰ってきたら何故か隣のベースに殿下達がいた。

 ……何故、わざわざ死地に飛び込むの……?

 話を聞いてるとどうもマリア様がベース地を選んだらしい。マリア様、相変わらず肝っ玉が座ってるね。

 ユニとシュエット様はピリピリしてるけど、レティシア様とアリス嬢は穏やかだ。ついでに和やかにマリア様と話したりしてる。……レティシア様、本当に寛大な方だなぁ……


「よし! 出来たわ!」

「あー! マリーちゃんの方がちょっと早い!」

「ほほほほほ、炒め物は早いのよ! ……というか、そっちもほとんど焼けてるんだから一緒に呼べばいいんじゃない。声かけるわよ。先生! 二パーティー、食事が出来ましたのでどうぞ!」

「まぁ、マリア様、うちの分までありがとうございます」

「くぅ……笑顔眩しい……べ、別に貴方のためじゃないんだからねッ」

「マリーちゃん、ツンデレになってるよ、特に顔」

「指摘しないでくれる!?」


 マリア様、顔がまんざらでもなさそうな照れ顔になってるからねー……ユニとシュエット様が呆れ顔になってるよ。

 先生方が来るまでの間に、パーティーメンバー分の料理はそれぞれの食器に確保しておく。残りを先生方が試食して加点が決まる――んだけど、レティシア様、ご自分の分量、少なくない?


「レティシア様、小食ですね……?」

「……粗食だけど、食べないとこの先やってけないわよ? じゃなかった、やっていけませんわよ?」


 目敏く見つけたアリス嬢と、何故かマリア様が小声でレティシア様に注意してる。レティシア様は困り顔だ。


「私はこれで大丈夫ですわ。食べられない量を確保しても逆に減点になりましてよ?」

「そりゃそうだけど……」

「マリア。レティシアがそれでいいと言っているんだ。他所のパーティーにあまり口出しするな」


 殿下がマリア様を引っ張って行っちゃった。さっきから自分よりレティシア様やアリス嬢と話しているから気に食わなかったんだろうね。相変わらず子供っぽいなぁ。


「レティシア様、本当にその量で大丈夫か?」

「ええ。もともと、爺やの作るご飯以外はこれぐらいの量しか食べていませんでしたから、私にとっては普通なのです」


 ああ……あの爺やさんの美味しい料理に慣れてたら、他の料理は確かに辛いよね。


「……むしろ、申し訳ありません。せっかく皆で作った料理だというのに、私は……」

「謝らないでくださいませ。慣れないものを無理に最初から大量に口にするのは難しいものですから」

「そうですわ。レティシア様の食が本来細いことは爺やさんからもこっそり教えていただいております」

「そうですよ! 爺やさんからご飯についてのアレコレはちゃんと聞いてますから!」

「……あの……うちの爺や、どこまでどんな風に話しましたの……?」


 女性陣がスゥーッと視線を逸らした。何をどれだけ聞いてるのかなー?


「そ、それよりエリク様やクルト様はそれだけで大丈夫ですか!?」

「そうですわ。殿方ですし、もう少しお食べになるのではなくて?」

「いや、こちらもこれぐらいで大丈夫だ。戦闘を行いだしたらもっと食べるようになるが、今はそれほどでもないからな」

「あんまり必要以上に食べると、頭や体の動きが阻害されてくるからねー。これぐらいで丁度いいよ」

「それなら良いのですけれど……」


 心配顔の女性陣に大丈夫だと太鼓判を押すと、困ったような心配そうな顔で微笑まれてしまった。うーん。僕ら、どれだけ食べると思われてたんだろう? 今でも女性の倍ぐらい食器に盛り付けられてるんだけどな。

 ふと見れば、殿下達のパーティーでも似たようなやりとりをしてた。恐縮する他メンバーに殿下やマリア様が遠慮せずにちゃんと食べろとすすめているみたいだね。

 それぞれがちゃんと納得した量を食器に確保した時点で、先生方が到着。……先生達、地味に歩調を調整して皆が落ち着くタイミングで着くようにしていたみたい。たぶん、僕らの会話もしっかり聞いてただろうね。こういうのも、成績に響いたりするんだろうなぁ……


「二パーティー分ということで、十人で対応する」


 あれ、意外と多く来ちゃった感じ。まぁ、先生方も時間を調整しあいながら食事しないと生徒に対応できないもんね。何故か有名どころの先生方が集まってる気がするけど……あ、マリア様の上級精霊召喚のせいか。あれ? 巻き込まれちゃった?


「肉と野菜のスープに、肉と野菜の炒め物。材料は全部使っているな」

「こちらは肉と野菜のスープに、肉と野菜の串か。材料も全部使っている。……うん? これは山菜か。ちゃんと食用を見分けて入れてあるな」

「こっちのパーティーのスープにも茸が入っている。食用を見分けているな」

「――ああ、ほら、お前達も自分の分を食べておくように。時間は有限だ」

「あ、はい」

「いただきます」


 先生方に言われて、思わず採点を眺めていた僕らは食事を開始した。……うん。爺やさんの料理とは比べるべくもないけど、普通の味だね。スープが体に染み渡る~。


「味も悪くないな」

「最初にしては上出来でしょう。どちらのスープも美味い。きちんとあく取りも出来ているようですね」

「まぁ、最初は食材を学園で用意しているからな。問題は明後日からか……」

「ゴホンッ。生徒の前で言うようなことではありませんよ」

「ああ、すまん。……うん。炒め物も串も美味いな。香辛料の使い方がいい」

「明後日以降も期待していよう」


 先生方が気にしてる『明後日以降』というのは、学園が食材を提供するのが明日の夜までだから。

 明後日以降は午前中に狩りをして自分達で食糧を確保しないといけない。そのため、今日明日で野生動物の動向を調べたり、どんな罠を仕掛けて獲物を捕るか等を考えないといけないんだけど……

 先生方としても、下手をすれば――というか、大半は――ろくに下処理も出来てない不味い料理を食べさせられることになるんだろうから、そりゃ、憂鬱だろうねぇ……

 ちなみに、生徒たちは作った料理を全部食べないといけない。食べ終わるまでが課題に含まれるからね。

 そのため、加点を狙って多めに作りすぎたのに不味くて先生方がほとんど食べなかった場合、お腹いっぱいだろうが不味かろうが残ったものも全部生徒が食べないといけない状態になる。レティシア様達や殿下達は味にも自信があったから材料全部使ってけっこう多めに作ったんだけど……この調子なら、大丈夫そうだ。先生方も『味見』だけじゃなく、一人前分ずつぐらいパクパク食べてくれてる。

 これが不味い料理だったら、ちょっとの味見分だけ食べて放置されるからねー。


「……現状で課題に足止めをくらっている場合、下手をしたら食糧難になるわけか……?」

「エリク・バルバストル。その心配は杞憂だ。基本課題をこなせられない者は、次のステップには進めない。すなわち、食糧確保を前提とした課題に進めないということだ。その間の食材は学園が提供する」

「……成程。ご回答ありがとうございますレイナード先生」


 エリクがつい零した疑問に答えてくれたレイナード先生は、女性のような整った顔の魔法科の先生で、主な受け持ちは精霊術だ。一年生の僕らだと合宿以降に関わることが多くなる先生らしい。――このあたりの情報はマリア様からの受け売りだけど。

 綺麗な顔の先生だから、マリア様も気になっていたのかな?


「ところで、マリア・ニンファ。あの精霊術は何処で学んだ?」

「ぅぐ」


 ……あれ、なんだろ? 殿下達のパーティーがピキーンッて固まった。

 マリア様は――微妙に嫌そうな顔してる? あれ? なんで?

 僕達はと言えば、ご飯をもぐもぐしながらそんな彼女達を興味深げに眺めている。

 物見高くて、ごめんね!


「……精霊術の基礎は学園の先生方に学びましたが?」

「それだけで上級精霊を呼び出せるのなら、たいしたものだ。学園の授業がそれほどに高い水準であるのなら喜ばしい限りだが、この時期に君以外に上級精霊を召喚出来た者はいなくてね」

「……技術は『呼びかけの方法』です。それを踏まえて、きちんと精霊と向き合い、気持ちを通わしあい続ければおのずと高みにいたります。学園の授業以外でも、練習場を借りればいくらだって練習は出来ますから」


 練習場というのは校内の一角にある精霊術用の練習場だ。魔法の余波が他に及ばないよう、常に結界が張られていて、使用するのには申請書が必要。僕らもかなりの頻度でお世話になってるけど、マリア様もけっこう通ってたんだよね。練習場はかなり大きいし、個室もあるし、他にも人がいっぱいだから鉢合わせなかったけど。


「……ふむ。無詠唱はどこで学んだ?」

「独学です」

「……何かの書物か?」

「いえ、精霊術に慣れた頃から、呪文を少しずつ短くしていきました。絆が出来た今なら無詠唱でも応えてくれる精霊が増えたというだけです」

「ほぅ? それは新しいな。具体的にはどんな絆だ?」

「レイナード先生。こちらは今食事中なのだが?」


 身を乗り出したレイナード先生に、殿下が厳しい声をあげた。はっきりと顔をしかめている。


「課題をこなすため、午後からも頑張らねばならない学生の食事の邪魔をするのが、この合宿のやり方ですか?」

「……いや。すまなかったな。性急だった。珍しいやり方なので教えてもらえればと気がはやってしまった」

「……いえ」

「マリア・ニンファ、課題を終わらせた後で私の所に来るといい。新しい無詠唱の法則に興味がある」

「レイナード先生。一人の女生徒を自身の興味で呼び出すのはやめていただきたい。合宿はまだまだ続くというのに、負担を増やすつもりか!?」

「技術点として加点を考えているのだがね? そもそも君はパーティーリーダーではあるが、マリア・ニンファの行動を束縛する権利など持っていないだろう。精霊術の向上と発展は何より優先されるものだ。君がどうこう口出しする問題ではない」


 ……うわぁ……先生と殿下でマリア様を巡って火花が散ってる。

 ユニ達だけでなくレティシア様達も目をキラキラさせてるや……皆、自分以外の人の修羅場が好きすぎない?

 殿下達のパーティーはものすごい困り顔だね。大変そうだなぁ。

 さて、マリア様はどう答えるんだろう?――と、興味津々で見ている僕らの前で、マリア様は微妙に表情を消して答えられた。


「あの、申し訳ありませんが、レイナード先生。私はこの合宿内の時間全てを使って今ここで学べる新しいものを学びたいので、時間を無理に作るのは厳しいです」


 ……あれ。マリア様、断っちゃうんだ?

 以前のマリア様は、レイナード先生にもちょっと興味ありそうな感じだったんだけど……


「少しの時間もとれない、と言うのかね?」

「この特別棟近辺で学べるのは、この合宿期間中だけです。睡眠時間を除く全てをここで学ぶ新たなことに使いたいですワ。先生の質問で、先生が満足するだけの回答を私が答えられるまでに、どれだけ時間がかかるか分かりませんから」


 ちょっと意外そうな顔をしていたレイナード先生が、何に思い至ったのか苦い顔になり、納得したように頷いた。

 ……まぁ、この先生、自分が納得できるまでこんこんと説明を求めるらしいからねー。それに付き合わされてたらどれだけ時間をとられるか分かったもんじゃないよね。一応、先生も自覚はあるみたいだし、渋々納得したみたいだね。

 他の先生方も苦笑してるや。レイナード先生、他でもやらかしたでしょ。


「学生の自主に任せるのが合宿の方針だ。レイナードも諦めるんだな」


 笑って言うのはスコット先生だね。ちょっとモヤッとした感じになりそうなその場の空気をカラッと変えてくれた。いい先生だ。体術の授業の時は鬼みたいに怖いけど。


「しかし、スコット。新しい技法が確立できれば、他の生徒達も可能になるかもしれないだろう」

「それで一週間しかいられない生徒の貴重な合宿時間を束縛するっていうなら、流石に見過ごせないぞ。そもそも技術は自ら編み出すものだ。他人の技術を盗んだところで、それが自分に合うかどうかも分からない。基本的なことは今さっき聞いたんだ。自分で試してみたらいいんじゃないか?」

「私はすでに無詠唱出来る」

「じゃあお前のやり方を生徒にすすめればいいじゃないか」

「魔術式の構築を出来る生徒は稀だ。それ以外の方法もあるなら広く普及させるべきだろう」

「だーから、魔術式の構築をせずにマリア嬢のやり方を真似してみればいいじゃないか。それで多少なりとも手応えを感じるかどうか分かるだろ? 教師が学生の成長を妨げてどうする」

「いつ私が成長の妨げをした!?」

「時間いっぱい学ぶことに費やしたいっていう女生徒に自分が納得できるまで話す時間を作れって言おうとしてたじゃないか。ついさっき」

「ぐ……だが、出来るだけ早く新しい技術の確立をしなければならないだろう!? お前とてあの話は聞いただろうが!」

「レイナード先生。生徒達の前です」


 それまで呆れ顔で二人の先生の言い合いを聞いていた年配の先生が、僕達がビックリするぐらい厳しい声を出した。

 ……え。何?


「技術の確立も大事ですが、今は学生が自主的に学び育つのを見守るべき時です。そこまでにしなさい」

「……はい」

「すみません。……ああ、君達も驚かせて悪かったな。食事が終わったなら課題を受け付けるからいつでも来いよ?」

「あ、はい」


 スコット先生が困ったような苦笑を浮かべて僕らや殿下達のパーティーに声かけし、レイナード先生の背を押すようにして離れて行った。

 うーん……?


「ビックリいたしましたわね。レイナード先生、あんな先生でしたの?」

「どうにも急ぎすぎているというか、焦っているような気すらするな」

「あの話、というのも意味深ですわ」


 シュエット様達が顔を見合わせて首を傾げる。どうも先生方しか知らない何かがあるっぽいね。


「大丈夫か? マリア」

「え、ええ。大丈夫です殿下。……レイナード先生、あんな性格だったかな?」


 マリア様が首を傾げている。――と思ったら何故かアリス嬢のところに走って来た。


「――どう思う?」

「マリーちゃん、上級精霊召喚で目をつけられちゃったねー」

「あんたねぇ! あんただってやろうと思えば出来るでしょ!?」

「おーっと、私はモブに徹することにしたからやんないよー」

「やっぱ出来るんじゃない! 本気でやんなさいよ! あたしばっかり目立つでしょ!?」

「私がやると悪目立ちどころじゃなくなるじゃない。一般庶民だから貴族からの圧力きたらうちのお父さん達大変だよ?」

「……それもそうね」


 ……仲、良いね……?


「ぐぅ……気合い入れて勉強に打ち込もうとした途端にフラグ立つとか……!」

「やっちまったなぁ!」

「イイ笑顔で言ってんじゃないわよ!? 自業自得だけど!」

「あまりにも目に余るようでしたら、私の方からも手を回しますわよ?」

「ふぉ……!? レ、レティシア様に何かしてもらうわけにゅはいきませんわ!」

「マリーちゃん噛んでる」

「指摘しないでくれる!?」


 ……なんだろう。アリス嬢といると、マリア様が年相応に見える。僕らといた頃は、何の迷いもなく思うまま自由に動いてた感じだったけど……


「マリア」


 あ、殿下が呼んでる。わぁ、不機嫌そうな顔。

 マリア様はちょっと名残惜し気にしてからそそくさと殿下の所に戻っていった。アリス嬢とレティシア様が手を振ってる。


「……あの方、どういうおつもりかしら?」


 ユニはものすごーく微妙な顔だね。おさえておさえて。シュエット様も渋いお顔をされてるけど。


「マリア様、面白い方ですわねぇ」

「慣れるとあの特徴がクセになるんですよね。彼女はレティシア様相手にはツンデレですから」


 一番衝突が多かったはずの二人は何故かほんわかしてるけど。

 ところで、レティシア様、食事が止まってませんか?


「ちょ、ちょっとお待ちになってね? あとちょっとですの……」


 串は鉄串から外したお肉をちまちま食べ終わってたみたいだけど、スープに難儀してるみたい。眉に皺をギュッと寄せて一生懸命飲み干そうとしてる。

 少量で正解だった。これが普通の量だったら、下手すると居残りだったかもしれない。

 僕とクルトがちょっと目配せし終わったあたりで、微妙に涙目なレティシア様が食べ終わった。

 さて、午後からは波乱なくやれるかな?








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