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卵黄のセミフレッド

感想、誤字報告ありがとうございます!

返信が出来なくて申し訳ありません……


今回はより深いワールド&学園説明回です


〇side:爺や



 今日は所用で店を離れますから、お嬢様がおいでになる時間にあわせてデザートを作っておきましょう。

 作るのは、卵黄のセミフレッドです。

 今日は卵の良いものが手に入りましたからな。

 まず、ボウルに卵黄、砂糖、白ワインを入れ、バニラビーンズを開いて中の種をこそげて加えます。

 ふぅむ。良い香りがしますな。

 湯煎にかけながらもったりするまで泡立てたら、今度は氷水に当てながらとろみがつくまでゴムべらで混ぜます。

 別のボウルに生クリームと砂糖を入れ、七分立てに泡立て。とろみ加減は先のものと同じぐらいで。

 先のものを後のボウルに加え、気泡を潰さないように混ぜます。

 後は冷やすだけですので、可愛らしい型を用意いたしましょう。

 型に霧吹きで水を吹き、ボウルの中身を入れ、冷蔵庫へ。六時間以上冷やし固めたら完成です。

 ソースはどうしましょうかな。……ふむ。キャラメルで作ることにいたしましょう。

 ――さて。では、行きましょうかな。






 学園内。大聖堂。

 ステンドグラスから差し込む光が聖堂に様々な色を投げかけています。

 天井は高く、柱は太く。施された彫刻は王宮にも負けないほど華やかで美しい。

 学園の中でここだけが異様なほど贅を凝らしていますが、その理由は聖堂の両壁にあります。

 聖堂の両壁にあるのは幾つもの像。

 各精霊王を(かたど)ったとされる精霊像です。

 とはいえ、精霊王本人の姿というわけではなく、スティーブ曰く、初代精霊契約者が精霊王達の依頼を受けて依頼通りに造ったもの、なのだそうです。数十ある像の全て女性型な時点でお察しですが。

 まぁ、目に嬉しい姿形をしておりますから、男の精霊王から不満の声が出るということは無いでしょう。姿形に拘るのは主に女性のほうですからな。


 そんな見目麗しい女精霊王達が見下ろす地上では、百を超える男女が立っています。

 落ち着かなげに知り合いと固まっている者、端然と佇んでいる者など様々ですな。

 私はといえば、気配を殺してこっそりとそんな彼らを眺めております。

 そう、学園長(スティーブ)の名で集められた教員達一人一人を。

 懐かしい顔もあれば、知らない顔もありますなぁ……。旦那様が学生の時分に若手だった者も、今ではベテラン教員となっているようです。あの怒涛の日々が懐かしいですな。


 今日は学園もお休みということで、ほぼ全ての教員が集まっているとか。

 お嬢様のいない学園に来ても楽しみはありませんが、これがお嬢様の成長のためになると思えばそれだけで幸福ですな。

 願わくば大聖堂に掲げられている大地の精霊女王像のようなお胸への成長も願いたいものです。……あ、涙が。


「さて。皆も集まったことだし、始めるとしよう」


 スティーブの声に、周囲の視線が大聖堂中央に集められた数名に向きました。

 身を震わせているのは、お嬢様に決闘を申し込まれた教員と、三名の教員と思しき男女です。……その男女はどこから引っ張って来たのですかな?


「生徒から優秀な者を選び、下級生達の指導にあたらせるという試みについて。選出に際して不正があったことが発覚した。そこにいる四名は、実家や一部の家の者からの指示に従い、選ぶべき者を選ばず、本来なら選ばれるべきではない者を選んだ。よってここに、教員免許の剥奪と学園追放を命じる」

「お待ちください! いくらなんでも、突然、こんな……!」


 冷厳としたスティーブの声に、見たことの無い顔の男が異議を申し立てております。

 スティーブのことですから、念入りに証拠を集めているとは思いますが……さて、どうするのでしょうな。


「確かに、優秀な者を選ぶとき、どちらかを選んでどちらかを選ばないというときに、他の意見を参考に聞いたことはあります! ですが! それが間違っていたとは思いません!」

「ほぅ。特定の生徒に色目を使う生徒を選んだという事実が、間違っていなかった、と?」

「ッ!!」

「まして、貴殿の受け持っていた生徒の中には、他に優秀な成績の者がいたにも関わらず、明らかに成績が落ちる者を選んでいた。……両者の資質の差は歴然。それほどに差があるのに、選ぶ選ばないで悩む必要など無かったはずだ」

「い、いいえ! 確かに優秀さを成績のみで決めるのであれば、そうでありましょう! ですが!! 多くの貴族の子女がいるクラスに、庶民の出である者を向かわせるわけにはいきません!」

「そうです! それこそ問題になるではありませんか!」


 おや。身分を持ち出してきましたか。

 スティーブの目がいっそう冷ややかになりましたな。


「礼儀作法の成績も実に優秀な者だったと思ったが?」

「ぅ……ッ!」

「最上級生として、学び舎で研鑽(けんさん)をつんできた我が校自慢の生徒に、貴族では無いからと切り捨てられる程度の者が混じっているのだとすれば、それは教鞭をとった者がよほどに愚劣だったからにすぎん。違うか?」

「……ぐ」

「我々教師は生徒一人一人を分け隔てなく教え導かなくてはならない。そうでなければ、偉大なる精霊王との契約を結ぶ英雄を育てることなど不可能。生徒の資質を見ぬき、その才覚を伸ばしてやるのが我々の役目だ。にもかかわらず、ここに貴族社会の(しがらみ)を持ち出す愚か者がいる。……此度の件、すでにそれぞれの家の主、および王家にも知らせてある」

「そんな……!」


 全員、顔色が変わりましたな。

 まぁ、教員免許剥奪のうえ学園追放だけでもかなりの不名誉だというのに、貴族社会からも追放される可能性が高くなった、と思ったのでしょう。

 ――正確に言えば、学園を追放された時点で社会的に抹殺されることが決まったようなものなのですが。どうもその認識が足りていないようですな?

 ……それにしても、私がここにいることに誰も気づいておりません。

 旦那様の時代と比べて、教員の質も下がったものです。おっと、そちらのレディ。誰も見ていないからとタルトを頬張るのはおやめなさい。私が見ていますよ。


「この世界に暮らす者にとって、精霊王との契約は至上の命題。それを妨げるような愚かな行為をとったのだ。厳罰は当然だろう」

「た、たった一度のミスでこのような処分を受けるのは、あんまりではありませんか!?」

「他にも、同じような者はいたはずです! 私とその者の違いが分かりません!」

「学園長! ご再考を!」

「お願いいたします! 学園長!」


 必死に訴える四名をレディと共にタルトを食べながら眺めます。

 ふむ。このタルトはなかなか美味しいですね。ああ、レディ。周囲を探さなくてもタルトは落ちていませんよ。今頃私の胃の中です。味は覚えましたので今度お嬢様にも供してみましょう。


「学園長、一つ質問をよろしいですかのぅ?」


 キョロキョロしているレディの隣、教員のなかでは最高齢であろう紳士が声をあげました。

 懐かしいですな。旦那様が学生の時分にさんざん迷惑をおかけした御仁です。まだ現役で教えておられたとは、頭の下がる思いですな。


「なにかな、セサル殿」

「選考に不正があった、ということじゃが、それだけが全てでは無いように思われる。多少の目こぼしや贔屓は他にもあるじゃろう。身に覚えのある者も多いのではないかな? なのに、その四名に対しては厳罰に処すという。基準を明確にしていただかなくては、皆も落ち着かぬじゃろう」

「基準――か。よろしい」


 スティーブが重々しく頷きます。そうして右手を上げた時、スティーブの右手側に淡く輝く女性が現れました。

 ――おや。


「精霊……!」

「氷の上級精霊……!」


 人々がざわめきます。

 これは、これは。――成程。そういうことですか。


「『精霊の怒りに触れた』。言うなれば、そういうことだ」

「!」

「この世界に生き、なにより、この学園で教鞭をとる限りは、精霊とはどのような存在なのか知っていよう。彼等無くして今日の世界はあり得ず、我らの生活、いや、生きる事さえままならぬのだということを。――その精霊の怒りをかうということがどれほどの意味をもつのか。わかるな?」

「…………ッ」


 四人が血の気の失せた顔を俯かせ、セサル殿は重く頷きました。


「成程のぅ。精霊が怒れるほどのことをしたのであれば、厳罰もやむを得ないじゃろうな」


 この世界にとって、精霊とは『魔法の行使に力を貸してくれる』だけの存在ではありません。

 この世界の存在そのものが、精霊の協力によって成り立っているのです。

 精霊の協力がなくなれば、地は腐り、風は濁り、水は乾き、火は絶え、あらゆる物質は存在を許されなくなり、世界はそこに住まう者達ごと消滅するでしょう。

 かつては、この世界のために数多の精霊が力を貸していました。

 ですが、今では力を貸す精霊は減る一方です。

 理由は幾つもありますが、最たるものは精霊がこの世界への愛着と関心を無くしていったためでしょう。


「――連れて行け」

「ま……待って! お待ちください……!」


 淡々としたスティーブの声に、姿を消して四人の近くに立っていた兵士がそれぞれの腕をとり、引きずるようにして連れていきます。懇願が悲鳴になるのを耳にして、何人かの教員が耳を手で押さえました。

 彼女達の姿は、この学園で教師をしていることの理由を忘れ、世俗の欲得で動いた自分達の行く末だと、何人の人が理解できたでしょう。連れていかれる先はおそらく王城か、牢獄か。少なくとも実家に帰らされて故郷で過ごす、といったことにはならないはずです。

 ここが、精霊と人とを繋ぐための場所である限り、

 ここが、精霊に世界の維持を願うための学園(場所)である限り、

 この学園を追放されるということは、世界から追放されることと同じなのですから。

 そしてそれは、例え貴族や王族であっても同じこと。

 精霊の前にあっては、人の子の貴賤などどうでもいいことですからな。


「学園長。質問をよろしいでしょうか」


 静寂が戻った聖堂に若い声が響きました。

 勢い、その場全員の視線がそちらへ向かいます。

 おや。あれは確か、お嬢様の決闘時に立会人をしておられた先生ですな。たしか、スコット殿、でしたかな?


「なにかな? スコット殿」

「お恥ずかしながら、若輩の私は、精霊と人との懸け橋となる若者を育てる一助にならんと思い、この学園の門扉を叩かせていただきました」

「ふむ」

「貴賤を問わず、精霊術を極めようとする子供達を教え導くのが役目だと思っておりました」

「うむ。それに間違いは無い」

「ですが! 私は――私が、思っていた教師としての在り方と、学園長が仰る教師の在り方は、何か――何か、違うような気が、しました」

「……ほぅ」


 スティーブが面白そうにスコット殿を見ております。

 おやめなさい、スティーブ。意地の悪い顔になっていますよ。


「何が、違う、と?」

「その……上手く言えないのですが、先ほどの処罰を見て、違和感を感じたのです。まるで……その……」

「――『まるで、精霊に全てを握られているよう』――か?」

「! そ……そうです」


 スコット殿が小さく頷くのを見て、私は思わずくすりと笑いそうになりました。おっと。いけませんな。気配が漏れてしまいそうです。

 スティーブはゆったりと髭を撫でつけながら間をおいています。

 あれは言葉を選んでいる時の仕草ですな。

 チラリと傍らの上級精霊に視線を向けております。

 おや。精霊に微笑まれて苦笑しておりますな。仲が良さそうで何よりです。


「ふむ……若い世代も増えたことだし、一度きちんと話しておいたほうがよさそうだな」


 スティーブがそう言って、一同をゆっくりと見渡しました。


「悪夢の世代を体験した者は身をもって知っていようが、我々が住む世界は、常にいつ滅んでもおかしくない状況にある。そしてそれは、この世界が誕生した時から続くものだ」

「……え?」

「貴賤を問わず、誰もがおとぎ話として昔話を聞いていよう? 我らの祖先を災禍にみまわれた異界より逃した偉大な王と、滅びの呪いの話を」

「それは……知っていますが」

「あの中には一つだけ、明らかにされていない秘密がある」


 深く頷くのはベテラン組。

 不安そうな顔になるのは若手組。

 ……うぅむ。これはいけませんな。教鞭をとる者ですら、正しい知識が無い者が多いようです。 


「我々が生きているこの世界は――この『プリエール』は、異界からこの場所に飛ばされてきた。この場所――即ち、精霊界(・・・)に」

「……は?」

「この世界はな、浮島なのだよ。アストラル・サイドの精霊界に紛れ込んだ物質世界の一部、それがこの世界だ」

「……ッ!!」

「つまり、分かるな? 文字通り、力ある精霊の恩恵によって、我々は生かされているのだ。その恩恵を無くさないために、人々は精霊に(こいねが)うのだ。精霊の契約が無くなれば、暮らしが貧しくなるのではない。この世界が消えてなくなるのだ。この世界は、精霊の加護と慈悲によって、存在を許されているだけにすぎん。だからこそ、精霊王との契約を人々は望み、だからこそ(・・・・・)、この学園は作られ、長きにわたって運営されてきた」

「では……ここは……」

「最後の砦なのだ。世界を存続させる為の」


 スコット殿の顔からも血の気が引いていきます。

 ううむ。いけません。やる気に溢れていた若人の生気が一気に消えかけているではありませんか。

 仕方がありません。一肌脱ぎましょう。


「あまり苛めるものではありませんよ、スティーブ」


 声を出し、気配を殺すのをやめた私の周囲が一気に騒がしくなりました。


「なァ……ッ!?」

「どこから現れた……!?」

「ヒッ!? 『悪夢』!?」

「『アストルの悪夢』だと!?」

「げぇ!?」


 ……あとでお話がありますよ?


「突然世界の存亡などと言われて、そうすぐに対応できる者などいようはずがありません。せめて手助けができることも教えてあげるべきではありませんかな? スティーブ」


 学園長を呼び捨てるせいか、どよめきがより酷くなりました。


「『悪夢』が人心に配慮している……!?」

「馬鹿な……! 若造だった儂に世界存亡の危機に何をしているかと地獄の特訓を強要した『悪夢』が……!?」


 今から肉体言語を交わし合いますかな?


「皆、落ち着け。――頼むから落ち着け」


 ジロリと一瞥した私をチラチラ見ながら、スティーブが周りをなだめにかかります。

 何故そう私に視線を向けるのですかなスティーブ? 私は落ち着いていますよ。


「ゴホン。……あー……教員歴が長い者には顔見知りもいようが、若い者には初めての者もいよう。このたび教員の特別講師としてアストル家からお招きした。精霊術に関しては儂を遥かに凌ぐお方だ」

「貴族としてのアストル家とは関わりなく、精霊術の向上に関してのみのために参りました故、そこはどうかお間違えなく」


 旦那様が何を言ってきても知らん顔しますからな、私。

 ただしお嬢様に関してだけは別です。


「さて、懐かしいお顔も幾つか見えますが、はじめましての方もそうでない方もご機嫌麗しく。精霊との付き合いを深めるために呼ばれました、私は――そうですな、私のことは『爺や』とお呼びください」

「……何故に?」

「アストル家はどうでもよいですが、『お嬢様の爺や』であることは譲れませんのでな!」


 何故かスティーブに顎を落とされてしまいましたが気にしません。


「皆様方に御教えするのは、ごくごく簡単なことばかりです」


 誰かが「嘘だ!」と叫んでいますが無視します。


「主にはお若い方々の育成にあたることが多いでしょう。――先のスティーブの話は真実です。そして現在、世界が存亡の危機にさらされているのも事実です。教員の方には昨今の奇妙な生徒に心当たりはありませんかな? どこから来たのかは分からないけれど、それなりの素質をもっていて、けれどお遊びのように精霊と契約しては卒業と共にどこかへといなくなる――そんな生徒達に」

「!」

「彼等の行いによって、精霊はこの世界に対しての愛着と関心を失いつつあります。すでに世界のあちらこちらで、その影響は出始めています。今はまだ作物の不作などの異変だけでしょうが、いずれは皆が肌で感じるほどの滅びが世界を襲うでしょう。この学園は、それを防ぐことのできる英傑を生み出すためにあります。貴方方の教えによって、世界の行く末が変わるかもしれません」

「……結局貴殿も脅しているではないかっ」

「なに、心配には及びませぬぞ。不安や心配を覚えないほどに鍛え上げてさしあげましょう。もし貴族や王族の誰かしかが教育現場に口を出してきたなら、そちらも撥ねつけてさしあげましょう。お任せください」

「本当に即座に任せろよ。儂より手早く対処するからな」


 ……学園長なのですからそこは自分も受け持ちませんか? スティーブ。


「ゴホン。まず手始めに、先の四人に道を踏み外させた愚か者を取り除いておきましょう。よい機会ですから、もし圧力をかけられている等のお話がありましたらお伺いいたしますよ」


 さぁどうぞ、と話を向ければ、若手ではなく顔見知りが何人も手を上げました。

 ……本気で世の中が心配になりますなぁ……





〇side:レティシア




 今日は休日ということで、午前中は皆様と一緒に精霊術を練習し、お昼には爺やのお店に向かいました。

 残念ながらアリス様はご用事でおいでになれなかったのですが、明日にはお会いできるそうですので、中断していたダンスのレッスンなども提案してみましょう。次のダンスパーティーではぜひ優雅に踊っていただかなくては!

 ちなみに爺やはご飯を食べている途中で店に戻って来ました。学園の用事で今まで席を外していたようです。

 お仕事、忙しいのかしら……?


「今日はアリス様はいらっしゃらないのですね」


 何故かすぐにアリス様がいないのを見て気がかりそうな顔をします。

 ……特別な意味では、ありませんよね?


「ごちそうさまでした! 今日のデザートも最高でした!」

「ユニ様はいつも美味しそうに食べてくださいますなぁ」

「爺やさんの料理はすごく美味しいですからね! クルト様にも食べて欲しかったのですが」


 ユニ様とクルト様は相変わらず仲が良いようです。うふふ。


「クルト様は、今日はお家のご用事でしたっけ?」

「ああ、東の不作が思った以上に酷いらしくて、食材のルートを新たに開拓するのに伝手を頼っているらしい。東国では一部に餓死者が出たという噂も聞こえてきたが……」


 シュエト様の声に答えられるエリク様は思案顔です。


「少し、動向が気になるな」

「東国はここ数年、良い話題があまり聞かれませんわね」

「北も随分ときな臭いと聞きますわ」

「そのうち王族を留学という名目で避難させてくるかもしれないな」

「学園は疎開先では無いのですけれどね」


 貴賤を問わずですから、学園には様々な国の方々が集まります。ですが、せめてあの学び舎で学ぼうとする限りは、精霊と真剣に向き合おうとする人であってほしいものです。


「きな臭いと言えば、私、お母様から北の辺境伯が代替わりするというお話を聞きましたわ」

「辺境伯が?」

「ええ。まだお若かったと思うのですけれど」


 不思議そうに首を傾げていらっしゃるシュエット様に、エリク様が少し気まずそうな顔をしながら尋ねられます。


「……侯爵夫人が、辺境伯の話を?」

「ええ。以前、あちらから縁談が来ていましたから、だとは思いますが……あ! 昔の話ですわよ!? それに当時断らせていただいてますし!」

「そ、そうか」


 あら~。うふふ。

 私はなんとなく爺やに視線を向けました。

 爺やは優雅な仕草で食後のお茶を入れています。相変わらず素敵ですわね。口にはしませんけれど。


「爺やは辺境伯について何か知っていて?」


 爺やは情報通ですから、何か知っていても不思議ではないのですけれど

 あら? 何故悪戯っ子のような笑みを浮かべられるのかしら?


「きっと、精霊の怒りをかってしまったのでしょう」


 とぼけられてしまいました。

 まぁ、楽しいお話では無いでしょうから、別にいいのですけれど。

 それよりも、この卵黄のセミフレッド、もう一つ無いかしら……?




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[一言] すっげー世界ですな… かなり違うけどアルトネリコの世界を思い出すギリギリさです
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