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Bourreau 1


〇side:レティシア




 ああ! なんて素敵なんでしょう!

 今、きっと! 私はとっておきの笑顔を浮かべていると思いますわ!

 心から!

 ああ!

 心から!!


 嬉しさに涙が滲みます。母様、世の中って本当に捨てたものではありませんわ。諦めずに心を強くもっていてよかったですわね! こんなに嬉しいことが起こるなんて!

 恐ろしいことに、爺やとダンスを踊れたことに匹敵するぐらいの嬉しさです! 殿下! なかなかやりますね!

 ……あら?

 殿下、なんだか変なお顔ですわね?


「お前! 私は、お前との婚約を破棄すると言ったんだぞ!!」

「ええ!! 勿論!! 是非にとも!!」


 ああ! そんなに力いっぱい宣言してくださるなんて!

 聞きまして爺や! 私今一生分の幸福を得ているのかしら!?

 あら? 爺や?

 すごくユニークなお顔をなさっててよ?

 どうしたの? お腹痛いの?

 うふふ。そんなお顔も出来たのね?

 あら? 周りの皆様も変なお顔に?

 どうかなさったの? 皆様もお腹痛いの?

 あ、ユニ様とシュエット様は素敵な笑顔ですわね。

 分かってくださいます? うふふ。やっぱりお友達って素敵ですわね!

 ……私、お友達ですわよね? ね?


「分かっているのか!? 脳内で変な変換をしているんじゃないだろうな!?」


 まぁ!


「あり得ませんわ! 殿下が私との婚約を無くしてくださるのに!」

「……ぇぇ?」


 なにか変な声が聞こえたような?


「……本当に分かっているのか? 僕との婚約の解消なんだぞ?」

「はい!」


 いやですわ! 殿下ったら!

 元からいりませんわよ?


「お……お前……お前は……」

「それよりも、殿下! いつ国王陛下に!? すぐですわよね!?」

「は……ぁ?」

「すぐにでもご連絡いたしましょう! 父や領民には先に知らせておきますわね! 王妃様と王太后様にも申し上げなくてはいけませんわ! ご教育をマリア様にシフトし直さなくてはいけないでしょうから」

「はぁ!?」


 あら? マリア様、どうなさったの?


「な……なに言って……なに考えてるの!?」

「? マリア様が次の婚約者になられるのではありませんの?」

「え……え!? もう!?」


 もう?


「違いましたの?」


 いつも腕に腕をからませていらっしゃいましたし。

 腕をお胸にわざと埋もれさせていらっしゃいましたし。

 つまりそういうことですわよね?

 私はバッチリ見ておりましたのよ? うふふ。別にその胸が羨ましいですとか思っていたわけではありませんのよ? 本当です。爺やに目に物見せてやりたかったわけではありますけれどうふふふふ。

 ……寄せてあげても山が出来ない私では、鶏胸肉を革袋に入れて装着するのが一番手早いかしら……胸肉……鳥……トマト煮込み……


「……いや。違わない」


 あら。殿下?


「私はこの娘を婚約者とする!」


 よし!!!!!!!!!!


「すぐにご報告いたしましょう!」

「「…………」」


 まぁ! お二人揃ってポカンとされて!

 仲がよろしいのね?

 ねぇ、爺や。私もあんな感じで……爺や? どうしたの? 顔を覆ってしまってますけど、お腹痛いの? それとも腰が痛いの?

 駄目よ? 年齢ごまかしても年なんだから。え? 違う?


「……お嬢様……」


 なぁに?

 あ! 爺やも先程のドリンクをいただきませんこと?

 とても美味しくて気持ちがふわふわするのよ?

 ああ、こんなに幸せなことが起きているのですもの、もしかして私は夢を見ているのかしら?

 それなら、このふわふわとした気持ちよさも納得ですわね!

 ……一生覚めなければいいのに……


「分かったぞ……お前、そこの男といい仲になったのだな!?」

「いいも悪いも元々我が家の人間ですわよ?」


 ものすごいどよめきが起きました。

 公爵家の人間!? とか。

 どこの家だ!? とか。

 いいえ、私の爺やです。


「ねぇ、じ――」

「お嬢様。私は本日でこの地よりこの姿を消す者であることをお伝えすべきだと思いますが」


 あら。爺やが私の言葉を遮るなんて珍しい!

 もっと違うところで積極的になってくれたほうが嬉しいのよ?

 ああ。でも、そうね、そうね。

 その姿は仮のものですものね!


「ええ! あなたは早く(元の姿に)戻るべきだと私も強く思いますわ!」

「心の底から本音ですなぁ……」


 爺や。なぜ寂しそうなお顔なの?


「私は私の爺やがいてくだされば他には何もいりませんもの」

「……敵いませんなぁ……」


 爺やがなんとも言えない微苦笑です。

 そのお顔も私、大好き!


「では、名残り惜しゅうございますが、私はそろそろおいとまいたしましょう」


 こればかりは変わらない穏やかな微笑を浮かべ、爺やが私に優しく言います。

 そしてこっそりと。


「(早く交代しなければなりませんからな)」


 そうでした!

 アリス様!!


「ええ。本日はお疲れ様でした。お仕事、頑張ってくださいませ」

「勿論にございます。――そしてこれだけは。愛してもいない殿方との、お家同士の柵による強制婚約の破棄、心よりお祝い申し上げます」

「ありがとう!」


 今回一番の、とびっきりの笑顔を浮かべた爺やに、私も同じ笑顔です。

 爺やもにこにこ。

 私もにこにこ。

 幸せね!


「こ……こ……こ……」


 あら。殿下がニワトリに。


「では、これにて失礼を。皆さま、まだ宴は始まったばかりにございます。パーティーを存分にお楽しみくださいませ」


 素晴らしい一礼をして、爺やは颯爽と踵を返しました。

 うふふ。背中も素敵ね!

 今は我慢しますけれど、あとで存分にあの背中に飛びつきましょう。そうしましょう。

 このふわふわした感覚、やっぱりこれは夢に違いないのですもの! ならば色々やりたいことをやってしまうのが良いのです!

 今の私は勇気百倍ですわ!

 今夜は眠らせませんことよ!


「ユニ様、シュエット様!」


 パッと振り返りました。

 ユニ様とシュエット様がキラッと目を光らせました。


「アリス様を迎えに参りましょう!」


 お二人がとっても素敵な笑顔で駆け寄ってくださいます。


「はい!」

「お供いたしますわ!」


 うふふ。

 素敵なアリス様を皆でエスコートいたしましょうね!

 クルト様とエリク様が顔を覆っていらっしゃいますけれど、私がお二人をとってしまったからかしら?

 大丈夫よ?

 一緒に行きましょう?


「いい加減にしろ……!!」


 あら。

 殿下。

 まだ何か用があったの?

 私には何もなくてよ?


「この国の王子である私に対し、お前の態度はなんだ……! 不敬罪で捕らえられたいのか! だいたい、この私が、王家が! 公爵家を拒絶すると言っているというのに――」


 ズカズカと大股で近寄り、荒々しく私の腕を掴もうとした殿下の手が、その瞬間、横から伸びてきた手に阻まれました。


「それは違うと思いますよ?」


 ん?


「殿下はあくまでも第一王子であって、王太子にもまだなられていないのですから」


 そういって、優しい目元の、爺やとはまた違った魅力の美青年は不敵な笑顔を浮かべ、何故か私にパチンとウィンクしました。


 ん~?





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