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toile de font ―ある少女と少年の心の中―

◎side:???





 酷いわ。酷いわ。

 このゲームはあたしが一番力を入れてプレイしてたのよ!?

 ブームが去って会社すら傾いてもずっとプレイしてあげてたのに、そのあたしが知らない新キャラを出してくるなんて!!

 こんな周回知らないわよ!?

 攻略サイトにも乗ってなかったわよ!?

 完全攻略ルートに乗せてたキャラは勝手に動くし、台詞は違うし、いったいどうなってるっていうの!?

 絶対許さない! 運営に会ったら訴訟してやるんだから!!






 ……けど、おかしいわ。

 このゲーム、いつからログアウトのアイコン、出なくなったのかしら?





〇side:クルト




 すごいことになってる。

 僕はもしかして、歴史の分岐点か何かに立ち会ってしまってるんだろうか?


 僕の名前はクルト。デュシャン家の長子で、学園に入学した今期生の一人。クラスはなんとかAクラスだけど、魔法が伸び悩んでいるから中間試験の結果次第ではBクラスに落ちるかもしれない。

 僕の父は王宮料理長で、母は西の商業都市で飲食業を営む料理人だ。僕の家系は料理好きなんだ。

 もちろん、僕も料理が大好きだ。


 そんな僕の長年の悩みは、長年体に溜めてしまった贅肉が落ちない事。女の子にモテない事。

 いや、笑い事でなくて、本当に切実。

 なにしろ僕には兄弟がいない。僕がお嫁さんをもらわないと家系が途絶えてしまう。

 けれど僕はとてもモテない。

 本当にモテない。

 世のご婦人方は「殿方は外見でなく内面よ」と仰ってるけど、あれは嘘だ。確実に外見を見る。デブでチビな僕は最初から眼中外で、どれだけ頑張っても道化を眺める目でしか見られなかった。

 唯一の例外は、僕と同じく食べることが大好きなユニと……僕に痩せるきっかけをくれたマリア様。


「貴方はとっても素晴らしい人よ! あたしは知ってるわ!」

「痩せたらきっとカッコいいわ! 痩せにくいのは体質よ! でもね、やりようはいくらでもあるの!」


 そう言って痩せやすい食べ方とかを教えてくれた。おかげでだいぶスリムになった。僕はそのことをずっと感謝してる。

 うぬぼれていいのなら、もしかして僕のこと好きになってくれたのかな、って思ったこともある。

 けど、マリア様は本当は僕のことなんて、なんとも思ってなかったんだよね。痩せて感謝して、同じく彼女に感謝しているエリクと仲良くなって……しばらくして、気づいた。


 あれから、彼女とほとんど会話して無いって。


 何か言おうとしても、すぐに彼女は殿下の所に行ってしまう。

 見つめているのはずっと殿下。

 会話をしているのもずっと殿下。

 僕もエリクも首を傾げたものだよ。前はあんなに親密に接してくれたのに、今では全然なんだもの。

 ちょっとだけ、実家でメイドがしてたことを思い出した。

 子猫を一時可愛がって、大きくなったら餌もあげなくなったんだ。なついていた猫が一生懸命ミャーミャー鳴く声が、ひどく切なくて悲しかったのを覚えてる。


 その感覚を決定的にしたのが、ユニのもってきた話だ。


 彼女も僕が悩んでいた内容を知っていた。

 しかも、どうしてか僕がマリア様に言われた台詞も全部知っていた。僕はそこまで誰にも言ってないのに!

 マリア様が吹聴してるんだろうか? いや、ユニはそうじゃないって言ってたけど、あんなにピンポイントで全部言われたらそう思っちゃうよ。

 しかも、彼女は更にびっくりするようなことを僕に言ってくれたのだ。


「私は、あのぽっちゃりとしたあなたも好きだったわ。とても包容力があって、ふくふくしてて……見てるだけで癒されたんですもの」


 あの太ってた僕のことも好きだったって……!

 むしろ、僕なんかのことを好きだったって!!

 驚いた。

 ちょっと泣いた。

 僕は、僕を好きだと言ってくれる人にとっくに出会えていたのに……!!


 それから沢山話をした。

 レティシア様のことも話した。

 マリア様はレティシア様が公爵令嬢であることをもちだして意地悪すると言っていたけど、僕はレティシア様がマリア様と直接話をしてるところを見たことが無い。

 影でやっているのだと言われて義憤にかられたけど、その僕の知らない時間のレティシア様は、街のお店でご飯を食べたり買い物をしたり、ユニ達と魔法の練習をしたりと充実した生活をしていらっしゃったらしい。

 ……なんだか、マリア様の言うことと、随分違うよね。


 そのレティシア様が懇意にしているお店が、料理屋の『レテ』……なんだけど――

 これ、もうね、殿下、勝負しないほうがいいよ。


 絶対勝てない。


 もう本当に絶対勝てない。


 僕が「この料理の為なら人も殺せるかもしれない」って思ったぐらい美味しい料理作る人で、なおかつ、すっごいかっこいい人なんだもの。

 しかも、レティシア様とすごく仲が良くって、これはもうどうあがいても殿下が間男だ。むしろ、婚約者だからって仲を引き裂く悪役にしか見えないよ。


 だから、殿下がダンスパーティーにレティシア様じゃなくてマリア様を選んだのを見た時には苦笑しか出なかったし、もうそれでお互いが解放されるならいいんじゃないか、って思っちゃったよ。

 それぞれ幸せになればいいんじゃない?


 なのにさ、殿下。

 パーティーの真っ最中に「婚約を破棄する!」は無いんじゃないかなぁ……?

 前から思ってたけど、殿下って、自分の立場とか周りのこと全然考えてないよね?

 ちょっと今後のつきあい、考えるよ。


 しかもその瞬間のレティシア様の顔!

 なにあのすんごく幸せそうで嬉しそうな笑顔!

 正直、「結婚してください!」って言われた直後の貴婦人レベルの幸福感を感じたよ!?

 速攻で「喜んで!!」とか叫ばれてるし!


 言っちゃ悪いけど、殿下、完敗だよ。

 真っ赤になってるけど、おまけに茫然自失っぽいけど、まさか、レティシア様が狼狽えてすがりつくとでも思ったの?

 そうなるのが当たり前だって思ったの?

 無いよ?

 傍から見てても、それは無いよ?


 僕も大概だけど、ねぇ、殿下。ちょっと色々自分のこと見つめ直して、周りに目を向けたほうがいいんじゃないかな。

 今は、傷口が開かないうちに踵を返してさ。


 ……あ。

 駄目だ。

 ユニが目をギラッとさせた。

 シュエットさんも目をギラッとさせてる。

 駄目だこれ。殿下、撤退チャンス逃がしたよ。

 しかも殿下。ちょっと殿下。なんでものすっごい不機嫌顔になって一歩踏み出すの。

 そっち鬼門だよ。

 生きて帰れなくなるよ。


「……お前! 私は、お前との婚約を破棄すると言ったんだぞ!!」



 ……あーあ。





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