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超超弩級戦艦紀伊 ~暁の出撃~  作者: 生まれも育ちも痛い橋
勝利への中間地点
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激戦 ミッドウェー

あ~ウィスコンシンの砲撃音良いんじゃ~

というわけで続きです

駆逐艦「舞風」からは、「赤城」「加賀」に起こった惨状がハッキリと見て取れた。

小さな青色の飛行物体が両空母に向かって魚を獲る海鳥の如く降下していく。

その物体から、更に小さな黒い物体が飛び出す。

そして立て続けに両空母をすっかり覆ってしまう水柱と、それを突き抜ける爆炎が天高くそびえる。

水柱が収まった。

そして現れたのは、高々と上るどす黒い黒煙と、その中に確かに盛る炎を携えた無残な二隻の空母であった。



友永は、爆発炎上する敵艦の姿を認めていた。

しかし、敵艦といってもそれは目標の米空母ではなく、魚雷と空母の間に突如として躍り出た敵巡洋艦である。



「ノーザンプトン!」

艦橋にいたスプルーアンスが叫ぶ。

空母の前を航行していた重巡洋艦「ノーザンプトン」は、旗艦「エンタープライズ」を守るべく友永隊が魚雷を投下するその前に機関を逆進させ、自らを犠牲にして当海域に唯一残された米空母を守ったのである。

そのタイミングは見事と言う他なく、また哀れとも言えるほどであった。

なぜなら、友永隊が投下した六本の魚雷の内四本がそのまま行けば命中する筈であったのである。

その四本を、「ノーザンプトン」はその全身を余すことなく・・・ 艦首から艦尾を使って全て受けたのである。

そして、それだけの被害は「ノーザンプトン」にとっては余りにも大き過ぎた。

みるみるうちに行き足が止まり、被雷した側から浸水していき船体が横倒しになっていく。

火災も発生しているのか、艦の窓やドアか黒い煙が立ち上っているのも見える。

事前に行う事を乗組員には伝えていたのか、比較的早いうちから退艦が始まっていた。

次から次へと浸水しているのとは反対側に乗組員が脱出する。

しかし、「ノーザンプトン」の最期は無残なものになってしまった。

真横位にまで倒れた時のことである。

滑り落ちるまいとまだ多くの乗組員が甲板の構造物にしがみつきながらも脱出しようとしている中、突然、少なくとも傍目からは、大きな爆発が起こった。

弾薬庫が誘爆したのと、煙突から海水が流れ込み機関の熱によって一気に蒸発した蒸気による水蒸気爆発がほぼ同時に起こったその爆発は、黒と白の煙を交えている。

少し離れたスプルーアンスの乗る「エンタープライズ」にまで窓を揺らす衝撃となって伝わる。

「ノーザンプトン」の生存者に、それは容赦なく襲い掛かる。

構造物やガラスの破片や鉄板や人や、人だったものが

あるものは形をそのままに

あるものはバラバラになって千切れ飛ぶ

辺りの海面には漏れた重油と それが燃え 鉄や人肉が焦げる

それらが混ざった臭いは人間の体が本能的に危険を感じ、顔をしかめ、胃から物がこみ上げてくる程酷いだろう。


「ノーザンプトン」はスプルーアンスが初めて艦隊を任された際の旗艦であり、艦長を始めとした乗組員とは戦友である。

そしてこの戦いの直前まで、つい最近まで乗っていたのだ。

スプルーアンスは、今すぐにでも自ら救助に向かいたい衝動に駆られたが、唯一残された空母の指揮官として指揮を全うしなければならない。

「・・・随伴の駆逐艦に救助させろ。出来るだけ手早く 」

スプルーアンスには「ノーザンプトン」での日々が思い出される。

真珠湾攻撃の報を聞いたのもハルゼー指揮下の元、「ノーザンプトン」に乗って航空機輸送任務に赴いていた時のことであった。



「赤城」の被害は見た目は派手であったが、実は大したことは無かった。

三発の爆弾を飛行甲板に受けたが、内二発は飛行甲板での炸裂だったため甲板に使われている木材が燃え、めくりあがって穴が空きはしたものの艦自体に損害はあまり無かった。甲板に何も無かったのも幸いした。

もう一発は比較的深刻で、飛行甲板を貫通し格納庫内部で炸裂した。

幸い近くに爆弾庫や燃料タンクはなかったのと、元々戦艦として建造された船体は伊達ではなく格納庫より下の階層への被害は皆無であった。

甚大な被害を被ったのは「加賀」の方だった。

加賀は二発の爆弾を受けたが、「赤城」の様な幸運には恵まれず燃料タンクに引火し大炎上を起こし、消火ができなければ爆弾や魚雷に引火するのは時間の問題であった。

そして、それらよりも「加賀」に甚大な被害を与えたのは艦首付近に落ちた至近弾であった。

艦首付近に落ちた爆弾は大きな水柱を立てただけの様に見えたが、実はこの時その爆圧で喫水線下に孔を空けそこから浸水し始めていた。

孔自体はあまり大きく無かったが、艦首付近できたために前進するだけで浸水の被害が拡大する。

すぐに被害を最小限にするため後進させるが、後進というものは速度が出るものではない。

そして艦を後進させるということは、前進している艦隊から置いて行かれるということになる。



「紀伊」に乗り込んでいる司令部一同は「赤城」と「加賀」の大破に頭を抱えた。

単純に兵力が減った為だけではなく、敵空母がまだ一隻いるからだ。

第一波で二隻を仕留め、続く第二波が残る一隻のヨークタウン級空母を撃沈するものと思っていたが、第二波攻撃隊が道中多くの敵戦闘機を含んだ編隊と鉢合わせしてしまい、攻撃隊の半数以上が撃墜されるか被弾した為に帰投せねばならなかった。

残りの機で攻撃を仕掛けるも、周囲の艦隊を集合させ強固な防空態勢を取った米艦隊に少なくなった攻撃隊では歯が立たず、なんとか魚雷を一発と爆弾を一発を食らわせただけだ。

珊瑚海海戦でもそうだったダメージコントロールが上手い米兵に、これだけの被害で空母を撃沈させられるとは到底思えず第二次攻撃を行う必要があった。

しかし、ミッドウェー島への戦果も不十分であり、未だ断続的に空襲に晒されていた。

先程攻略部隊も敵機によって発見されてしまい、輸送船が空襲に晒される危険が一気に高まった。

しかしこちらの空母の数が減ってしまったため、空母に攻撃を集中させるか、ミッドウェー島に攻撃を集中させるか、分散させるかの判断を連合艦隊は迫られていた。

「飛龍乗艦の山口多聞司令から電文です 『意見具申 我敵空母ヘノ第二次攻撃ノ要ヲ認ム』」

あの男らしい、山本はそれを聞いて最初に思った事だった。

「長官、目的を見失ってはなりません。この作戦はハワイ攻略へ足掛かりとなる作戦です。敵空母を叩くことも大事ではありますが未だミッドウェーの飛行場は健在です。それに比べて敵空母は残り一隻であり、それも大破して我々への攻撃は不可能です。そしてただ今の時間を鑑みてもあと一回の攻撃が限界で、それ以降は危険な夜間での発着艦になってしまいます。これ以上飛行場を放置しては攻略部隊にも被害が出る恐れもあるので飛行場への攻撃に専念すべきだと思われます」

参謀長の黒島が山本に説く。周りの士官達ももっともだと言うように頷く者がほとんどだ。

山本もそれを理解してはいたが、心の中で拭い切れない何かがあった。

「確かにもう太平洋には敵空母はいないのか?」

「少なくとも、現時点では確認されていません。「ワスプ」は未だ大西洋にいることが確認されており、また新しく空母が就役したとの情報も入っていません。小沢艦隊があれだけ索敵機を飛ばしていたのです、これ以上空母はいないでしょう。今が絶好の機会と思われます」

その言葉に、山本は決意を固める。



目の前で「加賀」が沈んでいく。

護衛に付いていた駆逐艦「秋月」からはその姿がよく見て取れた。

もうもうと黒煙が猛る中で徐々に艦尾が空を仰ぎ、スクリューが天を睨む。

もう少しで垂直になるのではないかという時、鉄が裂ける鈍い音が響き船体が真っ二つになる。

折れた内の船体の後部に当たる箇所が水面を叩く。

そして直ぐに、既に沈んだ船体前部に引きずり込まれる様にしてその巨体を海中に没していく。

辺りには小さな破片となった残骸と、沈没した辺りを漂う重油と、生き残り救助を待つ人の姿しかなかった。

艦首からの浸水被害を抑えるために後進を掛けた「加賀」であったが、やはりそれが仇となり艦隊から落伍した為に敵機の猛攻を受けた。

護衛に「秋雲」「巻雲」「秋月」「照月」と少数の零戦が割かれたが、結果的に燃料不足等で引き返した機を除く小沢艦隊に辿り着いた米機動部隊の内三分の一を引き受けた形となった「加賀」には焼け石に水程度でしかなく、多くの爆弾と魚雷を受けて沈没した。

とはいえ、その少数の零戦は猛者揃いであり、また秋月型は対空電探を装備していたため発光信号を使って敵機の位置を知らせ、効率良く迎撃することをができた。

また、秋月型の対空装備も他の艦より遥かに多く、零戦の迎撃を突破してきた敵機に痛打を浴びせた。

米軍が少数の機を順繰りに差し向けたのもそれが比較的上手くいった要因でもあった。

更に、やはり戦艦として設計された船体の頑丈さは伊達ではなく、空母としては健闘したと言えるほど長い時間浮いていた。

それにより多くの艦載機を引き付けた事は残りの小沢艦隊にとっては幸運だった。




「艦長、主砲発射の許可を!」

「紀伊」射手の黛治夫が艦橋に進言する。

「三式弾か・・・」

この海戦ではまだ三式弾は使っていない。

なぜなら、それまでの戦いで幾度も使用されたが、大した効果を得られた事が無かった。

後に米軍が使用するVT信管は砲弾が敵機の至近で自動で炸裂するが、三式弾は信管手が手動で信管の炸裂する時間を設定するため、対空電探を装備しているか指示をする者が余程慣れた者でもない限り効果的に使う事は困難であった。

そうでなくても、戦艦は主砲発射の際に生じる爆圧、ブラスト圧が甚大であり、大和型以上の砲を持つ戦艦は甲板のどこにいてもその爆圧を受けたら生存は望めない。

砲弾の装填にも時間が掛かり、連射は効かない。

加えて、外にある対空機銃の照準器は爆風で壊れてしまうためいちいち付け外さねばならない。

主砲発射前には艦内に避難しなければならないので、その避難に掛かる時間、照準器の取り外し、敵機に照準する時間を考えると実質的には主砲を撃つということは逆に非効率でもあった。

しかし、「大和」と「武蔵」以外の戦艦はまだ実戦で主砲を撃ったことが無いため、気持ちが逸るのも仕方がない事であった。

「仕方がない。一斉射のみ許可する」

松田はそう命令した訳は、実戦でしっかり砲が動くかの確認と、ひょっとしたら「紀伊」程の大口径砲ならば多少の効果はあるのではないか、という思惑があった。単に同情をしたという側面もあったが。

俄かに砲が旋回を始める。

その砲は天を仰ぎ見る。

目標は遠く離れて攻撃の機会を伺っている敵重爆七機。

普通の対空砲では届かないが、「紀伊」の主砲をもってすれば十分届く距離だ。


艦内退避を促すブザーが鳴る。

それを聞き、皆本当に主砲を撃つのかといった、半ば期待と困惑が入り交じった顔をしている。

少ししてから二度目の長音のブザーが鳴る。

それが止むと




主砲から砲弾が発射される。

その瞬間、大和の比ではない、強烈な衝撃が艦全体を襲う。

それは雷が落ちたのか、何十もの巨大な太鼓が真横で一斉に力強く叩かれているか、それ以上のものが艦橋にいた山本を始めとする人々を腹の底から震え上がらせた。

砲口からは白い煙が吹き出し、主砲発射の轟音とその後の静寂と余韻。

この一連の流れはまるで「侘び寂び」を体現しているかのようだ。


砲弾が敵編隊目指して飛んでいく。

そして、それは刻々と近付く。

パッと、花火の様なものが敵機の周辺に現れる。

敵機を一気に撃滅、消滅する。

そんな光景を誰もが期待する。



しかし九発の三式弾で葬れたのは一機に留まった。

「やはりダメか・・・」

ある程度予想は出来ていた事だったが、目の当たりにすると落胆の表情は隠せない。

大口径の砲弾での敵機撃墜の難しさとそのリスクを改めて思い知らされた瞬間であった。



ミッドウェー守備隊の司令官、シリル・T・シマード大佐は島内にある防空壕の中で逐一伝えられる敵爆撃機隊による空襲の報告を聞きながらジッと耐えていた。

「これで我々の攻撃手段は失われた」

日本の空母により、ミッドウェーの全飛行場が破壊された。

ただでさえ一度目の攻撃で少なくない戦闘機と対空砲を失ったのに加え、二度目は一度目よりも多くの艦載機が襲来し、守備隊の奮闘空しく飛行場は破壊され対空砲もほぼ全て失った。

「だが陸戦兵は十分にいる」

ミッドウェーの防空壕は地下にコンクリートで出来ている。

それはこれまでの空襲ではビクともしなかった。

陸戦兵、食糧、弾薬も十分にあり、しばらくは持ちこたえる事が出来る。

更にこのコンクリートの地下要塞は16インチ砲の砲撃でも破壊されない様に出来ており、ここに籠ればあらゆる攻撃も受け付けないと信じて疑わなかった。

諜報部の情報によると日本の陸戦兵は6000人いるのに対して、アメリカ側は4000人。

数の上では劣勢だが、防衛という立場においては十分に日本軍を撃退出来るだけの数である。

なんとか持ちこたえれば必ず勝気はある。

そう信じている守備隊の士気は天を突くほどであった。



49の星を携えた旗が 傾き始めた日の中をはためく。

次回は占領戦

・・・といっても短めになりそうですが

早く・・・早く砲撃戦を

一心不乱の大砲撃戦を書きたい!


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