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超超弩級戦艦紀伊 ~暁の出撃~  作者: 生まれも育ちも痛い橋
勝利への中間地点
8/34

開戦 ミッドウェー

三か月ってあっという間ですね(白目

お久しぶりです。やっとの投稿です。

外伝はちょっとだけ上げてはいましたが、本編がこれだけ空いてしまい申し訳ありません。

そして今回長いです。書き終わってから分割しても良かったんじゃないかって思いました。


ぼ、ボリュームたっぷりってことだし・・・(震え声)

一応投稿前にチェックはしていますが、投稿後に誤字があったり明らかな間違い等は気付いたら訂正しています。

なので、読み返したら微妙に変わっている点があるかもしれません。

そこは何卒ご了承ください

1943年 9月13日


碧色の海が朝の陽光で輝き、透き通るような空気と空と相まって極めて幻想的な光景を生み出す。


人類というものがこれまでに何度も見、幾人もの人間を魅了してきた朝日。


輝きはダイヤの様に煌いて美しい。


その中、水平線の先に灰色の影が見受けられた。

一つや二つでは無い。しだいにその姿は大きくなり、やがて大きな群れを成しているのが確認できるようになる。

大規模な艦隊がミッドウェー島の近海まで迫っていた。


ここまでは特に何事もなく辿り着けたが、ここからが正念場であった。

「風に立て、索敵機を発艦させよ!」

旗艦「赤城」に乗る小沢の命令により索敵機が空母から発艦した

それだけではなく、周りの巡洋艦からも索敵のための水上機が発艦する。

この日、ミッドウェー付近に来た艦隊は大きく三つの部隊に別れていた。

一つは小沢治三郎率いる空母機動部隊

空母「赤城」「加賀」「蒼龍」「飛龍」「翔鶴」「瑞鶴」を中心とし護衛に駆逐艦や巡洋艦を従えた攻撃の要となる部隊。金剛型戦艦四隻もこの部隊にいる。


二つ目は角田覚治率いる主力部隊

戦艦「紀伊」「大和」「武蔵」「長門」「陸奥」を中心とし、幾つかの水雷戦隊を備えている。敵艦隊と直接砲火を交える部隊。「紀伊」には山本五十六が同乗し、全部隊の総指揮を執ることになっている。


三つ目は近藤信竹率いる攻略部隊

戦艦「扶桑」「山城」「伊勢」「日向」や空母「瑞鳳」、上陸する兵士や物質を運ぶ輸送艦とその護衛の部隊。


南雲は今回はダッチハーバー方面の空母部隊を指揮している。

最初は年功序列の観点から南雲をそのまま一番重要であるミッドウェー方面の空母部隊を指揮させようとしたが、作戦の性質上囮であるダッチハーバー方面は慎重な性格の南雲の方が向いており、何よりも「機動部隊の父」と呼ばれる小沢が主力空母群を率いるべきだと南雲自身が進言し辞退したものによる。

搭乗員の士気、練度共々上々であり誰もがこの戦いも勝てると信じて疑わなかった。

そして、それほどまでにこの作戦に念を入れているのは、この戦いでミッドウェー島を手中に収めかつ敵機動部隊を撃破すれば、最早米軍は反撃の力も機会も失いハワイ攻略を容易にするものと考えているためである。

万が一現れなかったとしても、ミッドウェー島さえ手に入れば容易に手は出せまい。そう大本営が主張し、もっともだと多くの人が賛同しているからである。




愛機が被弾したため他の仲間と日本軍への触接を交代し、艦隊へ帰投したジョナサンは帰ると休む間もなく艦橋へと召喚させられた。

「君は部下を通じて奇妙な通信を寄こしたな」

そう切り出したのはレイモンド・A・スプルーアンス少将である。

本来であったらここにいたのはハルゼーの筈であったが、皮膚病を患い急遽スプルーアンスと交代したのであった。

「奇妙と言いますと、あの・・・」


思い出しただけで、あの時の恐怖が鮮やかに甦る。


「そうだ」


周囲の艦より二周りも三周りも巨大で


「聞かせてほしい」


それにも増して威厳と凶悪さと 神々しささえ感じる


「君が見たもの」


そして、背筋が凍るほどの


美しさを感じた


「モンスターについてだ」



ハワイでの海戦の結果を聞いた山本は、予想以上の戦果に喜びはしたものの内心は少し残念に思っていた。

「大和」らが航空隊の取り逃した基地施設だけでなく、生き残っていたと思われる敵戦艦部隊を粉砕し、全艦無事に帰投したからだ。

航空隊が壊滅し、一時的に指揮系統が混乱したために帰路も空襲に会う事も無く、近海に居たハルゼーなどの空母任務部隊もこれ以上の損害を恐れた本国司令部の命令で渋渋追跡を諦めた。

山本は最初の空襲では敵艦隊の半分も削れれば上出来と判断していたが、山本の予想を上回る航空隊の練度と航空機の性能が空襲の戦果に繋がった。

それによりハワイにおける敵の戦力自体が低下し、「大和」らの付け入る隙を作った。

とはいえ、そのお膳立てをしたのは紛れもなく航空機によるものであり、その後に起こったマレー沖海戦も相まって航空機の有用性は帝国海軍はおろか世界中が知ることとなった。

この影響で計画中の改紀伊型は設計中止になり、その分の予算や資材は空母の建造に回される事となった。

そして、建造中であった紀伊型戦艦の二番艦はまだ船体を造っている途中であり、空母に改造するという意見が出てきたために賛成派と反対派の派閥に別れ、昼夜問わず大激論が繰り広げられた。

賛成派としては十万トンに及ぶその船体は元々戦艦として造られるのもあって頑丈であり、また搭載量も装甲の分のスペースを除いても膨大な数の航空機を搭載することができるため空母としては非常に魅力的であった。

しかし、元々一基で駆逐艦の排水量を超える主砲を三基、さらに堅牢な装甲で守られた艦橋などを載せるため、そのまま空母に改造したら喫水が浅くなり重心が高くなって不安定になること。

その問題を解決するために再設計をして造るのはいち早く戦力化したい状況下では時間が掛かること。

現段階でも十分な数の空母がいること。

そして決定的だったのは、特に戦艦の様な艦種は整備等の関係で数隻でローテーションを組むので、同型艦がいないと運用に支障が出るためであった。


今回山本が前線に「紀伊」で赴いたのは、ハワイ攻略への大きな一歩となる重要な作戦であるのと同時に、「紀伊」を始めとする戦艦をどの様に役立てるかを見極めるためであった。

「長官、そろそろ敵機が来襲してきてもおかしくありませんが本当に直援機は要請しないのですか?」

参謀長の黒島が山本に尋ねる。

「ああ、この部隊に直援機はいらん。回せるのなら少しでも小沢君の所に居てもらった方が良い」

空母の航空戦力は強力だが、艦自体の攻撃力、防御力は皆無に等しい。

一発の爆弾が命中しただけで飛行甲板が破壊され、航空機の離発着が出来なくなり甲板は修理が終わるまで艦隊にとって鈍重なお荷物となってしまう。

それを防ぐためには出来るだけ護衛を多くするのが定石だ。

しかし、あまり艦隊の護衛に戦闘機を割くと今度は肝心の攻撃部隊の爆撃機や攻撃機が被害を受けてしまい効果的な攻撃が出来ないばかりではなく、航空機の損失によって戦力自体も低下してしまう。


「まだ敵艦隊は見つからないのか」

「索敵機からは何も・・・」

朝にミッドウェー島の哨戒圏外で敵機に見つかった。

今は追い払ったが、確実に山本が乗艦している「紀伊」以下主力部隊は見つかったものと思われる。

小沢機動部隊は主力部隊から離れた後方にいるため未だ見つかった様子は無い物の、時間の問題と思われる。

そして何より、未だ米機動部隊が発見出来ていないため山本は一層の焦燥感に駆られていた。


「そろそろだと思われます」

参謀の宇垣が小沢に告げる。

「うむ、先ずは手筈通り五航戦にミッドウェーを攻撃させる」

小沢の言う手筈とは、今回の作戦における敵を叩く方法である。

一航戦を敵艦隊、五航戦を敵基地攻撃専用にし、二航戦を臨機応変にどちらかを攻撃するというものだ。

敵艦隊が現れぬ内は敵基地を、現れたら敵艦隊を攻撃する算段になっている。

今回は敵基地の哨戒圏外で艦上機と思わしき機に発見されたため敵艦隊がいると判断、基地への攻撃は五航戦のみで行う事となった。

艦隊が風上に向きを変え、増速する。


二航戦司令官である山口多聞は、飛龍艦橋で歯噛みしながら待ちわびていた。

既に主力部隊が敵艦隊所属と思わしき機に見つかったのは無電で把握していたため、すぐにでも攻撃機を飛ばして敵を自ら探して攻撃する索敵爆撃をするべきだと主張したが、小沢は燃料の問題や攻撃するまでに搭乗員の疲労が溜まってしまうので、あくまで確実に敵機動部隊を叩くため山口の案を蹴った。

勿論小沢の言うことももっともなのは山口も分かっている。

しかし、時ここに至って未だ何もする事がないのは猛将と呼ばれる山口にとっては歯痒い事であった。


そして同じ様に歯痒い思いをしている人物が敵方にも居た。

「まだジャップの空母は見つからないのか!」

空母「ヨークタウン」に乗り込んでいるフレッチャー少将もまた歯噛みして敵艦隊発見の報を今か今かと待っていた。

「もっと広範囲を索敵すべきでしたか・・・」

ヨークタウン隊司令官兼艦長のエリオット・バックマスター大佐が呟く。

「どの索敵機からも連絡はありません」

米機動部隊は日本軍の戦艦部隊を見つけ、その周辺に空母艦隊もいると睨み、基地航空隊に戦艦部隊を爆撃させてこちらは空母を見つけ、叩くのに専念する事にした。

しかし、いくら周辺を探しても影も形も見えず、また見つけられた様子も無いためもどかしさが積もっていた。

「エンタープライズ」の機が日米で最初に相手を見つけたことによるぬか喜びも一層である。

「しかし、戦艦を上空に直援機もなしに空母より前に出すだろうか?戦艦は航空機の攻撃に弱いとわざわざ教えたのは奴らではないか。それも、動きの鈍重な中型以上の爆撃機ででもだ」

「我々が見つけた戦艦は、パールハーバーで大暴れした上に我が海軍が誇るコロラド型戦艦を含む三隻を二隻で葬った「ヤマト」クラスと、今回それを更に上回る大きさの戦艦です。そして、ハワイで暴れた内の「ムサシ」は二隻の戦艦の集中攻撃にも関わらず沈める所か一隻を返り討ちにし、もう一隻を「ヤマト」と共同で沈めました。その時、何発もの砲弾を受けたにも関わらず致命的なダメージを与えられませんでした。そこから、件の戦艦は少なくても砲弾に対して脅威的な防御力を携えているようです。そして司令、それと同程度の対魚雷防御を備えていたとしたら?」

「そうだとしたら、奴を沈めるのに一体どれだけの航空機が・・・」

「7時の方向に敵機!」

「何!?」

二人の考察はその凶報によって遮られてしまった。


「筑摩二号機から入電! 敵艦隊発見です! 空母の数は2! 戦艦は見受けられず」

「総飛行機始動! 艦攻は雷装のまま準備せよ!」

待ちに待った敵艦隊発見の報に対する小沢機動部隊の反応は迅速だった。

敵艦隊に備えて艦攻は格納庫内で雷装待機してあり、既にミッドウェー島へ攻撃隊を送った五航戦以外の四空母には次々と甲板に飛行機が並べられる。

並べられた傍からエンジンの暖気運転のためにエンジンが回さる。

その合唱は腹の底が震えるようだ。

「全機発艦準備が整いました」

その知らせに大きく、小沢は息を吐く。

そして次に、静かに、されど力強く、口を開いた。

「攻撃隊、発艦せよ」


「攻撃隊を飛ばす。索敵攻撃の準備をしろ!」

「しかし、敵艦隊は依然見つかっていませんが・・・」

「空母ごとやられたら元も子もない。それに格納庫を空にしておけば回避行動もしやすく、最悪沈められてもミッドウェー島に降ろせば損失は少なくて済む」

それを聞いて反対する者はいなかった。

直ちに格納庫や甲板で準備が始まり、機が甲板に並べられ始める。

しかし、早く機を上げ切る事を優先にしたので各艦準備が終わってからバラバラに艦から飛び立ち始めた。

飛び立ったら出来るだけ直ぐに敵を探しながら進撃するように命令されたためきちんとした編隊にはならず、編隊内の数に過不足があったり、中には本来護衛に付く筈の戦闘機がいない部隊もいた。

「まったく、ツイてない」

その部隊の中には、ジョナサン大尉の姿もあった。

彼は愛機のエンジンの整備や被弾した痕の修理が終わってなかったために他の機より出遅れてしまっていた。彼に続く十機余りのSBDドーントレスはいずれも索敵に出ていて整備をしていたり、直前に何処かしら不具合が見つかり発艦が後回しになった機ばかりである。

そしてもっとも不運なのは、それ以外は少なくとも彼ら以外に視界に映るのは果てしなく続く空と海のみである。

「護衛はいませんね・・・」

ケビンが柄にもなく弱音を吐く。

「だがその分こっちは機数が少ないから見つかりにくくて済む。もっと編隊を密にして雲に隠れながら飛ぶように他の機に伝えろ」

ジョナサンは息を整え、力強く操縦桿を握った。


「一時の方向より敵重爆六機、三時の方向から敵雷撃機四機接近!」

「面舵三〇!雷撃の回避のみに専念せよ!」

艦長の松田の命令で舵輪が回される。

「こう、小出しに断続的に来られると面倒ではあるな」

参謀の宇垣が呟く。

現在、「紀伊」を始めとする主力部隊は断続的な空襲を受けていた。

と言うより、ほとんどの機が「紀伊」を狙っていた。

「敵さんはどうも大物が好きらしい」

松田がニヤリと笑う。

「それだけ他への被害が減る」

角田も笑みをこぼす。

接近してきた雷撃機は中々落ちない。

弾は敵機に吸い込まれているかのように見えるが、落ちないということは当っていないか余程頑丈な機なのであろう。

しかし、遂に一機が翼を折られ、水面に接触したかと思えばバラバラに分解して水柱と共に水中に消える。

しかし残りの三機はそのまま接近し魚雷を投下した。

この時、ようやく舵が効き始め前方の海原が左へ左へと移ろう。

「紀伊」は舵が効くまでにはその巨大で重い船体故に、相当の時間を要するが、一度舵が効いてしまえばその巨体からは想像出来ないほどの小回りが効く。

「舵戻せ!」

右舷側から接近していた魚雷は徐々に後方へ流れ、遂に艦の進む向きと逆方向に並行に進んでいた。

「魚雷全弾回避!」

その報告と同時に左舷側の海原に幾つかの水柱が立つ。敵重爆から投下された爆弾だが、まるで見当違いの離れた所で空しくダイナマイト漁をしているだけだ。

「右舷から新たに敵雷撃機五! 左舷からも三機!」

「挟み撃ちか・・・」

米軍機は確実に当てるために連携して「紀伊」に攻撃を仕掛ける様だった。

「取舵一杯! 機数が多い方を優先して避ける!」

松田の命令で今度は取舵が取られる。

機銃や高角砲が頑張って応戦するが、中々敵機は落ちない。

「もっと対空兵器が欲しいところではあるな」

角田が言うのも当然で、この頃の「紀伊」の武装は対艦兵装が主で対空兵装はそこまでではなかった。

しかし牧野技師は航空機の目まぐるしい発展に備え、後々に対空兵器を大量に乗せられるだけの設計の余裕を持たせており、実戦から判断して改装する予定であった。

高角砲の直撃で右舷側で一機、機銃で左舷側で一機落とされたが、それ以外は投雷に成功し計六本の魚雷が「紀伊」の左右に迫っていた。

とここで、「紀伊」の舵が効き始めたが、遅きに失する。

「左舷魚雷、右舷魚雷、共に着弾します!」

見張りの悲鳴に近い声に、艦橋にいた者どもはグッと歯を喰いしばる。

そして、魚雷の着弾の衝撃が艦を襲う。

「被雷・・・したのか?」

山本が呟く。

艦橋に居た者にとっては、被雷時の衝撃がただ単に高い波にぶつかっただけの様にしか感じなかったため、被雷時の水柱を見なければ被雷したなどとは誰も気が付かなかったであろう。

「左舷後部に一本、右舷前部に一本被雷しました。現在被害を確認中です」

少ししてから被害状況が艦橋にもたらされる。

「報告、左舷後部の被雷箇所に破孔といった重大な被害は確認できず。右舷前部の被雷箇所で浸水が発生するも、微々たるものであり損害は軽微。よって戦闘航海に支障なし」

その報告に、山本は驚きを禁じ得なかった。

山本だけではない。艦橋にいた司令部要員も皆一様に驚いていた。

「魚雷を二発食らって被害軽微だと!?」

「他に見落としがあるのではないか?」

「しかし、被雷時の衝撃があれだけだったということは、本当に・・・」

本当に「不沈艦」に成り得るのではないか?


「ミッドウェー島への攻撃成功。我が軍の被害は軽微なれども敵飛行場の撃破不確実。第二次攻撃の要ありと認む」

読み上げられた電文はおおよそこの様なものであった。

「帰投させ次第第二次攻撃の準備をせよ」

小沢の命令は淡々としたものであった。

と言うよりかは、現時点ではこれといった命令が出せるわけでもなく、また米空母へ向かわせた部隊の攻撃の成否気になっているからでもあった。

「司令、五航戦は帰投後は直ぐに攻撃に向かわせますか?」

参謀が尋ねる。

「いや、それはまだわからん。米空母に十分な打撃を与えられれば二航戦にも一緒に行ってもらうが、そうでなければ早急に五航戦には行ってもらう」

時間としてはそろそろ見つける頃であろう。突撃する際のト連送が送られてから幾らも経たない内に、この戦いの大勢は決まる。

直接指揮を執る時と言えば、防空戦等の守りに入る時位だ。

まったく、自分の目で直接見て指揮を取れない航空戦というのは、もどかしい。


「間もなく敵艦隊が見える筈だ。全機突撃態勢を作れ!」

二航戦攻撃隊隊長の友永が無線で呼び掛け、陣形を作る。

友永の配下の艦攻は「飛龍」の分の第一波攻撃隊の十一機。

現在攻撃隊の主力艦上攻撃機は天山に移行しており、その際にドイツの物をライセンス生産した無線を積んでいた。

ドイツで生産された物よりは劣るが、従来の物と比べ格段に仲間内での意思疎通が容易になった。

「左上空に敵機!」

その声に友永は言われた方向を向く。

なるほど確かに敵機らしきもの、F4Fワイルドキャットが見える。

零戦が二度三度バンクを振ると、僅かな戦闘機を残して敵機に向かっていった。

ここから見るに、およそ四十機はいるか。

向かっていった零戦は約五十機はいるはずだから、相手が余程の手練れではない限りこちらが優勢である。

もっとも、化け物揃いと言っても良い一航戦と二航戦の零戦相手に一対一ででも勝てるかは怪しいが。

両戦闘機隊はグングン接近し、遂に砲火を交えた。

すれ違い様にお互い二、三機か落ちる。すれ違って直ぐに零戦は反転し、敵機を追撃する。

多くの敵機も同様に反転し、ドッグファイトが始まる。

格闘戦になってしまった敵機はたちまちの内に撃墜される。

かと思えば、敵機を追い掛けるのに夢中になっていた零戦が上方から降下して忍び寄ってきた敵機にやられ、派手な火の玉となって燃え落ちる。

敵味方入り乱れた乱闘となっていたが、友永達にはそれを観戦している余裕はなかった。

最初の攻撃時に反転しなかった数機が攻撃隊に迫っていた。

数機の零戦が追いかけてはいるが、降下速度は敵機の方が速く引き離されるばかりであった。

攻撃隊に付いていた残りの零戦が迎撃に向かうが、相対速度が速すぎるため全部を落とすのは困難であろう。

「敵機に弾幕を張る。密集せよ!」

友永が命令し、各艦攻隊や艦爆隊はより密集して後部の旋回機銃が敵機に向く。

だが後部機銃は命中率が悪く、しかも積んでいるのは7.7ミリ機銃なのでグラマン相手に気休めにもならない。

「各機打ち方始め!!」

一斉に各機の機銃が火を吹く。

ある程度の効果はあるかと期待したが、友永の思いとは裏腹に敵機は尚も突っ込んでくる。

そして、こちらに狙いを定めた敵機が遂に発砲した。

魚雷を抱えた鈍重な艦攻にそれを避けることなど出来ない。密集して身動きが取れない今、尚更なことであった。


「二番機、四番機撃墜!」

僚機の撃墜報告が入る。その機に乗っていた者の顔が思い浮かび、胸が締め付けられるようだ。

しかし、感傷に浸る暇も、仲間を悼む暇も、今は無い。

「!?」

衝撃が、友永の機を襲う。

自分も先程の者達のようにバラバラに分解するか、燃え盛りながら海に突っ込むか。

だが別段変わった様子は無い、かと思いきや機が左へ流され始める。

咄嗟に舵を調整して機を戻す。何事かと見ると、どうやら右翼を撃ち抜かれたことにより被弾箇所から燃料が漏れ出し、機体のバランスが悪くなったようだ。ただでさえ重い魚雷を抱えて鈍重なので操縦が難しくなるが、燃料に引火しなかっただけマシと言えよう。片翼と胴体の分でも帰りの燃料は十分だった。

味方の零戦が追撃するが、振り切られてしまう。

そしてその時新たに友永達を狙う敵機の姿があった。


「制空権は取れそうにないか・・・」

エンタープライズ艦橋でスプルーアンスが呟く。

通信からして航空戦は明らかにこちら側の劣勢で、間もなく敵機が艦隊上空まで到達する。

一部の戦闘機隊の奮闘によって何機か雷撃機や爆撃機を落とせたが、圧倒的に数で優勢な日本の雷爆隊の前には誤差の範囲であろう。

現在ミッドウェー島沖に展開する米空母は「エンタープライズ」「ヨークタウン」「ホーネット」の三隻である。

そして諜報の結果、少なくとも真珠湾を攻撃した憎っくき六隻の空母は出てくることが分かった。

一隻は、確実に沈む。

最悪は全滅だ。

スプルーアンスは、ただただ神に祈る他なかった。


敵艦隊が、見えてくる。

米空母を見るのは、友永にとってはパールハーバーの時以来だ。

今友永隊は敵機に襲われたために七機にまで数を減らしていた。

既に友軍が米空母に攻撃を仕掛け始めている。

まだ遠すぎてハッキリとは見えないが、米空母の傍に水柱が立っているのがみえる、が命中弾はまだのようだ。

敵機に立て続けに襲われた友永隊は態勢を立て直した際に他の隊より出遅れ、友軍が攻撃するのを指を咥えて見ていた。

今また、新たに水柱が生じる 今度は火柱を伴って

彗星爆撃隊が米空母に爆弾を命中させたのであろう。

そして今度はその空母側面に大きな水柱が、少なくとも右舷に三本、左舷に一本見えた。

誘爆を引き起こしたのか、飛行甲板だったものと思しき鉄の板きれが宙を舞う。

あれはもうだめだ、そう思い報告にあったもう一隻の空母はどこかと周囲の海原に目を向ける。

いた・・・と思いきや、友軍の彗星が急降下爆撃を仕掛けている。

海面スレスレでは天山が雷撃態勢を取っており上空と左右から挟み撃ちをしている。

これではもう、敵艦は避けられまい。そう思ってから幾ばくも無く、もう一隻の空母に火柱と水柱が上がる。

これはもう自分達の出る幕は無い、友永は途中に襲い掛かってきた敵機を恨めしく思いながら目ぼしい目標を探す。



中々日本艦隊の発見の報告は無い。それどころか、自軍の空母が被害を受けいよいよ負け戦が濃厚になってきた。

ジョナサンは燃料と自分達の母艦との位置を確認する。

まだ少し余裕はあるが、速くしなければ何も戦果を得られないままの惨敗を喫してしまう。

せめて一矢報いたい、ジョナサンがそう思っていた時だった。

「大尉! 右後方の上空に何かいます! 」

「何だと!?」

ケビンの言葉に、ジョナサンは首を捻って言われた辺りに目を泳がせる。

そして、雲の合間に太陽の反射によって光る何かを、しっかりとジョナサンは目撃した。



新たな敵空母が見つかった。

友永がペンサコラ級重巡洋艦に攻撃を仕掛けるために指示を出そうとしていた時であった。

どうやら先の二空母と少し離れた位置にいたために今まで発見されなかった様である。

直ぐに無線で自分達の他に攻撃に向かえる機がいないか呼びかけるが、ほとんどが先程の二空母とその護衛艦に攻撃をしてしまっており、見つかった空母に攻撃を仕掛けられるのは自分たちだけと言ってよかった。

「仕方がない、俺たちで攻撃を仕掛ける。全機編隊を保ったまま突撃態勢! 」

第二波攻撃隊を待つことも考えたが、片翼の分の燃料を失った今長居はしたくない。

友永隊はその一糸乱れぬ綺麗な編隊のまま敵空母に向けて針路を取った。

数分の飛行の後、敵空母を視認する。なるほどこの距離では索敵機が見逃したのも仕方あるまい。

母艦を守るべく敵直掩機が数機向かってくる。

しかし、倍の数の零戦があっという間に海へ叩き落とす。

その間に、友永隊は徐々に機体の高度を落とし、雷撃態勢に入る。

あわや海面に突っ込むのではないか、それほどの高さにまで降下したが、練度抜群の友永隊は全機あたかも平然とやってのけているように見える。

ここで、敵空母とその護衛艦が対空砲を友永達に撃つ。

友永達の周りに砲弾の炸裂する音が響き、幾つもの黒い雲が生成される。

砲弾の破片が乱舞し、友永達に襲い掛かる。

鈍い音を立てて、機が僅かに揺れる。

波しぶきが飛び、コックピットのガラスを濡らす。

機銃の火焔が自分達を、自分を殺すために伸びてくる。

恐怖で取り乱し、一目散に逃げたくなる光景だ。雷撃隊に入って一番後悔する瞬間。

しかし、それをグッと堪えて水面ギリギリの態勢を保つ。少しでも操縦を誤れば、墜落して魚の餌だ。

特に友永の機は先の被弾で機体のバランスが悪く、より一層神経を擦り減らす。

まるで命を削って飛んでいるようだ。

数分か数十分か、数時間か、実際にはもっと短いのだろうが友永はそう感じた。

照準器の中の敵空母次第に大きくなる。だがここで後続の一機に高角砲の砲弾が直撃し、爆発四散する。

これで残りは六機

そして遂に、待ち侘びたその瞬間が訪れる。

「魚雷投下!! 」

肩の荷が降りたように、機体が軽くなる。

数秒で敵空母の飛行甲板に触れるのではないかという高度で敵空母を飛び越す。

目一杯、限界まで近付いて放った魚雷は当然命中コースである。

そう確信し友永が振り返ると、予想外の光景が広がっていた。


「ミッドウェー攻撃隊が帰って来ました」

宇垣が報告する。

「手筈通り被弾機や燃料に余裕のない機から着艦させよ」

やがて小沢の乗る空母「赤城」からも攻撃隊が帰投して来るのが見える。

中には被弾したのか、よろよろと危な気な操縦をする機もある。

余裕があるのか、「赤城」や「加賀」の上空であいさつ代わりに旋回する機もいた。

帰投した攻撃隊は爆音を響かせて去っていった。

が、新たに十機ほどの編隊が近づいてくる。

「赤城」「加賀」の両空母の乗組員は特に気にも留めずに見送ろうとした。

しかし、何故か高度を上げていく。

甲板で見ていた乗組員の内の一部が疑問に思った時であった。

突如として、こちらに向かって降下する、・・・まるで急降下爆撃でも行うかのような急な角度で。

これには流石に見ていた多くの乗組員が変だと思う。

そして、特に目の良い一人が気付いてしまった。

その機体は日本軍では目にしない様な青色で塗りたくられ、趣味の悪い落書きの様なものが施され、腹には爆弾を抱えていること。


誰かが怒号する


「敵機直上! 急降下!!」

読んでいただきありがとうございます

戦艦が主題の筈なのに今回は航空戦中心・・・安西先生! 戦艦の殴り合いが書きたいです!

筆者多忙なため次回もまたいつになるかわかりませんが、思い出した時にでも見ていただければ幸いです。

感想をしていただいた方、評価をしていただいた方、ブックマークをしていただいた方、そしてこんな稚作を貴重な時間を割いて読んでいただいた方、本当に本当にありがとうございます!


*ここからちょっとひとり言*





ハイスクールフリート、個人的には結構気に入っています。

武蔵VSあきづき型とか架空戦記みたいなものや武蔵の最新のCGでの砲撃が見れて、ワイは幸せや・・・



ちなみにメイちゃん押しです。

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