表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
超超弩級戦艦紀伊 ~暁の出撃~  作者: 生まれも育ちも痛い橋
ハワイ海戦
4/34

煉獄の真珠湾

今回は新鋭戦艦による殴り込み

やっぱり大艦巨砲だよね・・・

 現地時間12月9日 午前1時頃

 南雲機動部隊とは別の艦隊が、一路ハワイの真珠湾へ向け、闇夜に紛れて進んでいた。周囲は仄かに月が夜の海を照らしてはいたが、ほとんど漆黒に近く、不気味なほど静まり返っている。

 その中で、巨大な鉄の城が二つ、闇に染まった海を切り裂くように、確実に、動いていた。

 日本軍が誇る新鋭戦艦「大和」「武蔵」である。

 周囲には数隻の小艦艇を伴っていた。艦隊の内訳は、戦艦二隻、重巡洋艦四隻、駆逐艦四隻である。駆逐艦は吹雪型の改良型である綾波型からなる第七駆逐隊。重巡洋艦の始祖、古鷹型、その改良型である青葉型で構成された第六戦隊。そして、戦艦 「大和」「武蔵」の二隻からなる第一戦隊がいた。

 この艦隊の任務は、真珠湾において機動部隊が叩き漏らした標的、工厰及び飛行場への砲撃で真珠湾の港湾、基地としての機能を完全に奪うのが目的である。


ここまで見つからずに来れたのは幸運だった、「大和」艦長松田千秋は少しホッとした心持ちでいた。奇襲というものは、敵に悟られないまま攻撃が出来てこそ成り立つものである。

 今現在、艦隊は真珠湾口まであと一時間の所にまで来ていた。キンメルは索敵を強化したのは良かったものの、艦載機が去っていった北の方角ばかりに気を取られ、南西から接近するこの水上部隊に気が付かないでいた。既に総員戦闘配置に付き、あとは着くまで待つばかりとなっていた。


「今のところは順調だが、どうなるかね」

 艦隊指揮官の角田覚治が呟いた。

「恐らく、殴り込み事体は成功するでしょうな。我々が無事に帰れるかはわかりませんが」

 松田が返した。

「本当はもっと早くに来て早く離脱し、暗い内に敵の哨戒圏を出たかったのですが・・・」

「実はそれについてなんだがな・・・」

 

 角田は少し言葉を詰まらせた後、山本が考えている本当の目的を話した。

「やはり、そうでしたか」

「やはり、とは、君はこの作戦の主旨をどこから聞いたのかね?」

 角田が不審に思って聞いた。

「いえ、艦隊の編成の時点からどうも怪しいと思っていました。敵地に殴り込むのに、大和と武蔵以外は旧式の重巡に少数の駆逐艦でありますからな。本当に敵地をちゃんと叩くのなら、昼間は直掩機を出していても良いものですし、大和と武蔵以外の艦も新型の艦を配置したり、数を増やせば良いのではないかと。これではまるで・・・」

「失っても惜しくない。むしろそれを望んでいるのではないか?」

 角田が代わりに答えた。

「仰る通りです」

「全くその通りだ」

 角田は、感心したように頷いた。

「確かに、時代は航空機が主流になっていっているのかもしれない。しかし、だからといって戦艦が不要になったとは思わん。山本長官は、この大和は無用の長物だと仰った。実際に、先の奇襲で米軍の停泊していた主力部隊が壊滅した報告を受けた時には目を見張った。だが、それはあくまで奇襲でかつ停泊していて動けなかったからだと私は思う」

 角田は松田に向き直った。

「さらに君は、標的艦『摂津』に乗艦していた時、航空攻撃回避方法のマニュアル『爆撃回避法』を作成したな。あれは今回の作戦を実行するにおいて非常に興味深いものであった。だから君に『大和』の艦長を任せたのだ」

 角田は少し顔を緩ませる。

「これから戦艦の新しい歴史を作ろうじゃないか」

 そう言って角田は松田の肩に手を乗せた。松田は、これからの戦いで、自分の戦術が戦艦の歴史に新たな風を巻き起こす。そう予感した。

「司令官のご期待に添えるよう、この松田、命に代えても作戦を遂行し、無事『大和』を、いや艦隊を帰還させてみせましょう!」

「うむ、その意気だ」


 リー少将率いる「メリーランド」「ウェストバージニア」「テネシー」からなる戦艦部隊は真珠湾南沖50キロを哨戒していた。しかし、哨戒というよりはこれ以上被害を出さないための一時的な避難行動という意味合いが大きかった。


 この時リーは、艦橋で哨戒の様子を見守っていた。

「今回は出番は無さそうか・・・」

 朝方の攻撃の後、ハワイに残された航空機を出来るだけ動員して日本の機動部隊の捕捉に努めたが、結局見つかったのは偵察に来ていた潜水艦数隻だけであった。ハワイを占領せんとする輸送船団なども確認出来なかった。朝の攻撃以来音沙汰無く、恐らく日本は占領までは考えて無く、既に離脱し、もう近海にはいないというのが大方の意見であった。

「しかし、日本軍があれ以上の攻撃を仕掛けて来なかったのは不幸中の幸いだった。港湾施設や燃料タンクをやられていたら、最低でも半年はハワイは基地としての機能は失われたな」

 リーは少し安堵していた。今の真珠湾の状況なら、復旧は容易に進むと判断したからだ。

 現在ハワイでは、島中の重機を集めて飛行場や破壊された施設の復旧の真っ最中であった。多くの重機が集まり、数日の内にかなりの施設が復旧される見通しがたっていた。流石に沈んだ戦艦等の引き揚げ、修復は困難を極めるだろうが、大破着底した戦艦なら浮揚した後の修復は時間は掛かるものの、可能であると見られている。

 リーは安堵すると同時に、今まで緊張状態にあったために感じなかった疲れを急に感じるようになり、睡魔が襲ってくる。リーだけではない。朝から今この時も警戒体制が続き、至るところで水兵などが疲れて寝てしまい、上官に起こされるという光景が見られた。その上官にも、疲れの色が隠せてない者は少なくない。


 警戒を解き、少し仮眠でもしようかと思っていた時、バタバタと水兵が息せき切って駆けこんできた。

「何事だ」

 リーが水兵に尋ねた。

「ハワイの司令部から緊急の電文です」

 リーは水兵の慌てた様子から嫌な予感を感じずにはいられなかった。それはリーと同じく艦橋にいた艦長や士官も感じていた様であった。

「読み上げろ」

「読み上げます『我レ 敵艦隊ノ砲撃ヲ受ケル 貴艦隊ハ至急現場ニ急行セヨ』とあります」

 リーは気が遠くなるのを感じた。

「何だと!索敵は何をやっていたのだ!」

 リーはつい何の罪もない水兵に怒鳴ってしまった。

「落ち着いてください司令官。兎に角、パールハーバーに戻り、敵艦隊を捕捉しましょう」

「そうだ、全艦パールハーバーに向かわせるんだ。他の哨戒の艦にも向かわせろ!アメリカの庭を荒らすとどんな目に会うか、イエローモンキーにたっぷり味わわせてやれ!!」


 その頃、真珠湾は朝方を上回る阿鼻驚嘆に包まれていた。空から無数の砲弾やその弾片が降り注ぎ、周囲は文字通りの地獄絵図となっていた。



「第三斉射、()っ!」

 松田の号令から少し遅れて左舷を向いた46㎝砲九門が咆哮する。真横に雷が落ちたかの様な音と共に、衝撃で艦全体が震え、反動で右舷に少し傾く。観測機による弾着修正は既に終わり、「大和」「武蔵」はそれぞれの目標を定め、思い思いに砲撃をしていた。

「ここまで来ると、流石に敵さんが可哀想になって来るな…」

 角田は、艦橋で艦隊指揮を行いながらその惨劇を眺めていた。現在艦隊は、戦艦が主に港湾攻撃を担い、第六戦隊は港湾攻撃を行いつつ臨機応変に近付いて来る敵艦を撃破。第七駆逐隊は沖合いから他の敵艦が来ないかの警戒を行っていた。

「新型砲弾が予想以上の活躍をしていますな」

 松田も目の前の光景に、半ば戦慄していた。松田の言う新型の砲弾とは、三式弾の事であった。三式弾とは、元々対空用に開発された砲弾で、時限信管を用いて空中で中に入った無数のマグネシウム弾を爆発させ、敵機を一網打尽にするというのが本来の使い方だ。

 しかし、対地上攻撃にも有効的な打撃を与えられる砲弾でもあった。その砲弾が、今目の前の地獄の様な光景を作り出している。

 角田は心の中で哀れな米兵達に手を合わせた。


「ここまで上手く首尾が運ぶとは、神様仏様も信じてみるものですな」

「油断してはならんぞ。いつどのような反撃が来るかわからん。各艦には再度見張りは厳となすように伝えろ。それから、松田」

 角田は厳しい表情で松田を見つめた。

「我々が行っていることは戦争で、我々は人殺し同然だ。神や仏がいるとしたら真っ先に地獄行きを言い渡される身である。明日は我が身と心得よ」

「申し訳ありません!司令官!」

 松田は鞭で打たれたように背筋を伸ばし、大きな声で謝った。

「それで良い」

 それ以降、角田は松田に注意することはなかった。角田の言葉に、艦橋の空気が引き締まる。しかし、角田は尚も厳しい表情を崩さなかった。


 港湾攻撃は終始一貫日本軍のペースであった。

 朝方の攻撃のどさくさに紛れ、角田艦隊は数機の偵察機を飛ばして攻撃終盤の港湾を隅から隅まで偵察をし、写真を撮らせた。写真を現像し、撃破されていない目標を優先的に無駄なく攻撃すべく分析をした所、思わぬ収穫があった。今まで情報になかった大規模な重油貯蔵タンク群が発見されたのだ。


 真珠湾攻撃を構想する際に使った地図が少し古いものであり、その中にはこの重油貯蔵タンク群はなかった。よって、軍指令部はこれらに気付かないまま攻撃隊を送ってしまい、攻撃隊もこれを見逃してしまった。


 しかし、角田艦隊はこれを見つけたため、工厰施設に並ぶ重要目標に指定した。

いざ真珠湾に夜闇に紛れて突入した角田艦隊は、海面に流れ出た重油が燃えているために、夜中にも関わらず港湾施設を遠距離から狙い撃ちができた。

重油が燃える事により生じる黒煙が風の影響で島と艦隊の間にどす黒いカーテンを作り、地上からしか弾着観測の出来ない米軍に対し、観測機からも弾着観測が出来て一方的に攻撃が行えたという天佑に恵まれたからだ。

 一番の脅威である要塞砲や湾内に大破着底したまま砲だけ稼働できる戦艦を相手の射程外から先制攻撃によりこちらの被害皆無のまま沈黙させた後、港湾攻撃に移った。


「外洋の全艦に再度至急戻るよう打電しろ!」

 指令部にいたキンメルは気が狂いそうになっていた。一度ならず二度までも敵の奇襲を受けてしまい、パールハーバーはまさに破滅への一途を辿っていた。

 八方を燃え盛る炎に囲まれ、海も流出した重油に火が燃え移り、辛うじて無事であった指令部の建物には収まりきらない程の負傷者で溢れていた。

 パールハーバーは1日前とは、最早見る影もない。


「何故・・・何故このようなことに・・・」

 キンメルが俯いたその時、頭上から風切り音が聞こえた。

 あっ、と気が付いた時には、指令部は46㎝砲弾により爆砕されていた。



「撃ち方止め!」

 角田は、最後の重要目標であった重油貯蔵タンク群が炎上したのを境に、砲撃を中止させた。誰の目にも、奇襲は大成功であった。


「残弾を報告せよ」


「三式弾はあと10発、他の弾は八割は残っています」


「うーむ、少々三式弾は使い過ぎたか・・・。朝までに空襲圈を離脱できれば良いが・・・」

 突入の時間帯が遅かったために米軍の隙を突いて攻撃できたが、このままでは空襲圈を離脱するまでに空襲を受ける可能性があった。

しかし、「大和」の三式弾はあと10発しかなかった。恐らく、武蔵も似たような状況だろう。


「これより帰投する。針路・・・」

 そう言いかけたとき、見張りから大声で報告が入ってきた。

「駆逐艦『漣』から通信、我れ敵艦を発見す。方位一八〇、距離一七〇(17000m)!」

「艦種を特定せよと伝えろ」

 角田は敵艦が追ってきていても構わず逃げるつもりでいた、がしかし。

「艦種は戦艦と思われる。繰り返す、戦艦と思われる!」

「何だと!?」

 角田は思いもよらぬ報告に驚きを隠せなかった。偵察から、パールハーバーにいた戦艦群は朝方の空襲と先ほどの攻撃により壊滅したと思われたからだ。


「それにしてもよく夜闇の中敵艦隊を発見できたな」

 角田が当然の疑問を言う。真っ暗闇の夜においては、10km以上は特殊な訓練を積んだ者でもない限りは目が届かない。

「恐らく、敵港湾施設の大規模な火災のによる明かりが僚艦の見張りの助けとなったのでしょう。それはともかく本艦からですと、距離は二二〇ですな・・・。角田司令官、どう致されますか?」

 松田も驚いた様子で聞いてきた。もしここで迎え撃てば、無傷での帰投はほぼ無理であり、最悪撃沈される艦がでてくるかもしれない。

 もし撃退して帰投しようとしても、撃退に時間がかかればかかるほど敵の空襲圈から離脱するのに時間が掛かり、それだけ空襲に晒される時間が長くなる。米軍の戦艦は足が遅く、逃げようと思えば逃げられる。しかし、ここで撃沈させなかったらこの先脅威となるのは間違いない。

 角田は腹をくくった。

「針路一八〇、敵艦隊を迎え撃つ。第六戦隊と第七駆逐隊は周囲を警戒し、他に出現した敵艦を連携して叩け!だが決して深追いはするな!」



 同じ頃、リー少将率いる戦艦部隊もレーダーによって角田艦隊を確認し、砲戦の準備をしていた。旗艦「メリーランド」から、二番艦「ウェストバージニア」、三番艦「テネシー」の順番で航行していた。

「敵は出てくるかな?」

 参謀がリーの疑問に答える。

「五分五分ですな。早く離脱したいでしょうが、我々を早めに叩いておきたいとも思うはずです」

「指令部からの連絡は絶えた。恐らくこの近辺でまともに反撃できるのは我々しかいないだろう」

「しかしリー司令、敵艦の内戦艦二隻は未確認の新型戦艦だと思われますが?」

「向こうはたったの二隻で18門、多分16インチだろう。こっちは三隻で16インチ砲が16門に14インチ砲が12門あるのだ。更に夜戦だから接近戦になり、旧式とはいえ我々の方がより有利だ。相手の護衛の艦も少数の様だから、我々には負ける要素は無い」


 リーが言い切ったと同時に、レーダー観測員から報告が飛び込んできた。

「艦橋に報告!敵戦艦二隻進路を変え接近!その他は恐らく敵戦艦後方に展開!」

「ほう、来たか。しかも戦艦だけで来るとは殊勝な奴等だ」


 リーは顔に笑みを浮かべると、号令を出した。

「全艦右砲戦用意!距離一五〇で取り舵!ジャップに目にものを見せてやれ!」

 リーが指示を出すと、にわかに艦は賑やかになってきた。出番のないまま終わると思っていたのが唐突に自分たちが敵討ちの主役に抜擢されたのだ。皆慌ただしく準備をしていた。


 そこには、先ほどまでの様に居眠りをするような者はいなかった。

次回は戦艦による夜戦

戦記とか初めて書くけど色々とあれも調べなきゃこれも調べなきゃと想像していたより大変・・・

一様最後まで骨格は出来ていますので途中で投げ出したりはしないのでご安心を

でもそこまでは長くなるなあ・・・

あと旭日の艦隊みたいに同時並行で外伝も予定していますので是非そちらもよろしくお願いします

感想なども受け付けていますのでどんどん書いてください

ではまた

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ