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超超弩級戦艦紀伊 ~暁の出撃~  作者: 生まれも育ちも痛い橋
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友へ送られるは大輪の花

 雷撃隊は16機のアヴェンジャーと5機のヘルダイバーで構成されている。

 不格好ながらヘルダイバーは魚雷が搭載可能で、こうすることで雷撃隊と爆撃隊が同数になった。

 そして、折角の大型艦撃沈のチャンスなのだから、雷撃機は5~6機の編隊4つが一塊になって『紀伊』へと迫る。今はいないとはいえ、通報を受けて健在な敵空母から迎撃機が飛んでくるだろうから何度も攻撃を分けて時間を掛ける悠長なことはしていられず、21機での同時攻撃を仕掛ける。

 事前の情報通り、そして急降下爆撃隊のお陰で『紀伊』の右舷対空火力はほぼ壊滅していることが分かった。『紀伊』の耐久力から、事前に21機がチャンスを窺い一気に突っ込むことになっている。同時に多数の浸水を片舷で発生させることで転覆させるのが目的だ。

 これは出港後、万が一雷撃機会が訪れた際にハルゼーから雷撃隊に直々に伝えられた作戦だった。そしてただでさえ少なくなった対空砲火を更に分散させて生存率を上げる狙いもある。



 ジョナサンが安全圏まで脱出し雷撃隊を見やった時には、既に雷撃への最終侵入コースへと入ったようだった。自分たちがそうであったように、高角砲も機銃もほとんど発砲していない。最後の威嚇か、主砲だけは雷撃隊に向けられている。

 雷撃距離は相手がデカくて速度も遅く、抵抗しないから1000mまでは近付くだろう。モンスターも回避は無意味と悟ったのか速度を上げもしなければ舵を切る様子もない。


 …ジョナサンは違和感を覚える。じっとりとしたものが、背中に纏わりつく感触を覚える。


 何故抵抗しない? 何故藻掻きもしない?


 操縦桿を握る手に動揺が走り、機体が僅かに暴れる。


「ジョーンズ!ダメだ!戻って来い!」


 無線にも繋がずに叫んでいた。そして、次に見た光景は地獄の窯の中だった。




 傍目からは、一瞬にして『紀伊』は煙幕を展開したのかと思われた。それが『紀伊』を覆いそうなほど多量だったからである。

 しかし、それは紛れもなく砲弾の発射で火薬が大量に燃焼されたことによる大砲の発射煙である。

 『紀伊』は主砲を撃った。弾種は三式弾、狙いは雷撃機編隊、限界まで引き寄せ、狙いを澄ました、一斉射9発。


拳銃から大口径砲まで、遠距離ほど狙いにくいというのは自明の理だ。遠距離になればなるほど風や温度、射撃の反動にライフリングによる回転や空気の密度など様々な要素のせいで単純に狙ったところには飛んでいかない。

 『紀伊』は、というよりこの攻撃を考えた松田は、小さくすばしっこい敵を落とす方法を考えた。

 9門の51㎝砲とそこから撃ち出される三式弾は半ば散弾銃のように使われた。敵を引き付けることで砲弾が様々な影響を受ける前に密集したまま敵機に到達し、高い初速を維持したまま無数の炸裂した弾子が横殴りの豪雨のようにジョーンズ隊へ襲い掛かることとなる。


 9発の三式弾は21機の雷撃隊の先陣を切るジョーンズ機の50m手前で炸裂した。炸裂した51m三式弾からは可燃性のマグネシウムやゴム、非可燃性の弾子が運動方向へまとまって放出される。

 21機のほぼ全機がその弾道上にあり、無数の弾子が正面から襲い掛かる。

 ジョーンズ機は弾子がエンジン主翼胴体尾翼を切り裂く。コックピットの窓が割れ幾多ものの破片が飛び込み、操縦士は上半身がズタズタに切り裂かれ抉られる。穴が空いた機体は最高で3000度にも達する燃焼した弾子が漏れ出たガソリンを熱し、機体は爆発的に炎に包まれる。完全に包まれるかどうかという所で、機体は剛性が耐え切れずにバラバラに分解し千切れ、海面に無数の飛沫を立てる。

 その他の機体も似たような有様で、それぞれの搭乗員は弾子に切り裂かれて死ぬか、炎に呑まれて死ぬか、海面への墜落で死ぬかだった。

 全てが終わった後、空に留まっていたのは最後方最左翼と右翼のただ2機のみであった。


「ア……アァッ……!」


 眼下の空に咲いた真っ赤な大輪の花は友の死を意味し、破片や断片で泡立ち燃える海は友の墓標を指し示していた。

 モンスターが主砲を撃ってからたったの10秒も経っていない。その10秒にも満たない時間で、19機に乗る52人の命が散り、その中には昔からの友が含まれていた。


「…尉、ジョナサン大尉!」


 自分を呼ぶ大きな声に遠のくようだった意識が戻る。


「大尉!ジャップの戦闘機隊が近付いているようです、撤退しますか!?」


「あ…、ああ、そうだな。全機へ、これより母艦へ帰投する。生き残った爆撃隊や雷撃隊は合流し戦闘機隊は後ろを頼む!」


 胸の内では友を、一度に多くの戦友を失くしたことのショックが大きく、一種の虚脱感を感じていたジョナサンだった。それでも、敵機接近の報告にベテランらしい素早く的確な指示を出す。

 残存機を率いて撤退する、ジョナサンは『紀伊』の姿を見えなくなるまでいつまでも目に焼き付けていた。




「バンザーイッ!バンザーイッ!バンザーイッ!」


 視界の向こう側の大気でさえ揺さぶる轟音、『紀伊』と敵機を全て覆いつくしてしまいそうな黒煙が拭い去られた跡に、粉々になって散り落ちた敵機と海の上にあるものすべての頂点に立ったと証明し終えた戦艦の雄姿。

 絶体絶命の危機と思われた攻撃を、たった一回の『紀伊』の主砲射撃でねじ伏せてしまった。

 対空射撃などで甲板に出ていた他の艦の水兵は、その一連の事実を目の当たりにして言葉を失い、次の瞬間には万歳三唱でこみ上げる喜びを表現した。


「皆、ご苦労だった」


 山本も、いつもより上機嫌だったのはよく山本と顔を見合わせる人なら誰でもわかるものだった。

 他の者も、一斉者で敵機を薙ぎ払った興奮を忘れられず、どこか浮ついた雰囲気が漂っていた。今や上空に『飛龍』からの援護機が付いており、本当の意味で戦闘が終了して気が緩められるようになったからだ。






「やはり、今回のようなことはそうできるものではありませんな」


 長官公室のイスに座り、コーヒーを飲みながら宇垣はそう口を開いた。この場にいるのは聯合艦隊司令長官の山本五十六、参謀長の宇垣纒、艦長の猪口敏平だ。


「確かに、今回は状況が特殊だった。だが今回の様に片舷は引き付けて主砲を使い、もう片舷は対空砲や機銃を使って迎撃というのはある程度有効だとは思うがね」


 山本もコーヒーを啜りながら話す。戦闘終了後の上機嫌さは少し薄れていた。


「艦長の私からも、『紀伊』は対空射撃に主砲を使うのは得策ではないと思われます」


 今度は艦長の猪口からだった。


「『紀伊』の主砲の仰角には限界があり、至近の高空の目標は狙えません。即ち、急降下爆撃にはどうしようもありません。そして敵は今回の様に急降下爆撃や雷撃を順番にしてくるとは限らず、一斉に攻撃してきたら砲塔型の高角砲や防盾で覆われた機銃はともかく、当初より大幅に増設された丸腰の機銃は碌に射撃ができません。主砲発射後は発砲煙が酷く、照準もできないため後続の敵機への対応が遅れます」


 うーん、と山本は腕を組む。それに畳みかけるように宇垣が追撃する。


「更に、今回のことで米軍に手の内が明かされてしまいました。対策を打って主砲で狙っていると分かれば編隊を散開したり、後続がすぐ攻撃に取り掛かれるようにするなどされるやもしれません」


 腕組みをして暫く考えた後、山本は口を開いた。


「なるほど分かった、今回の様に至近距離での対空射撃に主砲を使うのは控えるよう通達しよう。だが、どういう状況下では今回の様に主砲射撃が有効と考えるかね?」


 今度は宇垣が腕を組む番だった。確かに、この殲滅力を腐らすには惜しく感じられる。


「対空火力が大幅に削られた後ですな、それこそ大海戦の後の敵からの追撃に対して」








 『エンタープライズ』に着艦し、ケビンは生き残ったとひと安心していた。だがすぐさま前方の風防が勢いよく開き、ジョナサンが飛び出していった。

 ケビンは慌てて後を追った。飛行甲板から艦橋へと入るドアに入り、階段を上へ上へと急ぎ足で昇って行く。ジョナサンが狭い艦内ですれ違う人を押しのけながら向かった先は、『エンタープライズ』の指揮所だった。


 指揮所のドアを乱暴に開けてジョナサンは中を一瞥する。その勢いに、中にいた者は全員がジョナサンの方へ何事かと振り向いた。部屋を眺めていたジョナサンは、ある一点に視線を定めると足早にその先にいる人物へと距離を詰めていった。

 ケビンが止める間もなく、ジョナサンは右手でミッチャー少将の胸倉を掴んでいた。周りの人間も、呆気に取られて何もできなかった。


 僅かな膠着の後、最初に口を開いたのはミッチャーだった。


「……ジョナサン大尉、何が起こったのか詳細な報告を頼む」


 その言葉に、ジョナサンは掴んでいた手を放し直立する。

 ジョナサンは自分に言い聞かせるように、ゆっくりと口を開く。


「……報告します、攻撃に向かった58機のうち爆撃隊2機、雷撃隊19機を失いました。敵への損害はモンスター…、いえ、『紀伊』へ徹甲爆弾が7発命中のみ。大した損害は無かったようです。敵は雷撃態勢に入った雷撃隊に、以前から確認されていた対空砲弾を主砲から撃ち出し雷撃隊を一網打尽にしました。敵戦艦はなおも健在です」


 何かを吐き出すかのようにジョナサンが全て言い終わったのを確認し、ミッチャーは大きく頷く。


「ご苦労だった、帰港するまでゆっくり休んでいてくれ」


 ジョナサンは敬礼し、回れ右で部屋を出ようと歩き出す。


「本当にすまなかった、君の仲間も、友人も」


 僅かに聞こえたミッチャーの言葉に、ジョナサンは足が止まる。だがすぐにまたスタスタと歩き出していった。

 すれ違ったケビンが見たのは、真っ赤になって涙と鼻水で一杯にしたジョナサンの顔だった。

ミッドウェー海戦はこれにて終了

第二次は4年半、第一次開始から5年半とかマジ?

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