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超超弩級戦艦紀伊 ~暁の出撃~  作者: 生まれも育ちも痛い橋
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決着の時

コロナ増えすぎぃ…

 『アイオワ』が爆沈したのを境に、先頭は急速に終息していった。指揮を引き継いだ重巡洋艦隊の司令官は撤退を選び、日本側にこれを追撃する力は残っていなかった。

 この時点での夜戦における両軍の損害は

 日本

 撃沈

 軽巡洋艦 長良 駆逐艦 初風 夕雲


 大破

 戦艦 紀伊 榛名 重巡洋艦 利根 筑摩 駆逐艦4隻



 アメリカ

 撃沈

 戦艦 アイオワ ニュージャージー 重巡洋艦 クインシー ニューオーリンズ タスカル―サ 軽巡洋艦 リノ 駆逐艦 モナハン バルチ


 大破

 重巡洋艦 ミネアポリス オーガスタ ピッツバーグ 駆逐艦3隻


 中破以下は省略


 これに昼間の空母戦を含めると


 日本

 撃沈

 空母 赤城 蒼龍 龍驤


 大破

 駆逐艦 照月



 アメリカ

 撃沈

 空母 ワスプ


 大破

 空母 インディペンデンス 重巡洋艦 サンフランシスコ


 

 互いに多大な犠牲を払った戦いであったが、まだ完全に戦いが終わった訳ではなかった。




「正気ですか、ミッチャー少将!」


 ジョナサンは上官であるミッチャーに詰め寄る。後ろではケビンを含め同僚のパイロットが、その様子を見守っている。


「君たちが言いたいのは分かる。我々も敵も艦載機の数が大きく減ったし、パイロットも少なくない数が失われた」


 今米軍に残された戦力と言える艦は、応急修理を施した『エンタープライズ』のみであった。搭載機も徹夜での修理や整備、特に他の空母の生き残った整備兵を総動員した甲斐もあって、なんとか78機全機が飛び立てるようになった。

 ただし、日本側にも同じく『飛龍』が健在であり、普通に考えれば同様なことをしているはずだ。ここはこれ以上の損害を増やさないために素直に引くか、残った空母を叩く、本来の目標である輸送船を叩くかだ。


「皆が言いたいことは分かる。だが、ハルゼー提督ら戦艦部隊が命を懸けて作ったチャンスなんだ、それにこの機数で無傷の敵を撃沈にまで持っていけるかは分からない。だが相手は散々に打ちのめされた、手負いの獣だ。これ以上の損害は私としても望ましくない、だからこその、一度きりの全力出撃だ」


 ジョナサンは大きく息を吸い、吐く。そして部下たちの顔を見回し、告げた。


「分かりました、我々は全力を挙げて出撃します。ですが、残った空母と戦艦の両方は攻撃できないのは理解していただけますね?」


 ミッチャーは小さく頷く。それを見て、ジョナサンはバネが弾けるように動きだした。


「お前たち、仕事の時間だ。ジャップをもう一度叩きに行くぞ、目標は俺が決める」


 ジョナサンの言葉にミッチャーも異を唱えないのを確認し、漢達は思い思いのやるべきことをやり始めた。



 戦闘が一段落し、集結して無事に朝日を拝むことができた船たちは、皆ボロボロだった。戦艦『榛名』『霧島』は8インチ砲弾をしこたま撃ち込まれ、主砲以外の上部構造物は原型を留めている個所の方が少ない。特に『榛名』は水面下の被弾が重なり浸水が激しい。

 重巡洋艦『利根』『筑摩』も似たような有様で、こちらに至っては主砲すら使えるのは1基だけだ。大破した主砲は黒ずみ右舷を向いたまま静止している。

 そして、『紀伊』も酷い有様だ。あちこちが焼け焦げて甲板を覆う木材がささくれ立っている。片舷への浸水とバランスを取るための注水で目に見えるほど喫水は下がっており、何よりも右舷に面した副砲から高角砲、機銃に至るまで、使えるものは無かった。

 

「全艦、西へ進路を取ろう。小沢くんの艦隊に合流する」


 山本の命令で、無事な艦艇は全て今は山口多聞が指揮する機動部隊に合流することとなった。とはいえ、損傷した艦の応急修理をしながらになるので、しばらくは8ノットと低速で移動する。それでも先行する輸送部隊と同程度の速度なので、修理が終わり速度が出せるようになれば追いつけるはずだ。


「やっと一息、吐けますかな」


 参謀の宇垣が呟く。あとは撤退するのみである今は参謀としての仕事は多くなく、何よりも昨日の戦闘の記憶が新しいうちに、自分が手掛けている『戦藻録』と呼ばれる日記を書きたかった。


「ああ、お疲れ様。休める者は休んでもらって結構だよ」


 ほぼ丸一日戦闘態勢にあったため、兵の上から下まで疲労していない者はいない。特に各艦の艦長など上の立場の人間は、戦闘の合間に仮眠もできていない。

 下から上がってくる損傷や死傷者の報告も少なくなっており、一応は戦闘態勢こそ維持していたものの緊張の糸が切れかけていた時だった。


「報告、東の空に……、東の空に敵機!多数!」


「なんだと!?」


 艦隊の後方、東の空に幾多もの黒点が並ぶ。それらはどんどん大きくなっていき、塗装や型から敵機だと判断できるまでになる。


「全艦、対空戦闘用意!」


 コーヒーを飲んで一服しようとしていた宇垣も、空襲警報に椅子から飛び上がって艦橋に向かう。まったく、折角文章を練っていたというのに。


「敵機の規模は!?」


 艦橋にたどり着いた宇垣は開口一番に尋ねる。


「敵機の数はおよそ60機!」


「どうやら生き残った敵空母からのようだよ」


 山本が捕捉した通り、敵機は艦載機から構成されていた。


「宇垣君、新手の空母が来たと思うかい?」


「いえ、恐らく違うかと」


 宇垣は冷静になり、考えをまとめ上げながら考えを述べる。


「米国も空母は我が方と同じように集中して運用しています。完成が急がれている新型空母は未だ公試の段階にあると見られていて、実際に昨日の戦闘では姿を確認できませんでした」


 アメリカの新型空母であるエセックス級空母は、竣工こそしていたものの、新型故に問題点の洗い出しの最中だった。

 それ故に、アメリカの本格的な反攻作戦は早くとも1か月後と見積もられ、前年のミッドウェー海戦で傷付いた『紀伊』や『大和』といった大型艦艇の修理に多くの人員が割かれ、工期が遅れている新型空母『大鳳』や『雲龍』も、この時期に完成するよう調整がされていた。


「様々な報告からも、米国は全ての空母を出動させたと思われるので、恐らく応急修理をした『エンタープライズ』からの攻撃かと」


「なるほど、そうかもな。だとしたらやはり米国は恐ろしい相手だ、一晩で大破した飛行甲板を使えるように修理してしまうとはな」


「閣下、我が艦隊は損傷した艦ばかりで出せる速度がまちまちです。今の速度と陣形を維持しながらの対空戦を行うことを提案します。それから……」


 宇垣は息をのむ。まさか本当に実戦でやる機会が来るとは


「本艦で、『紀伊』で()()を行うことを進言します]


 宇垣の発言に艦橋内がざわめく。山本も少し驚いたように目を見開く。


「…そうだね、全艦に通達せよ」









「ジョナサンとジョーンズか、今日からお前らはジョジョだな!」


 何を言い出すのかと、最初ジョーンズと一緒に首を傾げた。それからすぐに、互いの名前のイニシャルがJoであると気付き、子供ながら可笑しくて笑った。

 




「俺、あの人達みたいに空を飛びたい」


 丘の上で座りながら指差す先には、鳥のように大空を自由に行き来する飛行機があった。


 空を飛んで、どうするんだい?


 ジョーンズが尋ねる、でもどう答えたら良いのか分からない。ただ自分の中にある、突き上げるような衝動、そして焦がれるような憧憬があるだけなのだ。


「空を飛ぶって、楽しそうじゃないか」


 それを聞いたジョーンズは、そうかもね、とだけ呟き、草原に寝っ転がった。





「ジョーンズ…?おまえ、ジョーンズか!俺だ、一緒にジョジョって呼ばれてたジョナサンだ!」


 ジョーンズの親の仕事で離れ離れになってから10年以上の時を経て、久しぶりに会ったのはフロリダ州のペンサコーラ海軍基地だった。

 ジョナサンは教官としてパイロット志願者をしごきあげていたのだが、ある日機体にエンジントラブルが発生して緊急着陸をしてきた輸送機があった。その積み荷の一人が、他の基地へ異動中だったジョーンズだった。


「飛べるのは明日だろ?いい店があるんだ」


 再会した友とは、10余年の互いに身の回りで起こったことを話し合い、あの日の思い出を語らい合った。



 そして、手紙のやり取りを重ねた後で次に出会ったのは、所々焦げた空母『エンタープライズ』の飛行甲板だった。






 眼下には獲物が転がっていた。事故を起こすリスクを抱えての夜間発艦は成功し、今自分たちを邪魔する直援機の姿は見えない。

 無線に向かって叫ぶ。


「お前たち、分かってるな?目標は手負いのモンスター、ただ一隻だ!」


 歓声が溢れんばかりに無線から漏れ出る。意気揚々なのは願ったりだ。


「俺たち急降下爆撃隊が先に行く、雷撃隊はタイミングをずらして遅れて攻撃、護衛機は目ん玉剥いて指を咥えながら俺たちの活躍を見てな!」


 グングンと敵艦隊に接近していく。駆逐艦や巡洋艦の砲から自分たちに向けて砲弾が放たれるが、思っていたよりもずっと少ない。

 山本艦隊は激しい夜戦の末ほぼ全艦が何らかの被弾をし、対空電探が破壊されたか復旧中であった。電探というものは戦う船にとり、あまりにも脆弱だったのである。

 それで発見が遅れ、碌な迎撃のないまま接近を許した。夜戦で多くの艦の対空砲が破壊されて火力が低下したのも原因である。


 接近し、違和感を感じる。モンスターの周りを見渡すと、右舷側にだけぽっかり穴が空いたように護衛がいなかった。というより、損傷した他の艦を輪形陣の内側に隠して庇っているかのようだ。


「各機に告ぐ、奴らの右側から攻撃せよ」


 1隻でも多くの艦を救おうとしているのかもしれないが、モンスターただ1隻だけを目指しているジョナサン達にはむしろ好都合だった。

 緩降下で速度が乗った機体を翻し、急降下を始める。昨日とは違う緊張、モンスターを相手にしているという事実に、背中がゾクゾクと震え上がる。暴れ出す機体と震える体を押さえつけ、照準器を見つめ続ける。


「投下!」


 ジョナサンの編隊から一斉に爆弾が投下される。黒々とした徹甲爆弾が次々『紀伊』に吸い込まれて行っては炸裂する。


「隊長!命中!命中です!」


「詳細に報告しろケビン!  ハハッ、1000ポンドの火の玉の味はどうだ!クソ食らえガァ!」


 そして素早く離脱したジョナサンは無線に向かって叫ぶ。


「ジョーンズ!モンスターの右舷はヒドイ様だ、じっくり狙い澄まして行けえぇ!」

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