真・真珠湾奇襲作戦
今回からやっと戦いがはいります。え?紀伊とか震電とか早く出せ?
・・・もうしばらく待ってください
ニイタカヤマノボレ 1208
この電文が意味するのは、予定通り単冠湾にいる機動部隊がハワイに向け抜錨するということだ。
攻撃中止の場合、「ツクバヤマハハレ」という電文が攻撃までに来ることになっている。だが、山本は恐らくそうはならないだろうと考えている。日本の世論は対米戦一色で、外交官の努力も虚しく交渉はかなり難航しているようである。
交渉が決裂するのも時間の問題であろう。南雲機動部隊は単冠湾を抜錨した。
目的地はハワイ、攻撃を悟られないために厳重な無線封止を行っての道中であった。発見されるリスクを少しでも無くすため、航空機による索敵もしていない。
行動は一年前に予定していたものと同じだが、艦隊自体にいくつか変化があった。
まず、艦載機である。
艦上攻撃機である九七艦攻は同じであったが、戦闘機は零戦三二、及び二二型、艦上爆撃機は完成して間もなくのかろうじて揃えられた彗星を搭載していた。また、それらの搭載比率も違っていた。
1942年夏、空母艦隊を二つに分け空母同士の戦いを想定した演習を行った。
片や戦闘機を多く、攻撃機を少なく、片や戦闘機を少なく攻撃機を多くし、どちらが相手艦隊に有効な打撃を与えられるかのテストでもあった。
その結果、戦闘機が多い方が圧倒的に味方の被害が少なく、相手に有効な打撃を与えられた。
これに衝撃を受けたのは大西瀧治郎などの爆撃機偏重派であった。彼らは、戦闘機を作るよりは爆撃機を多く生産し、攻撃の機会を増やした方が良いと唱えていたが、この演習結果を受け、考えを改めざるを得なくなった。
戦闘機を多くした方が、艦隊の護衛も攻撃隊の護衛もある程度満足に行え、結果的に全体の生存率の高さや、攻撃の機会の有効活用ができた。
実際、我々の知る珊瑚礁海戦では、護衛を付けなかった爆撃機隊が全滅したという例がある。ミッドウェー海戦においても、護衛機を付けなかった米軍の攻撃機隊が、我が戦闘機隊により全滅している。
それだけ戦闘機による制空権が大事であるということを、この演習で日本海軍は思い知ることとなった。確かに爆撃が行える機体の数は減ったが、新型艦上爆撃機の彗星は従来までの九九艦爆よりも爆弾搭載量が増えたためそれほど攻撃力の低下は起こらなかった。
艦隊には夕雲型等の護衛の駆逐艦が増え、また別動隊も存在した、が、ここではその別動隊についての説明は割愛させて頂く。
とにもかくにも、南雲機動部隊は一年の猶予を得たことにより、より強力な艦隊となってハワイに迫っていた。
そして、来るハワイ時間で12月8日。
機動部隊は幸運にも敵に発見されることなくハワイ近海に到達した。
「結局本国からの攻撃中止の通知は来なかったか…。」
艦隊指揮を任せられた南雲忠一中将は不安であった。ここまで米軍に気付かれず来れたのは実に幸運であった。しかし、攻撃が成功するまでは予断を許さない状況だ。もしかしたらこちらに気付いていて攻撃隊を送っているかもしれない。今、この時も潜水艦が息を潜めてこちらを狙っているかもしれない。
南雲は改めて、大変な事を引き受けてしまったと後悔した。何よりも、今から自分の指示一つで、戦争の引き金を引いてしまうのである。これ程の重責に耐えられる人間は、いないであろう。しかし、やらなければならないのだ。
それが、軍人の務めであるからだ。
「攻撃隊、準備せよ」
指示と同時に、艦中が忙しくなる。
甲板に出た飛行機は、戦闘機には増槽を、爆撃機や攻撃機には爆弾や魚雷等を装着、整備士が最後の点検をし、パイロットが乗り込んだ。
一機、また一機と、エンジンが唸り、プロペラが回り始めた。腹に響くエンジンの唸りが次第に、確実に大きくなる。プロペラによる風圧がいよいよ強くなってきた。
そして、全ての準備が整った。
もうここまで来たら、やるしかない。
「全機発艦!帽振れ!」
号令と同時に、赤城、加賀、飛龍、蒼龍、翔鶴、瑞鶴、の計六隻の空母から、朝日の中飛行機が飛び立っていった。二回に分けて行われ、計350機以上の獰猛な猛禽類の群れを思わせる様な大編隊がハワイに刻一刻と迫っていた。
攻撃隊がハワイに迫っている最中、ハワイのとある山にあるレーダーサイトには、不審な編隊が映し出されていた。
「何だこの編隊は?」
二人いる観測員の内の一人が呟く。
「今日は本国からBー17が来るそうだからそれじゃないのか?」
もう一人の観測員が言った。
「一応、指令部に確認しよう」
指令部に打電すると、直ぐに返事がかえってきた。
「やっぱりそうだ。本国からの爆撃機だ。まあこんなところに日本軍が来れる訳がないだろう」
「それもそうだな・・・。おっと、もう少しで交代の時間だ」
「腹も減ったし、サッサと朝飯を食べに行こうぜ」
「賛成」
観測をしていた二人は、その言葉を合図に朝飯を食べに行こうとしたその時、レーダーに、普通ではあり得ない何百という大編隊が映っていたが、迂闊にも二人はそれに気付かず観測所を出ていってしまった。
現地時間7時52分、攻撃隊は真珠湾上空にあった。攻撃隊総指揮官の淵田美津雄は、奇襲の成功を確信し、旗艦赤城に無電を送った。
「トラ・トラ・トラ」
意味は「我奇襲に成功せり」
「今日もハワイは良い天気だな」
ハワイの市街地を歩いている士官が呟いた。
「バーのママに泳ぎに誘われたが、生憎もう休暇は終わりか・・・」
一緒に歩いていたもう一人の士官が返す。
「全く。確かにもうそろそろ戦争になりそうだからっていきなり呼び出しは無いぜ」
「まあそう愚痴をこぼすな。ジャップなんてサッサと捻り潰して、せっかくハワイに配属されたんだからバカンスを楽しもうぜ」
「それもそうだな・・・ん?おいみろ」
そう言って最初に口を開いた士官が空を指差す。
「あの飛行機、やたら飛ぶ高度が低いぞ」
言われてもう一人の士官が指を差された辺りを見上げる。
「本当だ。一体何処の所属だ?高度規定違反だぞ」
その時、その飛行機から小さな黒い物体が落ちるのが見えた。二人が不審に思ったその時、突如爆発音が響き渡った。その様子を、二人はしばし口を開けて呆然と見ている事しかできなかった。
少し経ち、二人は叫んだ。
「敵襲だー!!」
二人は一目散に基地へと駆けていったのであった。
現地時間7時55分、攻撃が始まった。
戦闘機による機銃掃射から始まり、飛行場や施設に爆弾が落とされ、穴が開き、飛行機は吹き飛ばされ、横転した後、燃料に火が付き激しく炎上した。
炎上した飛行機から命からがら脱出する搭乗員。爆弾の爆発により身体が千切れ飛ぶ整備員。身体に火が燃え移り、絶叫を上げながらのたうち回る兵士。その光景が、ハワイの全飛行場で起こっていた。
「チクショウ!ジャップめ!!」
各地で果敢にも対空機銃が火を吹く、がどれも慌てていたのか、米軍を嘲笑うかの様に、ろくに当たらない。しかし、一つの機銃が一機の零戦を捉えた。機銃弾が命中した零戦はたちまち黒煙を噴き上げ、墜落へのカウントダウンを始めた。
だが、零戦は最後の力を振り絞り、自分の死に場所を米軍の格納庫と決め真っ逆さまに突っ込んでいった。
「天皇陛下万歳!!」
次の瞬間、狙われた格納庫は爆発と共に、炎に包まれた。
港湾も壮絶な光景に包まれていた。戦艦アリゾナに数発の大型爆弾が命中、砲塔の弾薬庫に直撃し、大爆発を起こして多数の兵員と共に沈没したのを皮切りに、ネヴァダやカリフォルニアなどの戦艦にも、航空機の群れが襲いかかった。
ある艦は爆弾を多数受け、ある艦は魚雷を多数受けた。
この時、空母サラトガも真珠湾に停泊していた。第一目標が空母であったため攻撃機が殺到し、恐らくこの日一番悲惨な目に会ったのはこの艦であろう。まず、数発の爆弾が飛行甲板に命中、内一発が航空機用の燃料に引火、格納庫に搭載された爆弾に引火し、大爆発を起こした。更にとどめと言わんばかりに数発の魚雷が命中。艦に大穴が出来、海水の渦が発生し、難を逃れて脱出し泳いでいた人々を飲み込みながら、沈んでいった。
攻撃が終わり、気が付いて見れば真珠湾は地獄の様な光景であった。あちこちから火の手が上がり、黒煙と焦げるような臭いが燻る。海には大小様々な艦の残骸が転がり、沈没した艦から漏れでた重油が海面一帯を覆い、一部には火が付き燃え上がっていた。
大型艦で無事な艦は無く、一番軽い被害だったのは戦艦テネシーであった。この艦は数発の爆弾を受けたが、幸い大した損害もなく自力航行が可能な唯一の戦艦であった。その他の戦艦は、良くて海底に着底といった有り様である。
飛行場の被害も甚大なものであった。400機程あった航空機は、その多くが失われ、辛うじて迎撃に向かえた戦闘機は極僅かであった。
一連の攻撃を陸上にある指令部から見ているしかなかったキンメル大将は、半ば放心状態であった。
「私はどう責任を取れというのだ・・・。いや、この戦争は一体どうなってしまうのか……」
未だに煙が燻り続けている母港を見ながら呟いた。
「長官、気を確かに。今すぐ索敵機を飛ばして敵艦隊を探しましょう。それに我が艦隊には小破で済んだテネシーに、たまたま練習航海に出ていて無傷で済んだメリーランドとウェストバージニアがあります。それに沈没や横転した以外の大破した戦艦は辛うじて主砲は使えます。港湾設備やドックも無事な様なので復旧も早く済ませられます。飛行場も、島内にある重機を軍民問わず集めて早々に復旧を進めましょう。もしこのハワイを占領する気で来たら返り討ちにしてやりましょう!」
副官がキンメルを激励すると、キンメルは少し落ち着きを取り戻し、指揮を始めた。
「そうだ、今できる最善を尽くさねば・・・。ハルゼーとブラウンに周囲を索敵しながら至急帰投するよう伝えろ!生き残った航空機も全力で敵艦隊を探せ!動ける艦は全て外洋に出し駆逐艦は全艦索敵をするんだ!駆逐艦一隻国に帰すな!」
キンメルは怒りと憎しみ混じりに叫んだ。
「リメンバーパールハーバー!!」
現地時間9時30分頃
ハワイ沖で攻撃隊を収容し終えた南雲機動部隊は、帰還の途につこうとしていた。
「本当にこのまま帰還するのですか?二航戦司令官の山口中将が第二次攻撃の催促をしてきていますが」
参謀の草鹿が、南雲に訊ねた。
「いいんだ。このまま帰還せよ」
南雲はにべもなく言った。
「では・・・」
草鹿は声を抑る。
「せめて例の別動隊に直援機を・・・」
「それもならん」
「なんと!何故ですか!?」
草鹿は驚いて訊ねた。
「これは山本長官からの言付けなのだが・・・」
と前置きし、こう繋いだ。
「この戦いで、長官は新鋭戦艦を二隻とも沈めるおつもりだ」
草鹿は目を丸くした。
それどころか、近くで聞き耳を立てていた幹部達も驚き、一斉に南雲を見つめた。南雲は幹部達に近くに来させ、訳を話した。
「諸君、これから話す事は内密にしてほしい。山本長官はこれからは航空機の時代と読み、この航空機による奇襲作戦を立案された。だが、例え攻撃が成功しても大鑑巨砲主義者たちはまだ考えを変えないであろう。なぜなら、米国の戦艦より我が艦隊の戦艦の方が優秀であり、簡単には沈まないと考えてしまう。それを打ち砕くために大和にはここで沈んでもらう。実は事前諜報の結果、空母サラトガはハワイにいるが、他の二隻の空母が近海を航行していることがわかった。更にハワイの基地航空隊も多少は残っているであろう。潜水艦、うち漏らした艦もあるはずだ。たった二隻の戦艦ならこれらの総攻撃で沈むだろう」
「しかし、そんなに上手くいきますか?」
草鹿が訊ねた。
「上手くいく事を願おう。そうすれば機動部隊による作戦がよりやりやすくなる」
南雲は空を見上げた。
「戦艦の時代は終わったのだ。我々の手によって」
そこには、一抹の寂しさを感じさせるものがあった。
次回は日本軍大好き泊地殴り込み&戦艦の殴り込み
お楽しみに