表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
超超弩級戦艦紀伊 ~暁の出撃~  作者: 生まれも育ちも痛い橋
転換
27/34

空を裂く時

 こちらに駆け寄る人影を横目に菅野が駆る機体は飛び上がっていく。一瞬、帰ったら何と言われるかと考えてみるが、なんと言われようがこの新型機を使って敵を落とせば悪いことにはならないだろうと無理矢理に楽観視する。


 菅野は離陸した後に機内に放り込んでいたマニュアルの飛行に関する部分を読み、機関銃の試射を行う。武装は20ミリが四丁と重武装だが、試作機だからか新型機のクセに機銃自体は真新しいものではない。そのおかげでこうして基地に残っていた弾薬で給弾でき、扱いも心得ているのだが。


 問題は計器だった。離陸する前に多少マニュアルを読んで離陸の手順だけは確認したし、ある程度の数値で計器は予測できるが読み違えてしまうと命に関わる。


 それ以上に、戦闘機動も手探りだ。機体にはしてはいけない機動というものがある。零戦の場合はあまりに高速で降下してしまうと空中分解してしまう。幸いにも敵の中に戦闘機はおらず、爆撃機相手ならそれ程激しい機動はしなくて済む。


 各種確認が終わったあと、試しに宙返りをしてみた菅野はその巨体に似合わぬ機敏さに舌を巻く。フラップを展開しようとしていたら既に展開されており、どうやら急激な機動をすると勝手にフラップが展開されるようで、今まで熟練の連中しかやっていなかった空戦中の旋回テクニックを若いのも簡単にできるようになるということだ。



 そうこうしている内に敵編隊が近付いてくる。零戦は食いついているが、数が少ないのか弾幕に近付けないでいた。


 菅野は敵の正面に回り込み、上方から接近する。接近に気付いた敵は銃口を菅野に向け射撃を開始するが、相対速度が速く狙いがつかない。弾幕をくぐった菅野はロールして機体を反転させ、タイミングを見計らって降下する。相手は最近目にするようになったB-25、高速で武装が強力と厄介この上ない。


 菅野は引き金を引く。同時に強烈な反動で放たれた20ミリ弾でミシン縫いされた敵機を切り裂くように主翼と尾翼の間をすり抜けた僅かの後、空力と自らの重量に耐えきれなくなった敵機は主翼の根元から断裂され金属部品を撒き散らしながら墜落する。


「ハ、ハハハハァ!こいつはすげぇや!」

 今までに感じたことのない反動に強敵がなすすべもなく粉砕される。今まで迎撃任務が主だった菅野にとり喉から手が出るほど欲しかった火力、これが新型機か。

 もう一度、今度は降下した勢いで編隊を抜かして前方下に躍り出る。菅野の攻撃で乱れた編隊を零戦が襲い、その隙に菅野が下から突き上げ、また一機、空に消えるのを感じながら周囲を見渡す。


 対空砲の狂ったリズムのする方に菅野は目を凝らした、その先にはハワイから飛んできたB-17とB-25の編隊が輸送艦を目掛けてジリジリと近づいている。どうやら菅野が今相手をしているのは敵の第二波らしく第一波は針路の最終調整を終え爆撃体制に入ったらしい。これは何隻か食われるか、だがここからではもう間に合わない、帰りの船のすし詰め具合を想像しうんざりする菅野であったが、次に意外な光景を見ることとなった。


 視界の隅、遠く離れた海上に赤い閃光が走った。遠目には島が噴火して火を噴いたようにも見えたが、それは鋼鉄の城だった。戦艦、その単語が頭に浮かんだ瞬間、敵編隊は光に包まれた。巨大な花火とその煙が晴れた空には数多の残滓とふらつく敵機が数機、そのような状態ではせっかく投下した爆弾も大きく外れるだけだ。


「あまり使えたものではないな」

 宇垣の言葉はその場の空気を代表していた。三式弾は確かに敵機の編隊を壊滅させたが、『紀伊』はこの時目標となっていた輸送艦とは離れた場所にいた。これは主砲の仰角が爆撃機を狙う場合には足りないためで、高角砲の有効射程の外に出ている。これではせっかくの対空砲火を生かせないし、三式弾が燃焼した際の煙が視界を遮り僚艦の対空射撃を邪魔してしまう。また、より頑丈な『紀伊』が近くにいれば被害を分散し最小限に抑えられる。今回は敵機のルートが予想しやすい好条件でかつ命中したから良かったものの、使える条件は限られそうだ。


「輸送船に接近せよ」

 艦長の猪瀬が命じ『紀伊』は前進する、主砲は最大仰角まで上げているがそれは威嚇でしかなかった。



 菅野は次々と来る敵機の対応に忙殺されている。菅野にとって自分が乗っている機体の性能が未知数なため、控えめに(あくまでも当人基準)行動していた。そして零戦は菅野の後に基地から上がった機体があるとはいえ、数が少なく装甲も脆い。既に多くが被弾して撃墜されるか退避していた。流石の菅野も攻めあぐねていた、そして目撃する。


 艦隊からの対空砲火を嫌った一編隊は輸送船団から狙いを変える、その先はつい先ほど菅野が飛び立った滑走路の辺りだった。次々と爆弾が落とされ、撃墜された敵機の残骸が降り注ぎ燃え広がる。島はより一層、穴ぼこと障害物で満たされる。この時点で菅野には、戦闘終了後に基地に降りて説教を受けるなり営倉入りされるという選択肢はなくなった。残されたのは海に不時着水するか、訓練さえ受けたことのない空母への着艦をするかだ。


「敵機、正面から来る!」


「面舵一杯!」

 そして後者の希望は潰えそうであった。随伴にいる『瑞鳳』はこの付近では唯一の空母であった。よって戦闘機の護衛が薄くなってくると『瑞鳳』は有力な戦力として狙われだす。そして一発の爆弾が飛行甲板の中央部に命中した瞬間、菅野は海水で体がべたつくまま船倉に押し込まれる光景を思い浮かべた。


 激しさを増した対空戦闘はまだ空の輸送船が撃沈されたのをピークに急速に終息へと向かった。米軍は高度を取っていたことと、途中から島にも攻撃を振り分けたこと、そして『瑞鳳』と菅野のように基地から上がった戦闘機隊の半分が撃墜ないし撃破される程の奮戦の結果、撃沈は輸送船二、中破が輸送船一、駆逐艦二となった。


 ひいきに見ても痛み分けかな、報告を聞いた山本は口には出さなかった。まだ全ての戦闘が終わった訳ではなく、無言で頷いてみせるだけだ。足の遅い輸送船を抱えたこの艦隊をみすみす見逃すことはあるまい。しかも敵の指揮官は猛牛ハルゼーとのことだ、水上戦力はほぼ健在なのだから来ないわけがない。


 「全艦、夜戦に備えよ!」

 今夜は長くなりそうだ。



 菅野にとって朗報が飛び込んできたのは戦闘が終了してからすぐのことだ。小沢艦隊の空母が一隻残っており、こちらに向かっているらしい。菅野たちは一足先に合流して着艦せよとのことだ。

 だが菅野には問題があった。空母の着艦訓練を受けたことがなかったのだ。飛行学生の時に教官が話していたり、ミッドウェーに来てから少し聞きかじった程度の知識しかない。それでも一か八かで着艦してみることにした。もちろんそんなことを周りに言えば着艦させてもらえないだろうから黙って最後にやるつもりだ。


 東に少し飛行し、艦隊が見えてくる。被弾機や燃料が少ない機体から順番に降りてゆく、その一機一機の挙動を菅野は穴が空くほど見つめて自分なりのシミュレーションを練り上げていく。緑の光が出てから特定の動作の後に後ろから近づき、三点着地をする。上空から見る空母は消しゴムと見紛うほど小さいが全員難なく着艦していく。太陽はそろそろ沈みそうになるという時に、ようやく菅野の番が回ってきた。空母の右側から見様見真似で旋回し艦の後方から接近していると、無線から呼び掛けられる。雑音が少し多いが聞き取れる声だ。


「返答はいらん、こちらの話を聞きながら着艦に集中しろ」

何か問題が起こったのだろうか、無線に耳を集中させる。


「降下角は艦上の赤と緑の光が真横に並んでいたら適正だ、エンジンの出力を下げろ、下げすぎて艦尾に激突するなよ」

 言われた通り艦上には赤と緑の光があった。エンジンの出力を少しずつ緩めながらアプローチを続ける。


「脚と着艦フックを出せ、三点着地でフックをワイヤーに引っ掛けるがその時に首をやらんよう気をつけろ。失敗したら前方のネットに突っ込んで強制停止するか海に落ちるから覚悟しておけ」

 降下角を気にしつつ言われた通り脚と着艦フックを出す。空気抵抗が増え失速しそうになり少しだけ出力を上げる。しかしもう目前に艦は迫っている、これだけ近づいてもまだ小さく感じる。江田島から見たときはもっと大きく感じたものだが。


 艦尾に差し掛かり機首を上げ、エンジンの出力を絞る、落ちる感覚のすぐ後に尻から衝撃が伝わる、そしてすぐに体が前方に引っ張られる。ほとんど一瞬の内に全てが終わり安堵する。さもいつも通りのこととばかりにケロッとした顔で機体から飛び降りた菅野に向かい、整備士達に混ざってのそのそと人が近づいてくる。

 菅野にとって見慣れた人物だった、中国戦線からのベテランでいつだったか殴り合いもしたか。


「やるじゃねえか、デストロイヤー」

 言葉と声色とは裏腹に、菅野の顔面に飛んできた鉄拳は硬かった。



「あれが例の彼か」

 艦橋で下の騒動を眺めながらつぶやく。


「そのようです」

 航空参謀が答える。


「不時着した烈風を勝手に駆り出して無断出撃、敵重爆を数機撃墜したうえで訓練を受けてないのに空母へ着艦」

 下では殴られた菅野が掴みかかろうとして周りの者に止められている。


「予科練では九六艦戦や零戦を数機潰し、付いたあだ名はデストロイヤー」

 制止を振り切り菅野は拳を振りぬく。


「無茶苦茶な大馬鹿野郎ですな、山口司令」

 振り抜いた拳は見事に相手の顔にクリーンヒットする。


「ああ、だが彼は冷静にそれらをやってのけているようだ」

 もみ合いになった二人をまた周りが止めに入る。


「奴は生まれついての戦闘機乗りかもしれんなぁ」

 ひょっとしたら艦橋に乗り込んできて自分たちを説得し着艦を手伝い、今甲板で乱闘しているあの男も同じことを考えているのかもしれない。





 闇が広がる海原に、鋼鉄の猛獣達が沈んだ太陽を求めるかのように西へ西へと突き進む。大小様々にいる影形に、特に目立つ存在が二つあった。


最新鋭の高速戦艦『アイオワ』『ニュージャージー』は司令官の性格を表すように旗艦である『ニュージャージー』を先頭にした単縦陣で突き進む。

次は何年か振りの水上戦になりますね

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ