表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
超超弩級戦艦紀伊 ~暁の出撃~  作者: 生まれも育ちも痛い橋
転換
16/34

膠着

もう秋がおわっちまうのか・・・

はえぇ(戦慄)

ミッドウェー占領から数日後、なんとか戦闘機が離着陸できる位の滑走路が完成した。

完成直前に米軍の爆撃機が襲来したが、米軍の予想を上回る数の二式水戦が迎撃に向かい航続距離のせいで護衛機のいない米軍は撃墜されるか早々に爆弾を捨てて遁走した。

大勝利と幸先の良いスタートに喜ぶミッドウェー守備隊だったが、

こんなことはこれから始まる長く苦しい戦いに比べたら些細なことであった。




1943年 10月24日


「対空電探に感あり、数およそ20!」

島に設置された電探に幾つかの点が写し出される。

「奴さんの定期便が来たぞ!」

定期便とはつまるところ、ほとんど毎日の様に訪れて爆弾を配達する米軍の爆撃機の事である。

「ペラ回せ! グズグズするな!」

搭乗員が愛機の元へと走りながら叫ぶ。

整備の完了している機体から発動機の唸りがし始める。

「隊長機より各機へ、離陸後空中集合次第迎撃に向かえ!」

次々と零戦が滑走路から飛び上がっていく。その数およそ30。


今日も空から見たこの辺りの景色は美しい。四方八方が水平線に囲まれて、青空がどこまでも続く。

陽光に照らされた海面はキラキラとダイヤモンドが散りばめられているかの様に輝く。

だが搭乗員らにとっては最早見慣れたものであるし、また見ている暇もない。

高度3000mに達し東の方角へ行くと、いるわいるわ、B-17が、堅牢な空の要塞が。

隊長機がバンクを振ると、一斉に猛禽の群れとなった零戦隊が要塞に襲いかかる。斜め上方から緩降下を掛けながら照準を合わせる。


僅かな雲しかなかった青空にオレンジの火線がいくつも、B-17から濃い弾幕が形成される。

たちまちのうちに一機の零戦がバラバラになって蒼海に潰える。だがのこりの零戦はその弾幕を掻い潜って20mm機銃をぶっ放つ。

すれ違い様に2機のB-17が翼をもがれて錐もみ状態で落下していく。零戦は即座に反転してB-17に食らいつこうとする。B-17はよりお互いの距離を狭めて濃密な弾幕を形成する。その網に絡み取られて2機の零戦がパッと火を吹き、たちまちのうちに火の玉となって墜落する。

だが残った零戦がB-17にお返しとばかりに20mm弾を見舞う。



ミッドウェーを占領して以来、日米の戦線はミッドウェーやソロモンを始め至る所で膠着していた。

ミッドウェー改め水無月島では、日々ハワイから襲来する敵爆撃機の迎撃に明け暮れ逆にハワイを爆撃する機会をなかなか得られないでいた。

後方から足の長い一式陸攻や二式飛行挺が来ても、基地を維持するためには米軍の爆撃機を退けねばならず、毎日の様に出撃する零戦の整備が優先されてしまって爆撃機はエンジンを初めとする整備が間に合わない状況である。そしてそれらは機体が大きく、日本側の防御を突破した米軍の爆撃機の良い的となり地上撃破が絶えない。

かろうじて整備員の不眠不休の努力により何度かまとまった数の一式陸攻や二式大挺をハワイへ送ったが、万全の態勢を整えた米軍の戦闘機隊の前にはほとんど手も足も出ず撃墜されていった。


更に、数少ない無事帰還してきた搭乗員から、今後の戦略を根本から覆さざるを得ない重大な情報が得られた。




1943年 12月17日 


「一体どういう事ですか!!」

会議場で罵声が飛び交う。

「ハワイ攻略を無期限延期にするとは!」

その罵声の矛先は

「それも、そもそもの作戦立案者の長官殿からとは!!」

山本五十六だ。

「これは一週間前にオアフ島を爆撃した者からの報告であり、証拠の写真も付いている」

そう言って山本は何枚かの写真を提示する。

「これらの写真を見て、何か気が付かれませんか?」

山本は、焼け焦げて瓦礫となった建物や、閑散として人がいない街、何処かの湾内を写したものと思われる白黒写真を提示した。


「これらは全て11月半ばに撮られたもので、何れもオアフ島を写したものです」

「これがどうしたと言うのだ、これは去年の奇襲で壊滅させたのだから当然だろう!」

「そう、これらは昨年の12月に我が軍の攻撃で壊滅させた工廠や港湾施設です。 ・・・そう、一年前とそっくりそのままの姿の」

何人かの将兵がハッ、として山本の顔を見る。

「米国の工業力をもってすれば一年も経てば重要基地であるハワイの施設はかなり復旧しているはず、それなのに何故一年前の姿そのままなのか」

ここまで来ると、他の将兵も気付き始める。


「彼らは、米国はハワイを捨てるつもりなのです」


一同に電流が走る。

「少々言い過ぎでしたかな、捨てると言うよりかはいざというときに捨てても良い、ということです」

これがどういうことを意味し、これからの戦略にどの様な影響を及ぼすか、会議に参加している将兵がざわめき始める。

「この結論に至ったのには幾つもの根拠があります」

動揺にも似たざわめきを静め、尚も山本は話を続ける。

「先ずは先程述べた施設の復旧、次に湾内の環境です。『大和』と『武蔵』の砲撃によって破壊された重油貯蔵庫ですが、そのために沢山の重油が湾内に流れ込み、今も湾内に滞留しています。よって、現在その重油を原因とする有毒ガスが湾内とその周辺に立ち込めて人が立ち入れられる環境ではない。事実湾内の異変を悟った一機の二式大艇が海面近くを飛ぼうとしたところ、酷い異臭を感じ、更にエンジンが突然不調を来たし慌てて離脱したとの事です。天然の良港と呼ばれた真珠湾は、今は最悪の環境になってしまっています」


話を聞いている者達の顔付きがいよいよ険しくなる。

「また、写真から分かるように住人が居ないということは、既に本土に避難したということが考えられます。ハワイがどうなっても良いように。 そして、これは現在の我々が置かれている状況からの推測ですが、恐らく米国は我々にわざとハワイを取らせるのではないか、と考えられています」

「何故だね? いくら大きな損害を受けたとはいえ重要基地であることには変わらないのでは無いのかね? 事実、毎日の様にハワイから水無月島へ爆撃機はやってくるのだぞ」

「実は、ここ最近輸送船が撃沈されることが非常に多くなっています。水無月島へも、敵潜水艦により最悪の場合は行くまでに半減、帰ってくるまでに全滅、という事態も発生しています。ソロモン方面は更に敵爆撃機や艦艇が加わり、現在は駆逐艦による鼠輸送か潜水艦による土竜輸送に頼っている状況です。もっとも、ソロモンに関しては米軍も同じ状況ではあるようですが」


「餓島」と呼ばれたガダルカナル島であるが、米軍にとっても同じ様な認識であった。

当初は太平洋戦線においてガダルカナル島奪還を本格的な反攻の先駆けにするつもりであったが、ミッドウェーを占領されたために先ずハワイに近いミッドウェーを奪還することにした。

更にアフリカ戦線はスエズを取られ、大陸の南まで連合軍は追い込まれており兵力や物資を運ぶ輸送船をそちらに回す必要があった。

その影響で更にガダルカナルへと回す人員、物質が減りガダルカナル島での戦闘は双方にとって泥沼の様相を呈していた。

互いに小出しの増援しかせず、更に空襲や潜水艦により度々輸送船が沈められて補給が不足し、現地では両軍共に餓えと疫病が蔓延していた。

確かに米軍の物量は圧倒的だが、日本軍よりも兵の数が多い分多くの物資を必要とするため、いくら米軍でも『日本軍よりはマシ』な状態であった。


「要するに、水無月、ガダルカナルでその様な状況だということは、現時点のハワイを占領するのにどれだけの兵力、物資を必要とするかは未知数です。米国が本格的にハワイを防衛するか、捨て石にするか。仮に占領したとしても水無月やガダルカナル島とは比べ物にならない程の兵が留まる事になるため、それ維持するための輸送船、物資、護衛の艦艇、それらを捻出する余力は我が軍にはありません」


会議場に沈黙が訪れる。

ハワイ占領を取り止めるということは、すなわち講和の機会を失う事になる。

そもそもこの戦争は、南方の資源地帯を確保して太平洋の島々を電撃的に占領してアメリカの戦時体勢が整わないうちに講和に持ち込むという筋書きだった。

だからそれが崩壊しつつあり、今までの苦労が水の泡となることに会議の参加者は動揺の色を隠せない。


「・・・しかし、しかしだ。来年の秋、米国では大統領選挙があるではないか。投票までにハワイを占領してしまえば米国民は失望し、ルーズベルトは選挙で負け対日講和をかかげる大統領が誕生するのでは?」

一人の将兵のこの意見に、もっともだと他の者も追随する。


「その可能性はあるが決して高いという訳ではないから宛てにならない」

山本は一同を制して言葉を続ける。

「それに、例えそれが実現するにしても、それまでにハワイを取ることが出来るか? そしてもし取ったとしてさっきも述べた様に秋まで維持出来るか? 早めに取ってしまうと補給が追い付かず体勢を整えた米軍に容易く奪還されるやもしれん。それが投票日の直前だった場合はルーズベルトに選挙のパフォーマンスとして利用されるだろう。かといってハワイ占領を来年の夏、ないし秋まで延期してしまうと逆に体勢を整えた米軍にハワイで返り討ちに会うどころかミッドウェーまで奪還されるかもしれない」


「では、一体どうしろと言うのだ! そもそもこうなったのも長官が提案したハワイ攻撃によるものですぞ! 自分で引き起こした事態にどう責任を取られるつもりですか!!」

これまでの一年間の一連の作戦は山本五十六等を中心として練られたものである。

開戦初頭のハワイ奇襲、南方資源地帯の占領、中部太平洋の制圧と唯一失敗した言えるのはポートモレスビー攻略を始めとするオーストラリア方面位であった。

しかし、ハワイに限っては全てがあまりにも、あまりにも上手く事が運び過ぎたのだ。

文字通りハワイを完膚なきまでに、これ以上ない程叩いたが為に、本来の最終目標であるハワイ占領の戦略的意味が無くなってしまったのだ。

確かに米国の重要拠点を占領するというのは聞いただけでは大いに意味の有ることだと思える。しかし、海上護衛能力が低い日本軍にとっては占領した後に残る補給問題は、殊更ハワイという地は余りにも遠すぎた。

策士策に溺れると言うが、なんと皮肉な事であろうか。


「この山本五十六、いつでも腹をかっ捌く覚悟は出来ております」

いつになく熱の籠った、強い口調で話す。

「だが今はそれよりもやらねばならぬ事がある。自分の尻拭いは自分で拭う、それが失敗したり、足りなければいつ何時でもこの腹を斬りましょう」


静かだが、確かにあるその勢いに気圧されたのか、山本に浴びせられる罵声が無くなり会議場は一時静まり返る。

「それでは長官」

少しの後一人の将兵が尋ねる。

「連合艦隊は今後どの様な作戦を取るつもりですか?」


「短期決戦が不可能となり、長期持久戦となるのであれば我が国が取れる戦略は大いに限られてくる」

ほんの少し、山本の口元が弛む。

「幸いにして中国での支配を磐石なものにしている我々には万が一太平洋の様に海路での南方からの資源輸送を遮断されても、来年の春に完成するシンガポールー上海ー釜山を結ぶ鉄道によりある程度は賄える」

それはやがて誰の目にも分かる程の「笑顔」となる。

「要するに、比較的本土に近い場所でなら戦力を集中でき補給も賄え戦える訳だ」

しかし、その笑顔は

「何段階かに分けて敵戦力を削り、近海に誘き寄せて一気に勝負を掛ける」

ただの笑顔ではない

「我々が数年前まで画策していた、私が否定した戦略だよ」


苦笑だった


「漸減邀撃作戦だよ」

さてさてちょっと無理がある感じの展開になって参りましたが大体予定通り進行しています

あ、ドリフターズメッチャ良いですね(唐突)

菅野デストロイヤーは以前から好きなパイロットの一人だったのですが以前漫画を読んでから一層好きになりました

だからお願いだから6巻をはよ・・・はよ・・・

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ