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超超弩級戦艦紀伊 ~暁の出撃~  作者: 生まれも育ちも痛い橋
勝利への中間地点
14/34

決着 ミッドウェー

私の秋は唯此のみ




食欲の秋!!

(読書もあるよ)

「紀伊」の防御は、魚雷に対して至極有効に働いた。

多くの箇所はその厚い装甲のおかげで炸裂しても命中した場所に僅かな凹みを作るだけだった。

ただ、そのせいで内部の隔壁が歪んでしまった箇所があった。

また、以前の空襲で被雷し応急修理しか出来なかった箇所は被害を免れなかった。そうしたこともあって何ヵ所かに穿孔が開けられる。

そして、その際に生じる装甲板の破片。それは通常であれば爆風で吹き飛ばされて艦内の隔壁等を傷付ける凶器となる。

しかし、「紀伊」の船体内に巡らされたゴムの層がそれを受け止め、被害の拡大を防ぐ。

穿孔から押し寄せる海水は、普通ならその水圧で隔壁を圧壊させるが、同じく船体内に巡らされたスポンジの層が大流となる前に吸収し、ダメージコントロールを容易にさせる。


「紀伊」は、多数の魚雷の直撃に耐えて見せたばかりか何事もなかったかのように佇むその姿は泰山自若たるもの。


「紀伊」が米兵達の脳裏にしっかりと焼き付いたのは言うまでもない。




砲声が辺り一帯に遠雷にも似た響きを轟かせる。普通の雷鳴と違うのは、それがひっきりなしに続いていることだろうか。

「まったく、派手にやってるこった」

とある陸戦隊兵が呟く。

「紀伊は敵を倒してくれるのでしょうか?」

新兵と見える若い兵が応える様に呟く。

現在この二人は沖合いで起こっている海戦の推移を島から逐一報告する任務に付いている。

しかし、少々その場所が離れていることもあって艦影等は確認できない。

その代わりに開始から今までオレンジの光が周囲を照らし続けており、それが雲に反射してその辺りだけ昼間の様に明るい。

今にもそこから朝日が昇って来そうと感じてしまう。

「まだこの音が止んでないということは戦いはまだ続いているということだ。戦艦一隻がどこまでできるかと思ったが、なかなかヤるようだ」

先輩格と見える兵が双眼鏡を覗き込んだまま言う。

「そんなに意外なのですか?」

若い兵が疑問を口にする。

「そらおめぇ、たった一隻で多数を相手するのは骨が折れるだろうよ。特に戦艦とかいうのは動きが鈍重だから、あっという間に魚雷なりで海の底だと思っていたが、噂通りの艦らしい」

「噂って何ですか?」

「お前そんなことも知らないのか?」

先輩格の兵は双眼鏡を覗きながらも呆れたと言うような態度を示す。

「いいか、あれはとにかく頑丈に、沈まないよう苦心して造られて不沈艦と呼ばれているようなんだが、それ以上にあの艦に関して不思議な事が起こったらしいんだ。進水する時てっぺんに白鷺が止まって3回鳴いてから南に飛び去っただとか、試験航行の帰り際、大きな鷲がずっと上空を飛び回ってて港に着く間際に恵方の方角に去っただとか。まあ怪しいものだがな。だが、何かが憑いていると専らの噂だ」

言っててバカらしくなったのか、その顔には苦笑いが浮かぶ。




海が燃えている。

「紀伊」の周りは文字通り火の海となっていた。

海を漂うあらゆる残骸が鼻を突く悪臭となり燃える。

その火の海を、「紀伊」は掻き分け進む。

そしてまた、咆哮する。

僅かの後に哀れな敵艦がまた一隻、血祭りにされる。

敵は果敢にも応戦し続けるが、全く堪えている様子はない。

頼みの綱の魚雷はもうない。一方的な、もはや虐殺にも似た光景であった。


「あと少し、あと少しで奴等の物資を燃やせるのに・・・!!」

スプルーアンスに苦悶の表情が浮かぶ。

こんなはずではなかった。

即席に近かったが、艦隊を二つに分けた囮作戦は多大な犠牲を払いながらも成功し、防衛網の隙をつくことに成功した。作戦の成功を確信した頃に現れた一隻の戦艦。

たった一隻の船に何ができる。

そうたかをくくったのがこの事態を招き入れたのだろうか。次々と僚艦が攻撃を食らう。

主砲弾を食らいあっという間に爆発四散したり、副砲や高角砲の猛射に蜂の巣になりながら炎上し、自身で動くこともままならず漂流しだす。

そんな光景に、遂にスプルーアンスは撤退命令を出したのであった。



「長門」らの近くでは沈黙した敵戦艦が未だにその身を洋上に見せていた。

しかし先に沈黙した艦は左舷から沈みつつあり、艦首はその舳先をまもなく水面下に沈めんとしていた。

後に沈黙した艦は大炎上しており、最早手が付けられそうに無いので機を見て雷撃処分することになった。

角田は随伴の一部の駆逐艦に命令して救助に向かわせる。

カッターや内火艇を出し、人数が多いため重傷者を優先的に乗せ比較的健常な者は縄に捕まらせて安全な所まで引っ張っていく。日米共に統率が取れていて迅速に行動できたおかげで多くの兵の救助に成功していた。


「大和」及び「武蔵」は何とか沈没の危険が無くなるまでにはダメージコントロールに成功していた。

しかし、当初想定していたよりも被害は大きくなってしまった。航行は可能ではあるがその速度は大きく低下している。

「ひどくやられたものだ、だが峠は越えた」

修理が必要だが、艦の保全に成功し敵戦艦も沈めた。残っていた敵随伴艦は撤退していた。

「紀伊より入電!」

電文を持った兵が駆け込んでくる。

「読み上げてくれ」

側にいた角田が言う。

「ハッ、『我レ敵艦隊ノ撃破ニ成功セリ。敵艦隊ハ撤退ヲ開始、コレヲモッテ当作戦ヲ成功ト見ナス。全艦ミッドウェー沖二集結セヨ』とのことです」

大野はやっと、ホッとする。まだ敵潜水艦の脅威が去った訳ではないが、昨晩から続いた戦闘が、ひいてはミッドウェー攻略作戦がここに本当に終わったのだと実感したからだ。

「そういえば紀伊一隻で撃退したようだが、一体どれだけの被害を受けたのだろうか」

大野が疑問を口にする。

「それは私も気になるな、よし君、ちょっと確認をしてほしい」

先程の兵は了解の掛け声と共に元気よく飛び出していった。

後で聞いたその被害報告、魚雷21本、8インチ以下の砲弾多数被弾しながらまだ機関が完全には直っていないのに15kt出せると聞いた角田らは、凄いというのはおろか、「大和」が5本の魚雷で四苦八苦していたのが馬鹿馬鹿しくなったとばかりに呆れ果てたのは想像に難くないだろう。




警戒態勢が解かれ、ポツリポツリと穴蔵から人が顔を出す。

やれやれ、といった感じに伸びをしたり欠伸をしている。空気が旨いとばかりに深呼吸をする。

ああ新鮮な空気とはこれ程にもありがたかったのか、暗い中に輝く星々のなんと明るく美しいことだろうか!

ずっと狭い地下に閉じ込められ、まいっている者が大抵だ。

まだ夜明けまでは時間がある、だが一連の出来事によって物資の荷揚げ、搬送はかなり遅れている。

ぼちぼち、作業が始まる。

輸送船から物資を運び込むのは勿論、並行して少人数ではあるが早くも滑走路の建設も行われていた。

主に爆弾孔等を塞いだりして地面を馴らすのだが、この孔は自分達の戦艦の砲撃や爆撃機によるものである。もう少し何とかならなかったのかと心の内で苦々しく思いながらもスコップを奮う。

岸では、小型の船や水上機が接岸できる桟橋を作る為の準備が行われている。

飛行場が出来るまでの繋ぎではあるが、水上機としては十分な性能を発揮する二式水戦、飛行艇の決定版とも言うべき二式飛行艇等を運用するのに必要なものだ。

多数の発動艇がエンジンを唸らせて船と岸を往復する。

行き来する際に生じるさざ波は浜辺で心地よい波音となる。

あれだけこの辺り一帯を騒がせていた砲声も、戦闘機の爆音も、爆発音も、今は聞こえない。

絶海の孤島は人の営みと、静かに絶え間なく続く波の音、それさえも飲み込んでしまいそうな静寂に包まれていた。




スプルーアンス以下帰途につく生き残った米艦隊の雰囲気は重い。

特に「紀伊」と対峙した者達は一層であった。

誰もが、確実に沈めた、イエローモンキーを出し抜き尊い勝利をこの手に収めた。


その高揚感から一転しての、全く歯が立たなかったという事実による絶望感、それから続々と目の前で沈められていく僚艦を目の前にして何も出来なかったという虚無感、そして仲間の犠牲を無駄にしておめおめと帰ってきてしまった事による後ろめたさ。

特にスプルーアンスは鬱状態に近い状態になってしまっていた。


その反面、「エンタープライズ」の艦内は雰囲気が他とは違っていた。

「エンタープライズ」は「ノーザンプトン」をはじめとした尊い犠牲によって何とか生き残った。

それにより、戦いが終わった後に初めは艦内は僅かながら安堵の空気が流れ、それはすぐ仇を討たねばという復讐心へと豹変した。

そこで一気に英雄として祭り上げられた男がいた。


ジョナサン大尉である。


彼は護衛もいない僅か十機前後のドーントレスで二隻の空母に損傷を与え、その内の一隻は速力が低下し後続によって撃沈、一矢報いることができた。

攻撃後も巧みに雲に隠れて敵機の追跡を撒き、ジョナサンの率いた機は全機が無事に帰投した。

「エンタープライズ」の飛行甲板が被弾により使用不能だったため海上に不時着せざるを得ず、怪我人が出たが犠牲者は無かった。

この戦いで、同じく護衛の無かった雷撃隊が敵戦闘機により全滅したり、帰投した他の隊で不時着に失敗して犠牲者が出たことを考えると、ジョナサンらの功績は数少ない救いである。

彼らには、とりあえずの報償として数日ばかりいつもより豪華な食事が提供されることとなった。


出された食事に搭乗員らは喜び、貪り食う。

特に若い者達はその旺盛な食欲からペロリと平らげてしまう。

が、一人だけ、ジョナサンだけはあまり食が進まないでいる。


「大尉、折角のご馳走なんだから食べておかないと損でっせ?」

そう話し掛けるのはケビンだ。

「大尉はもう食欲が無くなっちまう年になりましたか?」

ケビンは茶化すように言う。

「そうかも知れないな・・・」

フーッ、と溜め息をついてジョナサンが応える。

「おっと、これは珍しい。本当にどうかしたんですか?」

「いや、何でもない。多分疲れているんだろう。そうだ、色々あって忘れていたが、この前賭けで夕飯の半分をやることなっただろ、適当に持っていけ」

「お! この太っ腹! やっぱり持つべきは優秀で優しい軍人の鏡の様な上官だなぁ!」

そう言いながらケビンは遠慮無くジョナサンの皿から肉等を取っていく。

相変わらず調子の良い奴め、とジョナサンは思うが、その明るさに自分も周りも助けられていることをジョナサンはよく解っていた。


「なあケビン」

ひとしきり飯を取りつくしたケビンは、その料理を今まさに口に入れようとしていたところだった。

「何ですか大尉」

最後まで言うか言わないかのうちにサラダを口に入れ、頬張る。

「あいつの事を、どう思う?」

暫しの咀嚼の後、ゴクンと飲み込む。

「あいつって誰のことです?」

今度はコップの水をゴクゴクと飲み干す。

「人じゃあない」

コンッ、とコップが少々乱雑にテーブルに置かれる。

「なんだ、面倒くさい愚痴にでもつきあわされるのかと思いました」

今度は大きな肉の塊をフォークで刺し、あんぐりと開けたブラックホールの如き食欲を有する青年の口へと連行する。


「ジャップが隠し持っていたあの馬鹿デカイ戦艦の事だ」


手がピタリと、止まる。

大きな肉の塊は、フォークに刺されて拘束されたまま元の皿に戻される。

珍しく真面目そうな顔をして考えている。

「・・・多分、これからも奴と出会う時が来るのではないですか?」

おもむろにケビンは顔をこちらに向ける。

「正直に言って二度と会いたくはないですね。だけど、上からの命令には従わなきゃいけないから、撃沈命令が出たら対峙せざるを得ないんじゃあないですか? その時は100機、200機の爆撃機であっという間に海の藻屑でしょうよ」

それから先程の大きな肉の塊は今度こそケビンの口の中へと消えていく。

「そうだな・・・、そうだ。戦艦が航空機に敵う筈が無い。それをハワイやマレー沖で証明したには奴らなんだ」

この時、味方の戦意喪失を防ぐために「紀伊」に関しては箝口令が敷かれていた。

よって、上層部と、「紀伊」と直接対峙した艦艇の乗組員、現在捕虜になっているミッドウェー守備隊とパイロット以外には、どうやらかの「大和」より大きな戦艦が現れたらしい、という噂に留まっていた。

「だけど、奴は、モンスターは何かしら別の次元の物ではないかと思ってしまいます」

ケビンがナイフとフォークを置く。

「奴の弾幕を掻い潜って逃げている時怖くて目を瞑っちまってたんですが、一瞬、ちょっとだけ目を開けて奴を見たんです」

あの時ジョナサンは、愛機が撃墜されないよう不規則な動きで回避行動を取るので精一杯だったせいで後ろなど振り向く余裕は無かった。

「たくさんの機銃弾の火線が伸びていて、その先に奴の姿があったんです。でっかく、雄大に構えてて、言い様の無い威圧を感じさせて、それなのに美しさすら感じさせる・・・。その奴から、手が伸びている様に見えたんです」

「手、だと?」

「はい、まるでこっちに来いとでも言いたそうに手招きをしていたんです。ほんの一瞬ですが、ハッキリ」

ジョナサンは改めて「モンスター」の姿を思い浮かべる。

今でもあの時のことは身震いさせる。

馬鹿みたいにデカイ船体、自分を狙う幾十もの銃火器、ほんのすぐ脇を通過する銃弾。

あれに乗っているのは悪魔ではないのか?

黄色い皮膚を被った死神ではないのか?


「・・・馬鹿バカしい」

ジョナサンが言い放つ。

「あれはただの戦艦。チョッとばかしデカイだけが取り柄のジャップの戦艦だ。おまけにその大きさのせいで航空機にとっては良い的なんだ」

ジョナサンのその言い様は、まるで自分に言い聞かせる様であった。





「おーい! 艦隊が帰ってきたぞー!!」

見張りが大声で叫ぶ。

ミッドウェーではまだまだ作業の途中であったが、艦隊は自分達にとって命の恩人のようなものである。

一同作業を中断し、艦隊を出迎えるために艦隊が見える島の東に集まっていた。

皆艦隊を探すが、丁度日の出と重なり逆行で見えにくい。

「あそこだ! おーい!」

先に見えたのは護衛の駆逐艦だ。

初めは小さな影にしか見えなかったが、徐々に姿がはっきりする。

どうやら陽炎型駆逐艦か、夕雲型駆逐艦のようだ。

続いて巡洋艦等も姿を現す。ここまではどの艦艇も深刻な損害を被っているようでは無かった。

「おい! 長門が見えるぞ!」

「思ったよりは大丈夫そうだな」

「長門」と「陸奥」の被害は殆どが8インチ以下の砲弾によるもので、小破と言って良い位の損傷を受けていた。しかし、魚雷の被害は皆無なのと大口径砲の被弾も主だったものは副砲への損害位であった。

「ありゃ、大和と武蔵か!?」

すぐ後ろからその巨体を現すが、なかなかに酷い損傷を受けているようだ。

「こりゃぁ酷い。あちこちから黒煙を噴いているし、喫水も大分低い」

「魚雷だ、魚雷にやられたんだ!」

「長門」よりも圧倒的に多くの砲弾を食らった「大和」及び「武蔵」は見るも無惨である。

装備していた機銃は殆どがどこかへいってしまったか、原型を留めない位滅茶苦茶だ。高角砲も、何門か潰されている。

主砲、副砲に被害はないようだが、船体には敵の砲弾の炸裂で焼け焦げた跡が無数にある。

何よりも魚雷による浸水で目に見えるほど喫水も下がっていた。

何処を見ても、その傷は「大和」らが如何なる激戦を潜り抜けて来たのかを十分に物語っている。

幸いにも角田艦隊に沈められた艦艇は無かった。

米軍は、囮作戦だったのと「大和」らを沈めるのに執着し過ぎたことによる結果だった。



「おい、あれ・・・」

一つの巨大な影が

「俺達は夢でも見ているのか・・・?」

水平線から姿を現す

「俺は目がおかしくなったのか?」


旭日の陽が艦隊を照らす

その陽の中心に

紀伊はいた


「観音様が見える・・・!」

毅然として天高くそびえ立つ艦橋、美しく雄大なその艦影の背後から、後光が指している。

島から見たその姿は神々しい。


それはまるで神か仏か、弥勒菩薩が下界に降り、今我々の目の前に姿を現しているのか。

島からその様子を見守る兵士一同は、その光景に圧倒される。

同時に、言い知れぬ感動を覚える。


「あれは、人間が造ったものを越えている・・・!」

ある兵士が呟く。

「噂は、噂は本当だったんだ!」

皆に口から出ることは異口同音であった。

「紀伊には神様の御加護が付いているに違いない!!」

やっとミッドウェーが終わったぜ

この一連の話を書いている間に色々と自分はまだまだだなぁ と思い知るようなことがたくさんあり、精進せねばと意気込んでいる次第です

あ、今更だけどブックマークが100越えとる

いやほんと不定期で素人の自己満足の趣味で書いた文章にこれだけの人が見てくれていて本当に感謝です。

終わるまでにブックマークが100件いくなんて思ってもいませんでした


それから、クッソ短いですが明日にもう一話投稿します

とある兵器の予告みたいな感じです

最後にもう一度、読んで頂き本当に感謝です!

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