攻略 ミッドウェー
毎週日曜日の夜は欠かさず「バトルシップ」を鑑賞している作者です。
パールハーバーは一度は行ってみたいな~とか思いながら
時だけ虚しく過ぎていく
そんな毎日です はい
飛行場に甚大な被害を与えたことを確認した「紀伊」以下の主力部隊は、一旦ミッドウェー島をの南方を素通りした後に島の東方50km沖に展開し、哨戒を行っていた。機動部隊も、比較的安全とみられる西方に展開し、島を取り囲む形になった。
これは敵水上艦隊の襲撃を警戒してのことである。
日付が変わった午前3時頃、攻略部隊がミッドウェー島沖に到達し「扶桑」「山城」「伊勢」「日向」が、各十二門 計四十八門もの35、6cm砲の艦砲射撃を三十分に渡り島に行った。
もはや何時間経過したのか、この時間がいつまで続くのか、シマードは一向に進まない腕時計の針を見つめる。
まだ十分しか経っていない。
ミッドウェー島地下に置かれた司令部の部屋で腕時計の針を見つめている間も、頭上から地響きが断続的に続き、天井から落ちてくる土埃が腕時計に落ち、棚に入っているワイングラスが触れ合い音を立てる。
三十分にも及ぶ砲撃は、米守備隊の士気を削ぐものと思われた。
「各ブロック、被害を報告せよ!」
シマードは島内に張り巡らされた電話網を使い、被害の確認をする。
「Aブロック、損害全くなし」
「Cブロック、無事です。ジャップの豆鉄砲などどうってことはありません!」
「こちらDブロック、奴らは大砲を使って埃でも降らせているんですか?」
舞い込む報告は皆疲れ等は全く感じさせないものばかりで、中には軽口を叩く者もいた。シマードはそれらの報告に若干の安心を覚えた。皆味方の艦隊が撤退し、いつ救援が来るか、向こうが撤退するか不安なはずだ。その中でも少なくとも元気に振る舞っている部下の目の前で弱音を吐くわけにはいかない。
「扶桑」らの艦砲射撃は残存していた地上施設をほぼ跡形もなく消し飛ばし、相応の戦果を挙げたものと思われた。
午前5時頃、戦果の詳細を確認するべく水上偵察機が「伊勢」から飛ばされ、ミッドウェー島上空に差し掛かる。
「何もありゃしねえな」
水偵の一番後ろに座るまだ若い電信員の男が呟く。
「建物はおろか、飛行機もねえ、ペンペン草も生えちゃいねえ」
もはや大量の瓦礫だけがそこに何か建造物があったということを物語っている状態である。
島の上空を機は旋回する。
「おい、おかしいとは思わないか?」
真ん中に座る機長で航法士の中年の男がある事に気付く。
「何がです?」
「これだけめちゃくちゃにされていたら死体の山がなけりゃおかしい。そうでなくとも、人の形跡がもっとあるはずだ」
言われて電信員の男はハッとする。確かに、これだけ建物を破壊させられたのならば建物等の残骸と共に人だったものが多数散見されても良いはずだ。
しかし偵察機から見えるものは無機物ばかりで、時々破壊された対空砲の辺りに「目も当てられない」ものが見えるだけだ。
中年の男は思考を巡らし、ある結論に至る。
「もっと高度を下げろ! 奴らは相当に頑丈で巨大な地下壕に籠っているらしい!」
砲撃ノ効果ヲ認メラレズ
この報告は連合艦隊を大いに慌てさせた。
元々南方から動員できる最小限の兵しか用意していないため、事前の諜報から純粋な陸戦兵力では攻め切れないであろうことは承知の上だった。
よって爆撃や砲撃で敵に打撃を、うまくいけばこちらの被害なしに島を占領できるものと考えていた。
しかし、敵の地下要塞の頑強さと規模はこちらの予想を遥かに上回っていた。
「どうするのだ!」
「このまま兵糧攻めというのは?」
「こちらの食糧が持つか分からない。燃料だって足りるかどうか・・・」
「ここはやはりそのまま突撃させては? 夜闇に乗じればなんとか」
「それはむこうさんも予想しているだろう。返り討ちや、下手をすれば同士討ちになるやもしれん」
「紀伊」の一室で士官らが激論を交わすが、なかなか妙案は出てこなかった。
「この紀伊を使う」
突如発されたその声のする方に士官全員が顔を巡らす。
そして、その視線の先には
それまでこの議論の中一言も言葉を発しなかった、連合艦隊司令長官の姿があった。
「しかし長官、あれだけの36、5cmの艦砲射撃を加えて全く被害を与えられなかったのですぞ。大和型の41cm砲や、それより少しくらい砲が大きいからといってとても通用するとは思えませぬ」
「長官、どうかご再考下さい」
士官が口々に反対意見を述べる。
山本は皆を制してから改まった表情で口を開いた。
「これから話すことは私も作戦開始数日前に知った、軍の中でも至極高い機密に属する。よってこのことはこの部屋から出たら忘れるようにして欲しい。勿論、他言無用だ」
高い機密、その言葉にその場に居た者は固唾を飲んで紡ぎ出される言葉を待つ。
「君たちが知っている「大和」型と「紀伊」型の主要項目は正確ではない ・・・主砲に関してもだ」
ざわめきが室内に走る。
「「大和」型の主砲は18インチ、つまり46cmである」
唖然
それが士官らの主な反応であった。
「大和」らの詳細を知っているものは軍内部でも限られている。
そして、知っているものであってもその正確な情報を知っているものは殆どいない。
大抵は、排水量五万トン、主砲41cm三連装三基と伝わっていた。
これは敵の諜報活動を阻害するためであり、その効果は連合国処か味方まで騙された程であった。
そして、二十年振りに建造されたというのと、46cmという巨大な主砲を積む割に船体が小柄であったためその情報を疑う者は存在しなかった。
ここで、一人の士官が恐る恐るといった感じに口を開く。
「それでは長官・・・。この、この「紀伊」は一体どれだけの砲を積んでいるのですか?」
戦艦紀伊 1943年時点
基準排水量 97500トン
全長 333m
全幅 47、9m
最大速力 30、5nt
兵装 45口径51cm三連装三基九門
20、3cm三連装四基十二門
12、7cm連装高角砲十二基二十四門
25mm三連装機銃三十基
12、7mm単装機銃四基
艦影は大和型と酷似しているが、大きさは二回りも三回りも大きい。
艦底から舷側は三重になっており、その間には被雷や水中弾被弾の際に生じる破片を受け止めるゴム層と浸水した海水を吸収し食い止める為のウレタンとスポンジの層が存在する。
装甲は全体防御方式を採用、ほとんどの箇所が大抵の条件でも自身と同等の砲弾を弾く。それだけの装甲が、機関部と弾薬庫には二重に施されている。
徹底的にな不沈化対策を施しており、舷側には窓一つなくキングストン弁まで廃された。
防水区画は大和よりも小さく、その数も膨大であり一層の不沈化を手伝っている。
機関のうちの半分は「山城」で試験運用された新型の大型艦用の高圧缶が採用されており、「大和」の船体に対する機関室のスペースと比べ小型化されながらも馬力を上げることに成功した。
その代償として機関の故障が比較的多くなっている。
「機関前進強速!」
「紀伊」が既に日が昇りきった海を疾駆する。
「沖合いに新手の戦艦!」
表にいる見張員からの電話による報告に、シマードは食べていた缶詰の中身を急いで口の中に流し込む。
「数は!?」
シマードが電話に向かって叫ぶ。
「一隻です」
「どのクラスか判別できるか?」
「恐らくは「ヤマト」クラスと思われます」
ヤマト
その名を知らぬ軍人は今世界を見渡しても知らないほうが珍しいだろう。
同型艦と共にパールハーバーを壊滅させ、行きがけの駄賃とばかりに数の不利を物ともせず米旧式戦艦を砲撃戦で完膚無きまでに叩きのめした。
特に米軍にとっては親の仇とでもいうかのような存在だ。
「本当に一隻か?」
シマードは念を押す。
「はい、そいつしか認められません」
「よしわかった。お前はもう中に入って避難しろ」
了解の返事とともに通信が途切れる。
「大佐、本当に「ヤマト」なのですか?」
副官がシマードに尋ねる。
「ああ、どうやらそのようだ」
シマードがタバコを取り出しながら答える。
「実は、私の親しい友人に爆撃機のパイロットがいます。そいつが言うには、「ヤマト」が本当に16インチ砲艦なのかが信じられないと」
「どういうことだ?」
シマードは訝しげに思い、口に咥えようとしたタバコを手に持ったまま答えた。
「私の友人はB-17で敵の対空砲を避けるため高度3000mの上空から爆撃していました。なのでしっかりと見えたわけではありませんが、「ヤマト」クラスと比べると戦艦「ナガト」が巡洋艦程にしか見えなかったそうです。そして、今回出現した三隻目の「ヤマト」クラスの戦艦は他の戦艦と比べて二回りは大きかったとか」
「その報告は他からも聞いている。だがそれは戦場に付き物の恐怖や戦場の興奮から来る見間違えや勘違いではないのかね?」
古今東西、戦場では様々な根も葉もないうわさが立つ。それらの大部分が話を誇張したものだったり、途中で尾ひれ葉ひれが付いたものだったり、当事者の見間違えや勘違いであるのが常だ。
「いえ、その彼は同時期に飛行隊に入隊した中でも飛びぬけて目が良く、しっかりと見ていないというのは彼の基準で常人にとっては十分な程見えていたと思われます。彼が言うには、どうも「ナガト」の主砲よりも「ヤマト」の主砲のほうが砲身が大きかった様な気がすると・・・」
最後の方が尻すぼみになりながらもそう副官は答えた。
「しかし、連装砲から三連装砲に変わっているための目の錯覚ということも考えられる。まあ良い、誰か写真を撮った奴がいたら提出させてじっくり分析しよう。籠城戦はまだまだこれからだから良い退屈凌ぎにはなるだろう」
そう言ってシマードは余裕を含んだ笑みをこぼしながら放送機材に手を伸ばす。
「主砲榴弾! 次弾徹甲弾用意!」
「紀伊」の九門の主砲、主砲が旋回を始める。
同時に、砲身が天を仰ぐ。
「誤差修正、上げマルヒト」
僅かに砲身が動き、止まる。
「てーッ!!」
シマードが放送を終えた時であった。
頭上から、これまでとは比べ物にならない程の衝撃を感じる。それは14インチ砲では到底感じることは出来ない、強烈なものであった。
同時に、何処かで何かが破壊されたような、瓦礫が崩れる音が響き渡った。
「奴の砲撃か!」
シマードがそう叫んで間もなく、電話から悲鳴に近い報告がもたらされる。
「大佐! B1地点の天井に亀裂が発生! 次が来たら確実に破壊されます!」
「何だと!?あそこはコンクリートと200mmもの鉄板で防御されていた筈だぞ!」
シマードがその報告を聞いた時だった。
飛び切りの衝撃が基地全体を襲う。
それは、シマードのいる比較的深い箇所にも熱風となって伝わってくる。
砂埃で目がやられ、少しの間視界を奪われた。
何が起こったのかは明白である。
敵弾が、あろうことか基地の内部にまで到達し、炸裂したのだ。
「おい、大丈夫か?おい!?」
その電話に応える者はいなかった。
「通信途絶か・・・。おい!伝令に走ってくれ!」
「了解!」
先程の副官がそう応え、一目散に走っていく。
しばらくして、打って変わって蒼白い顔をして戻って来た。
「大佐・・・ B1ブロックが消滅しました。被害は隣のブロックにも及び、死傷者多数とのことです」
シマードは頭を抱える。
あれほどの14インチ砲の打撃に耐えたのに、新たに現れた敵戦艦はたった二斉射でミッドウェー島の要塞に大きな打撃を加えた。それほどの威力を誇る艦砲射撃があとどれだけ続くのか。
「・・・ところで、何故奴らは砲撃してこない?」
シマードが思うのももっともで、第二射からかなり時間が空いていた。とっくに第三、第四射が来ていてもおかしくない。
「砲が故障したのでしょうか?」
「それにしても、一発も来ないのはおかしいとは思わないか?昨日まで全門景気よく撃っていたそうじゃないか・・・何をしようとしている?」
上陸してくるなら今朝の様にもっと入念に攻撃を加える筈。先程の戦果も偵察機が飛んでいるなら穴が空いているから気付くであろう。
「大佐、私が外の様子を見てきます」
副官の男がシマードに言う。
「それは危険だ・・・」
だが、他に現状を打破する方法がシマードには思いつかなかった。
「・・・すまない、やはり行ってくれるか?」
副官の男はニコリと笑う。
「大丈夫ですよ。そうそう私は死にはしません」
男が背を向ける。
そして急ぎ足で、走っていく。
シマードはそれを黙って見つめる他なかった。
出入り口のハッチを少し開けて外の様子を伺い見る。
昨日とは、打って変わった光景が視界に飛び込んでくる。
建物があったはずの所には瓦礫の山ができ、航空機が炎上し、燃え残った様な跡がある。しかしそれらは、砲撃のせいか原型など全くわからないほど滅茶苦茶だ。
一先ず遮蔽物に出来そうな瓦礫の一山を見つけ、急いで移動する。
そして持ってきた双眼鏡で辺りを見回してみる。島内は何処を見ても酷い有様だ。
沖合には幾つもの黒い影があるが、その中でも一つ、一際目を引く影があった。明らかに他のものとは大きさにおいて一線を画している。
もう少しじっくり観察しようという時だった。
低い唸り声が上空からこだましてくる。
それは徐々に近づき、その碧色の姿を晒す。
日本の水上機だ。そしてその機はこちらに機首を向け急接近してきた。
しまったと思い、瓦礫の陰に隠れる。しかしその音はどんどん近付いてくる。
機銃掃射ならまだしも、爆弾を投下されたらひとたまりもない。
遂に、爆音を響かせて頭上を通過した。
少し遅れて、何かが落ちてきたような音がする。
だがそれは予想とは違い、軽い乾いた音を立てるだけだった。
間を置いて、爆発をしないのを確認し物陰から何が落ちたのかを確かめる。
ほんの10m程離れたところに、小さな白い筒の様なものが転がっていた。
「むこうさんの回収を確認!」
偵察機に搭乗する電信員が告げる。
「よし、このまま手筈通り旋回を続けろ!」
連合艦隊にも無線を放ち、偵察機は変わらず島の上空を旋回していた。
「これは・・・!?」
副官が持ってきた筒の中にはある書状が入っていた。
それも、連合艦隊司令長官 山本五十六からである。その内容は・・・
「速やかに投降せよ、だと!?」
ミッドウェー島守備隊に対する降伏勧告であった。
「冗談じゃない、徹底抗戦するべきだ!」
「いや、ここは降伏すべきでは?あの砲撃を受けては抗戦どころじゃない」
「しかし、耐えきれる可能性も0ではあるまい。幸い食糧庫や弾薬庫はほとんどが最下層の辺りだ。奴らの撤退かこちらの援軍まで耐えられる」
「そんなの希望的観測ではないか!第一、ただでさえ基地内に溢れかえっている兵たちをどこへやるというのだ!とても全員が安全な深い箇所に収まるとはおもえん!」
あーでもないこーでもない
集められた士官たちの議論は平行線を辿っていた。そして、最終的に皆の目はシマードへと向く。
「司令、どうかご決断を!」
シマードは少しの間目を瞑り、それから大きく息を吐く。
「諸君らも、ここに配属されている兵士たちも、そして私も、同じことを考えているだろう。なんとか抵抗して一矢報いたいと。だが、余りにも現在我々が置かれた状況は厳しい。厳し過ぎる。私一人なら良いが、君たち約6000人を道連れにほとんど無駄死と言って良いことに付き合わせたくない・・・」
集まっている士官たちの反応はまちまちだ。
ガックリ肩を落とす者
目に涙を浮かべるもそれを見られたくないがために帽子で顔を覆う者
ただただ顔を下に向け呆然としている者
神に祈りを捧げる者
そこから放たれた言葉は、誰もが生への執着故、心の何処かで望み、軍人として誰もが望まなかったこと。
「降伏しよう。シーツでも何でも良い誰か白旗を用意してくれ。それから、機密書類は燃やして必要分以外の残っている真水は弾薬庫に全部ぶちまけろ。機械という機械は全部ぶっ壊せ。食糧は皆に食えるだけ食わし、残ったやつは何処でも良いから全部ぶちまけとけ、今すぐだ!」
今回は地味だったな~派手に行きたいな~
ミッドウェーはこれで完結
すると思ったかバカめ!
次回は派手にいくぜヒャッハー!!