モンスター
「不沈戦艦紀伊」を読んでこれほどの戦艦がもっと早くに投入されていたらどうなるか?と思い書きました。初投稿ですので拙い箇所もあると思いますが生暖かい目で見守ってやって下さい
とある時 太平洋上
一面に広がるのはどこまでも続く青空、果てしない水平線、眼下に広がる水面は深い青色でありながら真珠のように煌めいている
その中に、ポツン と一つの黒い点が空の中に現れた。
それは徐々に大きくなり、その点の姿形がはっきりしてきた。
同時に、音が、唸るような音が、徐々に大きくなる。
アメリカ海軍の艦載機、 SBDドーントレスだ。急降下爆撃が行える頑丈な爆撃機である。
この機を操縦しているジョナサン大尉は、ベテランパイロットであった。一時期はパイロット養成所の教官も勤めたこともあるほどの人物である。
そのまま引退し、航空会社に勤めて大好きな空を飛びながら余生を送ろうと思っていたが、切迫した国際情勢が彼にそれを許さなかった。
「綺麗な景色ですね大尉」
後部座席に座るケビンが口を開く。
「そうだな」とジョナサンが簡単に返す。
「早く休暇をとってハワイにでもバカンスといきたいですよ」
「それがしたかったらキッチリと仕事をこなすんだな」
と、ジョナサンがケビンをたしなめる。ケビンは新米の搭乗員で、少々調子の良い所があった。
今、この二人は艦隊の「目」の役割である策敵の任務にあたっている。現在の高度は約2000メートル、素晴らしい景色だが同時に変化に乏しく退屈さを感じる。それを受けてのケビンの戯れ言であろうからジョナサンも仕方がないとそれ以上は何も言わない。
「そうだ大尉、賭けをしませんか?」
とケビンが提案する。
「賭け?」
「そうです、右に敵艦隊が見えたら大尉の勝ち、左に敵艦隊が見えたら俺の勝ち、どうですか?賭けるものは今夜の夕飯の半分で」
「面白いな、乗った」
「へへ、やった」
そのくらいの退屈凌ぎは、ジョナサン自身も欲していた。
しばらくして、ケビンはこんなことを尋ねた。
「大尉は日本の戦艦は見たことあるんですか?」
「何でそんな事を?」
「俺は写真でしか見たことないので」
「ほほう、自慢じゃないが俺は長門級や金剛級は近くで見たことがあるぜ。まだ鼻垂れ小僧の時、親父と日本に来たときにな」
「へぇー、羨ましいなぁ」
「数少ない自慢話かな。アメリカの戦艦も良いが、日本の戦艦も堂々としてて畏怖さえ感じるあの姿、見たときは興奮したなぁ…。今じゃ沈める側なのが惜しい…ん?」
その時ジョナサンは左前方の海面に映る黒い点を見逃さなかった。
「左前方、敵艦隊らしきもの発見!近づくぞ」
と言ってからジョナサンはしまったと思った。先程の賭けを思い出したのだ。
「大尉、ごちそうさまです」
「……チッ」
ジョナサンは目の前に見えてきた艦隊に恨みがましく舌打ちをした。ジョナサンはケビンに敵艦隊発見の打電をさせると、大体の艦種がわかる位置までの触接を試みた。幸いにも直援機の姿もなく対空機銃も一機位放っておけとばかりに発砲はない。艦隊は大型艦を中心とした輪形陣をとっていた。
「大尉、これは巡洋艦と戦艦の部隊ですかね?」
「そうらしいな」
眼下には多数の大小の黒い塊が見える。
「大尉、あれは噂にきく日本の新鋭戦艦ですかね」
「その様だな、確か 大和 とかいったな」
日本には三連装の主砲を持った軍艦は、そういない。精々最上型が三連装の主砲を持っていたが、今は連装砲に換装したときいた。さらに最上型は巡洋艦なので他に戦艦がいれば一目でわかる。
「見ろ、多分あれが長門だ。あんなに小さく見えるなんて…」
ジョナサンは少し、淋しさを感じた。敵のとはいえ、昔憧れてた戦艦が新鋭戦艦の前には巡洋艦程度にしか見えなかったのだ。
「よし、近付いて脅かしてやれ」
ジョナサンは愛機を更に敵艦隊に近付けた。
いきなり接近したのに驚いて甲板では人が右往左往し、慌てて撃った機銃弾は明後日の方に飛んでいった。
「大尉、勘弁してくださいよ」
ケビンが情けない声で訴えてくる。
ジョナサンは少し胸が空きスカッとした気持ちになったが、数秒後、自分のしたことを後悔することになった。
「!?」
突如として目の前に、黒く、大きな、余りにも大きな巨大な塊が現れた。
先程の「大和」とそっくりな姿形をしていたが、大きさがまるで違っていた。
そしてジョナサンは、自分たちの置かれた状況に気付き、凍り付いた。
その巨大な塊に付いた何十もの機銃が、対空砲が、果ては主砲が自分たちに狙いを付けていたことに。
「クソォッ!!」
咄嗟に操縦悍を倒した。
ついさっき、自分たちが向かおうとしていた進路に何十もの砲火が重なった。間一髪であった。ジョナサンはそのまま離脱に移った。
「おお主よ、我らの身を救いたまえ…」
右に左に、機銃の弾がかすめる。
カンッ カンッ と鈍い鉄の響き…愛機が被弾する音がするたび、
心臓が口から飛び出しそうになる。その間、ほんの数十秒であったが、二人にとっては何分にも、何時間にも感じた。
気が付くと、音は止んでいた。我が身が無事で、敵の攻撃が無いことを確認した。
「おお主よ、我らの身を救っていただき感謝します…」
ジョナサンは胸の前で十字を切った。彼はこの日ほど敬虔なクリスチャンとして神に感謝したことは他に無いであろう。
ケビンはまるで幽霊でも見たかの如くガタガタと青白い顔で震えていた。ジョナサンが正気に戻させると、二人は離れた所から改めて先程我が身を襲った艦を観察した。
「何だあれは…」
二人が驚嘆するのも無理はなかった。「大和」が先程の艦と比べると巡洋艦程度にしか見えなく、「長門」に至っては駆逐艦位にしか見えなかったからだ。
「取り敢えず艦隊に報告だ!」
「何て打ちますか?恐竜を見たとか?」
「そんな生易しい物じゃあない」
ジョナサンは深呼吸した後こう言いはなった。
「世にも恐ろしい、化け物、モンスターが現れた」