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【序章】

これ、続くのか?


 ―始まりの物語―


 “悲劇”それは一冊の本によって齎された。


 剣と魔法の世界。その四大大陸の西方にある“白きウィンティガ王国”。敬虔にしてストイックな騎士の大国であるも魔法では他国より遅れをとっており、常に深い森林と肥沃な土地から齎される豊かな恵みを狙い侵略の危にさらされている。

 その憂いを払拭しようと第二王女であるリセリアは日々魔法の研究に尽力していた。まだ若いながら“白き聖女”“可憐なる賢者”と讃えられるリセリアの下にある日、一冊の書物らしき物が届けられる事となる。それは見た事の無いツルツルとした肌触りの革で表装され物理的な封印が施されていた。

 旅の行商人が持ち込んだらしいが真の出所は不明。封印が施されているからには“禁書”なのかもしれないがリセリアは知的好奇心に抗えず、その封を解いてしまう。

 まるで肋骨の如き金属で束ねられた紙はその白さから製紙技術の高さも窺えるが何よりも驚くべきはそこに記された文字らしき物だった。

 複雑な物と数種の単純な物を組み合わされたそれは何れの国の物とも異なる事から“魔法文字”かもしれないと思われた。

 文字自体も植物の汁などでは無く、炭と金属の粉を混ぜ合わせた物らしく均一の太さで書かれている為、現存する何れの筆記具でも不可能。魔道具で記された可能性が高い。

 内容は全く理解出来ないがページを捲っていくと所々に状況を示すであろう挿絵が組み込まれていた。彩色されていない為、詳しくは判らないが見た事の無い衣服を纏った人物に何れも該当しない動植物も描かれていたので恐らくは何らかの物語か何かであろう。

 リセリアは“解析”“解読”“翻訳”の魔法を重ね掛けするもその書式の複雑さから一日に1〜2頁が処理されるのが精一杯だった。


 かなりの疲労を伴うのであろう。その書物を解き進める程にリセリアが人前に姿を現す時間が減っていった。食事を運ぶ女給仕が心配して声を掛けて中の様子を窺うも時折、奇声を発しているようだとの事。自室に篭るようになって数ヶ月の時が経ったある日、心配した国王の命により屈強な近衛兵が扉をこじ開けようとしても施錠した上に本棚などを側に置いたらしくビクともしない。

 仕方が無いので扉を打ち破ろうと斧を振り上げた瞬間、異臭と共に現れた人物に一同は愕然とした。

 ボサボサに乱れた髪とカサカサに荒れた肌。精気の無い目の周りは薄紫に落ち込んで隈が出来ていた。その変わり果てた姿に一瞬誰もあの聡明で可憐なリセリアだとは判断出来なかった程だ。

 そんなリセリアの口から酷く掠れて低い声が洩れる。


「其ハ、古ニ封ジラレシ王ナリ…。我ガ半身ハ迷宮ノ地ニ在リテ常闇ヨリ天ヲ仰グ…。力無キ者ヨ、我ガ願ヲ叶エヨ…」


 その瞬間、全ての窓が閉め切られている筈の室内から凄まじい風が吹き荒れる。


 その変貌のあまりの不気味さに身を寄せる若い近衛兵を仄暗い視線で睨め付け「クケケケケケケケケケケケケケケケ」と奇声をあげて笑うリセリアを全員で拘束した。

 原因は行商人から持ち込まれた謎の書物であり、恐らくは呪われた禁書でリセリアは悪魔に取り憑かれたに違いないとの判断により解読されたであろう紙束の山は焚書処分。呪われた書物はその灰と共に神殿の地下奥深くの迷宮にて厳重に封印され、リセリアはその身分を臥せられたまま山奥に建てた養生所に担当であったレディースメイド2名を伴って送り込む事にした。後に白きウィンティガ王国第二王女は重篤にて療養を理由に表舞台から姿を消す事になる。


 これにて事態は沈静に向かうと思われたが、呪われた禁書と姫君の噂は瞬く間に拡がり、世界は滅亡への歩みを始めるのだった。






 ―終わりの物語―


 石動(いするぎ) (いつき)高校二年生は今、人生最大のピンチを迎えていた。


 これまでも姉が趣味としていた同人活動を手伝ってはきたが、よもや売り子として駆り出されるとは思わなかったのである。

 サークルのジャンルは人気オンラインゲームのガチBL。であるにも拘わらず、何故かヒロイン枠の一人で魔法遣いの格好をさせられていた。

 そもそも何故自分が腐女子向けの殆ど野郎しか出てこないゲームのキャラの格好をさせられねばならないのだろう。しかもユーザーの99%が総“受け”として認識されている男の娘キャラを……。

 他にも偉そうな赤髪の俺様系やクールで毒舌なドS眼鏡、寡黙なナルシーや爽やかな愛想笑いの腹黒優男など沢山居るではないか。

 実姉いわく、「高身長・高学歴・細マッチョ・巨(P)…あんたの何処に“超・攻めサマ”要素があると?」と真顔で諭された。


 ちなみにこの男の娘キャラはダメージを受けたり負けたりすると何故か衣装が破けるエフェクトが入る。他のキャラは片膝をついてカッコイイ決め台詞を話したり、花に囲まれて辞世の句を詠んだりしているのに…?

 そして更に理解し難い事にこのキャラには男のファンが多数いたりする。このキャラを“脱がす”為に心血をそそぐという強者達だ。そして今、樹はその強者達に取り囲まれているのだった。


「すみません、目線良いですか?」

「ムハ〜、クオリティー高いでごさる〜!」


 トイレに行ってきますとサークルの人に声を掛けてブースを出たものの、その途中で声を掛けられた樹。ベテランであれば軽くスルー出来たのだろうが「……エッ?…エッ?」と戸惑っている内に我も我もと飴玉に集る黒蟻のように群がり始めた。

 最早本人の承諾など無視して次々とたかれるフラッシュの閃光。正面からだけでなく下からも光って見えるのは気のせいだろうか?

 このままではスタッフが跳んできてサークルにも迷惑が掛かる。いや、何よりもレッドゾーンに突入寸前だ。内股で腰を引きつつ、プルプルと震えながら頬を紅潮させる様に幾重にも壁を作るHENTAI共が『萌え〜〜っ!』と奇声を挙げてテンションをヒートさせていく。

 半分理性を失いかけているのではないかという視線のケダモノ達は一向に減る様子も無い。せめて樹の腕っ節が強ければ○○無双の様に薙ぎ倒してしまえるのだが……。もうこれ以上猶予の無い樹は己の尊厳を捨て、上目遣いでどうにかその禁断の言葉を振り絞る。


「………“お兄ちゃん”…オシッコ…」





 その瞬間、その場の全員が正気に還り、まるで十戒の海が割れるように道が出来上がる。しかし動こうとしない樹を見て数名に天啓が降る。


『失礼します!』


 さっと歩み出た割とイケメン系の4人が樹を抱え上げるとカタパルト射出するMSの如く走り出した。


「ちょ……お願……揺らさな…」


 必死にスカートを押さえながら内側から押し寄せる振動に涙目で堪えるのだった。



「緊急です!ご協力ください!」


 走り込みながら挙げられた叫び声にズラリと大手壁サークル並の行列の視線が抱え上げられた蒼白な少女に集まり、悟った男性陣が順序を譲る。気を利かせてか男性側は無人になった。


(酷い目にあった……)


 どうにか一心地ついた樹がハンカチで手を拭きながら出て来ると、その異様な光景に唖然となった。


『すみませんでしたッ!!』


 先程のカメラ人達が全員“The DOGEZA”で樹を迎えていたのである。


 その向こうではこういう時、あまり協力的ではないどころかあわよくば私もと男性トイレに割り込もうとした女性群を身体で壁を作り阻止していた男性陣と揉めていた。中には「何であの子だけ」とか「女性は優先されて当然!」など独自の理論を展開して詰め寄る者達もいたが樹を抱えて来た一人が「いや、彼は男の子だし。男子が男子に譲って貴女達に何か問題でも?」の一言で引き下がらざるをえなくなった。

 ブツブツ文句を言いながら元の列に戻ろうと振り返ったがそこに彼女達の帰るべき場所は無かった。ガチ切れで火病る相手に至極冷徹に「ハァ?アンタ達、自分から列を離れたじゃない」と侮蔑の視線で睨め付けて言い捨てた。掴み合いながら罵り合うという騒ぎを聞き付けてやって来たスタッフが事情を聴き、火病っていたメンバーは割り込みと判断されて最後尾に廻される事になった。

 最後尾となった彼女達は周囲の侮蔑と嘲笑に晒されながら更に押し寄せる生理現象に堪え苦しむ事となる。

 先程までの羞恥プレイと火病組からの刺すような視線に耐え切れず走って逃げ出したは良かったが、前方不注意により人とぶつかってしまう。


「痛た…ご、ゴメンナサイ」

「気をつけやが……って、お前…石動か?」


 ぶつかった相手の顔を見た瞬間、樹の顔が蒼白になる。もう神様の嫌がらせに違いない。相手は小中とずっと樹を虐めていた元クラスメイトだった。


「オイ、皆来いよ。石動の奴が面白ぇ格好してるぞ!」


 「何だ、何だ?」と集まって来たのはその虐めグループで、トラウマが甦った樹は硬直して動けなくなってしまった。


「おやおや、昔から女みてぇな面だったけど、遂にちょん切ったのか?」

「全然違和感無ェ〜!マジウケる〜〜」


 ガタガタと震える樹のポケットからトサッと何かが落ちた。


「ぁあ?何だコレ…?」

「そ…それは…返して!返してよ!」


 どうにか立ち上がり取り返そうとするも、背の低い樹では手が虚しく空をきるだけだった。

 バインダータイプの鍵付き手帳の中には姉に押し切られて書いた今回出品した新刊と次回分のBL小説の下書き、そして黒歴史といえる謎ポエム。腐姉の影響で軽く患っていたいわゆる中二病の負の痕跡。この会場でこの姿な時点でアウトなのだが、ソレを知られる訳にはいかない。

 面白がってボール代わりに投げ合う手帳を必死に取り返そうと勢い余ってぶつかった虐めグループの一人がバランスを崩し、手を離れた手帳は大きく弧を画いて柵の外へと飛んでいってしまう。

 何処に落ちたかと確認しようと金属製の柵を支えに踊り場から身を乗り出した瞬間、ガキンという音を発てて折れた。

 スローモーションの様にゆっくりと遠く小さくなっていく踊り場。樹は走馬灯を見る事すら無く、こう呟いた。


「あ……終わった。僕の人生……」


 暗闇に囲まれて何処までも際限無く墜ちていく手帳にあと僅かで手が届きそう。それが石動 樹(16歳 彼女無し)が最期に見た光景だった。







ドシャッ!!!!!!

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