悪役令嬢とかヒロインとかは天然バカ男には分からんのです。
「いいか、一回しか言わん。よく聞いておけ。俺様は、貴様との婚約を破棄する!分かったか、エリナ!否、もはや婚約者ではないから名前で呼ぶ必要もないな。ラウデン嬢」
私の名前は、エリナ。マクエル・ラウデン公爵の娘、つまり公爵令嬢です。
そんな私は学校の食堂に婚約者である殿下に呼ばれました。そして、いきなりこんな事を言われました。
その場にいるのは大勢の生徒と生徒会委員である、会長である殿下、副会長である右大臣の息子、書記である侯爵の息子、会計であり今回の原因になっている男爵令嬢であるアリサ。
そして、
「なぁ、オバちゃん。これ、お代わりしてもいい?すっごい美味いんだ」
「美味いならきちんと味わってくださいよ?それとお代わりなら、お金払ってくださいね?」
「マジか、やったぜ!んじゃ、あと四杯位貰おうかなー?」
「おい!こっちに来い、バイル!貴様はそれでも俺様の護衛か!」
「えっ?なにか用?今、ご飯食べてるから後でね」
騎士団長の息子、バイル・カマルトです。…一応、公爵の息子で私の幼馴染みです。しかも、剣の腕前は神掛かりとも言われております。ですが、バイルにも弱点があります。
それは、分かると思いますがバイルはバk…いえ、お頭が弱いのです。
「何故、お前との婚約を破棄するか、その理由を教えてやろう。
それは、先日の夜会で貴様がアリサを階段から突き落としたからだ!!」
数分後、ご飯を食べ終えたバイルが殿下達の所に行き、話がやっと始まりました。あの量のご飯を数分で食すとは…正直、信じられません。はぁ、…全くもうっ、バイルの所為でグダグダです。
「認めるのなら、罪を軽くするよう口添えしてあげないこともないですよ?」
副会長が上から言って来ます。
「あっ、あのっ…だから違っ──」
「いいんだ、アリサ。なにも言わなくていい。お前に涙を流させた奴は俺が許さない」
アリサが何かを言おうとしていましたが、書記が庇うようにして遮りました。
「──っ!…なんで、私の話を聞いてくれないの?」
「次は、玉子焼き…いや、奮発してステーキ?それとも──」
今にも泣きそうなアリサとご飯の事にしか目の行っていないバカ…ごほんっ、バイル。
「申し訳ありませんが、その時、私は他の令嬢達とお話をしていました。その時にいた者に聞いてもらえれば分かると思います」
私はその時に一緒に居た者の名前を教えました。
「ふっ、その程度の嘘でどうにかなるとでも?」
「ふふっ、残念でしたね。此方には貴女が、アリサさんを突き落とした所を見たという者がいるんですよ?」
「くくっ、残念だったな?」
「んん?つまり……分かったぞ!!エリナは二人居たのか!!ハッ!若しくは、影分身か……っ!?」
『………。』
…ごほんっ。一人、見当違いのおバカさんが混ざって居ますが、無視いたします。ハッ!じゃないですよ!
「…ふふっ」
アリサがこのグダグダな雰囲気の中、少し笑いました。
「んんっ、話を戻すぞ。此方には目撃者がいるので嘘の証人は無駄だ」
咳払いをし、無駄にキリッとした表情をする殿下。すると、
「あ、あのー、僭越ながら、証言してもいいでしょうか?」
一人の令嬢が手を挙げた。
「ふんっ、なんだ?」
「私その夜会でエリナ様と話をして居たんですけど……」
令嬢がそう言うと、一人、また一人と私もです、と言った風に私の味方が増えてきた。
それにしても、何故かアリサの顔が嬉しそうになっています。本当に何故でしょう?一応、貴女が今回の原因なんですが……?
「──ええいっ!黙れ、黙れ、黙れい!!」
ザワザワとする食堂を殿下が一括しました。
「こっちは、ワザワザ金を払って目撃者を…っ!?」
「で、殿下!?」
「いっ、今のは、冗談ですよ!ね、殿下!」
「あっ、ああ。そ、そうだ!こう、難しい雰囲気になっていたからな!」
殿下が思わず、といった風に自分の不正を話してしまいました。副会長が咄嗟にフォローしますがもう遅いです。あぁ、先程までザワザワとしていた食堂が今度は粛然としています。
「…もう、やめて」
静まり返った食堂に声が響きました。声を発したのはアリサです。
「なんで、皆は私の話を聞いてくれないんですか?なんで、私の話を遮るのですか?
──私はただ、真実を言おうとしているのに」
泣いていました。最初は、堪えていましたが最後あたりになると抑えられなかったのか、アリサは泣いてしまいました。
「わ、私がっ、あの時ケガをしたのは、私の不注意だって言いましたのに…話をしたのに」
徐々に口調が崩れていく、アリサ。私は思わず、そんな彼女を見て、居ても立ってもいられず、会長に副会長、それと書記を突き飛ばし、アリサを抱き締めました。
「ゆっくりと話しなさい。大丈夫、私は貴女の話を聞きます」
「あっ、ありがとう…ございますっ!!
ぐすっ、わ、私、昔から気が弱くて、それでいて成り上がりの貴族だから礼儀もマナーもままならない様な人間だから…どうにかして貴族としてちゃんとしようとして…。貴族として尊敬するエリナ様と友達になって学ぼうと思ったんですっ!
で、でも、友達とかどうやって作るのか分からなくて…。
そ、それで、毎日どうやって友達になるか想像してて…っ。でも、は、恥ずかしくて…」
どうしましょう。凄く、可愛いです。こう、撫で回したいです。
「そ、それで夜会の時も友達になる想像をしてたら階段を踏み外しちゃって…っ!
その時に、エリナ様の事を考えていたら踏み外してしまいましたと申したのですが、何故かこのような事にっ!
ご、ごめんなさいっ!!わ、私がもっと話を聞いてもらおうと努力していれば、こんな事態にはっ!」
「いいんですよ。貴女はキチンと話したのでしょう?ならば、責任は貴女ではなく、殿下達にあります。──所で先程から貴方はなにをしているのですか?バイル」
私はアリサを許しました。何故なら彼女は最初から自分の非を認めていましたから。けれど、殿下達には自分の声が届かず、このような事態になってしまい、罪悪感で押し潰されそうにもなったのでしょう。それもこの場から逃げたいと思う程。今も、私の腕の中で震えて居ました。
まぁ、それは解決したので置いといて、問題はバイルです。先程から黙って居たので気になり、バイルの方を向いて見ると、
「なんか、話が難しかったから念話で相談してた」
…相談?と言うか、話の内容すら分からないのでは?
「相手は誰です?」
「えっ、国王だけど?」
あっ、アリサの震えが止まりました。ついでに、食堂の空気も。
「えぇぇぇええ!?」
私ははしたなくも声を上げてしまいました。しかし、まさか国王様に相談とは…。都合がいいのか、悪いのか。
「それでさ、なんか殿下達に伝言があるらしいんだ。なんでもお前達は全員、かんどーするだって。学校も退学で、それぞれの婚約も破棄しとくって。だから、エリナは好きな奴と結婚出来るって。
後、アリサには悪かったと伝えて置いてくれだって。
んで俺は、殿下の護衛役から降ろされて取り敢えず、皆に迷惑をかけないようにな、だって。
俺、皆に迷惑かけたことあったっけ?」
あまりにアッサリと言ってしまったので突っ込むことが出来なかったのですが、取り敢えず、許せない所があった。
「バイル、貴方は毎日、誰かしらに迷惑をかけているはずよ?例えば、目の前にいるわ」
いけない、私も口調が崩れてしまったわ。まぁ、いいわ。
「えっ、マジか。なんか知らずに迷惑かけてたとかショックだなー。
なんかゴメンな?オバちゃん」
そっちじゃないわよ!?オバちゃんも気にしないでいいわよとか、言わないで!
「貴方ねぇ、本当にバカね。もの凄くバカよ」
「おい、さっきからバカとか言いやがって。アレだぞ、それはつまり、俺の頭が悪いですって言ってるようなもんだぞ!」
「だから、そう言ってんのよ!!」
すると、バカはまたハッ!となり、
「本当だ!」
と、言い頷いていた。
そして、学校の鐘が鳴った。
「はぁー、もうアレね。時間も時間だから教室に戻るわよ?ほら、皆さんも」
私がそう言うと、一部を除いた全員が各自の教室に戻っていった。
「あっ、あの、エリナ様!待ってください!」
アリサに呼び止められた。
「あら、そうだったわね?休み時間でも放課後でもいいわ。いつでも私の所に来なさい。……私達はもう、友達だから」
「は、はいっ!──うっ、ぐすっ」
あらあら、また泣いちゃって。本当に、可愛いわぁ。
「…… っ!?(ゾクッ) 」
ふふっ、震えちゃって。
「よーし、なに食おうかなー」
「バイル、昼休みならもう終わったわよ」
「うそ……だろ…」
なんでそんなに絶望してるのよ。さっき、食べてたクセに。
はぁー、もう本当にバカねぇ。
エリナ
頭が良く、運動も出来る。所謂文武両道な女。他の令嬢の相談とかを聞いたりしている。なので面倒見がいい。
バイルの両親と会ったことがあり、特に母親と仲がいい。
アリサ
ボッチ。気が弱くて、泣き虫。そんな自分がいやで、変わろうとエリナと友達になろうとしたが恥ずかしくて無理だった。今回の事で仲良くなる。
バイル
天然バカ男。名前の由来は略してバカになるようにした。国王に勘当すると言ってくれと、言われたさい、勘当の意味を感動と間違い、意味が分からず、かんどーと言っていた。
殿下達
マヌケ。