Angel(4)
「いやー!」
「やめてー!」
「痛いよー!」
――うーん。これが地獄の日常という奴か。
「どうだ、地獄のBGMは気に入ってもらえたか?」
「耳に馴染むには時間がかかりそうっすね」
「嫌でも慣れるさ。でも案外平気そうじゃないか」
「まあ地獄ってひどい所とは聞いてたんで、ある意味予想通りというか、想像以上ではなかったかなって」
「いや多分それはお前がちょっと変わってるからだと思うぞ」
「そうすかね」
「ここに来たいって言った天使は他には?」
「俺だけです」
「ずば抜けて変わってるじゃねえか」
まあ確かにわざわざ地獄に行ってみようなんて天使である俺が思うのはおかしな話なんだろう。けどそう思ったものは仕方ないし。変わっていようがいまいが俺はそうしたいと思ったのだ。それは別に悪い事ではないと思うんだ。
「さて、カガリ君よ」
「へい」
「ちょっと仕事してみるか?」
「マジですか」
「マジだ。処罰を待っている罪人を適切な地獄へ案内してやってほしい」
「適切な地獄……でもそんな判断俺がしていいんすか?」
「いやさすがにそこまではしなくていい。というか、あらかたそういうのは上の方で決めてくれてるから、それ通りに案内するだけだ」
「簡単そうっすね」
「よし、では行こうか」
レグさんに連れられ向かった先は、体育館のような大きな建物で入口から中を覗くと受付スペースがあり、その先を見るとそこにはぎゅうぎゅうに罪人が詰められていた。すげえ数だ。
「カガリ君、あれを見ろ」
「はい?」
レグさんが指差した先に目を向けると、部屋の前方に大きな電光掲示板みたいなものがあり、そこには合格発表よろしく何やら番号がずらずらと並んでいるように見える。しばらく見ているといくつかの番号が点灯しだし、また少しするとその番号が消えた。そして間もなく獄職員と思われる者、それに続いて素っ裸の罪人数名が出て来た。
「見ての通り、一旦ここに罪人共が収容される。そして俺ら獄職員が奴らを本当の地獄へと招待する」
「なるほど。そこらへんは割と天国と似てますね」
「そうなのか?」
「はい。天国に来た人達に天国ってこういうとこですよーって説明するんですよ」
「まあ、最初は何も分からないもんな」
そう言いながらレグさんと入口に入ると受付スペースに座っている黒縁眼鏡とスーツ姿の猿が出迎えてくれる。猿? なんで猿?
「あ、レグさん。じゃあこいつらお願いしますねー」
とカチャカチャパソコンのような機械をパチパチ叩き最後にターンとキメ技のようにキーを押し終えると画面からにゅるんと赤い手が出てきて、その手には一枚のペラ用紙がつままれている。そしてそれを手に取りレグさんに手渡す。
「よし、出よう」
「あ、はい。それ何すか?」
「罪人リストだ」
そう言って俺にも紙を見せてくれる。真っ白い紙には番号がいくつか書いてあり、番号の横には、”熱いの”、”寒いの”、”痛いの”、”なんか苦しそうなやつ”、とか書かれてある。
「この”熱いの”とかが、いわゆる罰ですか?」
「そうだ」
「この”なんか苦しそうなやつ”って何すか……?」
「シェフの気まぐれみたいな奴だよ。その場の裁量に任せるってやつ」
「適当ですねー」
「もう流れ作業みたいなもんだからな。あ、出て来たぞ」
見ると罪人達が自分達の後ろに並んでいた。
「よし、行こう」