Angel(3)
「あ、どうも。俺カガリって言います」
「はいはい、交換留学のね。ギドーです。よろしく」
バスケスに連れられ俺はついに念願の地獄を訪れていた。
しかしこのギドーさんとかいう人、すげえ見た目だな。顔青白いし、瓶底グリグリメガネなのに髪の毛パンクみたいにツンツンだし。ブレブレじゃねえかよ。地獄の職員さんって皆こんな感じなのかな。なんか絡みにくそうだなあ。
「じゃあ、宜しくお願い致しますね」
「はい。こちらこそ」
バスケスが丁寧にお辞儀をして後手にあった毒々しい髑髏だらけの門を開いてその先に消えていく。
「では改めて、ようこそ地獄へ」
「あーホント地獄って感じですね」
真っ赤なら空。真っ黒な大地。所構わず響き渡る阿鼻叫喚。
紛れもない地獄だ。
――俺、やってけるかな……。
さすがにちょっと、不安になってきた。
そんな不安な俺に特別気遣うわけでもなくあくまで事務的にギドーさんが今回の地獄での俺の仕事について説明する。が、実際一週間ほどの体験入学みたいなものだ。たいした仕事をするわけでもない。目的は現場の人間がそれぞれの現場の仕事を見るという、視察的な意味合いが強い。なので俺がここでする事はちょっとした手伝い程度と地獄観光だ。これは気楽。
そうこうしているうちに俺の目の前にまた別の獄職員が現れる。
「はい、という事で彼が君の短期教育係といった形を取る事になるので、何か気になれば今後は基本彼に聞いて下さいね」
とギドーさんから紹介された人物に目を向けてみれば、それをまず人物と言っていいのかどうかすら怪しくなる風体がそこにあった。
顔面は凶悪なヤギさんなのに首から下は紳士風な漆黒のオシャレスーツ。もはやコンセプトが分からない。天国の聖社員は見た目皆普通の人型ばかりなので、この個性的な見た目には驚きと新鮮さを感じる。
「どうも、レグだ。よろしく」
「あ、カガリです。よろしくです」
「じゃあ、レグ。後は頼んだぞ」
「はーい」
間延びした返事を返した時にはもう既にギドーさんの姿は自分の横から消えていた。
「えっ、ギドーさん消えた!?」
「ああー気にしない気にしない。あの人すぐ消えるタイプだから」
「そんなタイプ聞いた事ないですけど」
「まあともかく、短い間だけど楽しんでってくれよ。天界のあんたにゃ新鮮な世界だろうからさ」
「はい! ありがとうございます!」
――あ、俺大丈夫かも。