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誤字・脱字を修正いたしました。27.4.11

 こうなってしまったら、こちらに有利が傾くように先制した方が早い。私はこの熊の人を追い出したいの。なら分かる状況を伝えて早く出てもらえばいい。この熊の人のおかげで大変な目に合うのは、嫌。


「誰と言われても私には分かりません。貴方は向こうの花畑で倒れていましたから。服装からみて王国騎士と判断します。そちらに問い合わせたらいかがです?」


「………いや、俺は………殺される」


「記憶がありませんのに?」


「それだけは分かる。俺は殺される運命で、逃げて………た、はず」


「はずでは困りますわ。ここには子どもたちがいます。貴方を狙う方がいらっしゃるなら、いますぐに出ていっていただきたいのです」


 そう、出ていって。余計な争いを引き連れないでほしい。しかし、この熊の人は私に視線を向けたまま、静止した。これは悩んでいるの?まったくわからないわ。とたんにうんともすんとも言わなくなる。


 やはり会話だけでは駄目ね。沈黙ではなにも語れないの。魔法を展開させるために右手に魔力を集める。存在を闇に葬れば、容易いのよ。ごめんなさいね?外の人間がこうして私の領域にいるだけで、嫌なの。


「闇へと―――っ!?」


 だん!と、背中が痛い。そして首と右手が痛い。一瞬何が起こったか分からなかった。でも、集めた魔力が散ってしまった事で魔法が失敗したのだと分かった。そして―――もう一つも、わかった。


 王国騎士には大きく分けるとしたら部隊が四つになる。先頭に立つのは先陣を斬る突破隊。指揮官が引きいる要の中枢を担う防衛隊。後衛を守る重騎士隊。そして、魔術師だけを狙う狙撃隊。狙撃隊は文字通り、突破隊と混じって魔術師だけを狙撃する。


 魔術師を止める方法は三つ。狙うのは一番簡単な命を狙うこと。次に喉。詠唱の中断は魔術師には致命的。また最初から唱えなければならないから。そして、最後は発動するために集めた魔力を阻止すること。これは難しい。相手の魔力を自分の魔力で弾かなければならないからだ。しかし、狙撃隊はそう訓練されている。当然、この熊の人も狙撃隊として訓練していたのでしょう………………絞まる喉元。魔力を集めさせないために押さえられる手首。狙いすぎる。そうか―――魔術師の天敵である狙撃隊だから、魔術師の身を守る結界を無効化するためにあの指輪を付けていたんだわ。


 最悪よ。条件反射でここまでいけるなら相当訓練されているはず。記憶がないからとこれはいただけないでしょう。本当に厄介な拾い物をしてしまったわ。


「ホルティーナ様?物音が聞こえましたが、何かありました?」


 この声はロロね。あの子はとても優しい子どもだから、こんな場面を見てしまったらあの子が壊れてしまうかも………刺激は強すぎると毒よね。私がいなくなれば結界は崩れ、魔物が襲ってくるかも。その前に錯乱してこの熊の人に攻撃を加えるのかしら。敵わない相手と分かるのは私だけ。ロロにそんな事はさせられない。


 動く左手を熊の人の手を音をたてずに叩く。意図を汲んでくれたのか、熊の人は喉に食い込んでいた指を少しだけ緩めた。それでも喉からこの大きな手は離れない。一度大きく息を吸い込んで呼吸を直し、扉に向けて言葉を放つ。


「起こしてしまってごめんなさいね。椅子を蹴飛ばしてしまったの。大丈夫よ」


「本当ですか?怪我はありませんか?」


「怪我なんてしてないわ。ロロは今日、魔法を使ったでしょう?早く寝なさい。疲れが残るわよ」


「わかりました。今度から気を付けてくださいね。お休みなさい」


「お休み」


 離れた扉から小声で話をしてたけど、ちゃんと届いてよかったわ。納得してくれたロロはみなを起こさないように静かに廊下を歩いていった。しばらくすると微かに部屋の閉まる音。どうやら自室に着いたみたいね。これであとは熊の人をどうにかするだけ―――いい加減、退いてほしいものね。


 いまだに右手は握られたまま。喉元はゆるく捕まれたまま。背中に冷たさが私を冷静にさせてくれる。………どうしようかしら、この熊男。腹立つほどにビクリとも動かない。動かせない。人語を話せる熊じゃないの?疑いたくなるわね。


 私の場合は詠唱がなくても魔法は放てる。初期魔法だけど、威力はじゅうぶんに発揮できるでしょう。問題は熊男が暴れると言うこと。音が出るのは必然的。子どもたちが起きてしまう。会話しかないのかしら。本当に最悪だわ。


「………今の、なんだ?」


「………どれに対して、かしら。それと退いてくださる?女の上に跨がるなんて、最低よ」


 冷たくいい放てばなんだか知らないけど慌てて退いてくれた。なんなのかしら。でも手を離さない。本当になんなの。まるで逃がさないように………………ああ、私が唯一の情報だものね。簡単に阻止ができるなら、熊男の方が有利なんだわ。


 そう分かると腹が煮えくり返りそうなほどイラついてくる。普段はこんな事にならないからなおさら。しかも振りほどけないのがまた燗に触る。あせる素振りはもう消えているし、こちらを窺うような視線は下手に出るかのように腰が低くなってる。なんなの、この熊男。


「この手………何かを感じた。なんだ?」


「………魔法よ」


「………………魔法とはなんだ?」


 駄目だわ。子ども相手なら教えてあげたいのに、熊男には教える気なんてさらさらない。




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