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誤字・脱字を修正いたしました。27.4.12
これは私の注意不足ではない。決して違うわ。そうよ。私は魔法を使うと言っていたのだから立ち止まるのは当たり前で、子どもたちを見守っているのだから動かされたら困るのよ。
それなのにこの熊男っ!距離ができると言って私の腕を取って歩き始めた。一瞬にして『魔力探知』を失敗してしまい、『覇気』を放ってしまう。
おかげで近くにいたお肉になる魔物は逃げていってしまう。ウルウルフは一匹討伐できたみたいだからいいけど、これでは量が足りない。ひもじいのだけは絶対に回避しなくては駄目よ。それよりいつまで掴んでいるの!痛いわよ!
「貴方のせいで魔物が遠ざかったわ。もう離してちょうだい」
「………やりながらは危ないだろう」
「分かってるから立ち止まったんでしょう!それより見なさいよ。子どもたちだけでもウルウルフは討伐できたわ。今度は邪魔しないで」
「でも、危険は危険だ」
「体験しなきゃ分からないでしょう!いつまでもここに入られるとはっ―――………………これは、なに」
「転びかけただろ。支えてる」
だからって………………だからって腰を支えなくてもじゅうぶん倒れないわよ!!確かに少し蹴躓いたわ。ちょっとした窪みに足が取られただけ。バランスが少し揺らいだだけだからすぐに建て直せる。それなのになぜ腰を支えるのよこの熊男!!
隣に並ぶようにがっしりと私の腰に腕を回して支えなくてもいいわよっ。もういいでしょ!あの子達がこっち見てるんだからさっさと離しなさいっ。ちょっ、どうやって抜け出すのよっ。
「ホルテォーナ。何か、動いた」
っ!?なに―――危険が近づいてきてる………………?熊男に言われるのが癪だけどすぐに『魔法探知』で生き物を探しだす。範囲をすぐに広げて探しだせば―――いた。これはちょっと子どもたちには無理ね。前方、左より。距離六十五メートル。………よくわかったわね、この熊男。
「………………遅いわね。ベアバンクかもしれないわ。子どもたちのところに行きましょう」
「わかった 」
「ちょっと!?」
だからって私を持ち上げなくていいわよ!!私は荷物でもなんでもないのよ!!貴方の両手を塞いで横抱きするぐらいなら後ろから付いていくわっ!!なんで髭を剃ったのよ!引っ張る事もできないわっ。それでもそのまま子どもたちの元へ………ああ、バナル。そんな哀れんだ目で見ないで。この太すぎる腕だと私の腕では敵わないのよ。
そばに寄ってきてみればモルフィーリが嬉しそうな声をあげてイーグとカトレーが子どもならではの単語で囃し立てる。やめてお似合いでもなにもないから。それより静かにしなさい。
「こら。ここは森よ。警戒しなさい。強めの魔物がくるわ。前衛は周囲の警戒と後衛を守りなさい。後衛は補助を全員に。退治は熊―――貴方がやって。出来るでしょう?」
「たぶんできる」
「私も援護に回るわよ。一緒に攻撃したらごめんなさい?」
「………見返りを要求する」
「居候さんは贅沢が好きなのね。ほら見つかったわ。貴方の腕を見せてちょうだい」
「………………そこから動くな。一人でやる」
「魔法は遠距離よ」
言い残して熊男が走った。魔物との距離はおよそ二十前後にまでなっていた。速さを持っているらしく、目が追い付いた頃にはもう接触が近い。とりあえず熊の足を止めるために土を魔法で操作。泥沼にして動きを鈍くする。
その隙に間近まで一気に詰め寄った熊男が魔物を一撃で仕留めた。あのナイフ使いは伊達ではないようね。急所を一撃………やっぱり強いわ。
呆然とする子どもたちに手を鳴らして正気を取り戻させる。警戒してないと後ろからよ?と少し脅して今日は帰る事にした。熊はやっぱりベアバンクだったらしく、熊男が綺麗に倒したおかげでお肉の部分が美味しそうだわ。それにしても………熊が熊男に倒されるなんて、シュールよね。熊男は青年になってるけど。




