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短く気ままに。好きな時に書きます。
誤字・脱字を修正いたしました。27.4.11
人はとても信用のできない生き物だ。
そう思えるようになったのは今から500年は前だろう。月を眺めながら目深くフードを被った影が今日も過去を振り返る。
「もう、忘れればいいのに…………」
何度願っただろうか。何度訴えただろうか。影は小さく囁いて月を仰ぐだけ。寝静まった部屋には簡素なベッドが一つと、書きかけの手紙と転がされたペン。それらしか乗せていない机が一つ。壁に影と同じ色の同じものが数着重ねてあり、その隣に少し大きめなクローゼットが備え付けられていた。
椅子は窓辺に、今も影が使っている。まだ、動く気配はない。
「諦めればいいのに」
小さく呟く声はどこかへ。影から放つ音に空気が少しだけ揺れた。ただ座っているだけだが………静かなこの場所で極僅かな音を影は聞き取り、遠ざかる音を耳にした。
それを聞き終えれば満足したかのようにベッドに潜り込む。椅子はそのままだが、この部屋に入ってくるものはいないのだ。ならばこの部屋の主である影が許すのだからそれでいい。
「明日も平穏でありますように。不快な闇が遠ざかりますように」
祈るわけでもない。ただ口にした言葉は影の願いか。影は己の心音に耳を傾けながら、少しの微睡みに意識を委ねた。