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二人の朝のさえずり声


少女の暗き過去と未来に光を

まだあまり人がいない朝の住宅街を、霧間麻人と楠原深月は歩いていた。


二人の通う榊山高校は制服ではなく私服のため、霧間はジーパンにプリントTシャツ、楠原は白のワンピースという格好をしている。


朝食の前のことがあったためか、二人の間にはいまだにすっきりしない空気が漂っていた。


お互いがただ前を見て、しかし時たまチラっと相手の方を見てはすぐ視線をもとに戻すという動作が、その空気を象徴している。


住宅街を抜け、少し広い道にでたところでその空気に耐えきれなくなった楠原深月が口を開いた。


「あ、あのさぁ!麻人!」


緊張して少し大きい声を出してしまったためか、霧間は少し驚いて応対する。


「は、はい。なんでしょうか…?」


そんな彼よりもきょどきょどしている楠原は、口を動かした。


そう、動かしただけ。


彼女はひとまず先ほどの空気を変えたいという一心で声を出した。

しかし話す内容など全く考えておらず、声を発する前よりも嫌な状態に陥ってしまった。

まるで、あとさき考えずに行動する子供のようだ。


「…ん?何だ?」


それを見る霧間の心は、驚きから疑問へと変化する。


誰でも、話題を振られると思ったときに、その相手が言葉を発さずに、ただもじもじしながら唇を動かしていたら疑問に思うだろう。


そして霧間は彼女の行動を、このように考えた。


―――口に出して言いたくないことなのか?


霧間は親切心のつもりでそう考えた。

朝の出来事も繋がり、きっと楠原には口に出したくないけど伝えたいことがあるのだと判断した結果だった。


ならばと思い、霧間は楠原の唇の動きをじっと見つめた。


見つめられる側になった楠原深月は、突然のことに焦り、口の動きが少しゆっくりになった。


きっと戸惑いが心を支配し、無意識に動いているのだろう。


霧間がじっと観察し、楠原は出せる声もなく戸惑うという状況がしばらく続いたが、答えを先にだしたのは霧間だった。


「えぇと、深月の言いたいことは…。」


いきなり霧間がそう言いはじめたので、状況が全く理解できていない楠原は、とりあえず聞くことしかできない。


――えっ?何よ麻人、読心術でもはじめたの?


自分でも訳のわからない考えが頭を巡っている楠原深月。


それはあながち間違っていないが、霧間が挑戦しているのは『読心術』ではなく『読唇術』だ。


楠原は霧間が自分の心をどう読んだのか、その答えに耳を傾けた。


そして霧間がその答えを告げる。


「…あ、い、し、て、る?」


「ふぇっ!?」


間抜けな声を出したのは答えを待っていた楠原深月だった。


「お前…それを言いたかったの?」


楠原の理解も確認せずに話を進める霧間。


開いた口が塞がらない楠原は、言葉をまとめることができない。


「あっ、ちょっ、その…。」


顔が赤くなり、冷静に頭が働かない楠原。


―――な、何言ってんのよコイツ!私がそんなこと思ってるわけないじゃない!


本心がそう考えても、声は出てくれない。


そんな彼女に、霧間は詰め寄った。


「だ、大丈夫かよ!?顔真っ赤だぞ?…熱でもあるんじゃないのか?」


彼はそう言うと、またもや親切心で楠原の頭を両手でホールドした。


そして、彼女のおでこに自分のおでこをくっつける。

顔を距離はほんの数センチ。

少し動かせば、キスをするのではないか、というほど近い。


しばらくして頭を離した霧間は楠原に言った。


「うわー、やっぱ熱いぞ?昨日の夜に疲れたのかもな。今日はもう休んだほうが…。」


それを聞いた楠原深月は、止まっていた自分の時間を動かした。

そして、その時間を取り戻すかのよいな勢いで霧間麻人を睨む。


ツインテールがゆらゆらと重力に逆らいながら宙に漂うのを確認した霧間は、反射的に一歩後ずさる。


「えぇと、く、楠原さん?俺が何をしたって言うのですか?」


繰り出されるであろう『攻撃』に怯える霧間麻人。


深月は追い詰められた羊を狩るような目で、その『攻撃』を放った。


「アンタのせいでしょうがぁ!!」


朝の小鳥がさえずる道で、骨が軋む音がしたのは、少女の声がしてから一秒とかからなかった。


「…ばか。」


そして地面でのたうっている幼なじみにそう吐き捨て、楠原深月は学校へ向かった。



口ではそう言ったが、本心は戸惑っていた。


霧間の言った、あいしてるが心の揺れの原因である。


楠原は歩きながら、手を頭に当ててツインテールをブンブン揺らしながら呟いた。


「べ、別に期待なんか…。アイツはただの幼なじみで、その、好きとかじゃなくて、ただほっとけないっていうか…。…はっ!」


そしてふと手を頬に当てると、かなり火照っていた。


そして思い出される霧間の言葉。


「大丈夫かよ!?」


その言葉が妙に嬉しくなって彼女はさらに頬を赤くする。


「わ、私どうかしちゃって…。あーっもう!」


変に霧間に意識を持ったことを照れてしまった楠原は、その照れを隠すために元来た道を走り出した。


そこにはようやく体を起こした霧間麻人がいた。


楠原は走ってきた勢いを使って彼に向かって跳び、空中で体を地面と垂直に一回転させた。


そして彼女の綺麗な白い足は、朝の澄んだ空気の中で弧を描く。


その正面にくるのは、霧間麻人の顔だ。


「アンタなんか…大っ嫌いよぉー!!」


「だから何でぇ!?」


朝の小鳥のさえずりの中、少年の悲鳴と共に骨が折れるような音がしたのは、これもまた一秒とかからなかった。



小説閲覧ありがとうございます。


黒崎千叉です。



今日は簡単なキャラ紹介をしようと思います。



一部ネタバレがあるのでとばして頂いてもかまいません。





霧間麻人(きりまあさと)


Gランク

物語の主人公。

契約相手は不明。

見たこともない自分の契約しているクリーチェストの魔力を体に宿し、使うことができる。

両親を亡くしており、おじに引き取られたが今は住宅街で一人暮らし。

Fランクの人間に激しく嫌われている。

Gランクの人間にも、一部を除き嫌われている(理由は次話で公開)

楠原深月の幼なじみ。

人の気持ちを読んだりすることに関してすごく鈍感。




次回紹介するのは楠原深月ちゃんです。




それではこれからも 茜空と超能力シャ をよろしくお願いします。




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