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怒れるアイツは幼なじみ

霧間の駆ける速度は、普段の『人間』のときよりも格段に速かった。

それを一番感じるのは霧間麻人本人であり、それが彼の自信にも繋がっているのは事実だ。


数秒としないうちに、霧間とクリーチェストとの距離、およそ2メートル。

もう少しで彼のストレートパンチの射程範囲となる。

霧間に宿った『魔力』と、彼にもとより存在する『力』を併せ持ってすれば、運がよければ一撃で敵を戦闘不能にさせることができるだろう。


しかし、風の戦士も自分に迫る攻撃にただ呆然と立ち尽くしているだけではない。


霧間が射程距離に入った瞬間、戦士はサーベルを降り下ろした。やはり、人間が使うときとは全く違う速さ、そして纏う風の量と勢いが全く違う。


おそらく、いつもの霧間麻人なら一瞬の内に地面に転がる男と同じ状態になるだろう。


しかし、霧間も今、『人間』ではない。

彼は、姿形知らぬクリーチェストの魔力を宿した『超能力シャ』なのだ。


霧間はもとから備わっている優れた反射神経と瞬発力、そして宿りし力で走ってきた方向に対して直角に右へと横っ飛びした。


戦士の振ったサーベルは標的を捉えることができず、地面に突き刺さる。


―――チャンスだ!


霧間は着地するやいなや、明らかな隙を見せた戦士に拳を叩き込むため、地面を思いっきり蹴飛ばした。


「喰らえ化け物ぉ!!」


霧間の魔力を帯びた右ストレートが、戦士の頭に直撃した。


ガンッ!っと言う金属のような鈍い音を残して、地面に打ち付けられながらふっ飛ぶ戦士。


もしもこれを一般人に放ったとしたら、命の保証な全くないどころか、頭と胴体が繋がっているということもないだろう。

それほど彼の『力』は強大であり、危険なのだ。


―――やったか?


未だ魔力を宿しているものの、少し落ち着いた霧間は、地面に激しい傷痕を残して倒れているクリーチェストを見て思った。


被っている甲冑のこめかみ部分は、今にも崩れそうなほどの亀裂が入っている。

霧間のパンチを喰らって砕けていないことから、これは異世界の鉄であってこちらの世界の鉄ではないのだろう。


もしもこちらの世界の鉄が彼のパンチを喰らったならば、貫通しているにちがいない。


霧間はもう一撃を叩き込もうかと思ったが、戦えなさそうな相手に体力を使う必要もないと思い、攻撃するのはやめた。


「…さて、『戻る』とするか。」


霧間はそう呟き、そして胸に手を当てた。

今彼は、身に宿った魔力を抜いているのだ。

そして、ここで副作用がおこる。


―――くっ…。


彼は激しい立ち眩みに襲われた。

周りの世界が真っ暗になり、闇に突き落とされた感覚にさらされる。


これは、一時的に活性化した脳の疲れにより、決まっておこる現象。

毎度のことなのだが、彼は全く慣れることができておらず、これからもそれは不可能だろう。


「…っく、はぁはぁ………。さあ…帰るか………。」


魔力を完全に抜ききった霧間は、おぼつかない足取りで家路につこうとした。


あたりはほとんど暗くなっており、街灯には明かりが灯されているだろう。


しかし、体育館裏を出ようとしたとき、彼は不吉な、そして身を震わせる『音』を聞いてしまった。


「嘘…だろ……?」


その音、金属が擦れる音がした方向を見て、霧間麻人は苦笑した。


少しぼやける視界にも鮮明に映ったモノは、首をただれさせながら立っている化け物の姿だった。


首からはどす黒い液体がボタボタとこぼれおち、それがこの世界のモノではないことを霧間に再確認させる。


とたんに、


……ぐおおぉおぉぉおおぉ!!!


化け物が耳をつんざくような、この世のものとは思えない声で雄叫びを上げた。


それはいくら霧間麻人の心が恐怖を感じていなくても、体に鳥肌を立たせた。


そして声の主は、ゆっくりゆっくりと霧間へと足をのばした。

首がグラグラしているのは、先ほどの霧間の一撃を受けて首の骨が砕けたからだろう。


しかし、そんな負傷が魔力を引き起こすのに何の支障をもきたしていないことを、化け物のサーベルが纏う風が証明している。


いや、むしろその風は荒々しさをましているかもしれない。


「…これはまずいな……。」


霧間は冷や汗をかきながら呟いた。

それもそのはず、今の彼には、『何もできないから』だ。


逃げるにしろ、副作用の影響で走ることはできない。

歩くにしろ、化け物に追い付かれてしまうだろう。


ならば、もう一度魔力を宿せば、と思うだろうが、それは彼の体をかなり危険な状態に陥れることとなる。


疲れきった脳を無理に活性化させることは、瀕死の生物にとどめをさす、ということに等しい。


そう、『死』を意味するのだ。


実際に霧間は試したことはないが、第六感とやらが、彼に警告をするのである。

その警告はもしかすると、姿形知らぬ契約相手なのかもしれないが。


霧間がどうしようかと立ちすくむ間に、化け物はすぐ近くまで足を進めていた。


迫りくる『死』に、霧間は激しく後悔の念を抱いていた。


何故あのときにもう一度拳を打ち込まなかったのか。

何故クリーチェストが消滅するのを目で確認してから魔力を解かなかったのか。


いろんな思いが彼に押し寄せたが、化け物がとうとう目の前に来ると、それらの感情は一気に恐怖へと染まった。


霧間は、自分らしくない、とわかっていながらも、足の震えを抑えることができない。


生きたい。


霧間麻人の人間の心がそう叫んでいた。


しかし、そんな彼の思いもむなしく、化け物はサーベルを自らの頭の上に掲げた。


霧間の体は知っている。

あのサーベルは、もうすぐ自分の体を喰らうことを。

そして、二度と動くことはなくなることを。


「…ちくしょう………!」


霧間はそう吐き捨て、そして化け物を強く睨んだ。


殺した相手の顔を忘れさせないため、自分を死の淵まで追い詰めた生物を脳裏に刻みこむため。


そんな霧間麻人の意図が化け物に伝わったかはわからないが、化け物はもう一度咆哮を上げ、そして。


霧間の頭めがけてサーベルを叩きつけようと腕を振った。


怒りに満ちたようなその太刀筋は、霧間の頭をとらえようと風を切る。


が、


―――死んだ…な………。


霧間がそう思った次の瞬間、彼の目の前に、マンホールほどの太さをした一筋の閃光が駆け抜けた。


その閃光は化け物の上半身を跡形もなく消し飛ばし、そして後ろの特殊なコンクリートでできた壁に綺麗な風穴をあけた。


未だ残る閃光の余韻の中、霧間の背後から少女の声がした。


「全く、アンタは何をやってるのよ!私が来なきゃ殺されちゃってたのよ!?わかる!?」


霧間はこの少しきつい口調の主を知っていた。


「…わりぃな深月。本当に助かったよ。」

霧間は振り向き、安堵した声で深月という少女に礼を言った。


霧間麻人に深月と呼ばれる少女、本名、楠原(クスハラ) 深月(ミヅキ)は、榊山高校に通う二年生であり、学年で第2位ほどの実力をもつ。


赤茶色の腰辺りまであるツインテールと、何よりも少しあどけなさの残る凛として可愛らしい顔立ちがチャームポイント。

霧間の隣の家に住んでいて、そして何より、


霧間麻人の幼なじみだ。



そんなのんきなことを言った霧間に対して、楠原はズイズイと距離を詰めて彼に言葉を放つ。


「わりぃな?はあ!?それだけで片づけないでよ!私がどれだけ心配したと思ってるの!?いつまでたっても明かりの灯らない隣の部屋を見つめて、私がどんな心境だったか!アンタに解る!?」


そんな彼女に霧間麻人は圧されながら答えた。


「あぁ、本当に悪かった…。言い訳を帰ってから聞いてくれるとありがたい…。」


それを聞いた楠原は、フンッと鼻を鳴らし、言った。


「ったく、しょうがなく聞いてあげるわよ、しょうがなくね!…別に心配してた訳じゃないけど、何も言われなかったらイライラするの!わかる!?それに…。」


―――アンタが突然死んでいなくなっちゃったら、私、泣いちゃうじゃない。


そう言いかけたが、楠原はその言葉を飲み込んだ。


「…それに?」


霧間はやはり気になるのか、俯く楠原深月に尋ねた。


楠原は頬を赤くして、強めの口調で答える。


「細かいとこは気にしないの!男でしょ!?それよりさっさと帰るわよ!」


―――ジェンダー・ヴァイアス(性差別)だ…。


霧間麻人はそう言おうとしたが、反論が飛びそうだったのでその想いを心にしまい、一足先に家路についた楠原深月の後を追った。



背後では失神し、倒れる男達と、血まみれの男の亡骸、そしてもう何かわからなくなったクリーチェストの残骸が残った。


小説の閲覧ありがとうございます、黒崎 千叉です。


梅雨は来週あたりには終わるそうですね、ありがたい限りです。


皆さんは雨を好みますか?



自分はたまに降る雨は嫌いじゃないんですが、こうもザーザー降られるとイラッとしますね。




はい。





やっと出せました。



主人公の幼なじみの 深月ちゃんです。


性格は…察してください(笑)


まあそれを解るように本編で書くのが実力なんですが…。



ツインテールって点においては



完全に自分の好み



ですね。




可愛くないですか?

いや、可愛いでしょ。



似合えば の話ですが(笑)



彼女については本編でいろいろ明らかになるのでお楽しみに。





はい、夜も遅いのでここらへんで終わらせていただきます。




これからも、茜空と超能力シャ をよろしくお願いします。



それでは良い日々を。




黒崎千叉


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