幸せな時間、笑み、いつまで…
少女の暗き過去と未来に光を
四人は実戦棟のすぐ近くにある食堂に来ていた。
授業の後、一汗をかいた霧間と楠原のお腹はまさに何か食べ物を求めるかのように泣いている。
しかし、
「…当分食えそうにねぇな。」
霧間が呟いたように、他の学生が多すぎて順番が回ってきそうにないのだ。
普段なら待つことができるだろうが、今の二人にとってレジにいる人すら見ることのできないほどの人だかりは、さすがに苦痛だった。
「お腹空いた…。」
「あぁ、俺もだ…。」
現実逃避するかのように俯く霧間と楠原。
目を背けたところで空腹からは逃げられはしないが、こうでもしないとやっていけないのだろう。
そんな二人を見かねた岩國浩也が言った。
「そんなに腹減ってるなら先に座ってろよ。どうせカレーとかでいいんだろ?」
そんな岩國をまるで神様でも見るかのように眺める霧間麻人。
「よろしくお願いします。」
彼はぺこりと礼儀正しく頭を下げ、空いている席へとむかった。
楠原はそれによたよたとついていく。
列には彼ら二人ほどお腹を空かせていない岩國、そして藍川が残った。
それほど大きな事態ではなかったが、実戦棟で楠原の質問を受けてから藍川の様子はおかしかった。
どこか元気がなく、そして何かに怯えているようにもとれるだろう。
当然それに気づかないほど、岩國も鈍感ではない。
「なあ藍川ぁ。」
「は、はい!何ですか!?」
「どうしたんだ?暗い顔して…。」
「え…と、あの…その……。」
明らかに動揺する藍川。
しかし対称に、岩國は笑って言った。
「深月ちゃんのことは気にするなって!彼女も悪気があって言ってるんじゃないし!」
「え…あ、あ…。」
考えていることを当てられ、心を読まれるのではないかなどと思いながら、藍川は再び動揺を見せる。
そんな彼女の頭を、岩國は軽く撫でた。
彼の大きな手のひらが、小さな藍川澪美の頭に被さる。
しばらくして安心したのか、藍川は落ち着きを取り戻した。
そして自分の頭に手を置く金髪の少年を見つめる。
その少年、岩國浩也はもう一度微笑み、そして、
「………なっ?」
そう彼女に言った。
日本語の文法から考えて、主語もなにも確立されていない言葉だったが、藍川は笑顔を取り戻した。
「…そうですよね!深く考えても仕方ありません!さっ!早くカレー買いますよ!」
「あぁ、そうだな!」
いつもの藍川澪美に戻ったことに、岩國は安心の笑みを浮かべた。
…笑顔が戻らなかったらどうしようか、などと考えていたからなおさらだろう。
「さあ!行きましょう!」
そして岩國の手をひいて駆け出す藍川。
が、
「キャッ!?」
人の多い行列で足を回した彼女は、あっけなく目の前の人にぶつかり、そして転けそうになったところを岩國に助けられた。
「まったく…これだからドジッ娘は…。」
「うぅ…。」
藍川は彼を目に涙を溜めながら上目遣いで見る。
いつも通りになったのはいいがこれがあるんだな、と思った岩國だった。
しかし心のどこかでは、やっぱりこんな彼女を見ていたいと思う彼も確かにいた。
学生のにぎわうテーブルで、楠原深月はいまだに難しい顔をしていた。
藍川の答えを聞けなかったことが、そして彼女自信が確かに見た瞳の奥の光が気になっていることがその原因だ。
「深月…。」
「………」
霧間の言葉にも無言の楠原。
言葉を発しないどころか、視線すら合わせようとしない。
「おーい!」
「………」
楠原はどうしても返事をしない。
空腹で元気がないのは百も承知なのだが、今彼女がなんのリアクションをしない理由は他にある。
霧間は少し意地になっていた。
今なら、あのハイキックを喰らっても構わないから、どうにかしていつもの彼女に戻ってほしい、という思いすら生まれてきているだろう。
―――そうだ。
その思いが、霧間にアイデアを与えた。
そして霧間は、それを実行すべく立ち上がる。
どうせ無視されるのだから、と、彼は静かに、隠密に行動することはしなかった。
そして、楠原の後ろに立つ。
刹那、霧間は彼女の髪をとめているゴムを引っ張り、ツインテールを崩壊させた。
「なっ……!!」
さすがにこれには驚き、声をあげる楠原。
しかし霧間の攻撃は止まらない。
「深月は顔可愛いんだからさぁ。髪形変えてみたら?」
そう言って楠原の髪をいじくる。
彼女はわたふたしながらも、これと言った抵抗もしない。
そして数分後、
「よし!できた!」
霧間が勝利の声をあげる。
そして手鏡を楠原に手渡した。
「ちょ、ちょっとアンタ何してるのよ!」
「いいから見てみろって!」
もう、と言いながらも、楠原は恐る恐る鏡を覗きこむ。
そこにはいつものツインテールとは違い、横髪だけを少し上のところでくくったツインテールの楠原深月がいた。
「ちょ…これ……。」
「どうだ?可愛いだろ!?」
「バカ!」
顔を真っ赤にさせ、楠原はトイレの方に駆けていった。
霧間はほっと一息つき、椅子に腰かける。
そして、天井を見上げた。
楠原には気にするなと言ったが、彼自信も少し気になっていた。
藍川はいったい…と、考えていると、霧間は永久に出られない迷路に入っていく感覚に襲われる。
そして止まらない負の連鎖を、彼は肌で、心で感じていた。
そんなとき、
「待たせたな、麻人。」
「お待たせぇ!」
カレーをそれぞれ二つずつ持ち、岩國、藍川が彼のもとにきた。
そして二人は向かいの席に座る。
「あれ?深月ちゃんは?」
「トイレ行ったぞ。走ってな。」
「おまえ、何かしたのか?」
「うーん、ちょっとね。」
霧間の言葉に二人が首を傾げると、楠原が戻ってきた。
髪形は霧間にいじられた状態から変化していない。
変わっている点と言えば、先ほどはゴムでくくってあったところに天使の羽の形をした髪止めがされているところだ。
「なんだよ、気に入ってんじゃねぇか。」
「うるさい!戻すのがめんどくさかっただけよ!」
「じゃあ何でそんな髪止めしてるんだ?」
うっ、と言葉が詰まる楠原。
そして霧間から目線をそらせた結果、藍川と目があってしまった。
思わず息を飲んだ岩國。
しかし藍川はいつもの笑顔で、
「可愛いよ?深月ちゃん!」
そう言った。
楠原は、かーっと顔が赤くなる。
「ほら!その髪形、藍川さんにも認められたぞ!これからそれで登校しろ!」
霧間はニカッと笑って言う。
そして藍川から目をそらせた楠原は、そんな彼と目があう。
「だ……そ、その……。」
ちゃんと言葉を発することができていない楠原。
そんな彼女に霧間がとどめを刺す。
「深月、可愛いぞ?」
それを言われた楠原は、
「みんなばかぁぁ!!」
そう言って再びトイレに駆けていった。
「深月ちゃん、お腹空いてるんじゃなかったのか?」
岩國が霧間に問う。
「ああなったアイツを止められるのはねぇよ。さあ食おうぜ。」
霧間はそう言ってカレーを食べ始める。
続いて二人も食べ始めた。
幸せな笑顔が戻った。
きっとこれからもずっと続くだろう、と、霧間と岩國はこのとき思っていた。
これから起こる悲しみの未来もわかるはずもなく。
小説の閲覧ありがとうございます、黒崎千叉です。
更新できなくてすみません。
少し多忙な日々が続いておりまして…。
はい、
今現在、横浜におります。
オープンキャンパスの都合で来てるのです。
いやぁ…
暑いですね。
昼間は東京行ってきました。
御茶ノ水と秋葉原を行ったりきたりしてました。
いやぁ…東京、いいですね。
それでは
これからも 茜空と超能力シャ をよろしくお願いします。
あっ、最後になりましたが。
お気に入り登録をしてくださっている方々、本当にありがとうございます。
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それではみなさん、よい日々を。