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天使の力を持つ少女の疑問


少女の暗き過去と未来に光を

それぞれの歩く速度は違っているものの、四人は朝に霧間と楠原が横を通った『実戦棟』と呼ばれる建物にむかっていた。

実戦棟は三階建てとなっており、かなり大きい。


今回彼らが使うのは、『コロシアム』という二階にあたる場所だ。


コロシアムには数台の装置があり、それを使うことで異世界にとんで戦闘をすることができる。

そしてその中での戦闘では、戦闘不能となるダメージを受けた時点で強制的に現実世界へと排出される仕組みになっている。


なお、そのときに受けた傷、及び疲労などについては装置によってリセットされる。


故に死んだりすることはなく、疲れも溜まらないので霧間にとってかなりありがたい場所だ。

コロシアムは学生の能力の発展を促進させる、絶好の施設といえるだろう。



霧間と楠原が実戦棟に到着したのは、教室を出てから五分とかからなかった。


建物に入ると一階で楠原はなれた手つきで受付を済ませる。


そしてエレベーターを使って二人は二階に上がった。


コロシアムと書かれたドアの前で霧間が口を開く。


「はぁ…なんで俺がAランクの女王と戦わなくちゃいけないんだよ…。」


「そう言ってるわりには案外やる気まんまんなんじゃない?」


楠原は霧間の足下を見て言った。

そこにはまるで体操をするように足首が回っていた。


「…無意識だ。」


「無意識にそこまで戦闘体制なら上等よ。」


ため息をつく霧間を後目に、楠原はドアを開けた。


ドアの先、コロシアムには透明の膜でつくられた小型のドームのようなものが数十個並んでいる。

これが戦闘の手助けをする装置だ。

この中に入ることで異世界にとぶことができる。


授業が終わってすぐというだけありまだ誰も使用していなかったため、二人は鞄をロッカーに突っ込んでその中に入った。


中には白い水晶玉がふわふわと浮いている。

厳密には、これに触れることで異世界に移ることができるのだ。


「久々だからわくわくするね、麻人!」


「…お手柔らかに頼むよ。」


いつもと違って上機嫌だな…、などと霧間が思った次の瞬間、二人は乗っているジェットコースターが勢いよくレールを駆けるときのような感覚にさらされ、体が浮いているように感じた。



そして数秒後、二人は荒地にいた。


しかし、ただの荒地ではない。

岩の間から顔を覗かせる植物は、長いつるを空中に漂わせ、虫のようなものを補食している。


そして、その捕まっている虫のようなものも現実世界ではまずお目にかかれない、体長50センチはあろうかというほどのトンボだ。


ただ、現実世界のトンボはこんなに鋭い牙をもっていることはないだろう。


霧間と楠原はそんな光景を見慣れたように眺めていた。


「じゃあ…遠慮なくいくわよ!?」


視線を霧間に絞った楠原深月がそう叫んだ。


「今日は負けねぇからな?」


普段とは別人のように答える霧間。

彼の目は闘争心に溢れていた。


「…良い答え、嬉しいわ!」


楠原はそう言って歯を見せて笑うと、手を天に掲げた。


刹那、眩い閃光が彼女の手のひらに訪れる。

霧間は見慣れたためか、瞬きひとつしない。


そして光が消えたあと、彼女の手には金色のステッキが握られていた。


先端には赤く輝く丸い玉がついており、そこから放たれる魔力が周りの景色をぼやけさせている。


「『闇雲裁きの杖』か…。いきなり力みすぎてるんじゃないのか?」


霧間は軽く苦笑いをしながら楠原に言った。


『闇雲裁きの杖』は、楠原深月が契約しているクリーチェスト『罪裁きの天使』の所持品だ。


そして罪裁きの天使は、異世界の天界と呼ばれる場所で、呼んで字のごとく、異世界で罪を犯したモノを裁いている天使だ。


罪裁きの天使にもたくさんの種類がいるが、楠原深月が契約している相手は現実世界で言うところの死刑を担当している天使。


その魔力は天界では、『神』と呼ばれるモノの次に大きいとされ、今楠原が手にしているステッキもかなり魔力の強い物なのだ。



「こんくらいしないと…つまんないでしょ!?」


楠原はそう言い放つと同時に、闇雲裁きの杖を霧間に向けた。


そこには複雑な紋章が白で描かれてゆく。

そして紋章が完成したとき、それは白く輝きを放った。

執行の準備完了、と告げるように。


それを目で確認した楠原は叫んだ。


「くらいなさい!『裁きの光槍』!」


次の瞬間、紋章が金色に輝いた。


同時に激しい音を轟かせながら、昨日の風の戦士を消滅させた光のレーザーが一直線に荒野を駆け抜ける。


周りの塵などを消し飛ばしながら、それは一閃の直線を描いく。


そしてそれが直撃した岩山は、少しばかりの瓦礫を残して跡形もなく消し飛ばされた。


その数秒後、残響を残して閃光は姿を消す。

未だに震える空気が、彼女の能力の強さを物語っている。


しかし、その光の軌跡に霧間麻人の姿はなかった。


「いきなりそれを放つとは…。さすが最高ランク、やってくれるね。」


楠原は背後から聞こえた声の主と向かい合う。

その主、霧間麻人は体を薄い白で光らせていた。


「成長したじゃない。最初の頃はあれ一発でバタンキューだったのに。」


「いつまでも一筋縄じゃいかないさ。…さあ、反撃といこうか!」


楠原に言い返した霧間は地面を蹴り、猛スピードで彼女に接近する。


「おらぁ!」


拳を握りしめ、霧間は楠原に殴りかかった。

普通なら、女の子に手を出すな、なんていう言葉が飛ぶだろうが、彼らの過ごす日常ではそのような言葉は存在しなくなっている。


なぜなら、そんなことを言っていては殺されるからだ。



霧間が殴りかかってきているのに、楠原にまったく焦ったりする様子は見られない。

そして彼女はステッキを光らせて呟いた。


「『十字架の拘束』」


刹那、霧間を取り囲むように表れた光を放つ十字架。


「危なっ…!」


それを見た彼はとっさに空中に跳んだ。


勿論、並の跳躍ではない。

地上から8メートルほどの高さまで、霧間は到達した。


楠原が放った『十字架の拘束』は、闇雲裁きの杖の能力の一つで、取り囲んだ対象の自由を奪うことができる。

ただ、取り囲んでから少し時間がかかるので、今回のように霧間に容易く回避されてしまう。


しかし、これは楠原深月の策だった。


「空中で避けることができるかしら!?『裁きの光槍』!」


霧間に向けられたステッキの先端に描かれた紋章が輝き、そして彼に向けて容赦なく突き刺さる光のレーザー。

それは霧間が前につきだした両手に激しくぶつかる。


閃光と彼の手から発せられている魔力が激しい音をたて、互いに反発しあう。

そこからは美しい光の破片が散っているのだが、二人にそんなものを見ている暇はない。


「らあぁぁぁぁぁぁ!!」


霧間が手に魔力を集中させた。


押している。

わずかだが、彼の掌は閃光を押し返している。


そして霧間の魔力が最大になったとき、彼は閃光の軌道をそらすことに成功した。

霧間を苦しめた閃光は、遥か彼方へと姿を消す。


「どうだ!今度こそ俺の反撃…」


「ゴメンね?やっぱり負けるのは悔しいの。『裁きの鉄鎚』!」


元気な霧間の言葉を遮って楠原がそう唱えると、先ほどの二つとはまた違う紋章が輝き、霧間の頭上には光を放つ巨大な鎚が出現した。


「おいおい、これはさすがにキツいぜ…。」


刹那、またもや彼の言葉を遮って、鎚が重力に従って垂直に落下した。



気がつけば、霧間は現実世界にいた。

彼の目の前にはドームがあり、数人の学生がちらちらと彼を見ている。


「ははっ、やっぱ深月ちゃんには勝てないか!」


霧間は背後からした聞きなれた声に反応し振り返った。


そこにはロッカーの隣にあるベンチに堂々と座り、ツンツンの金髪のもと笑う岩國浩也、そしてその隣で軽い会釈をし、ちょこんとすわる水色の髪の藍川澪美の姿があった。


「ま、まぁ学年トップクラスの実力ですから…。」


仕方ないと言いたげに藍川は呟いた。

それでも霧間は悔しいのか、不満そうな顔をしている。


「そのトップクラスの攻撃を跳ね返したんだからすごいんじゃない?」


眉間にシワを寄せる霧間が振り向くと、そこには赤茶色のツインテール、楠原深月がいた。


「あんなの、『融合』してないんだからトップクラスの実力とは言えねぇだろ。」


彼はそう呟いた。


たしかに、楠原が使ったのは『転送』。契約相手が強いためそれだけでもかなり強力だが、それはDランクの力でしかない。


「まぁそれもそうね…。試してみる?」


楠原がニヤッと笑って言う。


「俺はさっき戦ったばっかだからパスだ。浩也、頼んだ。」


「俺かよ!勝てるわけねぇだろ!」


岩國浩也はいきなり話を振られて驚いた。

彼の言った通り、楠原に勝つのは不可能だろう。


本気の彼女に勝つのは、学年一位、二位を争うモノたちくらいではないだろうか。


「じゃあ…」


霧間と岩國の視線は水色のショートヘアーに移る。


「ふぇっ!?嫌ですよ!怖いです!!」


首や手、あらゆるところをブンブン振って拒否する藍川。


霧間と岩國からすれば、その姿は可愛らしい。

そう、そうとしか思わないだろう。

涙目に上目遣い。自然と笑みをこぼす男二人。



しかし、このとき楠原深月は一人、強烈な殺気を感じていた。


それは、藍川澪美の涙の奥、そこに潜む何かから。


そして、楠原はその何かを彼女自信の目で確認した。


―――青い…球体?


彼女が見たのは文字通り、青い玉だった。

それはじっとして行儀よくしているわけではなく、ユラユラと動いている。


―――たしかどこかで…。


ふと疑問を感じた楠原は、藍川に話しかける。


「ねぇ澪美ちゃん…。」


「な、なんですか?」


「あなたの契約しているクリーチェストって、何なの?」


それを聞いたとき、一瞬だけ藍川の顔は凍りついた。

それと同時に姿を消した青い玉。


藍川はすぐにいつものような笑みを浮かべながら楠原に返答する。


「た、たいした相手じゃないですよ?だ、だって私、Gランクですし!」


「じゃあ…何であなたはGランクなの?」


藍川に対し、もう一度質問した楠原。


しかし少女二人の間に霧間が入り、会話を中断させた。


「どうしたんだよ深月…。いきなりそんなこと言って。らしくないぞ?」


俯く彼女。

霧間からは背後の藍川の表情が掴めないが、きっと深月と同じようになってるだろな、と彼は思う。


「いや、別に…気になっただけよ。」


そう言うと楠原はコロシアムから出ていった。

おそらく食堂に向かったのだろう。


「さっ!こんな暗い空気はゴメンだ!誰にだって疑問の一つや二つ、言いたくないことも同じくらいあるさ、気にすんな!さあ飯食いに行こうぜ!」


岩國は藍川を元気づけようといつもより明るい口調でそう言い、コロシアムを出ていった。


霧間もそんな岩國のあとを追うように出ようとする。


「あ、麻人くん!」


が、藍川に呼び止められて顔だけ後ろをむく。


「さっきは…その、ありがとう。」


モジモジしながらそう言った藍川。


「いいっていいって!ほら!あんまり二人を待たせちゃ悪いから行こうぜ!」


そう言って霧間は藍川の手をとって、コロシアムをあとにした。





茜空の閲覧ありがとうございます、黒崎千叉です。



少し事情がありまして更新がしばらくストップしていました。



これからもこのようなことがあるかと思いますがご了承ください。



はい、



今日は深月ちゃんのプロフィールでしたね。



3サイズはご想像にお任せします。





楠原 深月


学年トップクラスのAランク。

伸長165センチ程度。

凜とした感じだが、どこかあどけなさの残る可愛らしい顔立ち。

髪は赤茶色で横をツインテールにしている。

怒ったとき、語尾に「わかる!?」をつける。

キレた霧間麻人に対してのみ、こめかみ直撃のハイキックを繰り出す。

その際はツインテールがユラユラと揺れる(魔力?)。


契約相手は罪裁きの天使。

主に、闇雲裁きの杖を転送してもらう。


戦闘中以外は素直じゃなく、すぐに顔を赤らめたり思ってもないことを言う。


霧間麻人の幼なじみ。





それではここらへんで。




これからも 茜空と超能力シャ をよろしくお願いします。



黒崎千叉

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