心理戦にもならない二人
あとがきに1遍あります。
興味のある方はぜひ。
「ねえ? 来月の慎太郎への誕生日プレゼント、何がいいと思う?」
いつものように暇だからと疾風の部屋に押し掛けて、二人でゴロゴロしていた。読んでいた女性雑誌から顔を上げて、私は疾風に声を掛ける。
当然、チラチラとスカートの裾が見えるように意識してポジション取りをするのだが、疾風は全くこちらを見ない。
──そんな雑誌いつでも見えるよね? 雑誌見るふりして、太ももとかお尻とかパンツ見るものじゃないの?
普段露骨にこちらに好意振り撒いてる癖に私の勘違いだというの?
疾風の癖に!!
「何でもいいんじゃないかな?」
漫画を読みながら僕は答える。
はあ、すでに他の男の彼女。いや、親友の彼女だ──女として見るなんて失礼なことはできない。
「そんな事言わずに真剣に考えてよ」
私は可愛く口を尖らせて拗ねたふりをする。
──これで、どうかしら?
「──」
真琴の彼氏の一ノ瀬慎太郎、僕、倉敷疾風の三人は小学校時代からの幼馴染だ。 今更、幼馴染の趣味を知らないとか言われても困る。どれだけ幼馴染に興味なかったんだろ?
そもそもその前に僕の誕生日があるんだけどスルーされるの?
「慎太郎と付き合い出して初めての誕生日だから、しっかりとした物を贈りたいのよ」
少し戸惑ってる演技をしてみせる。
ここでやきもち焼かないならどこで焼くの? 男でしょ? 私のこと、好きって言ったくせに──
「はあ、そもそも真琴が慎太郎と付き合うとは思っていなかったからね。今も実感はないんだ」
昔から三人で集まって誕生会していたのに、改めてしっかりした物と言われても困る。今まで適当な物を送っていたって告白されても困る。
僕が貰っていたプレゼントも適当に選んだ物だったのだろうか? 僕は大事に保管してるのに。
つい溜息が出てしまうのも仕方ない。
僕は小学校と中学校と真琴に告白してフラれている。
『幼馴染に恋愛感情抱いた事ないの』と。
それが高校生になった途端。先週、慎太郎から告白されると承諾しやがった。
顔か? やっぱり顔なのか? 確かに慎太郎はイケメンでスポーツ万能だ。言ってて悲しくなって来た。
「あら? 慎太郎取られて焼いてるの? それとも私かな?」
揶揄うような口調で、自分のほっぺたを指差してみせる。
疾風の口から溜息が出た。
──やった! 勝った!
「はいはい、ご馳走様。彼氏なんだから直接、欲しい物聞けばいいだろ?」
なぜ好きな女の子の口から他の男の惚気を聞かされないといけないのだろう? いや、好きだった子だ。もう、諦めたんだ。諦めないといけない──
「ええ、恥ずかしいよ」
疾風から他人行儀な返事が返ってきた。
いつもと様子が違うのは動揺しているからに違いない。
このチャンス、逃がさないからね。
「恥ずかしい?」
この間まで、中学までは僕と慎太郎の前で平気でスカートに手を突っ込んでボリボリと腹を掻いていた癖に。
恥ずかしいという感情があったんだ?
「何よ? 乙女が恥じらったら悪いの?」
頬を膨らませて、可愛らしさをアピールする。せっかくのチャンスよ。
恥じらいがあるからこんなにもどかしい思いをしてるんだから。
「自分で乙女と言うのも図々しいよな」
頬を膨らます真琴が可愛い。心臓が痛い。
いつの間にか乙女になったんだな──願わくば、もう少しだけそばにいたい。
「そんな女相手に告白して来る物好きもいるのよ?」
拗ねたように口を尖らせて、そっぽを向く。
乙女になる前の私に告白した疾風の告白はノーカンだからね。黒歴史として封印してる。
「──」
真琴の発言に一瞬心臓が止まる。
ギク! 暗に僕の事を言ってるのか?
「きっと慎太郎からの告白が無かったら誰とも付き合わないままだったと思うの」
人差し指で反対の手のひらにのの字をかく。
──間が持たない。
もう一度、疾風が告白してくれていたら──
「──」
すっかりと乙女の姿を見せる真琴にショックを受ける。
真琴の中では僕がした二度の告白が無かった事になっているようだ。少し複雑な気持ちになる。
「案が出せないなら身体で償って貰うわよ。明日暇でしょう? ショッピングに行くから付き合いなさい! 勿論、嫌とは言わせないけど」
両手を腰に当てて、私は疾風に宣言する。
疾風は命令系には弱いのよね。拒否は認めないわ。
主役がいなければ始まらないもの。多少強引でも引っ張り出すわよ。
「わかったよ」
小さい頃からのお姉さんムーブ。そこが可愛くて惚れてるわけだけど。
腰に手を当てて僕を睨みつける真琴。その鼻の穴がピクピクしている。何か良からぬ事を企んでる時に出る癖だ。
僕は雑誌に視線を戻すと素気なく言った。
***
翌日、二人は家から三駅隣の繁華街にいた。
「身体で、ってモデルしろって事か!」
真琴の企みが判明した。
僕と慎太郎は背格好がそこそこ似ている。筋肉量まで似ているかと言われると否定するしかないが。
「当たり前でしょう? 荷物持ちは言わなくてもさせるつもりだったし」
疾風へのプレゼント選びだもの。
本人で確認しなくてどうしろって言うのだろう?
「はいはい、仰せの通りに。で、どの店から見て回るの?どうせこれだ!ってのは決めてないんだろ?」
行き当たりばったり、勘、インスピレーション第一で行動する野生の女、それが真琴という女だ。
一緒にいられるから、不満はないけどさ。
「服かそれに合う小物関係が良いかな、って考えてるんだけど。どれが良いかは現物見て決めたかったから」
流石はよく理解しているわね。なのに告白待ちしている事に気付かないのはなぜなの?
一緒に選びたかったのに決まってるでしょう。
「直接本人と一緒に回れば良かったのに。恋人とのデートってそういう物じゃないのか?」
僕には恋人がいないからよく分からないけどね。
──これが本当のデートなら、どれだけ良かったことか。
「じゃあ、今日の疾風は慎太郎の代わりね。しっかり代役務めなさいよ」
だから疾風と来てるんじゃないの? 鈍いわね。
代役の代役って、裏の裏で表みたいになってるわね。
思いっきり楽しまなくちゃあ!
***
最初に入ったのは帽子の店だった。その次はサングラス。その次の次はアクセサリー、Tシャツ、靴下、靴……
結局、最初の店のハンティング帽に決まった。
「結局それにしたのか?」
すでに何回試したかわからない。
いい加減回って疲れ果てた──真琴が満足するならそれで良いけど。
「うん。似合うと思って」
眼福、眼福──結構、筋肉質ね。
絶対に似合うわ。だって確認済みだもの。
「そうだな。似合うといいな」
確かに僕には似合っていたが、慎太郎に似合うかと言われれば微妙だった。
そう、僕には似合っていたんだ。
「えへへ」
実際に帽子を被っている姿は格好良かった。いつもの二割増しで格好良い。プレゼントした時の疾風の様子を想像したら頬っぺたがニヤついて止まらなかった。
──驚いてくれるかな?
「さあ、お腹も空いたし飯でも食べるか?」
帽子を被っている姿を想像したのか、真琴が幸せそうにニヤけている。
そんな顔もするんだね。慎太郎のことを考えているのかな──僕のことじゃないんだね
「私、行ってみたい店があるんだ。行こうよ!」
疾風の手を握って私は歩き出した。
へへ、暖かい。
──幸せよ。
「どこにあるんだ?」
『そこには慎太郎と一緒に行けばいい』
喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。
早くも料理を想像しているのか真琴はほっぺたを緩めてニコニコとしている。
幸せそうなら何よりだ。役得という事で、僕は真琴の手を握り返した。
うーん、ちょっと汗っぽいぞ。
──どちらの汗なのか、よくわからなくなっていた。
***
「場違いじゃないか?」
真琴に案内された店は一人で入るのは勇気のいるお洒落な店だった。そもそも半分がカップル客だ。
僕たちはカップルじゃない。
── そう見えるだけだ。
「黙っていれば勝手にカップル認定してくれるわよ。それとも私じゃ不服なの?」
カップルに人気のお店。もちろん私たちもカップルだから堂々と順番待ちの列に並ぶ。
どこからどう見てもカップルでしょう?
──手も繋いでるし。
「滅相もない! 光栄です」
下手な返事したら後で慎太郎に叱られかねない。
──楽しんでるのもバレたらおこられそうだ。
「ここのパンケーキが評判なんだって」
パンケーキと共に疾風が好きなガレットも評判が高い。今週までの苺のガレットは売り切れ御免の人気商品だ。
食べてる時はどんな顔するかしら?
「──」
女子ってなんでパンケーキが好きなんだろう? 僕はガレットの方が好きだ。
……そりゃあ、好きな子と一緒に食べれるならそれだけで満足だけどさ。
二十分ほど並んで席に案内された。
「じゃあ、私は季節のフルーツパンケーキにする。疾風はまた変なの頼むのでしょ?」
ガレット以外は調べてないのよね。どんなのがあったかしら?
……まあ、ガレット以外頼むはずないわ。
「苺のガレット! 今週で終わりだって。ラッキーだった」
本当にラッキーだ。好物に好きな女の子と両方とも揃ってる。ここは天国に違いない。
明日、事故にでも遭うのか?
「やっぱりそれを選ぶのね」
下調べした甲斐があって良かった。ホッとする。
……予想を外すなんてはずかしいじゃない。
「当然だよ」
あれ? 真琴って僕の嗜好知ってたっけ? 興味が無かったはずだけど?
運ばれて来た料理は美味しかった。他の店でも似たようなガレットは食べているけれども、過去で一番と言って良いくらいに美味しかった。
好きな子を見ながら──本当に天国にいるみたいだ。
「ずいぶんと美味しそうに食べるわね。少し分けなさい」
幸せそうな顔で疾風がガレットを食べてる。普通カップルって食べさせ合いっこするものじゃないの?
まだ付き合ってないからそれは我慢する。
──だから疾風とガレットを半分こするのだ。
「──」
僕の許可を待たずに当然の事の様に真琴が僕のガレットに手を出す。
僕のガレットが真琴の口に運ばれて消えていく──僕の。
……真琴の口元ばかり見ている事に気がついた。少し恥ずかしい。
「あら美味しい! 苺との酸味が絶妙だわ」
このあと、いい雰囲気になったら──口づけは苺味。
……きゃっ、恥ずかしいわね。顔が赤くなりそうだわ。
「だろう?」
自分で作ったわけでも無いのに誇らしい気持ちになる。
おいしさにとろけて目が細まってる真琴に目が釘付けだった。
「じゃあ、交換しましょう」
そのまま交換する。恋人同士なら当然よね。
苺味の……きゃっ!
「!?」
返事も待たずに真琴は自分のパンケーキと僕のガレットを取り替えた。
えっ!?
「本当に美味しい!」
はむはむ。
私の疾風から奪い取ったガレットを美味しく味わった。
疾風も嫌がらなかったし、これで恋人確定ね。
「──」
笑顔でガレットを頬張る真琴に僕は何も言えなかった。
そもそも、笑顔がご褒美だ。
***
「おう! デートは順調か?」
真琴がトイレへと席を外している時に慎太郎から電話が掛かって来た。
「何の話だよ?」
慎太郎へのプレゼントを買いに来ている事は内緒のはず。それとも真琴が直接慎太郎に話したのか? それはそれで意味がわからないぞ。
「あれ? 今日は疾風とデートしてるって聞いてたんだけど違ったのか?」
「確認するけど、真琴の話か?」
いまさら、真琴以外の女の子に心移りするようなタイプだと思われてるなら少し残念だ。
執着は捨てたけど、一途なんだよ。
「当たり前だろ? 他に誰がいるんだ」
「真琴の彼氏は慎太郎だろ? 真琴が他の奴とデートしてていいのかよ?」
小学校、中学校と僕が真琴に告白して振られているのは慎太郎も知っている事だ。その上で真琴に告白して彼氏になった奴が何を言っている。
くそ、羨ましすぎる。
「えっ? まだ、きちんと話ししてなかったのかよ。ヤバいな」
「何の話だよ」
意味がわかるように話してほしい。
できたら、もやもやするから巻き込まないでほしい。
「悪い! この話聞かなかった事にしてくれ、もちろん後できちんと説明するからさ。じゃあな!」
それだけ言うと慎太郎は一方的に電話を切った。
「どうしたの?電話?」
珍しいわね。疾風が少し動揺してる感じ。何かあったのかしら?
「ああ、慎太郎から」
トイレから帰って来た真琴が声を掛けてくる。
内容までは言わなくていいだろう。
「慎太郎?」
しまった。思わず血の気が引く。
慎太郎には今日は疾風とデートだと見栄を張っていた。強引に誘い出したけど実質はデートだからおかしくないわよね?
「別にたいした用事じゃなかったよ。暇なら遊びに行こう、って誘いだった」
慎太郎の名前を聞いた真琴の顔色が変わる。内緒でプレゼント買いに来てるのにバレたらサプライズの意味なくなっちゃうもんな。
二人に気まずくなって欲しいわけじゃない。
「そう?それならいいけど」
慎太郎、疾風に変な事吹き込んでないといいけれど。
本人にバレるのが一番まずいわ。
「ああ」
今日の僕は代役だ。ただそれだけ。代役として楽しんでもいいよね? 役得だよ。
慎太郎、許せ。
***
食後の散歩も兼ねて二人でぶらぶらと歩いているうちに港の見える公園まで来ていた。
「小学校以来かな?」
予定通り、最初に疾風から告白された公園。
すべて懐かしいわ。
「うん? 何が」
見覚えがあるような──気がする?
「ここで疾風に告白されたんだよ」
爆弾をぶち込む。疾風、覚悟はいいわね?
最後まで逃がさないの。
「ぶふっ!?」
どおりで何か見覚えのある景色だと思った。小学校の遠足でこの近くに来た時に上がった遠足のテンションのまま、ここで真琴告白したんだった。
真琴もよく覚えていたな?
僕にとっては恥ずかしい記憶だ。
「疾風は忘れちゃったの?」
黒歴史を思い出したのか、疾風が壮絶に咽せる。
覚えてるなら、チャンスはあるよね?
意識してる今がチャンス!
「覚えているよ」
場所までははっきりとは覚えてなかったけど。人生で初めての告白だ。そして、振られた──からこそ、忘れられない思い出だ。
今でもうなされるほどの。
「そして次に告白されたのは中二の時だったわ」
疾風の告白のタイミングが悪くなければ今頃は付き合っていたのかしら?
嫌いではなかったのよ。むしろ、好き寄りだったもの。
「ぶほぉっ!?」
一体今から何が始まるんだ? 慎太郎と仲良く付き合う為に僕との暗黒史を無かった事にするのか?
それは悲しいからやめて欲しい。
「──」
再び疾風が壮絶に咽せる。
動揺してるなら──ここがチャンスよ。
「ははは、そんな事もあったね」
いったい、どうしてこんな話に?
慎太郎との告白との対比?
でも一体何のために?
そもそも、ここに来たのはなぜ?
「今はどうなの?」
自分でも恥ずかしくて顔が赤くなってるのが分かる。
早く気づいてよね。
「今も真琴は大好きな幼馴染で、慎太郎の彼女だ」
だから、諦めた。諦めたはず……
真琴の頬が少し赤い気がするけれども自惚れる程、自意識過剰じゃないぞ。
せめて幼馴染ではいたいんだ。
「そっか……じゃあ、私も疾風の事が好きだって言ったらどうする?」
完全にゆでだこになってるはず。でもそんなことに構ってる余裕なんてない。ここで畳み込むのよ。
恥ずかしがってる場合じゃないもの。
「嬉しいよ。単純に嬉しい。でも真琴は慎太郎の彼女だ」
そう言って見つめた真琴の顔は、顔は、鼻の穴がピクピクとしている? なんだ?
何かがおかしい……
「そう?」
やったー!両思いは確定。あとは告白してくれれば。
あれ?ほっぺたのニヤけが止まらない。まだ終わったわけじゃないから気が早い。あと少し踏ん張れ!
好きとは言わせたわ。
「──」
気のせいか真琴の顔がニヤけている。
嬉しいのか? なぜ……
「もし、もしもの話だけど」
上目遣いでアピールする。大好きよ。
気づいてよ……
「──」
一息ついた真琴が決心した様に言う。
何を言われても受け止めなければ──いや、受け止める。
それが振られてもそばにいてもいい理由だから。
「慎太郎からの告白も交際も全部嘘だったとしたらどうする?」
やっと、言えたわ。ええ、全部嘘よ。騙してごめんなさいね。
だから、もう一度告白して欲しいの……
「嘘? 全部嘘?」
ふぇ? いきなり脱力感に襲われた。一人なら座り込んでたよ、絶対に。
でもなぜ?
「うん、全部嘘だったら」
全部バラした。あとは疾風の気持ちしだい。お願い──この乙女心わかって。
「嘘だったら……」
どうするんだ? もう一度真琴に告白するのか?そして断られたらキッパリとこの恋心を諦め切れるのか?
どうなんだ?
「もう一度告白してくれるの?」
お願い。もう一度好きだって言って。世界で一番好きだって──言って欲しいの。
「もう一度告白して振られて、そしたら僕はどうしたらいいんだろう?」
振られるのは別にいいんだ。その後、振ったはずの真琴が気をつかってる姿を見るのが辛いんだ──僕なんかのために。
「そんな事考えてたの?」
悩むなんて疾風らしくないわよ。
めげずに何度もチャレンジする姿が好きなのよ。
「ああ」
未練がましくてもそばにいたい──いていいのか?
「慎太郎と付き合う事になっても普段と変わらずに部屋に上げてくれてたのに?」
あまりの変わりなさに呆気に取られていたのに?
もっとあからさまな変化があれば、きっともっと早く素直になれたのに。
「ああ」
自分でも未練がましいとはわかってるんだ。でも──今の距離すら失いたくなかったんだ。
「私が他の男の子と付き合うのも、疾風が私に告白して振られるのも同じじゃない? 告白してくれないから、私に興味無くなったのかと思ってたわよ」
少しは興味ありそうな視線向けてくれてもいいのに。スカートを履くようになったのは誰のためだと思ってるのよ。まだ恥ずかしいんだから。
疾風の馬鹿……
「そんなはずないだろ」
突然の思い掛けない展開に思考停止している僕は真琴の質問に深く考えずに反射的に答えていく。
もう、本音を隠す余裕なんてなかった。
「じゃあ、今度は私から言うね」
もう、焦ったい。この流れで言ってくれないのなら待つだけ無駄のようだ。仕方ない。
私の恋心を受け取って……
「へっ?」
見上げた真琴の顔は真っ赤だった。
いったい何が告白される?
「私は疾風の事が好きです。付き合ってください」
スカートを履いて生足見せるとの、どちらが恥ずかしいかといったら──同じくらいだけど。
疾風を逃すわけにはいかない。
「えっ? 僕、二回も告白を断られてるけど」
三度目の正直とはいうけど──えっ?
真琴が僕を好き……好き!?
「あの時はまだ意識していなかったけど。その後で疾風の事が好きだって気付いたの。ずっと疾風からの好意は感じてたから、三回目に告白されたらOKしようと待っていたけどなかなか言ってくれないし、こっちから仕掛けちゃった」
うん。黒歴史として無かったことになってるもん。
私からの告白も断られたら黒歴史に入れて封印してしまおう──立ち直れるかな……
***
「ねぇ、母さん」
唐揚げを作ってる最中に娘、琴美が声を掛けて来た。
「耳にタコが出来るくらい聞いてるけど、三度目の告白でお情けで付き合ってあげて、足に縋りついてプロポーズされたから結婚してあげたって言ってるけど本当なの?」
「嘘じゃないわよ」
間違いなく本当の事だ。嘘は言ってない。
「娘の私から見ても母さんが父さんにベタ惚れなのがよく分かるんだけど」
「そんな事はないわよ」
これでも娘の前だからセーブしてるもの。人前で露骨に父さんへの好意が溢れ出てるわけがない。
「今だって作ってるの唐揚げでしょ?」
「そうよ」
「父さんの大好物の」
「たまたまよ。そんなに気になるなら直接父さんに聞きなさい」
そう、今日はたまたま唐揚げになっただけ。毎日、父さんの好物しか作ってないもの。
琴美がバタバタと足音を立ててリビングに去って行った。騒がしい子ね。誰に似たんだか。
***
琴美がバタバタと足音を立ててリビングにやって来る。
「ねえ、父さん。どうして母さんに三度も告白して、足に縋りついてプロポーズしたの?もっと他に良さそうな人いたんじゃないの?」
足に縋りついて、って部分は逆だけどわざわざ訂正する必要もない。
「父さんが母さんの事を好きだからだよ」
キッチンから聞こえる鼻歌と唐揚げの香り。
今日も平和だ。
Fin.
数年後のとある三人。
「えへへ、三ヶ月だって」
何か少し照れるわ。いえ、二人の愛の結晶だもの。胸を張って報告するわよ。
「ここに赤ちゃんがいるの?」
二人の娘の琴美が真琴のお腹に手を当てた。
「そうよ」
疾風との子ども。二人目の子ども。
「琴美もおねえちゃんになるんだよ」
すっかり琴美も大きくなったなぁ。
「えへへ、おねいちゃんになる」
満面の笑みで、というより顔をくちゃくちゃにして、琴美が喜びを表現している。
「いつまでも甘えてばかりじゃダメよ。お姉ちゃんなんだから」
本当に子どもが大きくなるのは早いわね。この間まで赤ん坊だと思っていたのに。
「わかってるもん! おねえちゃんだからね。どっちかな? あっ!」
当てていた手を離すと、琴美が真琴のお腹に顔を寄せ、そのまま耳を当てた。
「パパに似た男の子だといいわね」
次は男の子がいいわ。疾風似の。
「そうだね。ママに似た可愛い琴美みたいな女の子もいいね。美人姉妹って評判になるよ」
嫁に出したくない。娘を持つ親の永遠の悩みだ。想像すらしたくない。
「でも、やっぱり次は男の子がいいわ。きっとパパそっくりよ」
これだけは譲れないわ。
「ママっくりな琴美と、瓜二つの女の子も可愛いよ」
最近、琴美が似てきたんだよね、真琴の頑固なところとか。
「やだやだ、男の子がいいの」
神様も願いを叶えてくれるはずよ。
「でも、女の子も──」
捨てがたい。真琴と琴美とこの子と三人並ん姿見たら、きっと感激のあまり尊死してしまう。
「もう! 二人ともやめてちょうだい。弟のことで争わないでよ」
真琴のお腹に耳を当てていた琴美が顔を離すと二人の仲裁を始めた。
「「えっ?」」
どういうこと?
「だから、弟のことで争わないで」
キッパリと“弟”と言い切る琴美の言葉に二人が黙る。
「「ーー」」
ここは静かに琴美の話を聞くべきね。
「ママのお腹の中にいるのは弟よ。本人に聞いたから確かだわ」
どこで見て覚えたのか、琴美が腰に手を当てて胸を張る。
「「ーー」」
言いたいことはあるけれどーー
琴美がさらに、えっへんと胸を張る。
「ああ、そうだな。間違いない」
本人が言うならそうだろう。
「あらあら、それじゃあ」
疾風似の男の子に逢えるのね。
二人して顔を見合わせて微笑んだ。




