表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

黒い男と逃走者

作者: 秋桜星華

しいなここみさま「冬のホラー企画4」参加作品です。

冬の要素はあまりありません。

今日(正確には昨日、ないし一昨日)の私の夢にフィクションを半分くらい混ぜて書きました。

登場人物は、黒い男以外全員モデルがいますが、いじりまくって原型がありません。

「おいっ、待て!」


 後ろから黒い服をきた男性が追いかけてくる。


 気がつくと、私――藤川(ふじかわ) (あい)は、O市の市民会館の駐車場に立っていた。いつもはたくさんの車がとまっているというのに、1台も止まっていなかった。


 私は普段、普通のOLとして会社に勤務している、はずだった。それなのに、いつの間にこんなところに……?



 ただ、迫りくる男性に捕まってはいけない、ということだけを肌でひしと感じ、私は全速力で駆け出した。



 駐車場を端まで駆け抜けると、私は追い詰められた。そこには、腰くらいの高さまでの壁があった。見下ろすと、4mほど下にもまだ駐車場がある。


後ろを振り返ると、男性が鬼の形相で追いかけてきていた。



……飛び降りるしか無いのか。


 と、そのとき、ふと昨日みたショート動画を思い出した。5mくらいの壁に阻まれた2人が、協力して肩車したりすることで、壁を登ることができるという動画だった。ショート動画はいつまでたってもスクロールして知らず知らずに時間が経ってしまうし、そのくせ大して知識にもならず、ただただ堕落してしまうという極悪制度だけれど、今だけは感謝したい。


 今は登るのではなく降りる方だし、私は一人きりだったが、そんなことは大した問題ではなかった。


 私は壁に手をかけ、下に続く駐車場へそぉっと足をおろした。



「あ、おい!」



 私を追いかけていた男性が怒鳴り声を上げた。気にしない。ただ、逃げるだけだ。必死に足を動かす。


 ……学生時代に50m走が9秒台で、最近は運動してない私にこれはきついって!



 後ろから、トンッという音がした。どうやら、男性も降りてきたようだ。



 まもなく、駐車場に終わりが見えた。広い駐車場だった。再び飛び降り、今度は民家の前にとまっていたトラックの荷台の上に飛び降りた。恐怖心は二の次だ。今は、逃げなければ。



 街中にも、誰もいなかった。車はある。家もある。ただ、生き物という生き物がいなかった。そこにいるのは、私と、男性だけ。静寂にあふれる車道の真ん中を、風になって走り抜ける。


孤独だった。「いる」というより「迷い込んだ」という方がしっくりきた。



 駅のロータリーに差し掛かったとき、空気が変わった。そこには、動いているものがあった。



 ……母の車だ。



 思わずナンバープレートを確認する。4219。間違いなく母の車だ。


 外は北風がびゅうびゅう吹いていて、マフラーも手袋もつけていなかった私は、寒くて凍えそうだった。

 地獄に差し込んだ一筋の光、それが車の暖房だった。


 救いの手を求めて、さらに加速した、その瞬間。


「あッ……」


 普段なら気にもしない、小さな段差に足を引っ掛ける。体を地面に強く打ち付けた。痛い。呼吸が苦しい。肺に息が入ってこない。その間にも、後ろに迫る黒い影。


「ぐっ」


 うめきながら、立ち上がる。車に乗ることができれば、私の勝ちだ。ひゅうひゅうという呼吸音を響かせ、足を動かす。泥のように。意地汚く。


 車まで、20メートル、10メートル、5メートル……


 車の扉が中から開かれる。


 男性が怒声を上げる。


 足を車に踏み入れる。


 男性の気配をすぐ後ろに感じる。


 手を誰かに引かれる。


 車の中に滑り込む。


 扉が閉まり始める。


 車が急発進する。


 扉が閉まりきる。




 間に合ったのだ。救われたのだ。心臓の音が聞こえる。鼓動が速い。


 振り返ると、男性が棒立ちになっていた。顔を見て、私は倒れそうになった。



 ――そこには、憎悪に顔を歪ませた、鋭い視線の男性が立っていた。




「……大丈夫?」


 母の心配そうな声で、我に返った。


「なんとかっ」


 短く答える。そんな場合ではなくて気づかなかったが、相当息が切れていた。




「びっくりしたでしょう」


 車には家族だけではなく、知り合いのおばさんも乗っていた。名前を、加藤(かとう)という。

 いわゆる、味方にいると安心する人だ。現に、車に乗っているだけで心強い。


「はい、とても……どういうことなんですか?」


 私が問いかけると、加藤さんだけでなく、母も、それから父も目を逸らした。


「ごめんなさいね……今は、教えることができないの」


 加藤さんの言葉に、私は納得した。それなりに生きてきて、知らないほうがいいこともがあることも、知らせることができないことがあるということも知っている。


 一人納得して、車に揺られた。


「あ、じゃあ、いまどこに向かっているかは、聞いてもいいですか?」


 どうやら加藤さんがすべてを知っているらしいと感づいた私は、再び問いかけた。


「ごめんなさいね、それも……直前になったら、教えますから」


 ……そうなのか。それじゃあ窓の外の風景を見ているしかないな。


 どれだけ見ても、見慣れた都会の風景が続いていくだけだ。早々に飽きた。




 30分ほど経っただろうか。ぼーっとしていた私に、母が声をかけた。


「藍、藍、そろそろ降りる準備を」


「ん」


 了解の意は示したが、なにせ手ぶらだ。準備も何も無い。心を整えることくらいしかできないのだ。


 ……これだけ不可解なことが起きているのだ。次、何があっても驚かない。


「藍ちゃん、そろそろA市の図書館につくじゃない。そこで降ろすから、隣の占いの館に入れてもらいなさい。合い言葉は『犠牲者』よ。そして、指示があるまで絶対に出てこないで。話は通してあるから」


「わかりました」


 加藤さんの指示を脳内に書き留めて、私は気合を入れた。



 車がゆっくりととまり、扉が開く。


「藍、どうか無事で」


「うん」


 家族と短く会話をかわし、すぐに歩き出した。








 ……えっ!?




 一本向こうの道で、黒い服の男が駆けていくのが見えた。



 ……なんでここにいるのっ!?



 震えながら、走り出す。今の私には、それ以外の選択肢はなかった。



 占いの館は、2階建ての洋風の建物だ。ドアを数回ノックして、飛び込む。



「合い言葉は?」


 中にいた女の人が短く告げた。


「犠牲者」


 私も答える。


 彼女は一つ頷くと、中からもう一人、女の人を連れてきた。


 ……あれ?どこかでみたことがあるような。


 きっと10年くらい前に会った誰かに似ているのだろう。そんな既視感を抱くことはよくある。


野田(のだ)です。藍ちゃん、よろしくね」


 もう社会人になったというのに、加藤さんが根回ししたらしいこの人は、私のことをちゃん付けで呼ぶ。さん、でいいのに。


「早速だけど、隠れようか」


 そうだ、私はそのためにここにきたのだ。早足で何処かへ向かう野田さんに、私も足を忙しく動かして追いついた。



「ここよ」


 そこは、小さな部屋だった。机が一個、入るかどうかというくらい。普段は、お客さんとの相談室的な扱いなのだろうか。


 なにより、その壁には一面に鏡が貼ってあった。


「凄い鏡ですね」


「そうでしょう、それよりも早く入って」



 焦った様子で野田さんが扉を閉める。カチッという音がして、扉が完全に閉まった。



「時間がないから手短に説明するわ。とにかく、静かにして。この壁は、中の人が何か喋ると透明になるの」


 そう言いながら、野田さんが部屋の壁を触った。


「つまり、今は透明、と」


「そうよ。そして話していないときは、嘘の情景を映し出すの。なにもない談話室とか、ね」


「めんどくさいですね」


「そう言わないで。それに、そろそろあの男がやってく……ほらね」


 ガタガタッと不穏な音を立てて、占いの館の扉が開く音がした。あの女の人が対応している声がするが、やがて静止を振り切って入ってきたようだ。



 私は壁の方を向いて座っている。この壁の先には、あの男がいるのだろう。足音がする。


 でも、その姿は私には見えない。透明ではない壁が、私の心を支えていた。


 野田さんの方を向く。しーっとでも言うように、人差し指を立てる野田さん。


 あとは、こいつが通り過ぎるのを待つだけ、待つだけなのだ……








 ふと、鏡の方を向いた私は、








「うひっ!?」






 声を上げた――上げてしまった。


 向こう側が見えない壁とは反対に、鏡には壁の向こうにいる男が、しっかりと写っていた。


 先ほどと変わらない、凶悪な顔で。鋭い瞳で。憎々しげに歪んだ、口元で。



 そして、私が上げた声で、壁は透明になった――








 男がこちらを見ている。


 睨んでいる。


 口が歪んでいる。


 口が動く。






 () () () () ()……






「逃げて!」


 野田さんの叫び声で、はっとする。遠のきそうになっていた意識を、なんとか繋ぎ止めた。


 野田さんが扉を押さえている。男は開けようとしている。その状態のまま野田さんは話し始めた。




「わたしは加藤さんに言われて匿ったっ、けど……! あの人は、わざと藍ちゃんを捕まらせるよう言ってた! 敵だよっ!」



 私は足元がグラッと崩れるのを感じた。助けてくれた加藤さんが、敵……?



 野田さんは扉を押さえていたが、ついに負けて男が入ってきた。野田さんが男を睨む。男は私を睨む。



 男が私に斬り掛かってきた。ナイフをどこかから取り出して。


 避けられない……



 その瞬間、私の前に庇うように誰かが現れた。



 野田さんだ。



「行って! 無事で!」



 野田さんの叫び声が響く。悲痛な声だ。死にゆく声に、私は押されるように走り出す。



 占いの館の玄関には、もうあの女の人はいなかった。


 なんとか扉を開け、外に出た。






 


 そこには、『普通の日常』があった。




 人は歩くし、犬も歩く。図書館もやっているし、車も走っている。

 まるで、なにごともなかったかのように。




 占いの館の駐車場には、母の車があった。急いで乗り込む。



「藍……! いきててよかった……!」


 ボロボロ泣きながらも、母は車を走らせる。


「加藤さんが、あの子はもう死んだっていうから……」


 父も、目をうるませながら言った。



「加藤さんは?」


 私が聞くと、父と母は言いにくそうな顔をした。代わりに妹が口を開いた。


「『おぼえてろ、またきてやる』だって」







 ――どうやら、私の苦難はまだ終わらないようだ。


 窓の外には、のどかな田園風景が広がっていた。


お読みいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
参加企画
❅⋆⁺企画概要⁺⋆❅ 冬のホラー企画4
˚✧₊⁎⭐︎秋桜星華の作品⭐︎⁎⁺˳✧༚
新着更新作品
累計ポイントの多い作品
バナー制作:コロンさま
― 新着の感想 ―
なにこれこわい……。 追いかけられるのもこわいけど、犯人? が身近にいるかもしれなさそうな雰囲気もこわい。 それはそうと、4mの高さから飛び降りたのか嬢ちゃん。 それ自体がすごくあぶないですよー。 …
夢らしさ全開!٩( 'ω' )و
流石夢! なんだか理不尽! 黒い男と加藤さんはグルだったのかな? 4219って、死に逝く?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ