The sailor~宝を見つけたとき~
昔は父親と太平洋にある小さな島に住んでいた。
父は、金持ちでも、たくましいわけでもなかったけど、とても強い人だった。
目を見るとわかるんだ。彼の中で決して崩れない何かがあった。
「父さんはどうしてそんなに強いの?」と聞くと、
「世界で一番きれいな宝石を持っているからさ。」と答えた。
「そんなもの持っていたの?どこにも見当たらないよ?」
すると父はしばらく遠くを見るような目をして、僕にこう言った。
「ほかの人には見えないさ。きっとお前も、見つけたときにはウイスキーを片手に語らずにいられないんだ。」
僕には初めその意味など分からなかった。でもその時から、父みたいになりたくて、世界で一番きれいな宝石を見つけたいと思うようになった。
あれから数年後、宝石を探しに、父からもらった船で日が昇る前に島を離れ、海に出た。
出港から数か月経った中、世界のあちこちでたんまりと宝石は見つけるが、
どれ一つしっくりこなかった。
父が言うような宝石はいったいどこにあるのだろう。
僕は段々と現状に失望していき、頓挫した。
「そんなもの本当は存在しないじゃないのか。」
「父さんのあんな冗談を真に受けた自分はバカだ。」
どうしたらそんな宝石がみつかるのだ。
そんな中、とある晩、目を見張るようなたくさんの流れ星が西から降ってきた。
その輝きが間もなく空を覆い、僕はその壮観さに言葉を失った。
我に返った途端、急いで願いかけた。
「流れ星よ、流れ星、願いを聞いてくれたまえ。どうかこの世界で最も美しい宝石をこの私に授けよう。
たとえ命に代えても、守り抜くと誓おう。」
願い終わると、小さな星が一つ船にゆっくりと舞い降りた。
その光の奥から一人の女の子がゆっくり現れてきた。
すぐさま、僕はその瞳に心を奪われた。
その目には、ほかのどの宝石にもない神秘的で、清らかな茶色があった。
琥珀も、タイガーアイもその輝きに勝ることはなかった。
優しさの中に強さがあり、
純粋な一方で、銀河のすべてが詰まっているような、
完璧だけど不完全な、
世界でたった一つだけの茶色。
その瞬間、僕はその瞳に恋をした。
彼女を一生かけて守り、その笑顔のために戦うと誓った。
「やっと見つけた。」と小さく囁いた。
彼女のためなら、風を切れた。波を破った。嵐にも屈服しなかった。
彼女は、
前へ進みたい時に、僕の追い風となり、
自分を見失った時に、僕の灯台となり、
世界でひとりぼっちだと感じる時は、僕が帰る場所になってくれた。
彼女のおかげでこれまでになく強くなれた気がする。
彼女の行きたいところには僕も行く。
彼女が欲しいものはなんでもあたえたい。
彼女を愛することが苦しい日々を乗り越える原動力となった。
彼女との冒険以上の幸せはなかった。
そんなある晩、全てがやけに静かだった。
波風何一つ音ない中、彼女は空を見上げてひとりでデッキにいた。
潤った目でこちらに振り返り、僕の元を去らなければならない時が来たと言った。
流れ星の兄弟の約束で、戻らなければ砂に変えられてしまうようだった。
それを聞いた瞬間、自分の中で時が止まった。
水に抗うことができずに無力に海の中へ沈んでいくように、息が苦しかった。
それでも、月明かりの下で、ガラスの上を裸足で歩くような、
か弱く映る彼女の涙はさらに僕の胸を締め付けた。
彼女をその苦しみから解放できるのなら、なんでもしよう。
自ら心臓にナイフを突き刺す思いをしようと僕には構わない。
月明かりが徐々に彼女を飲み込むと、
彼女が存在した痕跡がどこにもなかったように静まり返った。
夢を見ていたのか、それとも幻か。
彼女が消えたことはすぐには受け入れられなかった。
数時間後、太陽はいつものように昇った。
いつものように僕を照らし、温めたが、
まるで違う世界を生きている心地だった。
すると心に急にぽっかりと穴が開いたことに気が付いた。
僕は誰だ。どこへいくのか。生きる意味は。
そのまま崩れ落ちて、僕は大泣きした。
ほかの傷と同様に、治るまでが一番難しい。はじめは、傷口は開きやすい。
なんらかのわけで、不意に引っ搔いてしまうだろう。
そうすれば治るのが遅くなる。
僕が真っ先に知っていた薬は酒だった。
傷を忘れさせてくれるようにウィスキーに浸った。
情けない自分が嫌いで仕方なかった。
一層のこと、彼女が去る時に殺してくれればよかった。
未だにその瞳が脳内をよぎるんだ。
失ったという事実を執拗に知らされるたびに辛い。
彼女が去った後の人生は何の意味もない。
気づけば数か月漂流した。
もう酒は要らない。一日ぐらいはシラフでいたかった。
その晩、北極星は今まで以上に輝いていた。
まるで僕を呼びつけているようにさえ感じた。
その下に広がる楽園を見るべく、僕はすぐさま新たな航海図を書き、旅を始めた。
風よし、波もよし。
全てが順調に感じた。
僕の中で何かが再び動き出したのだ。
数々の嵐を乗り越え、荒れ狂う海と戦い、やっと大西洋を渡り切り、北極に着いた。
目の前に広がるのは一面の銀世界。
船を降り、僕は歩き始めた。
雪の上での足取りは重かった。
北極星に近づいていく中、冷たい風がやがて体を蝕んでいった。
風がどんどん強くなっていく、
僕の足は、雪風吹の中で完全に止まってしまったのだ。
段々と意識が薄れていき、視界がくすんでいった。
もう二度と開けられないと知りながら、瞼をゆっくり下ろした。
すると、僕の頬に誰かが手を当てたのを感じた。
その手は暖かくて、柔らかくて、小さくて、懐かしかった。
目を開けると、そこには僕が知っていたきれいな瞳があった。
彼女は僕に微笑んで言った。
「あなたならできる。いつだってそうよ。」
僕はその声をよく覚えていた。
次に瞬きをすると、彼女は消えたが、
彼女の言葉は僕を温め、励み、雪風吹に折れない力をくれた。
そんな戦いが数時間経った。
吹雪が止んで、やっとまともに息をすることができた。
空を見上げて北極星を探そうとしたその瞬間、
そこにはオーロラが連なって夜空にかかっていた。
息を吞むような美しさだった。
言葉で表そうとするのはいかに無粋なのかを感じた。
気が付くと、僕は涙を流していた。
生きることがこれほど素晴らしいと知ったのは生まれて初めてだった。
自分が永遠に失ったと思うものは、実際にはすぐそばにあったりするんだ。
彼女は、ずっと僕の心の中に生きていた。
彼女の言葉や、一緒に過ごした時間は
これからも困難な時に僕が強くいるための力となってくれるだろう。
たとえ怪物のような嵐だろうと、荒れ狂う海洋だろうと、
その神秘的で、清らかな美しい瞳はいつも僕を守り、光へと導いていく。
そして、世界は美しい場所であることを思い出させてくれるのだ。
島に戻ると、父は真っ直ぐに僕の目を見て、
「お前もその宝石を見つけたんだな。」と言った。
「父さん、僕見つけたよ。」
すると父は僕を力強く抱きしめ、
「本当に自慢の息子だ。」と涙声で耳元で囁いた。
「どんな旅だったか聞かせてくれ。」
その晩、僕はウィスキーを片手に、
父に旅のすべてを教えた。
-Fin.




