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遺伝子の調律  作者: さんご
1章 火の竜王の救済
6/27

ボス狼の討伐報告

数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。

この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。

もし気に入っていただけましたら、ブックマークや感想をお寄せいただけると、作者にとって大きな励みとなります。

なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。

ハヤトは傷を負った姉を支えながら、必死に森を抜けて町へ戻った。両手には血の滲む包み――倒した狼の魔石と毛皮が詰められている。重さ以上に、その中身の意味が二人の肩にのしかかっていた。


 ギルドの扉を押し開けると、中にいた冒険者たちの笑い声が途切れた。幼い姉弟が血に汚れた姿で現れたからだ。

 「おい……子供じゃねえか?」

 「傷だらけだぞ……」

 好奇と嘲笑の入り混じった視線を浴びながら、ハヤトは真っ直ぐカウンターへ進む。


 受付嬢の女性が目を見開いた。

 「どうしたの? その怪我……!」

 ハヤトは震える手で包みを差し出す。革袋の中身が机に並べられると、空気が一変した。


 灰色狼の魔石が二つ、毛皮が二枚。そして――ひときわ大きな魔石と分厚い毛皮が一組。

 受付嬢は息を呑み、声を潜めて言った。

 「これ……ボス狼……? まさか、あなたたちが?」


 その言葉にギルド内がざわめき立つ。

 「おいおい、冗談だろ。あの年で?」

 「Fランクの新人だぞ。信じられるか!」

 「でも現物が……」


 冒険者たちの驚きと疑念が渦巻く中、受付嬢は真剣な眼差しで二人を見据えた。

 「詳しく聞かせて。どこで遭遇したの?」


 マスリナは肩の痛みに顔を歪めながらも、弱々しく答えた。

 「町から南東に向かった森……。奥まで入りすぎたら、群れに囲まれて……最後にボスが出てきたの」


 受付嬢の顔色が変わった。

 「南東の森……町からすぐ近いじゃない! そんな場所にボス狼がいたなんて……」


 彼女は慌てて後ろへ駆け込み、やがて数人のギルド幹部が現れた。屈強な男たちが魔石と毛皮を検分し、互いに低い声で頷き合う。


 「間違いない。確かにボス狼だ」

 「危険すぎる……早急に調査隊を出さねば」


 冒険者たちがざわめきながら二人に視線を送る。その眼差しは、先ほどまでの嘲笑ではなかった。幼い姉弟を見直すような、そして信じられぬものを目撃したような複雑な色が混じっていた。


 「よくぞ生きて戻ったな」

 幹部の一人が、静かにそう告げた。

 「普通なら命を落としていただろう。君たちが知らせてくれたおかげで、この町は救われたかもしれん」


 ハヤトは言葉を失った。両親を守れなかった自分が――今は町を守る一助になったというのか。


 受付嬢は柔らかく微笑み、帳面を開いた。

 「今回の報告と戦利品は正式に記録します。依頼以上の成果ですから、報酬も上乗せされるはずよ。……それにしても、本当に立派な働きだったわ」


 ハヤトは胸の奥が熱くなるのを感じた。姉の手を握りしめる。マスリナは微笑んで頷いたが、彼女の顔色はまだ青白い。


 「……でも、これからは無茶しないでね」

 受付嬢が言葉を添えた。

 「あなたたちは確かに力を見せた。だけど、まだ冒険者としては始まったばかり。焦らず、一歩ずつ進んでいけばいいの」


 その言葉に、ハヤトは深く頷いた。


 ギルドを後にすると、夕暮れの町が金色に染まっていた。人々の笑い声や商人の掛け声が聞こえる。その平和が、自分たちの戦いで少しでも守られたのだと思うと、不思議な充足感が胸に広がる。


 だがその裏で――ギルド幹部たちは密かに話し合っていた。

 「あの少年……尋常ではない魔力の高まりだったと聞く」

 「遺伝的な異能かもしれん。注意して見ておけ」


 ハヤトはまだ知らない。自らの覚醒が、町だけでなく世界の注目を集め始めていることを。

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