ボス狼の討伐報告
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なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。
ハヤトは傷を負った姉を支えながら、必死に森を抜けて町へ戻った。両手には血の滲む包み――倒した狼の魔石と毛皮が詰められている。重さ以上に、その中身の意味が二人の肩にのしかかっていた。
ギルドの扉を押し開けると、中にいた冒険者たちの笑い声が途切れた。幼い姉弟が血に汚れた姿で現れたからだ。
「おい……子供じゃねえか?」
「傷だらけだぞ……」
好奇と嘲笑の入り混じった視線を浴びながら、ハヤトは真っ直ぐカウンターへ進む。
受付嬢の女性が目を見開いた。
「どうしたの? その怪我……!」
ハヤトは震える手で包みを差し出す。革袋の中身が机に並べられると、空気が一変した。
灰色狼の魔石が二つ、毛皮が二枚。そして――ひときわ大きな魔石と分厚い毛皮が一組。
受付嬢は息を呑み、声を潜めて言った。
「これ……ボス狼……? まさか、あなたたちが?」
その言葉にギルド内がざわめき立つ。
「おいおい、冗談だろ。あの年で?」
「Fランクの新人だぞ。信じられるか!」
「でも現物が……」
冒険者たちの驚きと疑念が渦巻く中、受付嬢は真剣な眼差しで二人を見据えた。
「詳しく聞かせて。どこで遭遇したの?」
マスリナは肩の痛みに顔を歪めながらも、弱々しく答えた。
「町から南東に向かった森……。奥まで入りすぎたら、群れに囲まれて……最後にボスが出てきたの」
受付嬢の顔色が変わった。
「南東の森……町からすぐ近いじゃない! そんな場所にボス狼がいたなんて……」
彼女は慌てて後ろへ駆け込み、やがて数人のギルド幹部が現れた。屈強な男たちが魔石と毛皮を検分し、互いに低い声で頷き合う。
「間違いない。確かにボス狼だ」
「危険すぎる……早急に調査隊を出さねば」
冒険者たちがざわめきながら二人に視線を送る。その眼差しは、先ほどまでの嘲笑ではなかった。幼い姉弟を見直すような、そして信じられぬものを目撃したような複雑な色が混じっていた。
「よくぞ生きて戻ったな」
幹部の一人が、静かにそう告げた。
「普通なら命を落としていただろう。君たちが知らせてくれたおかげで、この町は救われたかもしれん」
ハヤトは言葉を失った。両親を守れなかった自分が――今は町を守る一助になったというのか。
受付嬢は柔らかく微笑み、帳面を開いた。
「今回の報告と戦利品は正式に記録します。依頼以上の成果ですから、報酬も上乗せされるはずよ。……それにしても、本当に立派な働きだったわ」
ハヤトは胸の奥が熱くなるのを感じた。姉の手を握りしめる。マスリナは微笑んで頷いたが、彼女の顔色はまだ青白い。
「……でも、これからは無茶しないでね」
受付嬢が言葉を添えた。
「あなたたちは確かに力を見せた。だけど、まだ冒険者としては始まったばかり。焦らず、一歩ずつ進んでいけばいいの」
その言葉に、ハヤトは深く頷いた。
ギルドを後にすると、夕暮れの町が金色に染まっていた。人々の笑い声や商人の掛け声が聞こえる。その平和が、自分たちの戦いで少しでも守られたのだと思うと、不思議な充足感が胸に広がる。
だがその裏で――ギルド幹部たちは密かに話し合っていた。
「あの少年……尋常ではない魔力の高まりだったと聞く」
「遺伝的な異能かもしれん。注意して見ておけ」
ハヤトはまだ知らない。自らの覚醒が、町だけでなく世界の注目を集め始めていることを。




