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遺伝子の調律  作者: さんご
1章 火の竜王の救済
3/27

冒険者の門出

数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。

この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。

もし気に入っていただけましたら、ブックマークや感想をお寄せいただけると、作者にとって大きな励みとなります。

なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。

 冒険者ギルド――大きなホールには逞しい戦士や狡猾そうな魔法使い、傷だらけの鎧をまとった者たちが行き交い、酒の匂いと鉄の音が混ざり合っていた。

 幼い姉弟が扉を開けた瞬間、ざわめきが止み、幾つもの視線が集まった。だがマスリナは一歩も退かず、受付のカウンターに真っ直ぐ進んだ。


 「冒険者登録をお願いします」


 受付嬢は一瞬目を見張ったが、すぐに淡い笑みを浮かべた。

 「規定により、登録には試験があります。準備はよろしいですか?」


 試験は至って単純――基礎的な戦闘能力と魔法の行使を確認するだけ。マスリナは両親から受け継いだ二重の才能で難なく突破した。魔法陣から放たれる光弾は、試験官の用意した木製の標的を一撃で貫き、さらに薬学系の「サーチ」で薬草の在処を瞬時に言い当てた。周囲から小さなどよめきが漏れる。


 一方、ハヤトは緊張のあまり手が震えていた。

 「やれるさ、弟なんだから」

 マスリナの励ましを受け、彼は深呼吸し、父譲りの魔法学を発動させた。


 ――光弾。


 標的に向けて放たれたそれは確かに命中したが、威力は姉の半分にも満たない。焦げ跡を残す程度で、試験官は眉をひそめる。


 「単独なら不合格だな。ただ……姉が君の隣にいるなら、補助としては十分か」

 冷静な声で告げられ、ハヤトは唇を噛んだ。だが同時に、小さな希望も灯った。かろうじて、だが合格。二人揃って冒険者となったのだ。


 最初の称号は――Fランク。誰もがここから始まる。


 その日の午後、彼らは掲示板から依頼をいくつか選んだ。報酬はわずかだが、食事と宿代を稼ぐには十分だ。内容は薬草の採取と、配達の仕事。


 薬草採取のために町の外へ出ると、マスリナが先に行動した。

 「サーチ・ハーブ」

 彼女の指先から淡い光が広がり、土の中や茂みの奥に隠れた薬草が浮かび上がる。二人は夢中で摘み取り、依頼書の指定量をあっという間に超えて集めてしまった。


 「これなら、少しは余分に稼げるね」

 マスリナが微笑むと、ハヤトの胸にも温かな誇りが広がった。姉と共に動けば、自分でも役に立てる――そう思えたのだ。


 しかし、本当にきつかったのは次の配達だった。


 町の南端で受け取った荷を、北の工房へ。そこでさらに別の荷を預かり、今度は東の市場へ。届け終えれば、今度は西の鍛冶屋へ。汗が滝のように流れ、足は棒のように重くなる。人混みをかき分け、声を張り上げ、何度も走らされた。


 「こ、これが冒険者……?」

 息も絶え絶えに呟くハヤトに、マスリナが苦笑する。

 「立派な冒険だよ。生きるために、どんな依頼だってこなさなきゃ」


 夕暮れ、最後の配達を終えて戻ったとき、二人の姿は汗と埃にまみれていた。それでもギルドで報酬を受け取った瞬間、胸の奥に小さな達成感が芽生えた。

 銅貨の入った袋を握り締めながら、ハヤトは思った。


 ――いつかきっと、もっと大きな依頼を任されるようになってみせる。姉に守られるだけじゃなく、自分の力で誰かを守れるように。


 Fランクの小さな一歩。それはやがて、運命の大きな調律へと繋がっていく。

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