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遺伝子の調律  作者: さんご
1章 火の竜王の救済
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竜の翼、空を翔ける

数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。

この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。

もし気に入っていただけましたら、ブックマークや感想をお寄せいただけると、作者にとって大きな励みとなります。

なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。

 溶岩華を抱えたリュシオンは、まだ震える羽を見下ろした。

 「……飛べたんだ……本当に」

 さっきまで不完全で恥ずかしいと思っていた羽が、今は力強く熱を切り裂いている。


 だが、感慨に浸っている時間はなかった。

 マスリナが険しい顔で言う。

 「……あと一日もない。帰り道を歩いていては間に合わないわ」

 「そうだな……」ハヤトも顔をしかめる。


 リュシオンは拳を握りしめた。

 ――僕にしかできないことがある。

 「……僕が、みんなを運ぶ」


 「え、私たちを……飛んで?」マスリナが目を丸くする。

 「まだ完全じゃないけど、やってみる。今なら……行ける気がする!」


 リュシオンは両腕を大きく広げ、ハヤトとマスリナを抱き寄せた。

 小さなルカちゃんもマスリナの腕の中で「ごろごろ」と鳴いている。

 ――重さなんて関係ない。僕は竜の血を継いでいる。


 「しっかり掴まって!」


 羽が大きくしなり、火山の熱風を逆らうように空へ舞い上がった。

 一瞬、落下するかのような浮遊感にハヤトは息を呑む。

 だが次の瞬間、翼は空を切り裂き、火山の煙を越えて大空へ躍り出た。


 視界は一気に開け、眼下には赤く光る溶岩の河が迷路のように流れ、灰色の岩盤が険しくうねる。噴煙が朝霧のように漂い、山頂の火口は小さな太陽のように輝いていた。遠くの空は、茜色から藍色に変わりつつあり、溶岩の光と混ざり合って幻想的なコントラストを生む。


 「うわあああああああ!!」

 「きゃああああ!」

 姉弟の悲鳴が火口の上に響く。


 翼を広げるたびに熱風と冷たい高空の空気が交差し、火山の匂いと硫黄の香りが混じった独特の香気が鼻をくすぐる。ハヤトもマスリナも、リュシオンと一緒に大空を駆けながら、火山の荒々しい大地と空の広がりに目を見張った。


 だが、不思議と恐怖よりも胸の奥に熱いものが込み上げてきた。


 ――飛んでいる。竜の翼で。

 風が頬を打ち、夕陽が世界を赤く染める。

 目の前には、無数の溶岩の流れと煙が織りなす生きた地形。翼を羽ばたかせるたび、世界が自分の手の届く範囲で変化し、自由に踊る。


 リュシオンは初めて味わう感覚に心を震わせながら、空の上で立つ自分を確かめるように翼を広げた。


 「すごい……!」ハヤトが言葉を失う。

 「リュシオン……あなた、立派な竜神族よ」マスリナが優しく囁いた。


 リュシオンは照れ臭そうに笑うと、町の方向を真っ直ぐ見据えた。

 「必ず間に合わせる。竜神族の誇りにかけて!」


 四人――いや、一人と二人と一匹を乗せた竜神族の少年は、残されたわずかな時間の中、夜空を一直線に駆け抜けていった。

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