竜の翼、空を翔ける
数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。
この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。
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なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。
溶岩華を抱えたリュシオンは、まだ震える羽を見下ろした。
「……飛べたんだ……本当に」
さっきまで不完全で恥ずかしいと思っていた羽が、今は力強く熱を切り裂いている。
だが、感慨に浸っている時間はなかった。
マスリナが険しい顔で言う。
「……あと一日もない。帰り道を歩いていては間に合わないわ」
「そうだな……」ハヤトも顔をしかめる。
リュシオンは拳を握りしめた。
――僕にしかできないことがある。
「……僕が、みんなを運ぶ」
「え、私たちを……飛んで?」マスリナが目を丸くする。
「まだ完全じゃないけど、やってみる。今なら……行ける気がする!」
リュシオンは両腕を大きく広げ、ハヤトとマスリナを抱き寄せた。
小さなルカちゃんもマスリナの腕の中で「ごろごろ」と鳴いている。
――重さなんて関係ない。僕は竜の血を継いでいる。
「しっかり掴まって!」
羽が大きくしなり、火山の熱風を逆らうように空へ舞い上がった。
一瞬、落下するかのような浮遊感にハヤトは息を呑む。
だが次の瞬間、翼は空を切り裂き、火山の煙を越えて大空へ躍り出た。
視界は一気に開け、眼下には赤く光る溶岩の河が迷路のように流れ、灰色の岩盤が険しくうねる。噴煙が朝霧のように漂い、山頂の火口は小さな太陽のように輝いていた。遠くの空は、茜色から藍色に変わりつつあり、溶岩の光と混ざり合って幻想的なコントラストを生む。
「うわあああああああ!!」
「きゃああああ!」
姉弟の悲鳴が火口の上に響く。
翼を広げるたびに熱風と冷たい高空の空気が交差し、火山の匂いと硫黄の香りが混じった独特の香気が鼻をくすぐる。ハヤトもマスリナも、リュシオンと一緒に大空を駆けながら、火山の荒々しい大地と空の広がりに目を見張った。
だが、不思議と恐怖よりも胸の奥に熱いものが込み上げてきた。
――飛んでいる。竜の翼で。
風が頬を打ち、夕陽が世界を赤く染める。
目の前には、無数の溶岩の流れと煙が織りなす生きた地形。翼を羽ばたかせるたび、世界が自分の手の届く範囲で変化し、自由に踊る。
リュシオンは初めて味わう感覚に心を震わせながら、空の上で立つ自分を確かめるように翼を広げた。
「すごい……!」ハヤトが言葉を失う。
「リュシオン……あなた、立派な竜神族よ」マスリナが優しく囁いた。
リュシオンは照れ臭そうに笑うと、町の方向を真っ直ぐ見据えた。
「必ず間に合わせる。竜神族の誇りにかけて!」
四人――いや、一人と二人と一匹を乗せた竜神族の少年は、残されたわずかな時間の中、夜空を一直線に駆け抜けていった。




