翼を得た者
数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。
この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。
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なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。
火山の山頂、再び立ち向かったものの、ゴーレムはやはり揺るがなかった。
何度氷で凍らせても、何度魔法を撃ち込んでも、焼けた岩は元の溶岩へと戻ってしまう。
「……全然通じない……!」
マスリナが肩で息をしながら叫んだ。
リュシオンも膝をつき、額の汗を拭う。
「近づけば焼ける……離れれば攻撃が届かない……。どうすれば……」
焦燥が胸を焼く。
太陽は傾き、熱気に包まれた火山の上で、三人の体力は限界に近づいていた。逃げるにしても、足は鉛のように重い。
――終わりか。
その思考が脳裏をかすめたとき、ハヤトの中に閃光のように一つの考えが走った。
「……待てよ。倒す必要なんて……ないんじゃないか?」
二人が顔を上げる。
「なにを言ってるの?」マスリナが息をのむ。
ハヤトは息を吸い込み、岩肌の頭上を指差した。
そこに――熱気の揺らめきの向こうに、目指すべき「溶岩華」がひっそりと咲いていた。
「欲しいのは“あの花”だ。ゴーレムを倒すことじゃない。花を摘んで持ち帰れば、それで試練は果たせる……!」
だがすぐに問題が立ちはだかる。
ゴーレムの頭は十メートルの高さ。跳ねても届かない。登ろうとすれば熱と溶岩に焼かれる。
「……どうやって……?」
その時だった。
脳裏に浮かんだのは、リアナの冷ややかな言葉。
――『竜の翼を持つ者だけが手にできる』。
ハヤトは振り返った。
そこに立つのは、不完全な角と小さな羽を持つ少年――リュシオン。
「……そうか。飛べるのは……お前しかいないんだ」
リュシオンは目を見開き、慌てて首を振った。
「無理だ! 僕の羽じゃ飛べない。子供の頃から、何度も試して……笑われてきたんだ!」
「違う!」
ハヤトは一歩踏み出し、彼の肩を強く掴んだ。
「お前には翼がある。ただ“調律”されていないだけだ」
その言葉に、リュシオンが瞬きをする。
「……調律?あの時僕を助けた力?」
ハヤトは深く息を吸い、目を伏せた。
「俺には、人や武器、時に魔力さえ“調律”して本来の響きを引き出す力がある。だが……」
拳を握りしめる。
「今まで自分以外に使ったことはない。成功する保証はないし、もし失敗すれば……お前の体に負担が残るかもしれない」
リュシオンは息を呑んだ。
初めて聞かされる秘密の力。だがその瞳に浮かぶのは恐怖だけではなかった。
ハヤトの真剣さが、その奥で揺れる小さな灯を照らし出していた。
「……僕に、試してくれるの?」
リュシオンの声はかすれていたが、確かに期待と覚悟を含んでいた。
ハヤトは力強く頷いた。
「そうだ。信じてくれ。お前の翼を……俺たちの希望に変える」
眩い光がハヤトの掌からほとばしった。
リュシオンの体を包み込み、血の奥底に眠る遺伝子へと響く。
角が震え、左右の大きさが揃い始める。
背中の羽は音を立てて広がり、均整の取れた純白の翼へと変貌していく。
「……これは……!」リュシオンが目を見開く。
マスリナが息を呑んだ。
「ハヤト……リュシオンを“調律”したのね……!」
光が収まると、そこには堂々たる翼を持つ竜神族の姿があった。
リュシオンは震える手を握りしめ、深く息を吸った。力がみなぎる感覚を覚える。
「…と…飛べる……飛べるんだ……!」
翼は大きく、そして力強くなっていた。
炎に揺らめく空へと翼を広げ、リュシオンは舞い上がる。
熱風を切り裂き、一直線にゴーレムの頭上へ。
花弁は揺れ、燃えるように輝いていた。
――竜神族の翼。
その真の力が、今ここで解き放たれた。




