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遺伝子の調律  作者: さんご
1章 火の竜王の救済
25/27

翼を得た者

数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。

この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。

もし気に入っていただけましたら、ブックマークや感想をお寄せいただけると、作者にとって大きな励みとなります。

なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。

 火山の山頂、再び立ち向かったものの、ゴーレムはやはり揺るがなかった。

 何度氷で凍らせても、何度魔法を撃ち込んでも、焼けた岩は元の溶岩へと戻ってしまう。


 「……全然通じない……!」

 マスリナが肩で息をしながら叫んだ。


 リュシオンも膝をつき、額の汗を拭う。

 「近づけば焼ける……離れれば攻撃が届かない……。どうすれば……」


 焦燥が胸を焼く。

 太陽は傾き、熱気に包まれた火山の上で、三人の体力は限界に近づいていた。逃げるにしても、足は鉛のように重い。


 ――終わりか。


 その思考が脳裏をかすめたとき、ハヤトの中に閃光のように一つの考えが走った。


 「……待てよ。倒す必要なんて……ないんじゃないか?」


 二人が顔を上げる。

 「なにを言ってるの?」マスリナが息をのむ。


 ハヤトは息を吸い込み、岩肌の頭上を指差した。

 そこに――熱気の揺らめきの向こうに、目指すべき「溶岩華」がひっそりと咲いていた。

 「欲しいのは“あの花”だ。ゴーレムを倒すことじゃない。花を摘んで持ち帰れば、それで試練は果たせる……!」


 だがすぐに問題が立ちはだかる。

 ゴーレムの頭は十メートルの高さ。跳ねても届かない。登ろうとすれば熱と溶岩に焼かれる。

 「……どうやって……?」


 その時だった。

 脳裏に浮かんだのは、リアナの冷ややかな言葉。


 ――『竜の翼を持つ者だけが手にできる』。


 ハヤトは振り返った。

 そこに立つのは、不完全な角と小さな羽を持つ少年――リュシオン。

 「……そうか。飛べるのは……お前しかいないんだ」


 リュシオンは目を見開き、慌てて首を振った。

 「無理だ! 僕の羽じゃ飛べない。子供の頃から、何度も試して……笑われてきたんだ!」


 「違う!」

 ハヤトは一歩踏み出し、彼の肩を強く掴んだ。

 「お前には翼がある。ただ“調律”されていないだけだ」


 その言葉に、リュシオンが瞬きをする。

 「……調律?あの時僕を助けた力?」


 ハヤトは深く息を吸い、目を伏せた。

 「俺には、人や武器、時に魔力さえ“調律”して本来の響きを引き出す力がある。だが……」

 拳を握りしめる。

 「今まで自分以外に使ったことはない。成功する保証はないし、もし失敗すれば……お前の体に負担が残るかもしれない」


 リュシオンは息を呑んだ。

 初めて聞かされる秘密の力。だがその瞳に浮かぶのは恐怖だけではなかった。

 ハヤトの真剣さが、その奥で揺れる小さな灯を照らし出していた。


 「……僕に、試してくれるの?」

 リュシオンの声はかすれていたが、確かに期待と覚悟を含んでいた。


 ハヤトは力強く頷いた。

 「そうだ。信じてくれ。お前の翼を……俺たちの希望に変える」


 眩い光がハヤトの掌からほとばしった。

 リュシオンの体を包み込み、血の奥底に眠る遺伝子へと響く。


 角が震え、左右の大きさが揃い始める。

 背中の羽は音を立てて広がり、均整の取れた純白の翼へと変貌していく。

 「……これは……!」リュシオンが目を見開く。


 マスリナが息を呑んだ。

 「ハヤト……リュシオンを“調律”したのね……!」


 光が収まると、そこには堂々たる翼を持つ竜神族の姿があった。

 リュシオンは震える手を握りしめ、深く息を吸った。力がみなぎる感覚を覚える。

 「…と…飛べる……飛べるんだ……!」


 翼は大きく、そして力強くなっていた。


 炎に揺らめく空へと翼を広げ、リュシオンは舞い上がる。

 熱風を切り裂き、一直線にゴーレムの頭上へ。

 花弁は揺れ、燃えるように輝いていた。


 ――竜神族の翼。

 その真の力が、今ここで解き放たれた。

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